──その日、世界に激震が走った。
普段ならば日々の何気ない特集から政治の話まで取り扱っているニュース番組たちは、今日ばかりはこぞって同じニュースを取り上げてばかりである。朝から夕方まで話題を独り占めし続けたそのニュースは、それに相応しいだけのネタであったのだ。
問題の見出しはこうである。
「『セブンスターズ、式典戦争を主導した疑い!?』、か。中々はっきりしねぇ文句じゃねぇか」
テレビ画面に目をやりながら、やれやれと言った様子でオルガは呟いた。いつ見ても、どのチャンネルに変えても、代り映えのしないニュースには辟易するばかりだ。だけどこれは鉄華団にとっても大きなニュースで、とても無視することは出来ない重大な局面へと繋がっているのだから是非もない。
彼と共にニュースに目をやっているのはユージンと三日月、それにジゼルの三人だ。しかし三日月はニュースを見るよりも火星ヤシを食べるのに夢中で、ジゼルに至っては半分寝ている有様である。
オルガもユージンも、すっかりこの妙な状況に慣れてしまったのが悲しい所だ。
「肝心の誰が主導したかは隠す……いや、隠蔽されたのか。なんつーか、ギャラルホルンお得意の手って感じで気に食わねぇぜ」
「つまりマクギリスが喧嘩売ってるのはそれだけ大きい相手って事なんだろうな。ったく、大概アイツも面倒な事にばかり巻き込んでくれる」
ユージンの意見にはオルガも同じ思いである。腐ってもギャラルホルン、落ちぶれている現状でもその影響力は計り知れないものがあった。
こんなことをいとも簡単に出来てしまう相手に喧嘩を売るなど、やはり正気の沙汰ではない。少なくとももっと勝てる算段を作るだとか、基盤を固めるなりしないと太刀打ちできないだろう。
あの時判断を保留にしたマクギリスは正しかった、そのような考えを抱きながら、オルガは机に置いてある通信機へと語り掛けた。
「で、どうなんだマクギリスさんよぉ? これがアンタの求めた最良の結果なのかい?」
『……生憎と、最良とまでは言い難いな。本来ならば君たちの見ているニュースには、ラスタル・エリオンの名前も映っていなければならなかった。それが瀬戸際でぼかされてしまったのは、彼の持つ多大なコネと影響力の賜物だろうさ』
通信機越しに届くマクギリスの声音には、敵にしてやられたという苦々しい想いと、わずかばかりその見事な手腕を褒めるような響きがあった。敵はやはり強く、大きい。そんな当たり前の事実を確認した両者である。
「簡単に言ってくれっが、そいつはつまりアテが外れたって事じゃないのか? 革命すんなら保守派のラスタルって奴は邪魔なんだろ?」
『確かに思ったように行かなかったのは事実だ。けれど、何の影響もないという訳ではない。既に行われたセブンスターズの会議も紛糾していてね。犯人がラスタルだと言うのはもはや公然の秘密だ。これを契機に、彼の影響力が目に見えて落ちるのも時間の問題だろう』
「つまり、息の根を止めるのこそ失敗したが、手痛い傷を負わせるまでは出来たって事か」
『そういう事になる。改めて、君たちの働きには多大な感謝をさせてもらおう』
その真摯な感謝の言葉にはオルガもとやかく言う気は起きなかった。鉄華団どころか一般人まで巻き込んだ戦争を引き起こした張本人、少しでも痛い目を見てくれるなら多少は溜飲も下がることだろう。
とはいえ、問題はここからだ。要するにマクギリスの作戦は半分失敗に終わったのだから、今後彼がどのように動くのか問いただす必要があった。それ次第で、鉄華団が手を貸すか貸さないかも変わってくる。
「さてマクギリスさん。あなたは納得のいく展望を考案する事はできたのですか? まさか無計画、なんて事は言わないでしょうね?」
『これは随分と手厳しい』
何の躊躇いも前置きもなく踏み込んだのはジゼル、寝ているかと思えば当然のように口を挟んでくるから侮れない。殺人が絡まないから本人は不満げだし、ユージンもやや微妙そうな顔つきをするのだが、それでも両者共に真面目に仕事をしてくれるのだから外す理由もまたないのだ。
訊かれたマクギリスは苦笑と共に軽口を返して、しばし無言になる。これからを占う重大な選択だから無理もない。それから、意を決したかのような雰囲気が通信機越しに伝わってきた。
