DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
そのせいで書くのは却って面倒になったけど、この物語は『ダイの大冒険』ではなく、その世界に投げ込まれた石の話なのですというこじつけ。
なので、こんなものを読んでいる方は原作を読んで知っているという前提で書いておりますので、書かれていない部分に関しては、皆様の中の原作知識で補完してください。
「原作読んでないよ」「そもそもドラクエ自体知らない」なんて方のフォローまでは、当方では致しかねますのでご了承くださいませなのじゃ。
キィ〜〜〜ッヒッヒッヒッ!!
「…今思ったんだけど、フレイザードって、禁呪法でハドラーが生み出したって言ってたわよね?」
「そうだが…?」
「禁呪法で生み出された生命体って、基本的には術者の死亡とともにその生命も消える筈なんだけど、もしかしてあなたがハドラーを倒した事で、フレイザードが消滅しててくれたりするってことはない?」
ヒュンケルについて中央塔へと走りながら、ふと頭をよぎった疑問を口にする。
もしそうであれば、勇者達は楽だろうが、わたしには少しだけ引っかかる点があった。
だが、ヒュンケルはわたしの言葉をあっさり否定する。
「……いや、それはないだろう。
確かに最初に生命を与えたのはハドラーだが、その後は他のエレメント系モンスターと同様、大魔王バーンが与えた暗黒闘気を糧に、その生命を維持している。
…アンデッドのように、生命活動を行なっていないものを動かしているのと違い、奴の身体はあれでちゃんと、生命活動を行なっているから、常に何物かを消費していて、それを補充する事は必要だ。
オレ達が、ものを食べなければ生きられないのと同様にな。
そして大魔王が生きている限り、その暗黒闘気は常に、奴の身体に注がれている。
恐らくだが既にフレイザードの身体は、親であるハドラーよりも、大魔王バーンとの繋がりの方が、より強くなっているだろう」
「なんでも、うまい話はないって事よね…」
「そういう事だ」
走りながらこっちに目を向けて、少しだけヒュンケルは笑った。
…それはいいとしてこの男、こんな重装備を身につけてるくせに、軽装のわたしより足が速いってどういう事なんだ。
彼も若いけど確か21だって言ってた筈だから、わたしと4歳しか違
ドッカァ────ン!!!!!
…進行方向の先、恐らく中央塔の下あたりで、何か爆発するような音がした。
「戦闘が始まっているようだな…急ぐぞ!」
よし、もう余計な事は考えずに、気を引き締めていこうと思う。
ん…待てよ?
「そうだ…そういえば、勇者くん達と別れて、あなたのところに向かったタイミングでは、フレイザードは塔の中に居なかったのよ」
「なに?」
「塔の手前で待ち伏せてると思ったんだけど、今みたいな爆発とかを伴う攻撃技があるのなら、確かに塔の中よりも、屋外の方が戦いやすいわね。
むしろ、塔からは離れて戦うかも。
…だとしたら考えがあるわ」
わたしは走っていた足を止めた。
「グエン!?」
怪訝な表情を浮かべて、やはり立ち止まってわたしを振り返るヒュンケルに、指で前方を指し示す。
「あなたはこのまま、真っ直ぐ彼らのもとに向かって。
クロコダインもすぐ駆けつけてくる筈よ」
「待て、グエン!あなたはどうする…」
「わたしの存在はフレイザードには知られていない!
これを利用して先に中央塔に登って、王女の無力化結界を解除するわ!
