DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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酷い(爆


25・小石たちは打ち砕く

「…ロン・ベルク…!!!

 きっ…貴様が….何故この場にっ…!!?

 …その小娘が、弟子だと……?」

「死神に聞いていなかったのか?

 …それにしても、さっきから思っていたが、おまえにも口があったんだな、ミストバーン」

 ロン先生が殊更に軽い口調でそう言うと、ミストバーンがハッとしたように、ローブの上から手で口を押さえる動きをした。

 …コイツ、最初は無口キャラだったのが、喋るようになってからはどんどんわかりやすくなってくるよな。

 先生もそれに気がついたのか、探るような目でミストバーンを窺う。

 

「…今更黙ることもなかろう?

 ダイやヒュンケルには声を聞かれても構わんのに、オレはまずいとは、どうやらおまえの沈黙は、自分の意思ではないようだな…!」

 それは、ミストバーンが守っているものの秘密に迫る重要事項だ。

 意図せずに核心をついてしまったロン先生の言葉に、ミストバーンは黙ったまま指を高質化させた。

 それを剣のように振りかぶり、先生の剣と鍔迫り合う。

 …そのロン先生の剣だが、普段使用しているミスリル製の剣だ。

 例の魔法インゴット製の剣は完成したと言っていた筈だが、ここで出してこないということは、やはり強度的な問題がクリアできなかったか、何か不安な点があるということじゃないだろうか。

 

「…またそう来るのか。あの時と変わらんな。

 もうこれ以上傷は要らんぞ、ミストバーン!」

 そんなあたしの不安をよそに、ふたつの刃が擦れ合い火花を立てる。

 それから相手の刃を同時に押して、互いに間合いを離す…というよりミストバーンが押し負けた形で距離が取られると、それでもミストバーンは刃にしてるのと逆の方の手に暗黒闘気を込めた。

 …が、その瞬間にはもうロン先生は距離を再び詰めてきており、ふたつの刃がまたも交差して、高い金属音が響いた。

 

 そして。

 

 ロン先生が誘導する形でミストバーンを引き離した舞台の上、大魔宮(バーンパレス)の真下に、光の柱が立ち上る。

 

 白。

 青。

 紫。

 赤。

 

 あとはポップの魂に宿る『勇気』が、緑の光の柱を立てれば完了だ。

 なんだか知らないがメルルがポップに告白しにいった後、アバンのしるしを光らせる事ができたそうだから、ここは原作よりすんなり大破邪呪文(ミナカトール)は成功するだろう。

 …そういやメルルは告白が、成功したとも失敗したとも言ってなかったんだが、その辺についてはどうなんだろう。

 …などと、今この場ではどうでもいい事をあたしが考えた時、

 

「キィ〜ヒッヒッヒッ!!」

 …空間の匂いが変化して、上空から下卑た笑い声が響いてきた。

 

「ああっ!!あ、あいつ…」

 …ああもう、いいからそっち集中してくださいお兄様。

 

「…来たわね、妖怪ジジィ」

「やはり!妖魔司教ザボエラ!!!」

 グエンさんとクロコダインが呻くように言った言葉通り、この場の空間に穴を穿って、現れたのはザボエラだった。

 

「…魔軍司令補佐!!!

 それが今のワシの肩書きじゃっ!!!

 長年地道に努力しておると、こういう恩恵をこうむることもある…!!」

 まったく偉そうに聞こえないその肩書きを嬉しそうに誇るそのジーサンは、あたし的には現れて欲しくなかった相手だ。

 この男が来たという事は、絶対に阻止したかった、先生にとっての運命の瞬間が、近づいているという事だから。

 

「ザボエラよ、出番をくれてやる!

 手筈通り()()を使って、人間どもを皆殺しにせよ!!」

 うちの先生と交戦しながら、ミストバーンが指示を出す。

 

「…お任せください、ミストバーン様!!」

 その声に頷いてザボエラは、恐らくはイオラであろう無数の魔法力を、先ほどまであたし達がいた崖の上へと投げ放った。

 破裂の魔法力が岩壁を砕き、どうやらあらかじめ埋め込まれていたであろう複数の、巨大な球が現れる。

 装飾のように表面に光る赤黒い石は赤魔晶だろう。

 あんなに大きな結晶は初めて見たけど。

 

「あっ、あれはっ!!?」

 その、どう見ても有り難くなさそうな怪しげなモノの出現にノヴァが声を上げ、

 

「…【魔法の球】。

 魔王ハドラーの時代から魔王軍で使われていた【魔法の筒】の『最新型』で、【魔法の筒】が1本に一体のみ生き物を入れられるのに対し、こちらは1個に何十体もの生き物を入れられます。

 今、中に入っているのは、魔界由来の怪物(モンスター)です」

「ワシが説明しようとしたのに先に言うんじゃないっ!!

