DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
主人公も副主人公も、どちらも地上に居るのと、リリィ的にここが最初の山場なので。
おれの中から光の柱が立ち上がった瞬間、身体の奥の閉じていた扉が、突然開いた感覚があった。
これは、契約を済ませたばかりの呪文を、初めて使ったときの感覚に似ている。
更に、それとは別に胸の奥に、温かいものが灯ったような感覚。
そちらは何故だか昨夜、腕に抱きしめた彼女の感触と匂いに似ているような気がして、もう一度その姿を探した。
視界にとらえた祈るような視線がおれのものと絡んだ時、肉声ではなく心の中に、確かに彼女の声が響いた。
…私の心の欠片も、一緒に連れていってください。
私も、あなたと一緒に、戦わせてください…!
勿論だ。
おれのこの“勇気”の光の半分は……メルル、おまえのもんだからな。
一緒に行こう。一緒に戦おう。
そして勝って帰ってきたら、必ず返事をするって、約束する。
「ミナカトール!!!!」
そして。
姫さんが呪文を唱えた瞬間、5本の光の柱が、ひとつの透明な光となり、先ほどまでよりも更に激しく、眩い光を放つ。
「……ポップ君!!!今よっ!!!」
「
姫さんの促しに被せ気味に、おれも打ち合わせ通りの呪文を詠唱した。
移動先のイメージはバッチリだ。
何せ、一度は死にかけた場所だ。
もしかするとリリィの扉の能力と同じように、おれは感じなかったが他の奴らは、例のぐんにゃり感を覚えているかもしれない。
……次の瞬間。
あの忌まわしい敗北の記憶も生々しい
☆☆☆
魔法陣から立ちのぼる凄まじい光が、直視できる程度にまで収まった時、そこに残ったキラキラした五芒星の輪の中に、5人の姿はもう無かった。
敵も味方も、その瞬間に動きを止め、皆の視線が上空の
巨大な鳥のような形状の、その頭の方に向かって、まるで吸い込まれるように光の粒子が消えていき、それが完全に無くなったあたりで、味方の歓声が響き渡った。
「や…やった…!!!やったぞおお〜〜いっ!!!」
「成功だああああっ!!!」
まだ戦いの最中であるにもかかわらず、まるで勝鬨のようなその歓声に、少しビビったものかそれとも空気読んだのか知らないが、敵モンスターが動きを止めて、呆然とその場に立ち尽くしている。
「……あああっ!!」
「ど…どうなってんだっ!!?」
その敵方で最初に言葉を発したのは、先ほどからチウと交戦していた、どうやらバアラックというらしい羽根の生えた小鬼型のモンスター2匹だった。
オッサン情報によると弱点は電撃系らしい。
「……フッフッフッ…!!!教えてやろうっ!!!」
「わたしの友人たちが、大魔王を倒しに行ったのよ!!」
それに答えようとしたチウの台詞を横からぶんどって何故かグエンさんがその質問に答え、バアラックたちはそれに狼狽した。
「そ、そんな事できるわけがあるかっ!!!」
その言葉を1人と1匹が、不敵な笑いで受け流す。
そして。
「できるできないではなく、やるのよ!」
「そうだ!彼らは必ずやるっ!!」
「何故なら!!」
「正義は!」
「「必ず勝あぁつ!!!!」」
…グエンさんとチウは、まるで示し合わせたように2人して上空をビシッと指差すと、最後の台詞を、声を揃えて叫んだ。
「はっはっはっはっ!!」
「ホーッホッホッホッホッ!!!」
…いや、なんだこの人びと。
バアラックさん達、ドン引きしてるんですけど。
…………………それはさておき。
「全員!!!魔法円を中心に陣形を組みなさい!!
あの中なら、敵モンスターの攻撃力は半減します!!
残る総力を結集してこの場を死守するのです!!」
フローラ様が皆に指示を与え、世界の戦士が応と答える。
そう、この魔法陣は単なる
その破邪力が
確か物語に於いてはバーン本人やハドラーなど、一定以上の強さを持つ相手に対してはその力を削ぐまでには至らなかった筈だけど、それは彼らが規格外なだけだからね!
