鋼の不死鳥 黎明の唄   作:生野の猫梅酒

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#28 結託と訣別

 革命家と保守派。字面だけとらえれば正反対にも思える言葉たちだが、実のところ両者は共存可能な存在である。

 

 革命家の志すところとは、既存の組織・体制の破壊と新たな制度の誕生である。今の自分たち、そして世界に不都合な要因を取り除き、新たな地平を生み出そうと邁進する者たちは総じてこう呼称されるのだ。

 対して保守派とは、既存の組織自体はそのまま維持しようという姿勢が主となる。だがそれは、決して全てが元のままで良いと考えていることを意味しない。組織が腐敗し現状では立ち行かなくなるというのなら、()()()()()()()()()()()現行の組織を維持しようと努めるのが保守派のあるべき姿なのだから。

 

 ──つまりだ。若き革命家たるマクギリス・ファリドと保守派の重鎮ラスタル・エリオンは、敵対こそしているが根本的なところで同じ視点を持った、いわば似た者同士とも評せるのである。

 

「手を組むだと? 私とお前がか?」 

『そうだ』

 

 短く頷いたマクギリス。常の胡散臭いような、周囲を煙に巻く独特の雰囲気はそこにない。今の彼は間違いなく自身の本心から言葉を紡いでいるのだ。それが分かるラスタルだったから、マクギリスの言葉に半信半疑ながらも応じていた。

 

『あなたとて理解しているだろう、今のギャラルホルンの腐敗ぶりを。そしてただ見逃すつもりもないはずだ。そうでなければ他の中立の立場を取っているセブンスターズ──ファルクやバクラザンなどと違い、わざわざ保守派として行動している筈がないのだから』

 

 鉄華団が名を馳せ、マクギリスが本格的な台頭を始めだしたエドモントンでの一件。一連の事態でギャラルホルンは禁忌とされたはずの阿頼耶識に手を伸ばし、市街地にMSを侵入させるという失態を犯し、政治家とセブンスターズの癒着が明るみになるという散々な結果で終わっている。

 このせいでギャラルホルンの権威は失墜し、世界は本格的に乱れ始めた。角笛の音色は掻き消え、あらゆる悪徳が横行する時代。ただでさえ歪みきったギャラルホルンは白眼視されていたというのに、権威が墜ちればそれはそれで新たな悪意の引き金となるのだからどうしようもない。

 

 腐敗を理由に甘い汁を啜りたいなら中立なり傍観者なりの立場を取っていればよい。何もしなければそれだけギャラルホルンは腐り墜ち、上の者にとって都合の良い組織となっていくのは目に見えている。

 だがラスタルはそうは望まなかった。どうにかしようと決意した。故にギャラルホルンの権威を復活させるべく、保守派として行動を開始したのだ。

 

『ギャラルホルンの世界統治には賛成、だがどこかで腐敗を取り除く必要があるとも考えている。なにせ基本的には身分や階級を問わずに人を見るあなたの事だ、地球圏とコロニー及び火星圏の軋轢を快く感じるはずもないだろう。どうかな、どこか間違っていただろうか?』

「……認めよう。確かに私はこのギャラルホルンを変えるつもりだった。いずれはセブンスターズそのものを排し、この腐ったギャラルホルンを清浄な姿へと戻したいと願っていた。そうでなければ、あまりにも報われない者が多すぎるのだ」

 

 とてもセブンスターズが発したとは思えない、現実味のない誠実な言葉。もしギャラルホルンの腐敗に苦しめられた者が聞けば目を剥いて驚いたことだろう。

 それを聞いて我が意を得たりとばかりに微笑んだのはマクギリス、鋭く息を呑んだのはヴィダールである。両者共にこれまで公人としてのラスタルは知れども、私人として何を想っているか知る機会が無かった。だから保守派として組織を立て直そうとするラスタルの真意がどこにあるのか、誰からも不明瞭だったのだが……

 

『やはりな。あなたならそう考えていると信じていたよ。だから私もあなたに協力を申し込んだのだから』

「全てお見通しだったというわけか。やはりお前は侮れん男だよ、マクギリス」

 

 ここにその真意が明かされた。保守派といえど──いや、保守派だからこそ組織を維持するためには現行の体制を崩すのも厭わない。要はギャラルホルンが世界を統治、支配して平和を維持できればそれで良く、わざわざ現行の腐敗まで一緒に保守してやる道理はないのだ。

