DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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主人公が登場するのが物語中盤(バラン編)以降という凶悪仕様です。
まずは副主人公視点からお楽しみください。


半魔の僧侶
1・半魔の僧侶は堪能する


「の、呪いの解除をお願いします…」

「っしゃあ──っ!わたしのターン!!」

「…は?」

「コホン…失礼いたしました。

 では、この教会に210ゴールドのご寄付を…」

 ふふふ、順番的には今はシスター・メリーの番だけど、彼女はシャナクが使えないので、このお客さんは次番のわたしのものだ。

 そして解毒に比べると解呪は実入りがいい。

 今日はツイてる。

 ここのアルバイトは今日までなうえ、あと10分ほどで定時だから、もう順番は回ってこないと諦めていたので、ラッキーだった。

 

「シスター・グエン、お疲れ様でした。

 では今日の分の108ゴールド…」

「2件目の毒の治療が指名だったので、110ゴールドです」

「…そうでした」

 今日の集計係のシスター・アンナが、渋々といった(てい)で、わたしの稼ぎが入った袋に2ゴールド足してくれる。

 教会というのは収入がそもそも少ないから、2ゴールドでもできれば出したくないのはわかる。

 しかし、わたしの取り分が48パーセント(小数点以下切り上げ)なのは契約だし、指名料の2ゴールドは100パーセント貰うのも契約だ。

 そこはしっかり守ってもらわねば困る。

 だいたいその指名料は、ここに滞在している間に、教会付近とついでに御近所の庭先の掃除や草取りなどを通じて、地域住民とのコミュニケーションを積極的に図ったわたしの努力の賜物だから、その点でも絶対に譲れない。

 

「それと、配達するお手紙を、今お預かりいたします」

 受け取った報酬を、腰にくくりつけたポーチにしまいながら、わたしはもう一度手を出す。

 

「あら?

 この街を発つのは明日だと伺っておりますけど?

 明日の朝、お食事の後にお渡しするつもりでおりましたのに」

 冗談じゃない、とわたしはあくまで心の中でつっこむ。

 滞在最後の晩と朝まで、教会の質素もいいところなご飯と、清潔だけど固くて狭いベッドで我慢する気はない。

 路銀のない時はありがたくいただきますけれどね。

 

「神父様にはお伝えしてますが、今夜はこの街の宿に泊まる事になっておりますので」

 そうわたしが言うと、少しめんどくさそうに、シスター・アンナは奥に引っ込んだ。

 いや、教会のシスターがその態度ってどうなんですか。

 そうは思ったが口にも顔にも出さず、わたしは彼女が戻るのを待った。

 ポーカーフェイスも仕事のうちだ。

 

「では、こちらの手紙を、パルナ村の修道院に、よろしくお願いいたします。

 それとこちらは道中の安全の為に。

 神はいつでも見守っています」

 やがて奥の部屋から戻ってきたシスター・アンナは、そう言って一通の手紙とともに、聖水の瓶が5本ほど入った袋を手渡してくれた。

 

「ありがとうございます」

 それも受け取りながらわたしはリュックを背負い、一礼して教会を出る。

 

「神の御加護を。シスター・グエン」

 型通りの挨拶を背中に受けながら、わたしは明日には発つ予定の街の、中心に向かって歩き出した。

 

 ☆☆☆

 

「ごめんください!」

 この街に来た日に、教会より先に寄った服屋に、ほぼ閉店間際の時間に飛び込む。

 服屋のご主人がわたしを見て、にっこりと微笑んだ。

 

「やっぱり来たね。あの帽子だろう?

 どうしても欲しそうだったから、取り置きしてあるよ」

「本当ですか、嬉しい!

 …でも、買いに来れない可能性もあったのに」

 旅の楽しみはその街の食べ物とファッションだ。

 そして繁華街の中心にある、大きくはないが品揃えは良さそうなこの店で一目惚れをした帽子が、その時のわたしの手持ちでは手が出なくて…正確には、ギリギリで所持金がそれに近いくらい残っており、前の町で買った装備品をひとつ売れば、買えない事はなかったのだが、そこまでしてしまうと、この街の教会に前の町から預かった手紙を届けるまで、せっかく来た豊かな都でなんにも食べられなくなってしまい、それは避けたかった。

 それでも、下手に手持ちがあった分諦めきれず小一時間そこで悩んでいたわたしを、ご主人は覚えていてくれたらしい。

 まあ、旅荷物を背負った尼僧が、帽子ひとつじっと見つめて、長いこと考え込んでたんだから、そりゃ目立つか。

 

「今日来なければ、明日以降また店に並べれば済む話さ。

 でもシスター、本当にこれでいいのかい?

 防御力なら、こっちの方が格段に優れているけど?」

「こちらの方が、デザインが最高に可愛いんですもの!

 わたしは、ファッションに防御力は求めていません。

 むしろそこに囚われて、着たくもない服を買うなんて無理です。

 それにそもそもパプニカの絹は、他とは違って、魔法耐性に優れていると聞いています。

 長衣(ローブ)までは手が出ませんが、ひとつくらいは身につけたいと思っていましたから、これに出会えた事は僥倖でした!