 というか、なんでキサマが知っとるんじゃあ!!」

 …そのノヴァに答える形で、あたしが例の如く頭の中のオッサンの説明を復唱したら、ザボエラに怒られた。

 いや別に『みる』を使うまでもなく知ってる情報だし、でもこのタイミングじゃなきゃ言えないんだから、言わせてくれたっていいじゃん…。

 

「と、とにかく!

 この中にはおまえたちが見たこともないような、超強力なモンスターが入っておる!!!

 魔界の怪物(モンスター)は、地上の怪物(モンスター)などとは比較にならんほど強いんじゃ!

 これでおまえらもおしまいじゃあ〜〜っ!!!

 さあ出でよ!魔界の怪物(モンスター)どもっ!!!デルパ〜っ!!!!」

 ザボエラがその合言葉(キーワード)を口にしたと同時に、球体は次々と破裂する……って!

 確か魔法の筒は何度も使える仕様だったと思ったけど、球は使い捨てなの!?

 あんな大きな赤魔晶使っておいて、インストールされてるのは【デルパ】と【イルイル】ふたつの合言葉(キーワード)のみで、しかも1回きりなの!?

 稀少な素材を無駄遣いするんじゃない勿体ない!!

 いや確かに気にはなってた。

 オッサンが説明する際に『最新型』とは言ったけど『改良型』とは言わなかったことが。

 しかしまあ、もし残しておけば魔法の筒の使い方を知っている者であれば、【イルイル】で再び閉じ込める考えに及ぶだろうから、これはこれで正解なのかもしれない。

 …そもそもこの怪物(モンスター)達、本当のところ主人(あるじ)から、『生きて』『戻る』ことを、期待されてはいないのだし。

 爆発によりもうもうと立ち込める砂埃の中から、無数の怪物(モンスター)の影が浮かび上がる。

 

「こ…こんなにたくさんの怪物(モンスター)の気配を察知できなかったなんて…!!」

 この窪地全体を取り囲む怪物(モンスター)に、怯えたようにメルルが声を震わせて呟いて、フローラ様が答えた。

 

「あの魔法の球に閉じ込められていたからよ…。

 最初から罠にかけるつもりで、この場所を処刑場に選んでいたようね…急いで、ポップ!!!」

 そうして戸惑いながらもフローラ様は、舞台の円陣でまだ1人だけ光の柱を立てていないポップを叱咤する声をかける。

 その声にポップはハッと我にかえると、深呼吸をひとつしてから、隣のマァムの手を取った。だが、

 

「や…やっぱこんな状況で集中できねえよ!

 おれ達も戦ったほうが……!!」

 …どうしてもこちらが気になって仕方ないのか、今のポップは緑の光を纏いはじめてはいるが、柱を立てるまでには至っていない。

 

「いけませんっ!!!

 あなたたちは大破邪呪文(ミナカトール)を完成させるのです!!

 今その位置を動いたら、四つまで揃えた芒星の力が消えてしまいます!!」

「でもっ、おれ達が動けねえんじゃ、こっちの戦力は半分以下じゃ…!!」

 …一瞬だが、その言葉にカチンときたあたしは、次の瞬間には全方位に、『あなほり』を発動させていた。

 

「バカにすんなあぁぁ〜〜〜っ!!!!」

 ドゥン!

 ドゴォォン!!

 

 こちらに向かってこようと動きはじめた怪物(モンスター)達の、足元の地面に大穴を掘る。

 突然のことに、防御姿勢すら取れずに身体半分まで埋まった怪物(モンスター)が、穴の中でもちゃもちゃ蠢くのを、『タカの目』で確認しつつ、あたしは次の手を打った。

 

「そぃやあぁぁ────っ!!」

 ドォン!

 ドオォン!

 ドドオォォ────ン!!