 

 ただし、これはセブンスターズとしてはあまりにも異端な答えでもある。

 例えばファリド家の前当主、つまりマクギリスの養父はギャラルホルンの腐敗の象徴とも取れる行いに手を染めていた。他のセブンスターズとて組織の風通しを良くした代償に、今の強力な権威を手放したいとまでは思うまい。それ以外にも多くの者たちが現ギャラルホルンの都合よい傲慢さを壊そうとまではしないはずだ。

 その中ではラスタルの常識的な願いなどとても公には出来ぬもの、迂闊に明かせぬ爆弾に他ならない。これまで誰一人として彼の真意を知らなかったのも無理からぬものだった。

 

 しかし、ここまで明確に悟られてしまっては隠し通す意義も存在しない。

 

「いずれはギャラルホルンを内部から変革させ、秩序だった組織へと変貌させる予定だった。そのためには時間と、何より緩やかな変化が必要だ。急激な変化は過激な形態しか生み出さん。改革とは決して一朝一夕に行えるようなものではないのだよ」

『しかしそれではあなたの語った”報われるべき者たち”はどうなる? 彼らがこの世界に絶望し潰されていくのを必要な犠牲だと割り切るのか?』

「そうだ。マクギリスよ、我らはあくまで公人なのだ。私人としての心情がどうあれ、感情に囚われて動けばいずれ必ずや手痛いしっぺ返しを食らうだろう。そうなってからでは遅いのだ」

『一理はある。そしてようやく理解したよ。だからあなたは私の敵として立ちはだかっていたのだな』

 

 あくまでも時間をかけてじっくり改革を行うべきとする保守派のラスタル。

 自らの理想のため、積極的に革命への布石を打っていく革命派のマクギリス。

 

 どちらも抱いた願い自体はギャラルホルンの健全化で、そこに貴賤などありはしない。人として真っ当で誇れる大志だろう。なのにこうもアプローチ方法が違うだけで、互いに争い火種を持ち込むような泥沼の引っ張り合いになってしまったのだ。

 ラスタルに至ってはそのためだけに経済圏同士の戦争を演出、その直前には海賊退治にも横槍を入れたのだからその本気ぶりが窺い知れる。何もここまでする必要はないだろう──そんな良心すら一顧だにせずの行動だ。

 

 彼からしてみれば、それほどまでにマクギリスの目指す改革が不気味かつ不安定なものに見えてしょうがなかったのである。

 

「私は覚えているぞ。かつて、まだお前が子供の時分の話だ。欲しいものを訊ねた時、お前は迷わずバエルと言ったな。もし今もそのようなまやかしの象徴を求めているというのなら──」

『生憎だがエリオン公、私は既にその思想からは脱却している』

「なんだと……?」

 

 予想外な言葉にラスタルが言葉を失った。マクギリスの内心に根付いたバエルへの執着、それこそラスタルがマクギリスを危険視する何よりの証拠だった。根拠としては薄いかもしれない。だが無視できるような要因でもなかったのだ。

 だというのに、目の前のマクギリスであるはずの男はあっさりとその未練を断ち切ってみせていた。その変貌ぶりがラスタルには分からない。()()()()()()()()()()はずなのに、政治家としての頭脳が認められていないのだ。

 

『そう、気づかされたのだよ。改革するはずの組織の法に頼って何とすると。アグニカ・カイエルの意志を再びギャラルホルンへ反映させるのに、必ずしも彼と同じようにする必要はないのだと』

「……ならばお前は、どのように改革を行うというのだ?」

『無論、正面から』

 

 自信に満ち溢れた即答だった。視界の端でヴィダールが拳を握りしめている。

 

『ギャラルホルンをまとめ上げられるだけの実績と立場を得た上で、正々堂々と変えてみせよう。だからこうしてあなたに協力を持ちかけた。共に見ている先が同じなら、手を組むことは不可能ではない。少なくとも互いに不干渉とする程度は今からでもできるはずだ』

「その果てにお前はどのような組織を作ろうという? 力だけが全ての組織か? ギャラルホルンを徹底的に否定するだけの組織か? 私は既に自らの理想を語った、故にお前もまた理想を語ってみせてくれ」

