真・誤解†夢想-革命?- 蒼天の覇王   作:キンシャサ・ニーストライク
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幕間.賢姉愚弟

 姉、曹操孟徳は神童であった。弟、曹芝犬は凡人であった。

 姉の優秀さから次に生まれた弟も大層な期待をされた。が上役のほとんどを女性が勤めるこの世界で、弟の才は一般的な男性のそれ程度しかなかった。姉に似て、というより曹一門の血を受け継いだ弟は容姿だけは端麗であった。将来、政略結婚の為にどこかに婿に出す男。幼少の頃、ぽちは一族からそう思われて育った。

「犬、私が貴方の真名を呼ぶことなど絶対に無いわ!」
「近寄らないで。私は貴方と仲良くする気など無いわ」

 姉齢七つ。弟齢五つの頃、姉が弟に言った言葉である。姉は既にその大器をあらゆる方面に発揮していた。勉学を学べば教師を論破し武術を学べば大人を倒す。対して弟は凡庸にして凡庸。年相応のただの子供であった。姉は嫌悪した。将来、家から只の駒として扱われる血の繋がった弟が、その事実を受け入れ抗う努力をしない事に対してだ。姉は弟を突き放した。弟に自身の才を見せつけ、少しでも近づいてくれるよう高みを目指す事を決めた。

 弟はただただ寂しそうであった。



 事件が起きた。弟を連れて他家へ向かっている際、賊に襲われた。勿論二人の姉弟を守る為の護衛や世話役の大人もいたが、抵抗したが殺された。路地裏に追い込まれる。相手が一人であるならば幼き姉とて自信があった。だが、相手は五名。そして親しき人間の流血した死体を初めて見た。幼き姉はどうすれば生き残れるか必死に考える。剣を取り震えながら構えた姉の前に手を広げた弟が立った。

「どうかお姉ちゃんを助けて下さい」
「犬! 何を言っているの! 引っ込んでなさい!」
「どうかお姉ちゃんを助けて下さい。どうかお姉ちゃんを」



 袈裟斬り。幼き少年は斬られる。胸から腹に掛け切り裂かれた傷から大量の血が流れる。だが少年は倒れない。泣きながら少年は言う。

「どうか、どうかお姉ちゃんだけはっ」

 異常であった。少年は血と涙を流しながら、それでも姉の前に立ち懇願した。姉だけは助けてくれと。賊はその異常な少年に気圧された。姉は混乱した。弟は何を言っているんだと。優しくした覚えなどない。冷たくあしらい続けた弟が、何の才能も感じなかった弟が、それを受け入れている事に嫌悪すら示した弟が、弱き弟が何故必死に自分を助けようとしているのだと。

 遠くから声が聞こえた。幼き弟に気圧されていた賊達が、どうやら騒ぎを聞き助けに駆け付けたその声を聞き逃げ出した。幼き弟が倒れる。慌てて弟を抱き締める。

「ぽち!」

 思わず叫んだ。

「ぽち!」

 泣きながらぽちの名を叫んだ。

「……お姉ちゃんが、真名、呼んでくれた」

 傷だらけの弟が姉に笑った。

「馬鹿! ごめん、ごめんなさい!」

 姉は弟を抱き締めながら、泣きながら謝った。

「……お姉ちゃん、暖かい」

 弟はそれだけ言って気を失った。

「ぽち! ぽち! 駄目よ! 私まだ貴方に真名を呼んでもらってないんだから!」

 弟は三日生死の境をさ迷った。姉は弟に付きっ切りだった。姉は家族に「ぽちが守ってくれた」と話した。家族は、そして一族はもしかしたらぽちは姉を立てる為に昼行灯を演じていたのではないかと話した。姉はそれを否定しなかった。この姉が否定しなかった事で弟に対する一族の見方が変わっていく切っ掛けとなった。

 弟がやっと目を覚ました。

「ぽち、おはよう」
「あれ、お姉ちゃん……」
「華琳よ。真名で呼ばないと許さないんだから」
「うん!」

 ぽちの笑顔を見て、華琳は泣きながら笑った。

「華琳姉、泣いてる?」
「嬉しいの」

 ぽちが華琳が手を握ってくれている事に気が付いた。

「えへへ。華琳姉暖かい」
「ぽち、今までごめ────」
「華琳姉」

 ぽちが華琳の言葉を遮った。

「仲良くしてくれる?」
「勿論よ」

 華琳にとって口にした"絶対"を覆した初めての、いや最初で最後の相手が凡庸だと評したぽちだった。この出来事以降、華琳は無条件でぽちに対して信頼を口にし続けた。華琳が結果を出せば出すほど、優秀だと評される程、ぽちは一族の中で単なる駒扱いされる事は無くなった。ぽちは、才は確かに凡庸であったが人を惹き付ける魅力がある事を弟と接するうちに華琳は理解した。誰とでも分け隔てなく接する事が出来るぽちは、自分が持っていない別の才と特別な運を持つのだと華琳だけが理解した。

 この世界中で、華琳だけがぽちを正確に理解しながら応援し続けている。


 ただ、夜な夜な寝ているぽちの所に行き胸の傷をぺろぺろする妙な性癖に目覚めたのは内緒である。