真・誤解†夢想-革命?- 蒼天の覇王   作:キンシャサ・ニーストライク
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第六話.武勇、天下に響き渡る

 都度四度。賊討伐の遠征軍の総大将として文字通り大勝で終えたぽちは希代の名将、皇帝の懐刀、竜の牙と呼ばれるようになっていた。本人が聞いたら憤死するかも知れない。二度目の遠征から副官として徐晃公明を指名した。それに際し、騎都尉であった徐晃は裨将軍を任ぜられた。この飛び級昇進は徐晃も驚きである。

 ぽちが何進に頼んだら「ああ、いいぞ」の一言で決まった模様。そして自軍(というか徐晃軍)の編成に、徐晃の負担が大きい事を案じたぽち(自分で働く気が無い&自分が働くと邪魔でしかない思いと引っ込んでいる)は、賄賂を拒み干されていた盧植子幹を取り込んだ。

 何進には「余ってるならくれ」と言い、何進も流石に盧植はと躊躇したものの最終的には首を縦に振る。その時の交渉テクニックはこの大陸でぽちと何太后しか持っていない。尚、盧植をぽちが指名した理由は大人しそうだし眼鏡枠とか貴重なのではとかいう良く分からない理由である。

 何故か指名された盧植は、困惑しながらも賊討伐時に献策を書簡に纏め名将と噂されているぽちの元へ行った際に「じゃあ採用で」と即答され更に戸惑う事となる。「大丈夫。信頼してるから。責任は全部(何進が)取るから任せて」と初めての献策で全て信頼すると言ってのけたぽち。そして徐晃と盧植に渡せる物がろくにないがと、真名を預け信頼し命を預けると言った。それは行動に現れていた。何故ならぽちは行軍の際、帯刀しないのだ。剣も槍も、二人がいくら言っても持たない。だって使えないもん。だが事実はどうであれ、二人はそれを信頼と受け取り、二人がぽちに心酔し彼の為の剣となり盾となる決意を固めたのも当然と言えたかも知れない。



 まあそんなこんなで過ごしていたある日。

 何故か皇帝陛下の御前で華雄と試合をする事となった。

 俺は今日、死ぬんだと思う。

 事の切っ掛けはこうだ。俺と何進、あと徐晃が城の中を歩いていた。大将軍と大将軍補佐、周りは皆道を譲る。まあそんな中に華雄がいた。譲ってはくれたものの、俺に向かって「何進の腰巾着めが」と小声で呟いた。俺は無視した。小言など慣れているからなんとも思わない。が、「ぽち様を……悪く言った!」と徐晃がキレた。徐晃がキレたのなんて初めて見た。普段はのんびりしていてふわふわした空気を持つ穏やかな娘なので、ぽちは徐晃が怒る事なんて想像もしていなかった。「やるか」と得物を構える華雄。応じ構える徐晃。どうしたら責任を全て何進に押し付けられるか考える俺。

 三者三様の場面で、何進が言った。

「華雄、貴様そんなに不満ならぽちと一戦交えるか?」
「ふん、そこの男が私と戟を交えると? 笑わせてくれる」
「なら負けたら分かっているな。ふさわしい場を用意してやる。首を洗って待っていろ」
「首を洗うのはそこの腰巾着だろう」

 は? と口を挟む間もなく俺が華雄と戦う事になった。この時はまだ軍同士の模擬戦かなと思っていたのだが、何進から皇帝陛下が見守る御前試合となるとか後で言われて素直に何進死ねと思いました。死ぬのは俺ですね分かります。


 まあそんな事があり、ほんとに最悪な事にちゃんと場が整いました。霊帝に少帝が豪華な椅子に座り退屈そうに眺めています。観客も割りといます。ていうか城の中の主要な将や文官皆いるんじゃねえかな。華琳姉や麗羽さんもいるな。みんなそんなに俺の惨殺ショーみたいのかそうかそうか。


「曹犬、よく逃げずに私の目の前に立ったと誉めてやろう。だが、貴様どういうつもりだ」
「……なにが?」
「剣も槍も持たず、この私を舐めているのか!」
「いや必要無いし」
「なんだと!」