 

 

「グギャアアァ〜〜ッ!!!!」

 同じく、『あなほり』で崖の岩壁を崩して、多量の石塊を怪物(モンスター)達の頭上に降らせると、全てではないが結構な数が、その下に生き埋めになった。

 

「ええぇ〜……!!?」

 いつの間にかあたしを守るように駆け寄ってきてくれていたノヴァが、その光景とあたしを交互に見て、間抜けな声を上げる。

 …声さえ出さなきゃ、あたしがやったことだとは思わなかったのだろうが、ここはポップの為にも、あたしの力を誇示する必要があった。

 ちなみに、一応何度か検証してみた結果、声を出すのと出さないとでは、同じ技を発動するにしてもその威力にははっきりとした違いが出る。

 勇者パーティーの皆さんが呪文ではない技の名前を叫びながら出すのはこういうことだったのだなと思った瞬間だった。閑話休題。

 割と全員の動きが、その出来事により一時停止しているところへ、あたしは再び声を高らかに叫んだ。

 

「ポップ!確かにあたし達一人ひとりの力じゃ、勇者パーティーの皆には及ばない!

 けど弱けりゃ弱いなりに、戦いかたはあるんだよ!!

 力の優劣はあったとしてもこの場にいる全員、この地上を守りたいって気持ちは、勇者パーティーの誰にも負けてないからね!!」

「リ、リリィ…!?」

 驚いてあたしを見つめるポップに向けて、あたしは言葉を続ける。

 

「信じてあとを託すことも勇気でしょ!?

 今のポップはあたし達を信じてくれてない!!

 そんなんじゃ勝てる戦いも勝てないよ!

 だって勇者パーティーの皆は、仲間を信じる心を、力に変えてきたんでしょう!!?

 なら、あたし達のことも信じてよっ!!」

 そろそろ何言ってんのか自分でもわからなくなってきたけど、何はともあれ、あたしが数十体潰したとはいえ、敵はまだまだ残っている。

 その無数の敵、しかも強さ未知数の魔界の怪物(モンスター)を前に、地上の精鋭達にあたしは再び声をかけた。

 

「皆さん、恐れることはありません!

 魔界のモンスターとはいえ生身の生き物!

 あのように、石にぶつかっただけでも死ぬときは死ぬのです!!」

「『ぶつかっただけ』の基準が明らかにおかしいだろ!!」

「気のせいです!」

 途中しょうもないツッコミを入れたのはラーハルトの声だった気がするが、割と余裕のあるその声に、安心する自分が確かにいた。

 そしてあたしの言葉に反応して戦士たちの、応という声があちこちで上がる。

 

「みんなっ!!ビビるなっ!!!魔界の怪物(モンスター)がなんだっ!!!

 我々獣王遊撃隊の意地を見せてやれっ!!!」

 中でも元気いっぱいのチウが味方モンスターに喝を入れ、怯え始めていた彼らの目に力が戻る。

 

「その意気です隊長!

 先ずは皆で穴の中から、うごうご這い出してこようとしてる怪物(モンスター)を潰してください!!」

「わかったっ!!任せておけ、あにまる子ちゃん!!」

 そう言って部下たちに指示を出して、チウはビョンビョンヌンチャクを構えた。

 老師…もといビーストくんは、いつも通りのフラフラした動きで、既に生き埋めを免れた怪物(モンスター)達に向かっている。

 

「こんだけ男が揃ってて、嬢ちゃんひとりに負けてられねえぞっ!

 いいかっ!!勝とうなんて思うなっ!!!

 オレたちは壁だっ!!!

 姫様たちが呪文を完成する間、やつらを近づけさせなきゃそれでいいんだっ!!!」

 ロモスのレスラーのゴメスさんが、続けて他の戦士たちに声をかけ、皆の声がそれに応じる。

 

「クロコダイン、ラーハルト!!

 わたし達も負けてはいられないわよ!

 まさかこの程度で本気ではないのでしょう!!?」

 そこに更に、グエンさんのやけに楽しそうな声も響いてきた。

 ……えっと、確かこのひと僧侶ですよね?

 もしかして、割とバトルジャンキーの傾向があったりしないだろうか。

 それともまだ、暗黒闘気の影響が残ってるんだろうか。

 …新しい武器にテンション上がってるだけだと信じたい。

 

「スクルトをかけるから、もう防御は無視でいってちょうだい!!

 とりあえずノルマは1人あたり50体!!いけるわね!?」

「勿論だ!ザコ敵などダイ様のもとに、一匹たりとも近付けはせん!!」

「オレもとことんまでつき合うぞ!!

 このオレは百獣の王、百匹以上は目指さんといかんなっ!!!」

「グエンさん!ボクも40〜50体くらいまでなら確実に倒せますっ!!」

「頼もしいわね、北の勇者!!