わたしが心配なら、いいだけ派手に登場して、フレイザードの注意を塔から逸らせておいて!」
わたしの言葉に、不得要領な表情を浮かべて立ち止まっていたヒュンケルが、意を決したように頷き、再び駆け出した。
それを確認してわたしも駆け出す。
遠回りをして、反対側から、中央塔を目指して。
別行動を思い立った理由は三つ。
ひとつは、王女の命のタイムリミットの不確実性。
フレイザードは『保って日没まで』と言った。
つまり保たなければ、その前に王女は死ぬって事だ。
戦いを終えてフレイザードに勝っても、王女が死んでしまっていたら、何の為に戦ったのかわからなくなる。
急ぐに越した事はない。
更にひとつ、あの王女を拘束している無力化結界が、一応は氷の形を取っているという事。
タイムリミットがあるというあたりで、維持する為に王女の魔力、それが尽きれば生命力を吸い取って、維持するタイプと推測できる。
極端な話、王女が死ねばその瞬間にあの呪法は消えるわけだが、勿論それでは何にもならない。
更にそれを施したフレイザードが死ねば消えるかといえば、実のところいささか疑問が残る。
確かに結界としての力は、フレイザードの死とともに消えるだろうが、この場合この結界が、物理的な『氷』という形を取っている事が問題なのだ。
結界としての力がなくなれば、あれは恐らくただの『氷』そのものになり、そうなると逆に、それに閉じ込められている王女の命が危なくなる。
しかもあの大きさの氷を溶かそうと思ったら、相当なエネルギーが必要だ。
はたして、戦いを終えた後の勇者パーティーに、それだけのエネルギーを供給する余力が残っているかどうか。
ならどうするか。
フレイザードが生きている、つまり氷がまだ『ただの』結界であるうちに、王女をあの氷から解き放つのが、一番安全で確実だ。
そして最後のひとつは、それが可能であるわたしが、フレイザードに存在を認識されていないという事実だった。
ならば、所詮非力な僧侶であるわたしは、正攻法で挑むより、こちらのほうが余程、ダイ達の役に立てるだろう。
☆☆☆
「…暴虐もそこまでだ、フレイザード!!」
「クロコダイン!!!てっ…てめえっ…!
そうか…てめえが助っ人をしてやがったのか…!!」
「…助っ人は一人だけじゃない…!!」
「…ヒュンケル…!」
「グエンは?一緒じゃねえのか!?」
「…後から来る」
「バッ…バカな…てめえまで…!!」
「ハドラー同様、貴様にも相当借りがあったのを思い出してな…地獄から舞い戻ったというわけだ…!!」
「くっ…!!」
「さあ、もう逃げ場はないぞ!!」
「へっ、どうしたっ!!?観念したのかよっ!!」
「…そうだな。観念するか…」
☆☆☆
道中現れたブリザードに棍の一撃を放ちながら、わたしは塔を登る。
フレイムならば有効な技があるのだが、氷属性のブリザードは一匹一匹潰すしかないので、数匹で出てこられると少々骨が折れる。
わたしのなぎはらいはまだ確実性に欠け、空振ると隙ができるので、確実に決まるシチュエーションでもなければ使わない方がいいだろう。
けど、以前ゲッコーさんに頂いたこの棍、今使ってて気がついたけど、どうやらエレメント系のモンスターに有効な打撃効果があるっぽい。
かまいたちの時になんで気付かなかったのか。
まあ、今はそんな事、考えても仕方がない。
塔の手前の広場では、勇者達の戦いが始まっているようだ。
先ほど凄い爆発音がして、階段の途中でインパスを使うと、外で5つの青い光の周りを、数多の細かい赤い光が飛び回っているのが見えた。
なるほど、禁呪法で生まれたあのモンスターには、その生命の源になる核があり、それが本来なら相反する事象である炎と氷の身体を繋いでいる。
今はその核のみとなって、バラバラに砕いた身体の岩石を遠隔操作しているのだろう。
☆☆☆
「この岩の一つ一つが…オレなんだよォォォッ!!!!」
自爆したと思われたフレイザードの身体の岩が、オレ達の身体に弾丸のように降り注いだ。
自分に向かってくるそれを細かく砕こうとしても無駄だ。むしろ砕けば砕くほど、自身に向かってくる岩の数は増えていく。
砕くなら、ヤツの身体を構成する『
それを見つけて砕かねば、この岩の嵐を切り抜けることはできない。
オレがダイにそう告げている間にも、ヤツの攻撃はますます激しさを増して、オレ達の身体にダメージを与えていく。
「破れるものなら破ってみろよ…!