『最初に言った通りさ。今の悪しき風習ばかりが残ったギャラルホルンを破壊し、報われるべき者が報われる組織を再建する。かつてアグニカ・カイエルが目指した世界の秩序を守る正しき組織を、この手でもう一度世に生み出すのだ』

 

 語られる一言一句に、もはや危惧していたような独善的な思想は欠片も見当たらない。マクギリスはマクギリスなりに、憧れたアグニカ・カイエルを目指しつつも組織をより良くしようと動いている。

 理想の根幹は確かに子供らしいものかもしれない。だが、どうあれ革命へかける気概に嘘偽りなどこれっぽっちも存在してはいなかった。

 

 ラスタルはちらりとヴィダールを見た。彼は震える拳を握り締めて、ただ立ち尽くしているばかりだ。何を想っているのかはその鉄仮面に隠れて判然としないが、きっとマクギリスの様子に衝撃を受けているのだろう。

 

『話はこれで良いだろう。忘れてもらっては困るが、あなたの大事な部下二人はこちらの手に収まっている。この意味が分からぬあなたでもないはずだが?』

 

 事実上の人質である。そもそもマクギリスはこの使い方、展開を見越してラスタルに通信を入れてきたのだから是非もない。ここでマクギリスの話を断ったところで、イオクとジュリエッタがラスタルのアキレス腱としていいように扱われるのは目に見えていた。

 しばし、ラスタルが瞑目する。脳裏にはこれまで積み上げた様々な行いがフラッシュバックし、そして消えていく。それらの最後には戦場で散った友が浮かび、そして再び記憶の海へと沈んでいった。

 

 そうして、目を開いたラスタルはついに決断を下す。重苦しい苦渋に満ちながら、どこか清々しい響きも感じさせる言葉だった。

 

「……いいだろう。そちらが望むのなら、私もお前と手を組ませてもらいたい」

『よくぞ言ってくれた、ラスタル・エリオンよ。では、共により良きギャラルホルンの明日を目指すとしようではないか』

 

 これまで幾度となくいがみ合ってきた両者は、ここに来てついに手を取り合った。同じ理想を抱き、同一の結果へと視線を合したのだ。この瞬間、マクギリスの改革への野望はよりいっそうの加速を見せ、ラスタルの緩やかな変革を伴った保守は崩れ去ったのである。

 

『では、イオク・クジャンとジュリエッタ・ジュリスの身柄については追って連絡しよう。鉄華団への支払いなどもその時に。あなたの誠意に応え、悪いようにはしないと約束する』

 

 通信が切れた。もはやマクギリスの勢いは止められないだろう。ギャラルホルンでも急速に頭角を現し、火星でも地球でも一目置かれるようになった鉄華団と強い繋がりを持つ身だ。今のラスタルでは止められないのも道理であったのか。

 マクギリスと手を組む。この判断が吉と出るか凶と出るか、それはラスタルですら分からない。疲れたように背もたれに背を預けて深いため息を吐く。どうにも精神的な疲労がかさんでいた。

 

「まさか巡り巡ってこうなるとはな。言いたいことがあるなら好きに言ってもらって構わんが……それどころではないか」

 

 ラスタルが呟いたと同時、甲高い反響音が部屋に響いた。鉄と床がぶつかるようなそれは、ヴィダールが自身の仮面を床に叩きつけたことによるものだ。

 特徴的な仮面が床を転がる中で、腕を振りぬいた姿勢のまま肩で息をしている紫髪の男。端正な顔には痛々しい傷が走っている。だがそれ以上に目を引くのは、どうしようもなく怒りと戸惑いに塗れたその瞳だった。

 

「どうした、ヴィダール──いや、ガエリオ・ボードウィン。その仮面を外し、あまつさえ叩きつけるなどらしくない」

「そうだな、自認はしているさ。しかしどうしようもないんだ。色んな感情が胸の中を渦巻いていて、とても制御できそうにない」

 

 かくしてヴィダールと呼ばれていたはずの男、セブンスターズが一人ガエリオ・ボードウィンは、その素顔を隠す仮面を取っていた。本来ならばその時が来るまで絶対に外さないと誓ったはずの仮面を衝動に任せて投げたのだ、心の内でよほどの嵐が起こっていると見える。

 