『……本来ならばヴィーンゴールヴのギャラルホルン地球本部を占拠し、バエルの威光をもってセブンスターズすらも従わせる予定だった。しかし直接アグニカ・カイエルを知る君の口から、これは否定されてしまったからね。おかげで策を練り直す羽目になってしまったよ』
「だからまだ何も浮かんでない、なんて言うんじゃねぇだろうな?」
『まさか。ただしあまり奇抜な手にはならないがね。あくまでも真正面から正々堂々と、自らの地盤を固めてラスタルを追い抜かす。幸い、今のラスタルは苦境に立っている。そう難しい事ではないだろう』
その言葉に嘘はない。現状、マクギリスは地球外縁軌道統制統合艦隊の新指令として着実に実績を重ねている最中である。今回の式典戦争だって調停に乗り出したのは彼だし、鉄華団との繋がりがあったおかげでさらにスムーズに話は進んだ。これらの行いで周囲からの評価はますますうなぎ登り、その権勢も日増しに増えるばかりである。
だから本来、彼は強引な奇策に手を出す必要すらなかった。堅実に立場を固めていけば、いずれ革命すらも可能な立ち位置にまで上って来れる。それを承知でバエルを持ち出そうとしたのは、彼の根底が関わるからやむなしなのだが。
ただし、彼が正々堂々と戦いを挑むというのなら、鉄華団の扱いも大きく変わってくるのだ。
「なら俺たち鉄華団の力を借りる必要はないはずだ。悪いが、俺たちは政治抗争なんざさっぱりだぞ。例えこれからも手を組み続けたところで、とてもじゃねぇが力になれるとも思えねぇ」
そうだ、元よりマクギリスは暴力装置としての鉄華団をアテにしていた。ギャラルホルンに一泡吹かせた実力は無視しがたいもので、しかも個人的な好意もあって手を借りていたにすぎない。これが戦闘とは関係のない政治の舞台へ移行するというのなら、鉄華団が半ば用無しなのも自明のことなのだ。
無論それはマクギリスとて百も承知のはず。けれどオルガの疑問に対しては、はっきりと『それは違う』と言ってきた。
『確かに君たちの手を借りづらい状況になったのは事実だろう。少なくとも、ギャラルホルン側の問題は私だけでどうにかしなければならないのは確かだ。けれど、ギャラルホルンの外部に居る君たちと関係があるからこそ、取れる手段もあると思わないかな?』
「つまりあれか、俺たちに指示を出してこの前の”夜明けの地平線団”討伐みたくすれば、ギャラルホルン内での利益はそっちのモンになると」
「おいおい、そりゃちょっと不公平じゃねぇのか!?」
『君の懸念はもっともではあるが副団長、さすがに見合った報酬は用意すると約束しよう』
オルガたちが地球に来るほんの少し前、鉄華団はマクギリスと手を組んで大海賊の討伐に乗り出した。これを無事に成功させたことでマクギリスは海賊討伐を主導した者として評価され、鉄華団もまた独自に報酬を獲得することが出来たのだ。もちろん、手に入れた報酬はマクギリスからのものに他ならない。
つまり、これまでの実績から鑑みれば彼の言葉は信用できてしまうのだ。そこさえ呑み込んでしまえば、これからのマクギリスとの関係性もおのずと明らかになってくるわけで。
「アンタの依頼を受けることで、俺たちはアンタの都合が良いように行動を起こす。その結果そっちはギャラルホルン内での地位を固めて、俺たちは実利を手に入れるって訳だ。……これまでと何も変わんねぇじゃねぇか」
『その通りさ。我々の関係性は何も変化しないのだよ。だが君たちは改めてギャラルホルンの後ろ盾を手に入れることができ、しかもそれなり以上の報酬も約束されている。ああ、火星の王の件だって忘れてはいないとも。どうかな、君たちにとっても悪い話ではないだろう?』
「違いねぇな」
どのような依頼が来るかは分からないが、間違いなくギャラルホルンと事を構える以上の無理難題はないだろう。そうであるなら、今の鉄華団の力ならばどうにでもできる。リスクはあるが、どのみち”上がり”を目指すには多少のリスクは覚悟すべきなのだから。それならオルガに躊躇いは無い。
「いいぜ、受けてやる……と言いたいところだがな。ちょっとだけ待ってくれ、他の奴とも相談したい」
『もちろん構わないとも。私とて同じことをした身だ、否応は無いさ』
「助かる。明日か明後日には返事を寄越そう」
『では、色よい答えを期待させてもらうとしようか』