この無数の弾岩の中に潜む、オレの
そんな事…人間なんぞにできるかあ〜〜ッ!!!」
弾岩の嵐が、ダイの身体に集中して、既に動く事も困難になったオレの視界の端で、ダイが倒れるのが見えた。
☆☆☆
最上階にたどり着くと、やはり数匹のブリザードが、王女の周りを取り囲んで守っていた。
わたしの存在には気付いていない。ならば。
「なぎはらいッ!!」
「ギャアァァ──ッ!!!!」
不意打ちが功を奏し、討ちもらす事なくブリザードを退治する。
呪文と違い技の場合、別に声に出さなくても発動できるが、そこは気分の問題だ。
…若干気まずいものを何故か感じつつ、囚われたままの王女の前に立つ。
氷に手を触れると、やはりビリビリとした、負の魔力を感じた。
息を吸い込み、魔力を集中させて、聖なる力に変換する。
そうしてから王女を包む氷に両手を翳し、ひとつの呪文を詠唱した。
「シャナク!」
結界の力とともに、氷が、蒸発するように消える。
崩折れる王女の冷たい身体を抱きとめて、その心臓が鼓動を打っているのを確認してから、もうひとつ呪文を詠唱した。
「ベホマ」
…これでもう大丈夫。
けど、身体が冷え切っているから、しばらく温めていた方がいいかも。と、
「おかあさま……」
という小さな呟きが聞こえ、一旦身体を離したが、彼女は目を覚まさなかった。
…確か市井の噂では、このお姫様はまだ14歳だった筈だ。
本来ならまだまだ、親の庇護のもとにある年齢だろう。
だがヒュンケルの話では、それを守るべき父親の王は、彼女の生存に全てを託して自害している。
母親である王妃も、彼女が幼い頃に亡くなっていると聞いた。
つまりこの娘は近い未来、この若さで、一国を導く王として立たねばならないという事だ。
まだ子供と言ってもおかしくない彼女にとって、それは茨の道に違いない。
目を覚ました時、彼女にとっての、真の戦いが始まる。
だがそれまでは…せめて夢の中で、母親に抱かれているのもいいだろう。
現時点で充分に美しいが、まだあどけなさも残る少女の寝顔を見下ろして、わたしはもう一度、その身体をぎゅっと抱きしめた。
あなたの未来を助けるために、たくさんの想いが動いている。
だから、道は険しいけれど、その瞬間瞬間の『今』を諦めないで。
どんなに辛くても寂しくても、あなたは一人じゃないから。
☆☆☆
なんとか…せめて、ダイにだけでも
みんなが倒れて動けない今、せめて私にできる事をと、身体を起こす。何とか這ってダイの側に行こうとしたら、伸ばした右手の手首を、足の形をした岩が押さえつけた。
「クロコダインの陰にいたお陰で、傷が浅かったみてえだな!!」
その『足』の上に、細かな岩が積み重なり、見る間にそれは、人のような形をとった。
でも…さっきまでその形だった時には全体を包んでいた筈の、炎と氷が消えかかっている。
「…フッ…情けねえ姿だと思っているだろう?
この最終闘法は、オレの
「なぜそこまでして勝とうとするの!?
死の危険をおかしてまで!!」
…若干自分勝手な問いだと、私自身にもわかっている。
私だって、この戦いに命を懸けているのだし。
だから正直言って、答えが返ってくるとは思っていなかった。
「…オレの人格には歴史がねェ…」
だけど、私の言葉に、フレイザードは答えを返してきた。
まるで、心の底では聞いて欲しかったと言わんばかりに。
「ハドラー様がオレを造ってから…まだ一年足らずしか経っていない…。
だからオレは手柄が欲しいんだ!