「ラスタル、あなたがマクギリスと手を組んだのはそう不思議ではない。殺されかけた俺でさえ、奴の抱いた理想には胸を打たれた。昔からいつだってギャラルホルンの腐敗に憤り、不遇の身からあそこまで上り詰めた男の言葉だ。友として尊敬に値すると言ってもいい」

 

 しかし、だからこそガエリオはこうも苛立っているのだ。マクギリスの語った言葉が素晴らしく、またどうしようもないくらい正論であったからこそ、ガエリオは力の限り問いかける。此処にはいない友に向かって。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!? マクギリスがそのような思想を抱いていると知っていたなら、俺も、カルタも、父もアルミリアも絶対に応援した! 力になってやった! なのに、なのにどうして……!? お前は全てを捨ててまで一人で進もうとしたんだ!!」

 

 魂の叫びだった。泣き叫ぶ子供の様な、不条理を見た大人の様な、どうしようもないくらい抑えきれぬ感情の発露だ。ない交ぜになった想いは混沌と渦まき、ガエリオの心を支配する。

 かつて自らを裏切り、嵌めて、殺そうとまでした親友。そんな彼の真意を知りたかったからヴィダールとして素性を隠し、マクギリスへ問いかけようと考えていた。結果として思わぬ形で達成された事となるが、それだけに根は深い。

 

 肩で息をしながら思いの丈を振り絞ったガエリオは、一度二度深呼吸して呼吸を落ち着けた。それでようやく冷静になれたのか、先ほどまでの激情は波のように引いている。

 

「さっきあなたは、俺が自分を見失っている節があると言っていたな」

「確かに言ったな。その意味が理解できたのか」

「ああそうだ、やっと本当の気持ちが分かった。マクギリスを見定めるとか、許せないとか、そんな感情を燃やしてここまで生きてきた。だけど俺の本音はそうじゃないんだ」

 

 かつての幼馴染であるガエリオ、それにカルタ・イシューを裏切り、婚約者でガエリオの妹であるアルミリアにすら不幸をもたらしたマクギリス。そんな彼を理解できず、許せないから彼の真意を知りたいと願っていた。

 だけどそれは少し違う。本当は何よりもまず、マクギリスに認めさせたかったのだ。無意識に避けてきた自身の渇望、ようやくそれと向き合う時が来たのだ。

 

「俺は今でも……あれだけのことをされてもなお、マクギリスを親友だと思ってしまっている。だが向こうはどうなのか分からない。もしかしたら、俺たちのことなんて都合の良い端役扱いしてたっておかしくはない」

 

 だから──

 

「俺はアイツに認めさせたいんだ。俺はお前と一緒に歩いて行ける人間で、一言声を掛けてくれれば協力してやれる友達だと。あの自分勝手な分からず屋をぶん殴ってでも、俺はお前の横に立っているぞと知らしめてやりたいんだ!」

 

 それが友として、ガエリオが通したい意地だった。許せないし、復讐もしたい。だけどそれ以上にガエリオはマクギリスの友であった。

 故にこれは、もはや許せるか許せないかの話ではない。ただ自分の価値を、在り方を、マクギリスに叩きつけてやりたいのだ。

 

 高らかに宣してみせたガエリオを満足気に見ていたラスタルは、そこでようやく口を開いた。

 

「お前の決意、しかと見届けた。その先にどのような結末があろうとも、友の為に戦うお前の意思は立派であったと保証しよう」

「ここまで世話になった、エリオン公。こんな俺を拾ってくれたあなたには掛け値なしに感謝している。だがあなたがマクギリスと手を組むというのなら、これからは敵同士になる。すまないが容赦は出来そうにない」

「そうだろうな。是非もあるまい」

 

 ラスタルはマクギリスと手を組み、ガエリオは形がどうであれマクギリスと敵対する形となる。故に敵対関係となるのは自明のことだった。

 

「だが、一つばかり訊きたいことがある」

「何かな?」

「いつか俺は、どうしてあなたが手を抜いているかを訊ねた。しかしあなたは答えをはぐらかし『その仮面が外れた時に』と口にしていただろう? なら、今こそその約定を果たしてもらう時だ」

「ふむ、そうだな……マクギリスを未だに友と信じられるお前になら、話しても問題はあるまい」

 

