【完結】したっぱの俺がうっかり過去に来たけれど、やっぱグズマさんとつるみまスカら!   作:rairaibou(風)

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26-本質的には、恵まれていなかったのじゃ

 グズマとその相棒たちは、ポケモンセンターで一晩休んで体力を回復させた後、再びポニ島の更に奥に足を進めていた。

 ポケモンセンターに通うには、ベンケイの家の前を通らなければならないが、彼はスカ男達と顔を合わせることを嫌い、彼等の寝静まっている頃を見計らってそこを通った。

 自分の力だけで、それらを達成したかった、スカ男と顔を合わせてしまえば、必ず心の何処かで甘えてしまうのではないかと思っていたのだ。

 

 ポニの広野、文字通りだだっ広いスペースの広がるそこは、本来ならば幾多もの野生ポケモン達の住処として存在していただろう。

 だが、グズマはポニの広野から野生のポケモンが生み出す生活音を聞き取れなかった。

 妙な話だ、広大な土地の中に高い木も低い木も存在し、岩場があり、草むらもある。それなのに、ポケモンの気配が全くない。普通ならば、野生のポケモン達がいくらでもいていいようなシチュエーションであるのに。

 しかし、グズマがポニの広野の中央に目を向けた時、彼は、その理由を理解した。

 ポニの広野の真ん中に、そのトレーナーはいた。ボールを構えながら、じっと背の高い木を見つめている。おそらく、風に揺られて落ちた葉を攻撃しようとしているのだろう。馬鹿馬鹿しいことだが、誰でも一度は考えることだ、グズマにだって記憶がある。だが、そんなことわざわざ大真面目にやるようなことではない、二回か三回ほど揺れ落ちる葉に翻弄され、自分は何をやっているんだと笑いながらもっとマシな特訓法を考える、大抵はそんなもの。

 だが、彼女が至極真面目にそれに取り組んでいることは、遠目からでも理解することが出来た。もはや彼女の特訓は、そのような馬鹿馬鹿しい領域に到達しているのだろう。

 野生のポケモン達が、この空間に足を踏み入れることなんて出来るわけなかった、ポニの広野は、彼女の縄張りなのだ。彼女のみがここで好き勝手に振る舞う権利を持ち、それに異を持つポケモンも、トレーナーも存在しない。彼女は絶対的な強者として、ここに君臨しているのだろう。

 グズマは、彼女のトレーナーとしての格をおおよそ理解しながらも、そこに向かって歩みを進める。彼女と戦わなければならないから、そこに来たのだから。

 近づくにつれ、グズマは彼女の体格に驚いた。グズマは自身が年齢にしては大きな体格を持っていることを理解していたが、その彼の目線が、やや見上げる形になっていたのだ。グズマは彼女の体格から、背の高さが大きなアドバンテージとなるスポーツのアスリートを想像した。長身で長い手足を持っているにも関わらず、それらの比率が不自然に感じない程度の筋肉がついていたのだ。

 グズマが彼女に声をかけるより先に、彼女は木からグズマに目線を変える。

「樹林に、トレーナーがいたでしょ?」

 若い女性の割には、低い声だった。

 グズマは、彼女の整った顔立ちに少し動揺しながら「いや」と、答える。

「変ね」と、彼女は続ける。

「メガネでヒョロっとした奴が居たはずよ、あいつ何時もあそこにいるから」

 おそらく、それはゲニスタの事を言っているのだろうということに、グズマは気がついた。

「それって、ゲニスタさんの事、ですか?」

 彼女の強い視線に強く返すことが出来なくて、グズマは言葉尻を弱めた。

「ええ」と、答える。

「吹っかけられたと思うんだけど」

「昨日、戦いました」

 へえ、と、彼女は驚きの声を上げる。ゲニスタと戦ってなお、グズマがそこにいることがどういうことなのか、彼女は理解していた。

「なるほどね」と、髪をかきあげながら笑う。

「ようやくあいつも、弱いトレーナーになったということか」

 彼女は、ゲニスタの自虐癖を茶化した。

「名前は?」

「グズマ、です」

「私はヤマホ、ここにはどんな理由で?」

「ベンケイさんに、あなた達と戦うように言われて」

 なるほど、とヤマホは頷く。

「経緯は大体理解できるわ、君みたいな若い子がわざわざこんなところに来る理由なんて、一つくらいしか無い」

 いいわ、と言って続ける。

「戦いましょう。それでスッキリする」

 ヤマホは、グズマから背を向けることなく距離を取って、すぐさま腰のボールを投げる。

 砂煙とともに現れたポケモン、とてつもなく長い首を持つドラゴンポケモン、ナッシーは、バネ細工のように頭をグズマに向けて振り下ろす。彼女が後ずさりしながら測った距離は、ナッシーの体格にピッタリの距離だった。