 そう、フル装備の華雄に対し俺は普段着で無手である。だって剣も槍も使えないし。戦場にだって一度も帯刀して行った事ない。徐晃や盧植にも何度も護身用に帯刀をと言われた事があるが、全部断った。必要無い、皆がいるからと剣なんて振れないなんて今さら言えず、信頼してると言って誤魔化し続けて今に至るのだ。
 この場ですら帯刀していない事に驚いていたが、徐晃は「ぽち様……信じてる」と言っていた。いや負けるの分かってて信じてるとか言われても。もしかしてこの試合賭博やってる? もし誰かやってたら俺の負けに全額ぶっこめばいいよ。

 とかなんとか現実逃避していると、俺の格好と武器を持って来なかった事に華雄がキレた。あれ、おかしいな。あわよくば手加減してもらえるかもと思ったのに。


「始め!」

 何進の合図と共に駆ける華雄。棒立ちの俺。相手の烈帛の気合を目の当たりにし、死を確信した。



 華雄が大戦斧を全力で横凪ぎに振るう。「ぶぁっくしょおおい」大戦斧が空気を切り裂く豪音で、声だけ掻き消されたクシャミで腰が90度曲がり不格好にぽちは屈み込む。大戦斧の下を、まるで様子を見ながらさっと掻い潜ったように周りからは見えたであろうぽちは、「うっわ……恥ずかし」と慌てて立ち上がる。立ち上った際にぽちの後頭部がやや前屈みの体勢であった華雄の顎先を掠める。例えるならボクサーの右フックが顎先を捉えたかのように。ぐらんっと華雄の脳が揺れる。華雄の意識を身体が無視し、膝が崩れ背中から地面に落ちる。



「お?」

 立ち上がったら華雄が倒れた。訳が分からないぽちは咄嗟に華雄の背と腰を抱いた。俗に言うお姫様抱っこの体勢。顔だけは良い男、ぽち必勝の形である。

「~~ッ!!」

 何故倒されたか分からないが今の自分の体勢が、周りからどのように見えるか気付いた華雄の顔がゆでダコのように真っ赤になる。猪武者華雄、間近に接近したぽちの顔を見て一瞬自分が武将である事を忘れ、女である事を自覚する。

「は、離せ!」
「あっはい」

 離せと言われ、優しく地面に華雄を降ろすぽち。華雄は立ち上がりたくてもまだ腰から下が言うことを聞かない。

「あの、続き……やります?」
「……私の負けだ」

 え? そうなの? ぽち的にはよく分からないうちに勝負が決まった。何故か勝ったらしい。これ周り納得するのかなと周りを見渡す。


「今の見えたか?」
「多分……あの屈んだ瞬間に腹部に一撃を入れた……ように見えたが」
「いや、屈みながら側頭部に拳を入れたように見えた」
「そうなのか……ただ屈んだようにしか見えなかった」
「凄まじい速さの一撃だった」
「それに加え、一撃を加えた後のあの優美な振る舞いよ」
「あれ幾ら払ったらやってもらえるのかしら」
「羨ましい」


 周りがなんか勝手にガヤガヤ言ってるが、とりあえず勝ったって事で良いらしいとぽちは考えるのを辞めた。猛将華雄を正々堂々と正面から鮮やかに破ってみせたぽちの武勇は、瞬く間に大陸中に知れ渡る事となるのであった。ほんとかよ。




「ぽちさんが勝ちましたわね。当然ですわ!」

 分かっていたと大きな胸を堂々と張り、まるで自身が勝ったかのように誇る袁紹。

「ま、当然ね」

 こちらも当然と話す曹操。がそんな曹操の表情に何か引っ掛る袁紹は訝しがる。

「華琳さん、何か意外そうな顔をしていますわね?」
「あら、そうかしら? 私は元々ぽちが負けるはずがないと言っていたでしょう? 信頼しているもの」
「それもそうですわね」

 確かに常日頃から弟を溺愛しているこの姉が弟を信頼しないはずがないかと、自身の思い違いと直ぐ様思いを改める。

「さ、忙しくなるわよ麗羽」
「分かっていますわ」

 賭け事は胴元が儲かる物。そして胴元は信頼が大事。袁家の名を借り今回の勝負の胴元を務めた曹操と、名を貸し協力した袁紹が今回一番金銭的に儲けを出した。そして男が勝てるはずが無いと大穴であったぽちに無二の信頼を寄せている二人が、売り言葉に買い言葉と乗せられて、まんまと賭けさせられたが大勝したのは言うまでもない。



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