【完結】したっぱの俺がうっかり過去に来たけれど、やっぱグズマさんとつるみまスカら!   作:rairaibou(風)

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37-勇者の一歩

 喰われた、間違い無く喰われた。

 だが、やはりスカ男に後悔は無かった。

 そりゃ多少の心残りはある。キャプテンになったグズマを見ることはできなかったし、おそらく島巡りを挫折するであろう自分自身を救うことはできなかった。メガやすで出会った店員のその後や、あの島のしまキング事情がどうなっていくのかは気になるし、何より、不意に現れたあの怪物を、彼等が止めることが出来るだろうか。

 しかし、今更そんなことを考えても仕方がないのだ、そもそも、自分の存在そのものがイレギュラー、向こうの世界の問題は、向こうの世界の住民たちが解決しなければならないし、スカ男は、彼等ならば、それが出来るであろうと信じていた。グズマならばきっと、あの化け物も軽く退治してくれるに違いない。

 だから安心しよう、と、自らを落ち着かせた時、彼はようやく、化け物に喰われたその時には失われた意識を、このような思考をすることが出来るほどに取り戻していることに気がついた。一度目に喰われたときと同じ、意識は戻っているし、噛みちぎられてもいない。あの時と同じく、どこかに寝っ転がっている。

 その時、彼はまず、再び意識を取り戻すことが出来たそのことに驚き、自身の幸運を嬉しく思った。

 一先ず目を閉じたまま、彼は体全身をゆっくりと動かして、自身が寝転がっているここがどんな場所であるのかを探ろうとする。

 すると、体中に激痛が走って、スカ男は小さく唸った。そう言えば、今回の自分は、食われる前に痛めつけられたのだということを思い出した。

「おい、スカ男!」

 唸り声の後に、懐かしい声が聞こえてきた。それは、忘れもしない、苦楽を共にしてきた相棒の声だった。

 それが聞こえた瞬間に、スカ男は自らがどこにいるのかなどというつまらない恐怖を押しのけて、目を開いて体を起こそうとした。直ぐ側に相棒がいるのだから、そこが恐ろしい訳など無いのだ。

 目を開いてまず見えたのは、天井だった。元は真っ白だったのだろうが、年月と日光によって少しくすんだ天井だった。

 更に声のした方に目を向ければ、そこには、ハラ、ハウ、相棒の三人が腰掛けている。

 病院だった。そこは、病院だった。

「スカ男!」

「おお、気がついたか!」

「大丈夫?」

 三人それぞれが、それぞれバラバラの言葉を投げかけてくる。

 その感激にスカ男は声を上げようとしたが、急激に体を起こそうとするとやはり全身に痛みが走る。

「おお、無理はしないことですな」

 ハラにそう言われ、スカ男は一旦体をベッドに預けた。多少の情けなさは感じたが、痛いものは痛いのだから仕方がない。

 今度はゆっくりと、どうすれば体が痛まないかを確かめながら、上体を起こそうとする、途中ハウに指摘されて、ベッドのリクライニングを利用すると、だいぶラクにそれをすることが出来た。

 相棒が呼んできた看護婦さんに幾つかの質問をされた後に体温と血圧を測られ、再び三人と共になる。

 間違いなく、この世界はあの世界ではない、ハラの腹が出ているし、ハウが居るし、相棒が青年だ。

 スカ男は、手っ取り早く状況を把握するために、ウソを付くことにした。

「ちょっと記憶が曖昧なんでスが、一体何がどうなったんでスカ?」

 三人は、それに特に違和感を覚えること無く、むしろスカ男の辛さに共感するような素振りを見せる。

 そして、ハラがそれに答えた。

「空の裂け目、ウルトラホールから、化け物、ウルトラビーストと呼ばれる化け物が現れて、私達を襲ったのですな」

 ああ、と、スカ男は相槌を打った。

 そして確信する、『こっちの世界』は、『あっちの世界』ではなく、『あっちの世界』に居た時に『あっちの世界』と呼んでいた、つまり元の世界なのだろうと。自分は落ちこぼれで、グズマも落ちこぼれな、つまらない方の世界。

 二、三度頭を振って、いかにも徐々に記憶を取り戻しつつある風に装いながら、スカ男は更に質問を続ける。

「俺、喰われたはずじゃ無かったでスカ?」

 それにも、ハラが答える。

「そのとおり、私もそれを見たはずですが、その後に、海岸に倒れているあなたが見つかったのですな」

 うーん、とスカ男は首をひねる。

 腑に落ちてない風のスカ男に、ハラは笑って続けた。

「たしかによく分からないことではありますが、今は命があることを喜ぶべきですな、あなたが無事で、私は嬉しいですな。あなたがあの時、勇気を持ってウルトラビーストの気を引いてくれなかったら、私とカプがやられて、もっと大きな被害が出たかもしれませんからな」

