ブラック・ファック   作:ケツマン=コレット

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青空 1

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「ここか」

 林の中、舗装のされていない道なき道を2時間ほど進んだだろうか。

 I国の名前も定まっていないような場所にある小高い丘。

 ドラゴン田中教授はここに眠っている。いや、漂っているというのが正しいだろうか。

 I国にある丘に散骨してほしい。

 それが教授の遺言だった。

 なぜI国なのか、どうしてここなのか。理由はよくわからなかった。ただこの場に立って見れた―。

「なるほど、ここはいい」

 心地よい風が頬をなで、田所のうんこ臭を乗せて流れていった。

 I国は発展途上国である。つまり、まだまだ未開の地が多い。

 丘から見える木々の生えた赤土の大地と、その自然の中で慎ましやかに暮らす小さな村が点在していた。

 I国はその昔、第19次世界大戦が終わった後、敗戦国となりレスリング帝国に植民地支配されていた過去がある。

 敗戦に他国からの支配。

 ただ平和に暮らしていた人間たちからしたら、突然に降り掛かった理不尽以外の何者でもない。

 言葉では表せない、つらい日々があったのだろう。

 しかし、世界情勢の変化とともに植民地支配がおわり、その後、なんとか立ち上り、努力を惜しまずに生きた景色がここには広がっている。

 ここを最後の地に選んだ理由が少しわかった気がした。

 教授は1年ほど前に亡くなった。

 ポジが悪化した結果、内臓がやられてしまったようだ。

 くだらないなと思うと共に、あの人らしいと少し笑ってしまう。

 そう何度も会った関係ではなかった。ただ、田所とはとても馬が合った。

 目を閉じると、酒を飲みながら医療について、医者についてあれやこれやと話しながら当時は合法だったドラックを鼻で吸い込み、キメていたことを昨日のように思い出す。

「また来ます」

 心のなかで追悼を終わらせると共に、そう言って田所をはその場をあとにした。

 

 

 帰りの道。当然、行きと同じく2時間かかるので、小腹が減ってきた。

 まさかここまで時間がかかるとは思ってもなかった。小腹を満たすものは手元にない。

 空腹を示すように腹が少し鳴ると同時、道路に隣接するように村が見えてきた。

 近づいていくと、それは村と言うより集落に近いものを感じた。

 住民は100人…いや50人いれば多いいほうだろうか。

 サビつき今にも崩れ落ちそうなバスの停留看板を通り過ぎ、適当な場所に車を止めると、明らかに浮浪者の歯がない男に少しの金を握らせて車番を頼んだ。

 頼りはないが、いないよりはマシだ。

「何だと!?このりんごが114514 ポジ!」

 一番近場のボロボロの果物屋で田所は思わず声を荒らげた。

「ああ、そうさ。そちら114514 ポジだよ」

「ふざけるなよ貴様。何も知らない日本人観光客だと思うな。こんな今にも腐り落ちそうなりんごが、114514 ポジなわけ無いだろ」

「文句があるならよそを当たりな。まあ、この村に果物屋はうちしかないがね」

 このヤロウ。明らかに足元を見やがって。

 眉間がピクピクと痙攣し、握り込また拳が今にも店主に向かいそうなその時「それよりあんた」と店主は足元を指さした。

「そこにあったカバン。大丈夫かい」

「え?」

 とっさに下に足元を向けると、簡易的な手術道具一式を入れたアタッシュケースがなくなっていた。

「あ!な、おい!」

 慌てふためき、足元や周りを見渡す。「どこに行った!誰に取られた!あれがないと―クソ!」

 その様子を、店主は小馬鹿にするように笑っていった。

「やられたねぇ。ここでは有名な物取りがいてね。みーんないっぺんは被害に遭ってるよ」

「何を笑っているんだ貴様は。見てたんならさっさと言わないか!」

「いやぁ、見てたわけじゃないさ。あっというまでね、気づかなかったよ。それより、りんご114514ポジだよ」

 その言葉に、田所はカッと店主を睨みつけた。

「貴様、いま私がそんな状況では―」

「情報料、込で」

 意味深な店主のセリフと目に、田所は言葉を止めると、同じく意味深な視線を返した。

「810ポジだ。それ以上はまけられない」

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