【完結】したっぱの俺がうっかり過去に来たけれど、やっぱグズマさんとつるみまスカら!   作:rairaibou(風)

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16-随分と、簡単な試練なんでスねえ

 グズマとスカ男の二人を先導しながら、ダイチはバシャバシャと写真を取り続けていた。

 海を撮り、石畳を取り、ときには「フレキシブルな俺」とつぶやきながら自撮りしたりする。

 とにかく共通しているのは、乱雑であるということだった。とにかく彼は目についたものを何でも撮る。スカ男達からすれば到底珍しいものではないものでもなんでも撮る、かと思えば、急に何もないところを撮ったりもするのだから、もう意味がわからないし、その歩みものっそりと遅い。

「何を撮っているのでスカ?」

 遂に我慢しきれなくなったスカ男がそう問うと、ダイチは振り向きざまに彼らを写真に収めながら答える。

「アローラさ」

 カメラ越しにも伺える、満面の笑顔、スカ男は、その質問に全く意味が無いことを察した。

「カプには、いつ認められたんだ?」

 グズマらしい質問だった。

 他地方の人間、そしてこれほどまでの変人が、島巡りからストレートにカプに認められたのならば、その情報は、必ず実力者であるグズマの耳にも入っているはずだった。

 グズマは、ダイチというトレーナーを大会で目にしたことはないし、その噂の欠片すら耳にしたことはない。

 だからつまり、彼はエリートコースを歩んだわけではないということを、グズマは理解していた。

「つい最近だよ」

 ダイチは感慨深そうに「思い出す俺」と、自撮りする。

「俺は島巡りもギリギリ達成したようなトレーナーだったし、飛び抜けて強いというわけでもなかった。何より俺は他地方の人間だからね、別に気にはしていなかったのだが。つい最近だよ、ハイナ砂漠を散策している時に『みのりのいせき』に行き着いたんだ、俺は慌ててそこを後にしようとした、そこがアローラの人々にとって神聖な場所であることはよく知っていたからね。すると、ウラウラの守り神であるカプ・ブルルが突然現れて、俺にそれを差し出してくれたんだ。最初はとても信じられなくてね、しまキングにそれがかがやくいしだと言ってもらえるまで何かの冗談だと思っていたよ」

 スカ男は、グズマが少し機嫌を悪くしていることに気づいた。

 それはもちろん、この変人を相手していることも十分関係しているのだろうが、それ以外の最も大きな理由は、他地方出身のこのトレーナーがカプに認められ、自分は認められていないという現実に対するものだということを、スカ男は容易に理解することができた。なぜならば、スカ男も、そのようなことを思っていたからだ。目の前の変人に、カプが認める要素があるとは思えない。

「さあ、ついたぞ」

 ついで、とばかりにシャッターを切った。ダイチは、足を止めて二人に振り返る。

「試練の説明は、ここで行うことになっている」

 スカ男は、なるほど、と思った。

 ダイチが指差す先にあるものは、ウラウラ島の観光名所の一つ、マリエ庭園だった。

 

 

 

「この場所は、アローラ民にとっては特別な場所だ。この公園の歴史がそれを物語っている」

 太鼓橋を背景に二人と向き合ったダイチは、両手を広げながらそう説明する。

「この公園を作ったのは、アローラに移住してきたジョウトの人々だと言い伝えられている。彼らは君たちのひいお爺さんであるかもしれないし、ひいひいお爺さんであるかもしれないが、つまり、このアローラの今を作り出している君たちのルーツの中の一つに、この公園があるかもしれないのだ。彼らは自らの故郷を想いながらこの公園を作ったのだろう。そして、アローラの原住民たちは、それを受け入れた。全くの異文化を称する場所でありながら、この公園ではアローラのポケモン達が生活を営み、人々の憩いの場となっている。なんとも素晴らしい、大きなハッピーが存在する場所じゃないか。俺はこのような場所が存在するアローラに、とてつもなく尊敬を感じている」

 声がデカかった、彼が感嘆するその声が、今のアローラ民の憩いを少しだけ妨げていることに、彼は気づいてないのだろう。

 ダイチは「リスペクトを示す俺」と自撮りして、「さて」と、再び向き合う。

「これから行うダイチの試練、その内容は単純だ」

 ダイチは巨大な懐からもう一台のカメラを取り出した。スカ男はダイチが両手にカメラを構えている不自然な図を想像してしまい、勘弁してくれよと、心の中で首を振った。

「これはイッシュの最新式ポラロイドカメラだ、小さく、軽く、俺の普段使いのカメラと同じく、防水だ。しかも写真はすぐに現像できる優れもの」

 ダイチはそうまくし立ててから、それをグズマに手渡し、カメラ片手に戸惑うグズマを「様になる挑戦者」と写真に収めた。

「そのカメラで、このマリエシティのどんな風景でもいいから、ポケモンと人間が写っているハッピーな写真を取ってくれば、試練達成だ」

「それだけか?」

 グズマの驚き顔をしっかりとカメラに収めてから、ダイチは「そのとおり」と、答える。

「不満かな?」

「いや」

 明らかに不満そうだった。あまりにも抽象的な試練のように思えたのだろう。

「だけどまあ、簡単だろ」

 グズマはそう言い残して、マリエ庭園を後にした。簡単なことだ、楽しそうなポケモンと人間を見つけて、写真に取ればいい。マラサダ屋でも、新しく出来ていたレストランでも、図書館でも、楽しそうな場所ならいくらでもあった。

 

 

「随分と、簡単な試練なんでスねえ」

 スカ男は、ダイチを見上げながらそう言った。グズマと同じく、スカ男もその試練を簡単なものだと思っていた。少なくともカヒリの試練と比べれば、難易度も、リスクも段違いなように思えたのだ。

