DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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或いは『名工師弟は2人の世界に突入する』。
師弟コンビ、自覚なしにいちゃつく回。
そしてちょっとイケメンワニが切ない話。


30・運命の分岐点1

 二本の剣を両手に、ロン先生が超魔ゾンビを睨みつけていた。

 その視線の鋭さに、恐らくは中の人の反応が表に出たのだろう、超魔ゾンビはビクッと身を竦ませて、その動きが止まる。

 まあ視線の鋭さもあるが、先生の身体全体を、研ぎ澄まされた刃のような闘気が覆っているというのもあるんだろう。

 というか、『ロン・ベルク』が闘気を使って戦うタイプの剣士だった事は、今この瞬間まであたしは知らなかった。

 …ああでも、さっきあたしに向かったミストバーンの闘魔滅砕陣を霧散させたのは、確かに闘気を纏った剣だったっけ。

 今手にしているそれに直接闘気を込めたら、どれほどの破壊力を持つものか、もはや想像すらできないが、とりあえず…

 

「…聖石で使用者(マスター)登録しておいて良かったですね。

 ロン先生の意志で斬るものを選別できるのでなければ、収める鞘ですら斬ってしまっていたでしょうから」

 …まだ呆然としたままのノヴァの腕の中で(さっきからさりげなく脱出を試みているのだが、なんか硬直してしまっていて離してくれない)、呑気にあたしがそう声をかけると、文字通りの触れれば切れるような空気が不意に和らぎ、ロン先生の視線は再びあたしに向いた。

 

「…それでも、完成したものを改めて見た時、使わずに済むのならば永遠に隠しておこうと決意したんだが、な」

 あたしの言葉に答えたロン先生のその言葉を聞き、あたしはあくまで心の中でスライディング土下座を敢行する。

 

「完成したのを見せてくれなかったのってそういう理由だったんですね!

 厨二臭いとか散々言って申し訳ありませんでした!!」

 欲しかった剣が完成したのに、それを封印しなければならなかったのは、先生にとっては結構な決意だったんじゃなかろうか。

 そして、それをここで使う事によって、その脅威を世界の要人や強豪の前で知らしめる事も。

 そんな全てを先生は今この瞬間まで、あたしを巻き込まないつもりで、自分1人が背負う気でいた。

 …あたしが背負ったものを、判った上で。

 

「…もっとも、製作段階で気がついたものの、出来上がりがどうなるかという興味と好奇心に、オレ自身抗えなかったのも事実だがな。

 まったく、とんでもないモノを作ってくれたモンだ」

「いや作ったの先生ですよね!?」

 その決意を察して胸の奥が痛んだのも束の間、この剣の形をした最凶兵器を生み出してしまった責任をアタシにも押しつける気であるらしい発言に、あたしは反射的につっこんでいた。が、

 

「本来想定したもののポテンシャルを遥かに上回るばかりか、余計な機能のついた魔法インゴットを錬金したのはおまえだ、リリィ」

「ぐぬぬ」

 そう言われると反論できない。

 結局はあたし達2人とも、この責任を取らされる事になるのだろうし、先生はそれを既に覚悟している。

 

「だが現実問題として、今の状況でコイツをおいて、使える武器は他に存在しない。

 …だから、最後の確認だ、リリィ。

 この戦いをこちらの勝利で終えたら、この地上をオレと去る覚悟はできているな?」

 

 …だから。

 

「はい」

 

 …ロン先生の問いかけに、躊躇いなくあたしは肯いた。

 

 あたしの目線より一段高い位置から、息を呑んだ音が聞こえる。

 あたしの身体を包んだままのノヴァの腕に一瞬、痛いほどの力がこもった。

 

 …正直な事を言えば、この剣を作成する元々の動機であった技『星皇十字剣』に、この剣の強度が本当に耐えられるかは微妙なところだ。

 いや間違いなく1回は耐えられるが、2回はきっと無理だろう。

 だがそれを使用するまでもなく……ぶっちゃけ振り回してるだけでアイツの身体くらい、普通に切断する事が可能なのは確かだ。

 

「ぬうう〜〜っ!!

 な、なんだかわからんが、そいつが剣である限り恐るるに足ら〜んっ!!!

 ワシのこの超魔ゾンビ(ボディ)の敵ではないわァッ!!」

 …あたし達の一通りの会話のあと、どうやら空気読んで待っててくれたらしいザボエラさんが、大きな拳を振り上げて突進してきた。

 それを見て、ロン先生が再び構えを取る。

 

「ノヴァ、先生の邪魔になるからもっと下がって。

 …あと腕緩めて、痛い」

「あ……すまない。

 けど、どういう事だ、今の話は…?」

 ノヴァを促して魔法陣の内側まで下がらせると、グエンさんが駆け寄ってきて、ノヴァに回復呪文をかけた。

 あとから続くラーハルトやクロコダイン、他の全員があたしに、説明を求める目を向けてくるけど、敢えてそれは見なかった事にする。

 