 リリィを守りながらは相当苦しいでしょうけど、頼んだわよ!」

「えっ……ハイッ!!」

 さり気なく割と面倒な事(やかましいわ)押しつけられてるノヴァが、それでも元気にお返事する。

 それに頷いたグエンさんは、今度はあたしの方に視線を向けた。

 

「リリィ、速度倍加呪文(ピオリム)はまだ残っていて?」

「はい、一本だけ!今使いますか?」

「お願いするわ!!」

 グエンさんのリクエストに答えて、あたしは魔弾銃(まだんガン)に魔法の弾丸を込める。

 そして。

 

 

「「「行くぞっ!!!!!」」」

 

 

 伝播するように士気を高めた世界の強豪たちは、もはや臆する事なく、未知のモンスターへと向かっていった。

 これでいい。

 皆が心をひとつにして戦うこと。

 足りない力を互いに補って戦うこと。

 これこそが地上の、力のない者たちに出来る戦い方なのだから。

 

 ☆☆☆

 

 …そういえばうちの妹は、村を率いてモンスターの群れと戦ったと言っていたんだった。

 話を聞いた時は信じられなかったけど、今この光景を見れば、どんな戦いをしてきたのか、なんとなく理解できた気がした。

 

「信じてあとを託すことも勇気…か。

 …ほんと、兄貴のメンツを潰してくれる妹だよな、あいつ」

「…けど、リリィの言う通りだわ、ポップ。

 仲間との信頼が何より大切だって事は、私たちが一番よく知っている事じゃない」

 赤い光の柱の中に立つマァムが、女にしちゃ大きめの手を、再びおれに向かって差し伸べてくる。

 

「一度は悪に染まったこのオレを、おまえ達が信じてくれたからこそ、オレは今ここに立っていられるのだ。

 ここは、素直に背中を預けよう、ポップ」

 おれに差し伸べられたのと反対の手を取る、紫の光に包まれるヒュンケルが、真っ直ぐな視線をおれに向けて力強く言うと、更にそのヒュンケルのもう片方の手を掴んだまま、ダイがクスッと笑った。

 

「そういえば、前にもこんな事あったよね?

 …確か、フレイザードと戦った時だよ。

 中央の塔に向かってる途中で、ハドラーと戦ってたヒュンケルのところに戻ろうとしたら、まずマァムに怒られて。

 その後グエンに、命懸けで戦ってるヒュンケルとクロコダインを信じてくれないなら泣くって言われた」

 ヒュンケルが怪訝な目で、そんな事あったのかと問うようにマァムに目を向け、マァムがそれに頷く。

 ……何故だかふたりのそんな様子を見ても、以前のように胸は痛まなかった。

 

「…本当ね。

 嫌だわ、あれから戦いを通じてみんな強くなって、私なんか新たに修業のし直しまでしたのに、やってる事は全然変わらないんだわ、私たち」

「さっきリリィが言ったのも、あの時グエンが言ったのとおんなじような事だよね?

 ……だったら、おれたちは先に進まなきゃ!」

 そうだ。あの時も。

 会ったばかりのグエンを、それでも信じて、先に進んだ。

 だったら今はあの時より、もっと信じることができていいはずだ。

 

「さあ、ポップ君!!」

 白い光の中から手を伸ばす姫さんに促され、おれは頷く。

 

「……わかった。みんなの想い、絶対に無駄にしねえ!」

 決意の言葉とともに取ったマァムの手から、温かい何かが流れ込んでくる。

 同時に、何も気負うことなくおれの身体から立ち上った光の柱は、緑色。

 そうだ。この『勇気』の光を、最初に目覚めさせてくれたのは……!

 不意に思い出した面影を、思わず探して目を向けると、祈るように両手を組んでこちらを見つめる、黒い瞳と視線が絡んだ。

 それに微笑み返しながら、最後に光の魔法陣を完成させるべく、おれは姫さんの手を取った。

 

 ☆☆☆

 

「おのれ…このままでは聖なる魔法陣が完成し、奴らを大魔王様のもとに行かせてしまう。

 そうなる前に、あやつを始末しなければ……!!」

 自分が持ち込んだ魔界の怪物(モンスター)が、徐々に圧されていく様子を宙空に浮かんだまま見守っていたザボエラは、ぎりりと奥歯を噛みしめながら、そっと長衣(ローブ)の袖の下を探ると、そこから何かを引き出した。

 鎖に提げられたそれは一見すると金属のペンダントのようなものに見えるが、それにしては棘のついた形状が禍々しい。

 

「我が魔力を染み込ませたこの“毒牙の鎖”は、光弾となって敵を貫く!!!