 それに、ハウと相棒が頷く。

 勇気とはおそらく、ズバットを繰り出して無様にやられたアレのことだろう。

 スカ男は、そこでようやく手持ちであるズバットのことを思い出した。

「ズバットは?」

「今はポケモンセンターだよ」と、ハウが答える。

 ああ、良かったと、スカ男は思った。弱いし言うことも聞かない小憎たらしいやつだが、最後の最後、あんな姿を見せられては、嫌いになれないじゃないか。

 安堵しているスカ男に安心したのか、相棒がスカ男を褒め称える。

「お前はやるやつだと思っていたよ、流石自警団のリーダーだな」

 スカ男はその言葉に少し違和感を覚えた、相棒が自分達のことを『自警団』と表現するのを聞いたことがなかった、スカ男と同じく、唯一の居場所であったスカル団を愛していたから、たとえ自分達二人しか存在しなくても『タスカル団』と表現していたからである。

 だがまあ、取り立てて不自然に思うことでもないだろう、と思って、彼はそれを流した。それよりも、今は気になることがある。

「それで、その化け物は、どうなったのでスカ?」

 ああ、と、ハラがそれに答えようとしたその時、カツンカツンと硬い靴底が床を叩く音が、スカ男のベッドに近づいてきた。

 スカ男含む四人は、その方向を見る。

 カーテンの向こう側から現れた人物に、スカ男は度肝を抜かれた。

 なんとそれは、グズマだった。

 スカ男は混乱する。何故ならば『こっちの世界』では、グズマは単身武者修行のたびに出たはずで、スカ男ですらその居場所を知らなかったからである。

 さらにグズマの服装もスカ男をより混乱させる。

 スカ男の知っているグズマは、格式張ったものとは真反対の、ダボ付いた上下に、綺羅びやかなチェーンやサングラスなどの主張の激しいアクセサリーを身につけている、いわゆる不良系のファッションを、カッコよく着こなしているはずだった。

 だが、そのグズマはどうだ、上下ともに黒のスーツを着こなし、ネクタイも黒、音を立てていたのは革靴だし、トレードマークのサングラスも無い。真逆だ、格式張りまくっている。

 更に驚くことに、グズマと険悪な関係にあったはずのハラが、そのグズマを満面の笑みで迎えたのである。

「グズマ、どうだった?」

 おそらくグズマであろうそのスーツの男は、懐からスカ男が見たことのないボールを取り出して言う。

「ああ、ウルトラビーストの中でもとびきり強力な奴だった、あの程度の被害で済んだのは、不幸中の幸いだったな」

 スカ男は、グズマの手首に気がついた。

 そこには、カプに選ばれたものしか身につけることのが出来ないはずの、輝くリングが装着されていたのである。

 違う、と、スカ男は先程までの自らの説を全否定する。

 この世界は、『あっちの世界』で『あっちの世界』と呼んでいた世界、つまり、元の世界ではない。

 自分が元いた世界のグズマとは、何もかもが違う。このグズマを、スカ男は知らない。

 キョトンとしているスカ男に、ハウが言った。

「グズマさんがウルトラビーストをやっつけてくれたんだよ~」

 それにスカ男が反応するより先に、グズマがそれを訂正する。

「やっつけたんじゃねえ、保護したんだ。それが俺達国際警察の役割だからな」

 国際警察、とスカ男はわかりやすくマヌケな声で呟く。

 ありえない、何故かしまキングをやってる交番のしょぼくれたおっさんにすら噛み付いてたグズマさんが、なんかそんなすごそうな警察組織に入れるはずがない。

 ハラはスカ男をさして言う。

「少しばかり、記憶が混乱しているのですな」

 グズマはそれに特に驚きもせず「ああ、わかってるよ」と答えた。

 そしてグズマはさらに続ける。

「少し、こいつと二人にさせてくれねえか、色々聞きたいことがあるんだ」

 

 