それで話は終わった。用済みとなった通信機の電源を落としてから、オルガはこの場に集った三人へと向き直る。
三人──副団長のユージンと、これまで黙って話を聞いているだけだった遊撃隊長三日月、それについ先日正式にオルガから参謀の職を与えられたジゼルの事だ。
「単刀直入に訊こうか。どう思う?」
「悪くないと思いますよ。話を聞く限り、これまでの関係性はそう崩れないようですし。手を結んでしまっても構わないかと」
「……ちょいと不安は残るが、俺も同意見だ。少なくとも今の状況なら足元見てくることもないだろ」
「チョコの人、なんだか楽しそうだったよね。機嫌が良かったのかな?」
返答はおおよそオルガの予想通りのものだ。三日月の意見だけやや的外れに思えるが、これもマクギリスの提案に他意はない事の裏付けとなるから十分。
ひとまずこの場に集った三人は今のマクギリスの話には好意的である。他にも昭弘やチャド、メリビットといった人物達にも意見を聞く腹積もりではあるが、たぶん似たような答えが返ってくる事だろう。
「……いや、メリビットさんだけは怪しいな」
「オルガ?」
「火星の王の事をマクギリスは忘れていなかった。つまり、これから先の推移と成果次第で火星の統治権を譲る用意はできるという事のはず。となれば、テイワズとの関係性はどうなんのかと思ってな」
テイワズと鉄華団の関係はいわば親子のようなものである。鉄華団立ち上げ当初からここまで、テイワズから授かった恩恵は計り知れない。
だが仮に火星の王となれば、その力関係はほぼ間違いなく逆転してしまう。もちろんオルガはテイワズを蔑ろにするつもりなどこれっぽっちも無いが、それだけでまかり通るほど甘くないのが現実だ。面子、義理、関係性。そのようなしがらみは素直に火星の王就任を祝ってはくれないだろう。
「でもよぉ、まだまだ火星の王つっても時間はかかんだろ? ならその時までテイワズには黙ってても──」
「それではいつかどこかで綻びが生まれますよ。そんなこと、副団長さんも分かっているでしょうに」
「ちっ、そりゃそうだがよ……」
舌打ち気味にユージンが呟いた。彼とて自分の意見がその場しのぎでしかない事くらい理解しているのだ。
「オルガはどうしたい? 火星の王になるのか、ならないのか。オルガの目指す上がりは何処にあるの?」
「ミカ……」
難しい。二律背反だ。三日月からの容赦ない問いは、いつだってオルガの核心へと触れてくる。
オルガとしては是非とも火星の王の地位は欲しい。それこそ、虐げられてきた自分たちにとって最高の”上がり”だと確信できるからだ。かといってそのためにテイワズと縁を切るのは不義理が過ぎるし、不都合も多い。茨の道になるだろう。しかもマクギリスへと正式に”火星の王”の件を断るだけで、この道を歩む必要は全くなくなるのだ。
あらゆるリスクを考慮すれば、火星の王にまでなる必要はない。今のままでも十分に名は知れ渡ったのだから、これを元手として更なる事業の拡大と健全化を進めればいい。余計な心配事を抱える理由など無いのだ。
それでも──
「ずっと馬鹿にされて、足蹴にされてイイように扱われてばかりだった俺たちが、火星の王になる。地位も名誉も、全部手に入れられるんだ。こいつは、これ以上ない──俺たちの”上がり”じゃねぇのか?」
火星の王というのは、どうしても抗いがたい魅力に思えて仕方なかったのである。
自らの想いを確かめるように呟けば、三人の視線が一気に押し寄せたのを自覚した。「本気か?」と目で問うてきているのはユージン。「楽しそうですね」とどこか嬉しそうなのはジゼル。そして「オルガの決めた事なら、絶対に成功させる」と雄弁に語っているのは三日月だ。
「危険はもちろん承知している。このまま行けばテイワズと揉めるのは間違いねぇだろうし、最悪ことを構える事態にだってなるだろう。だけどそれでも、俺は火星の王になりたい。これまで散々苦労を掛けてきた鉄華団の皆に、楽をさせてやりてぇんだ」
最初から最後まで、オルガの望みはこの一点に収束している。自分が甘い汁を吸いたいからではなく、あくまでも家族に報われて欲しいから名誉や利益を求めるのだ。その想い、なるほど確かに立派である。
なのだが、あるいはそれは底なしの沼に嵌まる第一歩なのかもしれないのだ。