 グズマは落ち着いてボールを取り出す、今更こんなことでは驚かない。しかも草タイプを含むポケモンであるナッシーは、得意な相手だった。

 グズマの手元から現れたポケモン、グソクムシャは、飛び出した勢いそのままにナッシーに『であいがしら』の攻撃を仕掛ける。

 だが、その攻撃は、ナッシーに直撃する直前で弾かれた。見れば、ナッシーは念動力でそこに壁を作り出し、身を『まもる』

 すぐさまグズマは、冷静であるように努めていたはずである自分が、グソクムシャを誘い出されていたことに気づく。

 長い首を揺らしてハネ戻るナッシーを、さも当然と見もしないヤマホは、瞬間的な敗北に少し動揺していたグズマに言った。

「私を倒すことができれば、強さに関しては言うことなしね、キャプテンでも、しまキングでも、好きなものになれるわ、強さの面ではね」

 一連のグズマの行動で、ヤマホは彼の実力を見切っていた。突然の攻撃に対しても反応することが出来、なおかつその瞬間的な判断の中で、手持ちのカードの中からある程度の最適解を選ぶことも出来る高いレベルの実力の持ち主だった。

 その瞬間的には、どちらも敗者ではない、グソクムシャを引き出すことが出来たヤマホが、少しだけリードしていると言ったところだろうか。

 グズマは後ずさりをしながら、グソクムシャをボールに戻す。今、自身がナッシーの間合いにいることを考え、そこから逃げようとする。

 ナッシーはその間合いを再び埋めるために、重心の高い体を揺らしながら何歩か歩を進める。

 グズマは、それを見計らってから、ボールをいつもよりやや遠くに、ナッシーの足元をめがけて投げた。

 現れたアリアドスは、糸を吐き出してナッシーの足元に攻撃する。見上げるほどに大きなナッシーの体格は、足元付近の攻撃にウィークポイントがあるはずだった。間合いをまもるためのナッシーの前進を、グズマはうまく利用した。

 しかし、ヤマホはそれに特に驚くことなくナッシーに指示を出す、ナッシーはその場で体をくるりと反転させて、アリアドスの面前に、尻尾を差し出した。

「『さいみんじゅつ』」

 その尻尾の先には、アローラに生息するナッシー特有の、四つ目の顔が存在する、唇が特徴的なその顔は、アリアドスを眠らせるために『さいみんじゅつ』をかけた。

 だが、アリアドスは糸をうまく操ってそれを『まもる』、さらにアリアドスはグズマの指示を確認してそこから後ろに飛び退いた。

 その瞬間、ナッシーの足元で幾つもの爆発が起きた。はるか上空に存在するナッシーの顔達が、可愛い兄弟である末のの顔を守るために、『タマゴばくだん』を投下したのだ。

 グズマもまた、ヤマホの実力を確認した。ナッシーというクセのある体格を持つポケモンを巧みに操る事のできる想像力を持ち、そのウィークポイントへの対応も、スキを突いたと浮かれる相手を強く迎撃することの出来る判断力を持っていた。

「生意気ね」と、ヤマホは笑いの表情を作りながら、茶化すように言う。

「その余裕を、後悔することになるわよ、皆、そうだったから」

 彼女の言っていたことは、あながち間違いではないかもしれない、と、再びナッシーの間合いから流れるようにジリジリと後ずさりしながらグズマは思っていた。

 これまで戦ってきたどんなトレーナーよりも、強さを感じていたのだ。キャプテンよりも、しまキングよりも、もしかすれば彼女は、強い存在なのかもしれなかった。

 

 

 

 

 自分よりも、いかにも学者然としていたゲニスタのほうが力強く畑仕事をしているものだから、スカ男は少しショックを受けていた、そりゃ自分は体力に自信のある方ではないが、タスカル団の活動の中で、多少体力がついてきたなと感じていたからだ。

 しかし、よく考えてみれば、ゲニスタはずっとポニの奥地で修行をしていたわけであるから、ある程度体が鍛えられているのは当然とも言えるのだ。

 収穫した野菜を、リアカーに乗せて移動させているゲニスタの背中を目で追いながら、スカ男は、彼にグズマのことを聞いていいものかどうか悩んでいた。

 勿論それは気になる、何がなんでも聞きたいことではある。しかし、ゲニスタからすればそれは自らに勝った相手のことを語れと言っているものだ、自身がその立場だったとして、その質問は辛い。