 二人きりになった病室で、スカ男はグズマから、空が割れ、ウルトラビーストが現れた状況について、事細かく質問を受けていた。

 何と言ってもだいぶ前の記憶だから、スカ男はなんとか頭からそれを絞り出して答える。

 だが、そんなことよりも気になるのは、この世界のグズマについてだ

 三人が病室を後にする時、ハラは「また弟子達に稽古をつけてやってほしいですな」と言い、ハウも「僕もグズマさんと対戦したい」と言った。

 こっちの世界のグズマは、相当な信頼を置かれているようだ。

 ひとしきりの質問を終えた後、グズマはパイプ椅子に体重を預けるように背伸びをして、ネクタイを緩めながら、笑って言った。

「まだ、記憶が曖昧なのか」

 スカ男はなんとか取り繕うとしながら答える。

「ええ、まあ、いろんなことがあったでスカら」

 そうか、とグズマは答えて続ける。

「いや、俺と会ってるのに、お前さんあんまりはしゃがねえなと思ってさ」

 スカ男はそれに一旦押し黙り、「だいぶ記憶が怪しいでスカら」と誤魔化す。

 そして、自身の記憶の曖昧さを強調しながら、何とかこっちの世界の情報を引き出そうとして問う。

「グズマさんは、どうして国際警察になったのでスカ?」

 一先ず、それを知りたかった。

 グズマがハラと仲直りしていることも、リングを持っていることも、一先ずはどうでもいい。

 あれだけキャプテンに、しまキングになることに固執していたグズマが、一体どうしてそれ以外の道に進んだのか、その原因が知りたかったのだ。

 グズマは、その質問に、一つ息を吐いて、腰を曲げて答える。

「昔のことだけどよ、大切な人を、ウルトラビーストに喰われたんだ。まあ、その頃は、ウルトラビーストって名前すら知らなかったけどな」

 スカ男は、その瞬間に、何か胸騒ぎのようなものを感じた。

「その人は、不思議な人だった。あの頃誰もしらないような戦術を知っていたし、駄目になりそうだった俺を、体を張って止めてくれた。あの人が居なかったら、多分俺は、そのまま駄目になっていただろうと思う」

 スカ男が何も言わないのを確認してから続ける。

「だからその人がウルトラビーストに喰われた時、俺は、自分はなんて無力なんだろうって思った、だから、後から来てその化け物を退治した国際警察の人間に、国際警察に入れてくれるように頼み込んだ。そこで立ち止まることを、あの人は望んでいないと思った。あの人は、頑張れって言ってたから」

 スカ男は、これは奇跡だと感じ始めていた。それは、あまりにも自分に、自分だけに都合の良すぎる筋書きだった。

「この話には、続きがあるんだ」と、グズマが言った。

 聞くか、との問いに、スカ男は頷く。

「国際警察で、ウルトラホール、ウルトラビーストについて勉強して、ウルトラホール研究の第一人者であるモーン博士に面会した時、俺の中で、ある仮説が生まれた」

 一つ体を揺さぶってから続ける。

「あの人は『未来から来た誰か』なんじゃないかってな」

 何でかと言うと、と続ける。

「俺を慕ってくれる歳下の奴に、メチャクチャあの人に似てるやつがいたんだ。だけどよ、あの人は俺より年上だったし、ありえねえ」

 それはきっと、あっちの世界で幼かった自分だ、とスカ男は思った。

「だから、今日、ウルトラビーストに喰われたはずのそいつが、海岸で見つかったと聞いて、まさかと思った」

 グズマは、懐から手帳を取り出しながら「それが今、確信になった」と言って。その中から取り出した写真を、スカ男に見せる。

 その中には、幼き日のグズマと、その友人が、素っ頓狂な顔で並んでいる。

「これはよ、写真好きのキャプテンから譲ってもらったんだ。あれ以来、事あるごとに写真が送られてきて大変なんだぜ。あいつとよく似てるが、俺には分かる、これは、あんただ」

 懐かしさに、スカ男にはこみ上げるものがあった。

 そうか、と、スカ男は思う。

 未来が、変わったんだ。

 正しかったんだ。

 自分のやったことは、正しかった。

 グズマさんは、立派になった。

 なあ、と、言って、グズマが続ける。

「おかえり、おっさん」

 スカ男は、こみ上げるものをもう我慢できなかった。彼は、声を抑えようと頑張りながら、ボロボロと布団を濡らす。

 それはきっと、グズマも同じだったのだろう。彼は、スカ男の背中に腕を回し抱きしめて、スカ男の涙が、自らのジャケットに染み込むようにしながら、同じく彼も、スカ男の病衣を、涙で濡らし始めていた。

「グズマさん」と、スカ男が言った。そのすべての文字に濁点が付きそうな、震えた声だった。

「頑張ったんでスねえ」

 グズマの背中に回した腕に力を込めれば、体の内側が痛む、だが、もうそんなことはどうでも良かった。

 グズマはそれに、ああ、と相槌を打って答える。

「あんたもな、おっさん」

 彼等は、声を上げて泣いた。声を震わせて、体を震わせ、心を震わせた。

 

 この世界における一人の凡人であったスカ男は、自らの意志によって、未来を変えた。

 それが果たして許されることなのかどうか、それは分からない。

 だがそれは、きっと有り得てはならないことではないのだろう、罪ではないし、カプ神は彼等を罰しない。

 何故ならば彼は、彼に出来る限りの、たとえそれが小さくあろうと、彼が絞り出せるだけの勇気を振り絞って、一歩を踏み出したのだから。その一歩が、過去を、未来を変えることに、何の不思議があろうか。勇者の一歩と、凡人の一歩に、何の差があろうか。否、凡人ではない、一歩を踏み出す人間全ては、一人の勇者なのだ。

 アローラは笑っているだろう、否、アローラは笑っているのだ。

 風が吹いていた、アローラに変化をもたらす新しい風が気持ちよく吹いている。

 どこか遠くで、神が啼く声がした。




以上で完結となります。
ここまで見ていただき本当にありがとうございました。
後日、活動報告にあとがきを更新しようと思います。
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