「なら、そのような欲望を抱いた者の先達として、一つ団長さんに忠告をさせてもらいましょう」
「……?」
不意に、ジゼルの黄金の瞳がオルガを射抜いた。合わせ鏡のように、互いに同じ色をした瞳が交わる。
「火星の王になる、それは結構なことです。ただし、人の欲望とは限りがないモノですよ。火星の王になれば、次はテイワズの支配者、その次はコロニー群の長、さらには地球の帝王にまで。あらゆる全ての頂点に立ちたいと、いつの間にか考えてしまうかもしれないことを覚えておくべきです」
「……まるで見てきたような口ぶりだな」
「ええ、そうですとも。だってジゼルがそうでしたから。最初は一人殺せればそれで良かったはずなのに、いつの間にか二人殺しても、十人殺しても、百人殺したってまだ満たされなくなった。ほら、どこか似ていると思いませんか?」
それは悪魔の囁きだった。耳を塞いでしまいたいのに、つい耳を傾けてしまう。違いがあるとすれば、甘言ではなくオルガにとって不都合な内容であることくらいか。
火星の王になって、ではその後はどうする? そこで足を止めるのか? それとも強欲に先を目指してしまうのか? 分からない、分からないがしかし、空恐ろしいと感じてしまう。もしオルガ自身が欲深になってしまえば、きっとそれは彼が憎む汚い大人そのものとなってしまうだろうから。
人の欲望に限りはない。ジゼルの語ったそれはまさしく性悪説に則ったものであり、それだけに目を背ける事は許されない真実でもあったのだ。
「戦い、争いそのものはジゼル個人としては望むところです。いっぱい殺せますからね。けれど一人の団員として意見を述べさせてもらうなら、このような事態も考慮に入れておきべきかと。その時になって、果たしてあなたは
「足を止める……か……」
冷や水を掛けられた想いで、オルガはその言葉を受け止めた。
そのようなこと、まったく考えた事すらなかった。いつだって前を見据えて足を進めて、その先で名誉と利益をつかみ取ってきたのだから。これから生きている限り、ミカと一緒に居る限り、いつまでだって止まることは無いと思っていた。
だから、続くユージンの言葉には驚かされてしまったのだ。
「オルガ、なにもこのまま堅実に進んだって足を止める事にはなんねぇ。俺たちは、鉄華団は、いつだって一歩一歩進んでるんだ。ハイリスク・ハイリターンの戦い方はもう似合わねぇよ」
「……もしかして、ユージンは火星の王は反対なの?」
「……そりゃあ俺だって、偉くなってチヤホヤされたくねぇって言えば嘘になるさ。可能な限り最高な見返りが欲しい気持ちも当然ある。だけど、それまでに死んじまったら何の意味もねぇんだ」
火星の王について、これで二人の意見は出揃った。ユージンはほとんど反対、ジゼルはどちらでもないが強烈な忠告を残している。だから後は、三日月の意見次第でこの場の趨勢は決まるだろう。
「ミカ、お前はどう思う?」
「俺は……」
珍しく三日月が悩んでいた。物珍しげにオルガとユージンが見守る中、一分ほど考え込んでから三日月は結論を導き出した。
「オルガの意見には反対したくない。だけどもしオルガが昔のマルバや一軍みたいになったら、すごく嫌だ」
「そいつは……」
「それと、死んだ奴とは死ねばまた会えるってオルガは言ってたし、俺は疑う気もないけど。どうせなら生きている鉄華団の皆と一緒に、オルガの目指す先を見てみたいな」
三日月のはっきりした意思を聞いて、オルガは一つ溜息を吐いた。それは安堵からくるものかもしれないし、あるいは自らの考えが破れた無念からくるものなのかもしれない。
ただ、これで彼の意思は固まったのは確かだった。
「そうだな、確かにその通りだ。例え遠回りだろうと、鉄華団は止まんねぇ。俺が止めさせねぇ。歩き続けたその先へ、絶対にお前らを連れて行ってやるんだからよ」
「なら──」
「まぁ待て。まだ意見を訊いたのはここの三人だけだ。これじゃフェアじゃねぇよ。マクギリスには明日以降に返事をするって言ったんだ、他の奴と話し合ってからでも遅くはねぇだろ」
とはいえ、きっと意見が翻ることは無いだろうというのは、オルガのみならず誰もが感じていたことであったのだが。
◇
ヴィーンゴールヴはギャラルホルン地球本部。そこに誂えられた一室にマクギリス・ファリドの姿はあった。
『結論が出た。俺たちはアンタと手を組みたいと思う』