なので、身を守る術を持たない事に関して1、2を争うこのあたし、先生や味方の皆さんの足手纏いにならないうちにと、当然のように真っ先にその中に駆け込む。
そんなあたしを捕まえようと、ライノソルジャーというサイの獣人系モンスターが追いかけてきた。
リーチとコンパスの差で距離が縮められて、伸ばされた手が魔法陣の力に阻まれ、一瞬止まる。
「……ガカッ!」
その手が、血の糸を伴って地面に落ちた。
更に、残った身体全体に、幾条もの青い線が走る。
一拍のちに、そこから血を
「いい判断だ。おまえはそこで、馬鹿なモンスターをおびき寄せていろ」
それを為したのは割と失礼な事を言うラーハルトの、目にも止まらぬ槍捌き。
以前より格段に取り回しが良くなったと本人が言う愛用の槍を、一度クルリと回転させると、穂先から今倒したライノソルジャーの青い血が飛び散った。
…体色の青いモンスターはやはり血も青いのだなと、どうでもいい事をあたしが考えた時、自動展開されたタカの目が、上空に3体のモンスターの姿を捉える。
「みんな散って!ベギラマがきます!!」
同時に危機を告げるメルルの声が響き、次には
そのベレスという悪魔系モンスターが、手に魔法力を溜めているのがわかった。
3体からいちどきにくれば、その熱量は膨大なものとなり、回避しても間に合わない。
「させないっ!!!」
だが、ベレス達が手からそれを放った瞬間、その軌道上にルーラで飛んできたグエンさんが、長い手足を目一杯広げるようにして、その身で呪文を受け止めた。
グエンさんの身に付けた
3つ分のベギラマをその効果で打ち消したグエンさんは、止まらずに手にしたままの棍の長さを、わずかな魔法力を込めて倍の長さまで伸ばした。そして。
「なぎはらいっ!!!」
「グギャッ!!?」
無造作に振り抜いただけに見えるそのひと振りで3体のベレスが一撃で、蠅か何かのようにはたき落とされた。
その落ちた先に遊撃隊が集まって、タコ殴りの末に無力化している。
一方、どう見ても変態にしか見えない、ブーメランパンツいっちょの鉄球魔人という巨人系モンスターが、トゲ付き鉄球の鎖をブンブン振り回しながら突進してきたのを、クロコダインが身体で止めていた。
と、別の方面から来たもう1体がその瞬間、鉄球の鎖をクロコダインの身体に巻きつけて拘束する。
「ムッ!!?」
動きを止められたクロコダインを、2体の鉄球魔人が締め上げようとする。が、
「フンッ!!!」
クロコダインが少し気を込めただけで鎖がバラバラに切れ落ちて、次の瞬間そのクロコダインの手で頭を鷲掴みにされた2体の鉄球魔人は、互いの頭同士を打ちつけられて、地面に崩れ落ちる事となった。
あたし同様いち早く魔法陣に飛び込んだメルルは、どうやら敵の攻撃の意志を敏感に感じ取っているらしく、攻撃が始まる前にそれの向けられている者に警告を発しては、不意打ち攻撃を防いでいるようだ。
…なんていうか彼女の能力が、急に上がった気がするのはあたしの気のせいなんだろうか?