 何故、あのラスタル・エリオンが政治に”手を抜く”などという行為をしたのか。かつてヴィダールから問いかけられたその命題に、ラスタルは間違いなく私的な情感を籠めて語っていた。

 

「公人としてはマクギリスや鉄華団と敵対する形となったがな。私人としての私は、決して彼らが嫌いではないのだよ。むしろ不遇の身の上からここまで、よくやってきているとすら思っている。近年では大した苦労もしてない者が幅を利かせる中で、よく折れずに立ち上がってくれたともな」

「貴族の子息としては耳に痛い言葉だな……」

「なに、責めている訳ではない。それを言うなら私とて散々汚い大人として彼らを利用し、翻弄した者だ。今更このようなことを言う資格など無いのは百も承知だが……それでも、ギャラルホルンの誰もが彼らのように泥臭くもひたむきに生きられればと感じずにはいられなかったのさ」

 

 つい先ほど、ラスタルはマクギリスに対して肯定した。公人として必要な犠牲は容認すべきだと。だが、それでも彼は元より善側の人間であり、それ故にひたすら戦い抜いて何か一つを成し遂げようとする者たちの輝きには目を奪われてしまっていたのだ。

 あるいはマクギリスの提案に頷いたのも、結局この思想が根底にあったからなのかもしれなかった。

 

「なるほどな、よく分かったよ。俺はてっきりあなたは人の情がない機械のような人物だと思っていた。常に正しく、合理的で、理知的な判断が下せる人間だと」

「ハッ、冗談を言うのも大概にしておけ。それは人間ではなく、文字通りに機械でしかない。そして私は機械などでは断じてないのだから、裏にどのような感情があっても不思議ではあるまい? ただ、人よりそれを隠すのが上手いだけだ」

「どうやらそうらしい。すっかり騙されてしまったよ、謝罪させてほしい」

「ハハハハハッ! そうしょげるな、気にしてはおらん」

 

 生真面目なガエリオの謝罪を豪放に笑い飛ばしたラスタルは、もう一度だけ冷徹な政治家の顔になった。自然とガエリオの表情も引き締まる。

 

「ガエリオよ、もしお前がまだマクギリスと戦うというのなら、まずはクジャン家と合流せよ。直にセブンスターズ、そしてギャラルホルンは真っ二つに割れるはず。バクラザンとファルクも重い腰を上げるだろう。それからがお前にとっての真の戦いの始まりだ」

「……いいのか、俺にそのような事まで話してしまって?」

「構わんさ。むしろこれはマクギリスへの意趣返し、散々いいようにされたせめてもの仕返しだ。何より、友として奴と向き合おうとするお前を止めるのは忍びない」

 

 これからの事を考えるなら、ガエリオは殺しておいた方が絶対に正しい。けれどラスタルはそんな気にはなれなかった。むしろマクギリスとガエリオによる、壮大な喧嘩の行く末の方が遥かに気になって仕方ないのだ。

 それにどうせ、ファリド家とエリオン家が手を組んだと知れば遅かれ早かれ他の家も動き出す。なら、ここでエース級パイロットを一人見逃したところで誤差にしかならないだろう。などと自身を納得させて、そういう事にしておいた。

 

「行くといい、ガエリオ・ボードウィン。できればお前とは敵対したくなかったよ」

「それはこちらとて同じことだ。とはいえ、改めてあなたには感謝を。最後の最後まで大変世話になったな、ありがとう」

 

 こうして、ヴィダールはラスタルと袂を別つこととなる。次に会えば敵同士、だが不思議なほど爽やかな気持ちでラスタルはその背中を見送ったのだ。

 

 若き革命家マクギリス・ファリドは、新たにラスタル・エリオンという巨大な切り札を手中に収めた。その勢いはもはや止められるものではない。

 けれど、これで終わりでもないのだ。誰よりもシンプルな意地を胸に、彼へと挑む者がまだ残っている。彼の仲間に敵愾心を燃やす者が存在する。故にこそもう少しだけ、ギャラルホルンの革命を巡る戦いは続くのだ。 

 




マクギリス陣営にラスタル様が加わり、代わりにヴィダールが去る事態となりました。
まあラスタル様の言葉でだいたい先の展開が分かるでしょうが……これから先はオリジナル展開ということでよろしくお願いいたします。

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