 この出会いを、わたしは神に感謝したいくらいです!」

 一応、ちょっと尼僧らしいこと言ってみた。

 明日には離れる街だけれど、また来ることもあるだろう。

 その時の指名獲得の為に、イメージは大切だ。

 

「変わったシスターだね、あんた。

 でもまあ、そこまで欲しがってくれる人に買ってもらえたら、帽子も嬉しいと思うよ。

 やっぱり取り置きして待ってて良かった。

 なら、はい。このパプニカ絹の帽子は、120ゴールドだ。

 ここで装備してくかい?」

「はい。

 鏡を見て身につけたいので、更衣室をお借りしますね」

 ポーチから代金を取り出してご主人に手渡す。

 今日の稼ぎが丸々この帽子になってしまったが、この為に働いたようなものだ。

 そこには達成感しかない。

 更衣室に入って、尼僧のケープを外すと、ずっとそれで抑えられていたにもかかわらず、癖の強くて固いプラチナブロンドの髪がピンと跳ね、大きくて尖った耳が、その間から姿を現わす。

 その耳の先を、今買ったばかりの帽子にさりげなく隠し、首を左右に傾けて、鏡で確認する。

 思った通りだ。

 これならば多少激しい動きをしても、耳が見えてしまう事はない。

 更衣室の中で尼僧の衣と靴を脱いで、ケープと共に畳んでリュックの中に押し込む。

 代わりにお気に入りのマントと、ベンガーナで見つけたチューブトップとキュロット型の旅人の服、膝上までのブーツを取り出して身につけた。

 この小さいリュックの中のどこにそれだけのものが入っていたのか、というツッコミは無しだ。

 正直、わたしにもわからないが、入るものは入るんだから仕方ない。

 とにかく着替えが済んで更衣室を出る。

 

「やっぱり、これに決めて大正解!

 イメージぴったりでした、ありがとうございます!」

 わたしが声をかけると、ご主人はぽかんとした顔でわたしを見た後、気を取り直したように言った。

 

「そ、そうかい。そいつは良かった。

 まだ、ほかに用はあるかい?」

「不要品の買い取りはこちらでも可能ですか?

 道具なんですけど」

「ああ、構わないよ。何を売ってくれるんだい?」

 促されて、先程教会で貰った聖水を、入っていた袋ごとご主人に手渡す。

 

「聖水だね。1本15ゴールドで買い取ろう。

 5本あるから、75ゴールドだ」

「それでいいです。ありがとうございます!」

 正直、アルバイトでちまちま解毒で稼ぐより、こちらの方が割りがいい。

 けど、教会的には、そこで働いた人が旅立つからこそ好意でくれるのだろうし、そもそも貰ったその足ですぐ現金化されるなんて思ってもないだろう。

 でもわたしはトヘロスが使えるし、正直旅の荷物には重たいだけだ。

 さっさと売っ払って、今夜のご飯と宿代にしてしまおう。

 

「ありがとうございました」

 ご主人の挨拶を背に聞き、わたしは服屋を後にした。

 うん、今日はいい買い物をした。

 後はパプニカ滞在最後の夜に、美味しいごはんをお腹いっぱい食べて、パプニカの地ワインも少しだけ飲んで、早めに宿に戻って柔らかいベッドでぐっすり眠ろう。

 

 ・・・

 

 …少し食べ過ぎたかも。

 このパプニカは、海もあり山もある為、食材の種類が豊富だ。

 街のレストランの一品料理も様々な種類があり、どれも美味しそうでついつい頼み過ぎてしまった。

 …豊かで、いい国だ。治安もいい。

 歳をとって旅ができなくなったら、こういうところに腰を落ち着けたいものだ。

 …かつてこの地に置かれた魔王の居城により、幾度となく魔物達に脅かされていた過去など、今この美しい街を見ていると信じられないが、それほど昔の話ではない。

 魔王ハドラーがこの世を席巻し、勇者とその仲間に倒されたのは15年前、わたしが10歳の頃の話だ。

 

 帽子とマントを外し、ブーツも脱いで、倒れこむようにベッドにダイブする。

 わたしは、純粋な人間ではない。

 幸いなことに、肌の色は若干白過ぎるもののプラチナブロンドの髪もグレーの瞳も人間にない特徴ではない為、耳さえ隠せばふつうの人間に見えるが、魔族と人間との混血児だ。

 わたしを産んだ母は人間で、どうやら騙されてわたしを孕んだらしく、わたしは生まれてすぐにその母に殺されかけたところを、助けられて街の修道院に保護され、そのままそこで育てられた。

 修道女たちはわたしを差別する事なく、普通に可愛がって育ててもらったと思う。

 だが魔王ハドラーが地上に現れ、その恐怖が全世界を覆った頃、状況が変わった。

「あの修道院には、魔族の子供がいる」と、街の人間達が、わたしたちを迫害し始めた。

 それでも、魔王ハドラーが生きているうちはまだいい方だった。

 勇者が魔王を倒し、人々の暮らしに余裕ができてからの方が、修道院への風当たりは強くなった。

 その頃にはもう、原因になっているのが自分の存在であると理解していたわたしは、街を出る準備を始めていた。

 それに気付いた修道院長が、

 

「神はいつもあなたを見守っています。

 町々の教会を訪ねなさい。

 きっと、助けになることでしょう」

 と、とりあえず一番近くの町の教会への手紙と、聖水の瓶を数本、そしてなけなしのお金を手渡してくれた。

 

「守ってあげられなくてごめんなさい」

 と、真夜中の出立であるにもかかわらず、全員がわたしを抱きしめて、涙を流して見送ってくれた。

 わたしが人間を憎まずに済んだのは、ここで確かに愛情を受けて育てられたからだと思っている。

 …このわたしの故郷である国が、謎の地殻変動によって領土ごと消滅したと旅の空の下で聞いたのは、旅立ってから3年後の事だ。

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