「それはありがたい。なら火星の王の件も前向きに──」
『その話なんだがな、そいつは丁重に断らせてもらうことになった。これまで通り、アンタとはある程度の関係性が保てればそれで十分だ』
「ほう……?」
机に置かれた通信機から届いた返答に、マクギリスが珍しく驚いた表情を作り上げた。
予想に反した言葉だった。彼ら鉄華団ならば、多少のリスクを呑もうとリターンを求めて快諾すると思っていたのだ。もちろん断られたところで損はないが、マクギリスをいつになく動揺させるには十分すぎる内容だ。
「理由を聞いても?」
『話せば長くなるが……まあ端的に言やぁ、俺らの将来にそこまで大それたモンは必要ねぇって事だ。申し出はありがたいし、口惜しいと言えばその通りだが、組織の方針としては断らせてもらうって方向で決着が着いた』
「そうか……君たちなら良い王として君臨できると思っていたが、それなら是非もないな。分かった、その方針で行くとしよう」
本音を言えば、この選択を採った鉄華団には少しばかりがっかりした。マクギリスが思い描いている彼らならば、どんな時でも貪欲に利益と成果を求めると信じていたからだ。
けれど、こうも思うのだ。彼ら少年たちは現実を見て、自らが求める成果以上は必要ないと手放すことが出来た。ある意味でその行いは偉大で、彼らが子供から大人へと着実に変化している兆しでもあるのだと。
「ふっ……私とて、とても人の事は言えないな」
『なんか言ったか?』
「いいや、何でもないさ。ただの独り言だよ」
かつてのマクギリスなら、バエルに頼らない改革など決して考えなかった。今の自分を昔の自分が見れば、きっと失望されるに違いない。それが今や大真面目にバエル抜きの改革をしようと試みているのだから、人間どのように変わっていくかは分からないものだ。
「ならば互いの為にも、末永い付き合いを保つとしよう。よろしく頼むよ、オルガ団長」
『ああ、こっちこそよろしく頼む』
どこか晴れ晴れとした気持ちを胸に、鉄華団との通信を打ち切った。きっと彼らとは良い関係を築いていけるだろう。楽観にも程がある思考だが、この時ばかりはマクギリスもそう信じることが出来たのだ。
だが、いつまでも心地よい思考にばかり浸ってはいられない。この後すぐにセブンスターズの会議がある。こうも連日開かれては面倒極まりないが、退屈な会議を繰り返すのがご老体たちの趣味なのだから仕方ない。
「それに、ラスタルやイオク・クジャンの動向も見極めなければならないからな……」
誰ともなく呟く。政敵であるラスタルは元より、彼の陣営に着いているクジャン家の御曹司も厄介な手合いだ。どちらも侮っていい相手ではないが、事ここに至っては警戒すべきは後者であった。
単純にセブンスターズに名を連ねるだけでも強敵だが、それ以上にイオク・クジャンは”何をするのか読み取れない”のだ。胸に抱いた正義感や家に恥じない生き方をしようと心がけるのは立派だが、マクギリスからすれば少々空回りをしているようにも見えてしまう。
特に今は敬愛するラスタル・エリオンが失脚しかけているこの状況。これが原因でどんな突飛な行動を始めるのか、マクギリスからしてもてんで予想がつかない。
「立派な志を抱きながら、想いと努力が実を結ぶことは無い。考えてみれば彼も中々報われない男だ……その境遇は哀れに思うがね」
敵対するなら容赦はしない。自らの全力をもって消えてもらうまでだ。
「存外、鉄華団への最初の依頼は彼絡みになるのかもしれないな」──そのような事を考えながら、マクギリスはセブンスターズの会議場へと重い足を向けたのだった。
なんだかんだ二期最初期のような関係性を保った鉄華団とマクギリス。
痛手を負いながらもギリギリで踏みとどまってみせたラスタル様。
登場してもないのに不穏な空気を漂わせ始めたクジャン公。
最初の状態に戻ったようで、かなり差異が出てきていますね。特にオルガが火星の王をすっぱり諦めたのは大きいです。オルフェンズ本編だと聞く耳もたない感じでしたが、今回は似た者同士なジゼルの言葉や、慎重論も出せるようになったユージンに三日月共々影響される形となりました。本編で何度か言及されている「ジゼルとは相性が良い」というのは、まさしくオルガの重視する点をピンポイントで突けるところです。