「グエンさん、後ろ!」
その声に振り返ったグエンさんの後ろから、メタルスコーピオンというモンスター(上半身は鎧っぽいが下半身はサソリというよくわからんデザイン)の、鞭のような尾が襲い掛かろうとしている。
「ヒャダイン!!」
と、エイミさんの氷系呪文が、そのメタルスコーピオンを包んだかと思うと、一瞬にして凍りついた尾は動きを止められ、また足元もガッチリと地面に縫い付けられた。
「…メルル、エイミ!ありがとう、助かったわ!!」
その動きの止まったメタルスコーピオンに棍の連打を浴びせながら、グエンさんは綺麗な笑顔で2人にお礼の言葉を述べる。
…瞬間、エイミさんが明らかにラーハルトに向けてドヤ顔をしたのは見なかった事にした。
「どけえぇっ!!たああああっ!!!」
あと、どうやら執拗にザボエラを狙い続けているらしいノヴァは、
地味にアンタが一番怖いわ。
ジーサンめっちゃ怯えとるやん。
そんなザボエラさんがいま地面を走ってるのを幸い、あたしはあなほりでその足元の地面を崩して、怯えて逃げるジーサンを転ばせた。
「ブフォッ!な、なんじゃ!?」
地面に顔をしたたか打ちつけ、ザボエラが戸惑っているその間に、あたしは
そう、同情はしない。
このジーサンを上手いことここで始末できれば、剣が完成してようがいまいが、うちの先生の最大の危機フラグを回避出来る。
まだしていない事に対して、相手にその罪を問うこの考えは、かつてバランやラーハルトを迫害した人間たちと、結局は同じなのかもしれない。
それでもいい。今更だ。
先の運命を、自分の感情でねじ曲げる罪。
救えたかもしれない命を見捨てた痛み。
全てを知る事のその罪も痛みも、己の肩に背負う。
それを決して忘れずに生きる。
先生の剣を完成させると決めた時に、そう決めていた事なんだから。
あたしの指が、躊躇う事なくトリガーを引く。
銃口から、以前ポップが入れてくれたメラゾーマが放たれて、それがスクリュー回転しながらザボエラに向かって飛ぶ。
瞬間、爆発するように火球が弾けた。
「らぼあじえ〜〜〜っ!!!!」
…だが、ザボエラは質量保存の法則みたいな悲鳴をあげて、背を炙られ爆風に小さな身体を飛ばされながらも、メッチャ紙一重で直撃を避けていた。
この辺の見切りは才能なんじゃなかろうか。
というかこのひとのキャラクターは、少年誌の連載でなければ、もっと姑息に陰湿に、上手く立ち回れた筈というのは、前世で割とあちこちで言われていた事だ。
このひとがある程度の物理的戦闘力を持っていれば、キルバーンは登場しなかったかもしれない。
ぐぬぬ。所詮はあたしのような端役に、仕留められる敵ではないということか。くそ。
そうしている間に、地上の戦士たちの勢いは増していき、逆に敵はその数を減らしている。
ふと視線を移せば、チウがまださっきのバアラックと戦っており、一連の攻撃を耐え切って自分のターンに移る宣言をしたあたりで、小鬼たちが彼の頑丈さと気迫に、腰を抜かしたのが見えた。
…あ、そーいやこのシーン原作にあったかも。
「ううっ…あああっ…!!!
……ミ、ミストバーン様ァッ…!!!」
その矮躯が縋るように駆け寄ったのは、ロン先生と斬り結んでは離れるを繰り返していたミストバーンが、ちょうど先生から間合いを取り直した瞬間の事だった。
「こんなっ…こんなはずではっ…!!!
魔界の精鋭モンスターが、何百匹もいたのにっ…!!!」
そのミストバーンの衣の裾にしがみついて狼狽するザボエラの言う通り、あれだけいた
そろそろ自分に危険がないと判断して、あたしは先生のそばに駆け寄る。
「…あなどったな。
こいつの言う通り、魔界の
…ここにいる地上の民たちの方が、少々使命感が上だったようだ…!!」
ロン先生はミストバーンを見据えたまま、剣を握っていない方の手で、あたしの肩を掴んで引き寄せた。
…視界の端で、なんとも言えない表情をしているノヴァに気がついたが、見なかった事にする。
つか、こっち見んな。
☆☆☆
「ミストバーン様ぁッ!!!
なにとぞ…なにとぞそのお力をお見せくだされッ!!!
ワシは
いかにもへりくだった事を言いながらも、自分を利用しようとしている魂胆が見え見えのその『屑』を、ミストバーンは
なんという苦しい言い訳か。
地上の烏合の衆を相手にすらこの体たらくで、ダイたちアバンの使徒が向かう
呆れすぎて渇いた笑いしか出てこない。
まあいい。彼らが
ロン・ベルクとの勝負が付かなかったのは、個人的には残念だが想定内だ。
自分もあちらも、全力で戦ってはいなかったのだから、そろそろ潮時だろう。
そしてその前にこの『屑』の為に、ひと肌脱いでやる義理はない。
互いの立場の違いと、己がどのような局面に立たされているかを冷静に教えてやった後で、まだ縋り付いて来ようとする『屑』に、ミストバーンは初めて怒りの感情を込めた視線を向けて、言い放った。
「…たまには、自分の手足を動かせ…!」
一応この同じタイムテーブルで、
ですが、原作では地上の戦いが一旦終了するまでの間に、