 そのようなスカ男の悩みを察していたのか、昼食時に、ベンケイはゲニスタに問うた。

「ゲニスタよ、あの子はどうじゃった?」

 スカ男は、それに驚きながらも、その答えを求める強い目線を、ゲニスタに送る。

 ゲニスタは、特に何かに感情的になることなくそれに答えた。

「強いですよ、まだ若いのにしっかりしてますし、度胸もある」

 スラスラと言うゲニスタに、スカ男は、まるで自分が褒められているような気がするほどに嬉しかった。

 しかし、ゲニスタは続ける。

「ですが、強さだけではカプには認められません。ヤマホの存在が、それを証明している」

 頷くベンケイに、あの、と、スカ男が手を挙げる。

「ヤマホって人は、もしかして」

「そう、おそらくグズマが、今戦っているであろう相手じゃ」

「その人は、どんなトレーナーなのでスカ?」

 ベンケイは一つ咳払いをしてからそれに答える。

「彼女は、才能と環境に恵まれとった」

 スカ男はそこで初めて、そのヤマホというトレーナーが女性であることを知り少し驚いたが、じっと黙ってその続きを求める。

「元キャプテン同士じゃった夫婦のもとに生まれ、自身の才能も申し分なく、更には優れた動体視力と体力、格の高いポケモンを従えることの出来る風格も持ち合わせとった」

 典型的なエリートだな、とスカ男は思った。その経歴を聞いただけで、すんなりキャプテンになっている図が想像できそうなものだ。

「彼女は物心つくより先に、両親から徹底的な特訓を受けた、じゃが、彼女はそれで潰れることなく、両親やコーチの提示する課題を難なくこなし、むしろ彼等が扱いに困るほどの実力を身に着けた。彼女が最初に手なづけたポケモンは、プライドの高いドラゴンポケモンだったのじゃ」

 未だにズバットとすら満足に付き合えない自分とは大違いだ。

「彼女は島巡りも難なくこなし、しまキング達と連続で戦う『大大試練』を達成した、数少ないトレーナーじゃ。強いトレーナーじゃった、勿論ワシもしまキングの一人として、彼女に負けておる」

「ええ!」と、スカ男はそれに驚いて椅子から跳ね上がった。

 大大試練とは、島巡りを終えたトレーナーがゼンリョクのしまキング達と戦うもので、この試練に限り、勝利することが絶対とはされていない、しまキング達の全力を受け止めることの出来るトレーナーなど、世界を探してもそうはいないからだ。だからこそ、大大試練を達成したトレーナーには、それこそキャプテンやしまキング以上の名誉と栄光が与えられるのだ。

「どうしてそれでカプに認められないのでスカ!?」

 当然の疑問だった。生まれも、実力も、何もかもが彼女の前に道を作っているようにしか見えない。

「お前さんの思う通り、彼女を知る誰もがそう思っとるし、今でも思っとる。じゃが彼女はカプに認められず、ひっそりと、周りから気づかれぬようにこの島に来たのじゃ」

「彼女は有名人だった」と、ゲニスタが言う。

「だから僕も、彼女がこの島に来たと聞いたときには随分と驚いた、僕も皆も、彼女はまるで当然のようにこのアローラを代表するトレーナーになると思っていたからね」

「その通りじゃよ、実力的にも、格的にも申し分ない。そもそも『大大試練』を達成しておきながら、カプに認められなかったトレーナーなど、過去にも数人しか存在せんのじゃ」

 唖然としながら、スカ男はグズマの身を案じた。

「周りの人間は、彼女に対して落胆するわけでは無かった。むしろ、彼女がカプに認められていないと言う事実が、何かの間違いだと思われていたのじゃ、カプが見せる気まぐれさの一つとしてのう」

 スカ男も、そのほうが納得できる。彼女がカプに認められない理由なんて、何一つ無いような気がしたのだ。

「ベンケイさんは、ある程度分かっているのでスカ?」

 スカ男の問いに、ベンケイは鼻から深く息を吐いて答える。

「ある程度、目星がついていないわけではないがのう」

「教えてください」と、スカ男よりも先にゲニスタが反応した。その声には、少しばかり怒りが篭っていた。

「僕はそれが全く想像できません、彼女とは何度も手を合わせたし、彼女が戦うところを第三者として観察したことも何度もある、それでも全くわからない。もしそれに理由があるのだとすれば、彼女があまりにも可哀そうでしょう。むしろ、どうしてそれを指摘してあげないんです? それは、しまキングの役割ではないのですか?」

「違う、そうではない。本人がそれを認めなければ意味が無いのだ。お前さんがグズマに負けて自身の問題を悟ったのと同じように、彼女も自分でそれに気づかなけれならん」

 ゲニスタは、それで黙った。たしかに果たして、過去の自分がベンケイに問題点を指摘されたとして、それを認めただろうか、否、あり得ない、なんだかんだと理由をつけて、それをはねのけていたはずだ。

「すこし、頭を冷やしてきます」と、ゲニスタが席を立つ。だが、「まあ待て」と、ベンケイがそれを制した。

「墓まで持っていくと誓えるのならば、その目星を言ってもいい」

 ゲニスタはそれに驚いて、しばらく考えてから、席に着く、スカ男もそれに合わせるように席につき、ベンケイの言葉を待った。

 ベンケイは一つ深呼吸をしてから言う。

「つまり、彼女は全てに恵まれているように見えながらも、本質的には、恵まれていなかったのじゃ」

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