たとえ百年生きようと千年生きようと、手に入らねえぐらいの手柄がな!!」
それは確かに彼の本音であり、コンプレックスであると、その言葉で判った。
それを悲しいと思う心を、彼は確かに持っていた。
だから、
「……なんて…哀れな人。
戦い以外に、自分の存在を証明できるものがないなんて」
心底、そう思った。
私も、この戦いに命を懸けている。
けれども、それは仲間がいてこそだ。
自分一人の為だけに命は懸けられない。
彼は一人だ。
この世に同胞はおらず、仲間は手柄を競う存在。
生きてきた過去がない故に、自身のアイデンティティに飢えた。
生まれ落ちて、心を与えられたにもかかわらず、戦う事しか教えられなかった、哀れな子供。
そう思えた。けれど、
「同情なんかいらねえよ!」
高笑いしながら、炎を僅かに纏った足で私の手を踏みつけたフレイザードに、迷いなどなかった。
「勝利の瞬間の快感だけが…!!
仲間の羨望の眼差しだけが…!!
このオレの心を満たしてくれるんだ!!
このままおとなしくてめえが死んでくれりゃあ、万事めでたしなんだよッ!!!」
そう叫んで、私に掴みかかろうとするフレイザードを、
「待てっ!!!!!」
と、立ち上がったダイの声が止めた。
逃げなさいと叫んだ私の声に耳を貸さず、ダイが立ち上がったのは、恐らく私を守る為。
今の私は、なんて無力なんだろう。
救いたいと思っても、誰も救えていない。
愛や優しさだけでは、守れない。
力無き正義は、無力。
かつてのアバン先生の言葉が、不意に心に蘇った。
その姿が、目の前のちいさな勇者と重なる。
「…おれも、今から最後の必殺技をくりだす…。
今まで一度も成功したことのない技だけど…」
言いながらダイが、抜いていた剣を鞘におさめた。
「これにしくじればおまえの勝ち…
だけど…決まればおれの勝ちだっ!!!」
ダイの最後の必殺技って、まさか…!!?
☆☆☆
ダイが繰り出したのは『空裂斬』。
だが一度かすりはしたものの、その後は何度繰り出しても、それは悉く「空を切る」。
ダイは忘れている。
アバン流刀殺法の中でも最大の奥義であるそれは『空』すなわち目に見えぬものを『斬る』技だ。
それは悪のエネルギーにより生み出された邪悪な生命の、その源を断つ剣技。
それを斬る刃こそが、正義のエネルギー。
アバンのもとでつきっきりで剣技を学んだオレが、その技を極められなかったのはそれが理由だ。
だが、心を憎しみに曇らせたオレと違い、ダイならば必ず、それを極められる。
その為には…!
オレは自分の剣の刃を握りしめると、そこから流れ出た血をダイの目に浴びせかけた。
「目に頼るな!
心の目で、ヤツの悪のエネルギーを感じるんだ!!」
オレがダイに向かって叫ぶと、嘲笑うような怒るようなフレイザードの声が響き、弾岩の雨が、ダイ一人に向かって降り注ぐ。
「そんな夢みたいな技で、オレの秘技が破れるもんかよォッ!!!」
ダイはそれを動かずに受けていたが、やがて剣を鞘に一度おさめてから、岩の嵐の真ん中に突進した。
「こいつが、フレイザードだぁ───ッ!!!!
空裂斬!!!!!」
抜く手も見せず振りかぶった刃が、白く輝いたように見えた。
☆☆☆
「なんだ貴様ァッ!?ここで何をしている!?」
王女の身体を抱いて温めているわたしを、数匹のフレイムが見つけて襲いかかってきた。
まだ残っていたのか。まったく、鬱陶しい事だ。
マントを脱いで王女の身体を包み、仕方なく足元に横たえる。
そして棍を構え、フレイムたちを睨みつけた。
この技は魔法力を若干消費するが、この棍の打撃効果と合わせれば、わたし一人でも、この程度の敵に遅れをとる事はない。
一斉に向かってくるフレイムたちに、わたしはようやくモノにしたばかりの棍の技を放った。
「氷結乱撃ッ!!!」
…王女の戒めを解く事ができたら、今度こそダイたちのもとに駆けつけて、回復要員として戦いに参加するつもりでいたけど、まだこんなザコ敵が塔をうろついているというのなら、王女を無防備なままここに置くわけにはいかないか。
彼女が目を覚ますか、ダイたちが戦いを終えてここに登ってくるまで、この子はわたしが守らなければ。
そして輝くウルトラ僧侶(爆)