「誰もが皆そう思う」

 ダイチはスカ男の顔を撮りながらそう答え。いかにものわざとらしい笑顔を作り出すと、「意味ありげに微笑む俺」と呟きながら自撮りしたのだった。

 

 

 

 

 ダイチは、手渡された幾つかの写真をチラリと僅かにだけチェックしてから、これみよがしに大きなため息をついた。

 たまたまそれに重なったそよ風が、まるでダイチのため息でそうなってしまったかのように草むらを揺らす。

 スカ男は、それが明らかな不合格を示すものだと理解して、不安げにグズマの表情を確認する。

 更にダイチは「失望する俺」と、器用に泣き顔のまま自撮りする。

「仕方ないだろ、写真の撮り方なんてわかんねえし、写真の撮り方を競う試練なんて聞いたこともねえ」

 グズマはダイチに鋭い目線を飛ばしながらそう弁解する。スカ男も、それは仕方のないことだろうと思っていた。

「君ねえ、本当に何が駄目なのか分からないのかい?」

 ダイチは巨大な手のひらと指を器用に使って、グズマが撮ってきた写真を、二人に見せる。

 スカ男はその写真を眺めて、逆光であるとか、赤い光が混じってしまっているとか、暗い場所でフラッシュを焚いていないとか、そのようなことは気づいた。

「少し大目に見ることは出来ないのでスカ? 急にカメラを渡されたって、上手くは行かないでスカら」

「ダメだダメだ、そういうことじゃないんだよなあ」

 彼は「気付かない挑戦者達」と、シャッターを切る。

「いいかい、これは技術的な問題ではないのだ。これらの写真は、撮影者がただただ漠然とした気持ちで、まるで機械のように、被写体に対して無気力無感情であること隠すことすらせず、極めて作業的にシャッターを押したことが問題なのだ」

 ダイチはもう一度ズイと彼らに写真を見せつける。

「この写真を見て、ハッピーを感じることが出来るのか!? きっと感じないはずだ、この写真からハッピーを見いだせるものなんていやしない、ハッピーを知るものならば当然だし、ハッピーを知らない者は、そもそもハッピーが何なのか分かりやしないのだから」

 もう一度、スカ男はそれらを見た、そして、ダイチの言葉を前提にすれば、たしかにそれらの写真はある意味で不自然、無理矢理に表情を作らせたようにも見える。

「脅してなんかいない」

 グズマは、スカ男の考えに答えるようにそう漏らした。おそらく似たような考え、それらの表情が作られている様に見えることを感じていたのだろう。

「普通に声をかけて普通に写真を取った。無理やり作らせたわけじゃねえ」

「もちろんそれは疑わない」

 ダイチは写真をクシャクシャっと丸めてポケットに突っ込みながらそう答える。

「だが、問題はそこではないのだ」

 そして彼は、どこからか取り出したもう一台のポラロイドカメラで、グズマをそのまま、何も言わずに撮った。機械的な音とともに排出された写真を指で摘んでパタパタと空気に触れさせる。またもいたずらな微風が吹いて、それが作り出したかのように水面に波紋が生まれた。

「この試練に必要なことは、君自身もハッピーになることだ、それは誰でも簡単にできそうで、実は難しい。鏡の前で笑顔を作ることが難しいのと同じようにね」

 そこまで言って、彼は写真をちらりと確認してから「みたまえ」と、それを二人に見せる。そこには、何の事はない、ただのグズマが写っているだけだった。

「暗い顔だ、まるでこの世の罪すべてを一人で背負っているような、そんな顔だよ」

 ボロクソだった、だが、全く間違っているわけでもないとスカ男は思っている。

 彼は見慣れすぎているから気づかなかっただけだ、たしかに写真のグズマは、何かに疲れきって、暗く、落ち込んでいるようにも見える。

 グズマも何も言い返せなかった、自分でもそれを受け入れてしまうくらいに、その写真はくたびれていたのである。

 さらにダイチは、リュックサックのポケットから小さなアルバムを取り出した。

「これは俺の宝だ。これまでの試練達成者が撮ってきた写真全てを保管している」

 差し出されたそれを、二人は確認して。愕然とした。

 それらは、グズマが撮ってきた写真とは雲泥の差があった。ポケモンにしろ、人間にしろ、表情は明るく、心からの笑顔のように見える。

 老若男女あれば、ポケモンのサイズやタイプも様々、場所もマリエのありとあらゆる場所であり、時間すら違う。

 だがそれらは、たしかにハッピーを切り取っているように見えた。ダイチが求めているハッピーというものの概念を、何もわからなかった二人が多少理解してしまえるほどに、それらの写真はハッピーに満ち溢れていたのだ。

「一体どうやったのでスカ?」

 試練の達成方法をキャプテンに聞くなんてとんでもないことであることはもちろんわかっていた。だが、その言葉は思わず漏れてしまったのだ。

 だが、ダイチは快くそれに答える。

「それは試練達成者達が、写真に写っている人とポケモンとハッピーを共有しているからだ」

 グズマは、打ちひしがれていた。何も言い返せなかった。自分の取ってきた写真と、それらの写真は、明らかに違う。

 ダイチは、グズマの肩を叩いて言う。

「さあ! ネクストチャレンジだ! 新しくフィルムを入れ替えて、もう一度マリエに飛び出すんだ!」

 スカ男は驚いて「良いのでスカ!?」と問う。

「当然! ダイチの試練は何度でも挑戦可能! 達成率は現段階で百パーセントだ!」

 新たにフィルムを入れ替えられたポラロイドカメラを手にグズマは小さく礼を言って、再びマリエシティに飛び出していった。




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