 たとえ急所は外しても一かすりで、死にまで至る猛毒が回るのじゃっ!!」

 独りごちながら、ザボエラはその鎖をくるくると回し、それが一回転するごとに、その先の金属の棘が、黒く染まっていく。

 

「士気を高めておるあやつを失えば、人間どもは動揺して、必ずパニックに陥る!

 あの忌々しい魔法陣も消え失せようて!

 そこを引っ掻き回してやりゃあ、人間どもなど、あ〜っという間に全滅じゃあ〜!!

 キィ〜ヒッヒッヒッ!!!」

 

 次の瞬間。

 老人の小さな手から投げ放たれた光弾が、真っ直ぐに向かった先は。

 

 魔界の怪物(モンスター)達の足元の地面を崩してその足を止め、それに爆弾石を投げつけて撹乱して、そこを味方モンスターに攻撃させている、小柄な人間の少女だった。

 

「誰かっ!!!その光弾(たま)を止めろッ!!!」

 最初にその光弾の向かう先に気付いたのは、未だミストバーンと交戦中のロン・ベルクだった。

 本来なら真っ先に動かねばならない筈の彼が、そのせいで声を上げることしか出来ない。

 

「危ない、リリィさんっ!!」

 更に、最初に禍々しい気配にだけは気がついていたメルルは、すぐに動こうとしたが距離が離れすぎていた。

 

「…リリルーラッ!!!!」

 そして。

 

 死の光弾が貫いたのは、半魔族の女僧侶の脇腹だった。

 驚き瞠いた少女の目に、そこから飛び散った彼女の、人間のものと変わらぬ赤い血が、まるでボミオスをかけられたように、ゆっくりと空間に広がるのが見えた。

 

 ☆☆☆

 

「……グッ……グエンさんっ!!?」

 舞台上の円陣から五色の光の柱が立ち上ったと同時に、あたしの目の前で半魔族の美女の身体が頽れた。

 赤い血が滴り落ちる脇腹に、棘のついたペンダントみたいなものが、刺さり込んでいるのが見える。

 その正体をアタマの中のオッサンが解説してくれるけど頭に入ってこない。

 けど物語の中にも同じシーンが確かにあり、この状況が何によって引き起こされたか、あたしは瞬時に察する事ができた。

 …ポップが勇気の光に既に目覚めている状況では、この展開は起きないと完全に油断していた。

 まさか、あたしが狙われる事になるなんて。

 助け起こそうと手を伸ばすあたしに、グエンさんは少し痛そうな顔をしつつ、笑って首を振る。

 

「だ…大丈夫よ、この程度…!

 解毒呪文(キアリー)!ベホマ!!はい回復!!!」

 次に、オレンジ色の光に全身が包まれたと思うと、メッチャあっさりグエンさんは立ち上がった。

 …ええ〜っ!!?

 確かこのシーン、メルルが倒れた時はどんな治療も手の施しようがなかった筈だよね!?

 いや安心したけど!すっごく安心したけど!!

 

「なっ…なんじゃあ、あの女はぁっ!!!

 ワシの魔力から抽出した猛毒が、解毒呪文(キアリー)なんぞで解毒できるはずがな…ッ!!?」

「……きっさまああぁっ!!よくもリリィをッ!!!」

「ひっ…!!!」

 そしてどうやら驚きのあまり、自身の所業であると暴露してしまったザボエラが、なんかメッチャ逆上してるノヴァに斬りかかられて、ギリギリのところでその剣先から身を躱し続けている。

 いいぞもっとやれ。

 

「グエンさん…大丈夫なんですか?」

「ええ!

 …どうも、ただの毒ではなかったみたいだけれど、なんか知らないけど偶然にも、わたしの魔力と相性のいい性質だったみたい。

 わたしの解毒呪文(キアリー)で綺麗に分解できたし、暗黒魔力っぽい影響もなくベホマで普通に全回復できたわ。

 けど、これがリリィに当たらなくて本当に良かった!」

 …えっと、それ多分偶然とかじゃなくて…いや、止そう。

 

 その時。

 

 舞台上の光の魔法陣が、先ほどまでとは段違いの、眩い光を放ったのを、その場の全員が目の当たりにした。

 

 大破邪呪文(ミナカトール)の、これが完成だ。




今回少しだけ触れた件の、一応正解が知りたい方はここをお読みください。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=215351&uid=156315

物語の中ではこれ以降、触れることはありませんので。
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