「…まあ、見ていてください。

 こうなったら、すぐに勝負はつきますから」

 

 ……本当に、すぐに。

 

 恐らくは。

 先ほどのラーハルトのハーケンディストールを耐え切った事で、斬撃でダメージをくらう想定を、今のザボエラは全くしていなかったのだろう。

 先生は、向かってくるその巨体に向けて、闘気を纏わせた左右の剣を、それぞれ軽くひと薙ぎしただけだった。

 超魔ゾンビは先生の、必殺技でもなんでもない斬撃を、まったく無防備に受け止めて…

 

「……わああっ!!!!あっ!?あっ!!あ〜っ!!!?」

 …次の瞬間。

 

 

「あ゛〜〜〜っ!!!!!」

 

 

 世界の強豪をあれほどに苦しめた死肉の巨体は、断末魔の声と共に、切断面から徐々に()()()()()()

 

 ・

 ・

 ・

 

 …魔法インゴットの構成要素は『ミスリル』と『エネルギー物質』。

 そしてその『エネルギー物質』とは、炎と氷を魔法融合させたものであり、それは本来であれば互いに打ち消しあう性質のものが、消されまいと力を高め合う事により、莫大なエネルギーを生み出すものである筈だった。

 だが、錬金したあたしがそれをわかっておらず、且つ『炎と氷』が()()()融合された場合には、消滅する力(メドローア)と化す事を無駄に知っていた事が、今のこの事態につながっている。

 あたしが錬金で作り上げたエネルギー物質は、消されまいとする力が莫大なエネルギーを放出するものではなく、消滅させるエネルギーを生み出すものだったのだ。

 それがミスリルに化合され錬金されて、それでも一応は『魔法インゴット』となったわけだが、刃として加工されたそれは、付けてもいない付加効果を、その刀身に帯びる事となった。

 即ち、その刃先が触れた切断面を『消滅』させる力を。

 …一抹の救いは先ほどの会話の通り、ロン先生はこの剣に使用者(マスター)登録を施している為、斬る斬らないはその使用者(マスター)である先生の意志で選択できる事にある。

 つまり斬ってはいけないものを斬る心配はなく、その点に於いては下手すりゃうっかり手を滑らせれば怪我をする髭剃り用の剃刀より遥かに安全なのだが、世間様は勿論そう見てはくれまい。

 

 それらの事をこの場で説明した後、あたしはロン先生の側に歩み寄る。

 傷ひとつなく戦いを終えたその青い手に思わず触れると、先生はフッと笑って、手にしていた剣を地面に突き刺してから、あたしの手を握り返してくれた。

 

「ま…待ってくれ!どういう意味なんだ!?

 さっきの…2人で地上を去るっていうのは…」

 そのあたし達に、ノヴァが焦ったような声をかけてくる。

 その整った顔を見返しながら、あたしは彼に微笑みかけていた。

 

「…あたし達が生み出したモノは、使い方によっては、世界を滅ぼしかねない力だから」

「そういう事だ。

 戦乱の中でならば援けとなるこの力は、平和な時代になればそのまま、脅威と恐怖へと変わる」

 あたしの言葉に続いた先生が、不意にあたしを抱き上げる。

 いつものような片腕抱きじゃない、いわゆる姫抱きの状態で。

 

「…リリィ、本当にいいんだな?

 家族も友人も…好きな男も全て捨てて、オレと共に生きる事になるんだぞ。

 さっきも言った通り、人間とは生きる時間の違うオレには何でもない事だが、おまえにとっては一生だ」

「好きな男なんて、そもそもこの地上に居ませんし」

 嘘は言っていない。

 あたしの唯一想う男は、このタイミングなら恐らくは今、上空に浮かぶあの大魔宮の中で、勇者ダイと戦っているまさに真っ最中の筈で…そして間もなく、この世界のどこにも存在しなくなる。

 大体、ソレ言うなら先生だって同じだろう。

 まあ、クロコダインやラーハルトの前だから敢えて言わな…あれ?クロコダイン居ないな?

 ………まあいっか。

 

「てゆーかロン先生こそ、この先あたし無しで、健康的な生活送れると思うんですか?

 ご心配なく。どこに居たって、先生の食事や飲酒の管理は徹底させていただきますから。

 先生のことは、あたしが守ります!」

「…逆だ、馬鹿弟子」

 呆れたように言いながらも、先生が口元に浮かべた笑みは、今まで見た事がないくらい優しげなものだった。

 

 ☆☆☆

 

 消滅を続ける肉塊に隠れながら、息も絶え絶えに自分の小さな身体を這いずらせて、岩壁に囲まれた小道にたどりつき、なんとか身を隠したと思った刹那、ザボエラは自身の周囲に突然、大きな影が差した事に気がついた。

 反射的に重い顔を上げ、状況を把握して驚愕と共に絶望する。

 ザボエラは自身の前に文字通り立ちはだかる壁を見つめ、数瞬固まったが、それでも意を決して、また一縷の望みをかけてそれに語りかける。

 

「…よく気付いたのぉ…クロコダイン」

「おまえのしぶとさは十二分に承知だ」

 長年にわたり、地上のモンスターの長として君臨してきた巨体のリザードマンが答える声は、にべもない。

 

「…だが一人で追ってくるとは、甘いのォ…ワシはまだ、策を残しているやも…」

 それでも、これまでずっと己より下に見てきた者に弱みを見せるのも悔しく、ザボエラは事更に余裕ぶった笑みを浮かべてみせた。が、

 

「それは無い!」

 それはあっさりと看破され、一蹴される。

 

「おまえの性格なら、あれだけやられれば確実に、ひとまず遠くへ逃げるはず。

 追って捕まるあたりに這っている時点で、既に魔法力もアイテムも、尽きているという何よりの証拠!

 …ロン・ベルクどのの攻撃でおまえは全魔力を失い、脱出が精一杯だったのだろう。

 今度こそ『万策尽きた』。ザボエラ、最期の時だ…!!!」

 巨大な戦斧を構えたまま、淡々と紡がれるクロコダインの言葉の中に、僅かならぬ哀れみの感情を見てとった瞬間、ザボエラの心を支配したのは怒りと屈辱だった。

 人間やあの半魔族の女に影響されて妙な知恵をつけたが、こいつの本質は馬鹿な獣である筈。

 それがワシに、哀れみを見せるだと?

 …いや、だがここに現れたのがこのお人好しなのは、ワシにとってのチャンスの筈。

 そう、この期に及んでザボエラは、未だ己の生を諦めてはいなかった。

 

「…クロコダイン。

 確かに、おまえの言う通り、もはやワシには何の策もない。

 このままおまえに殺される以外の道はないんじゃ。

 それも仕方あるまい…ワシが今までにしてきた事を思えば…」

 …そして、命乞いに繋げる為の言葉を紡いでいくうちに、ふとそれを思い出したのを、彼は天啓と受け取った。

 あの女。ずっと見覚えがあると思っていた。

 かつて、超魔生物の実験用素体を作る為の、母胎として選んだ人間の女。

 すっかり忘れていたが、あの半魔族、あれにそっくりではなかったか。

 ……なるほど、そういう事か。

 ワシの毒との魔力相性も、半端モンの身には過ぎるほどの呪文適性の高さも、そう考えれば納得できる。

 そしてこのデクの坊があれに懸想している事くらい、ワシの目にはお見通しよ。

 ザボエラは地面に両手をつけて頭を下げ、土下座の姿勢を取る。

 もっとも今の今まで腹這いで移動していたわけで、姿勢としては頭を下げただけでそれほどには変わらない。

 

「…だが、そこを敢えて頼む!見逃してくれいっ!!

 今後は魔王軍に協力せんと誓うっ!!!

 もはやこの世にたった一人の娘に対して、顔向けができんようなマネは二度とせんっ!!」

「娘……?」

 よし、食いついてきた。

 地面につけた手の、爪の先から、ジワリと液体が滲む。

 汗ではなく、その身体の裡で調合した毒液。

 魔族である彼が生まれながらに持つ、彼独自の特殊能力だ。

 

「確かにさっきは絞め殺そうとしたが、決して本意ではなかったんじゃっ!!」

「では……おまえが、グエンの……!

 グエンは…それを知っているのか?」

「知るわけがないッ!

 女がワシの子を産んでいた事も、初めて会うた時に気付いたのじゃ!

 じゃが…じゃが、ワシはぁッ…!!」

 俯いているせいで見えないが、驚きのあまり間抜けな表情を浮かべているだろうワニの、身の程知らずにもこちらに向けた同情心に働きかけて、ザボエラは密かにほくそ笑む。

 近寄ってきてこちらに差し伸べた手にこの爪を立て、ひと擦りでもすれば、このウドの大木を、意識を奪い思いのままに操ってやれる。

 違う、こいつは材木。ワシの未来の踏み台をつくる為の。

 かかれ…乗ってこい!!

 

 …ズゥン!

 

 唐突に地響きが轟き、自分の身体の少し横に、クロコダインが掲げていた巨大な戦斧の、刃の部分が地面にめり込んでいるのが、ザボエラの目に映る。

 それはこのワニが武器を手放した事を示す、彼にとっては祝砲のような音だった。

 

「……そうか。わかった、ザボエラよ」

 更に、大きな気配が動き、先ほどと同じように大きな影が、ザボエラの小さな身体を覆う。

 かかった!かかりよったぞ、このバカめがッ!

 大きな手の気配が近寄ってくるのに狙いを定め、ザボエラは歓喜の表情を浮かべながら、その手にまるで子猫のような動きで躍りかかった。

 ほんのひと擦り。それで済む。

 

 ……筈だった。

 

 狙っていたその手が目線より高く上げられ、反射的に見上げたその先に、ザボエラが見たもの。

 それはクロコダインのもう片方の手で、軽く支えられていた斧の柄が、支えを外されるまさにその瞬間だった。

 

「ぐぎゃああああっ!!!」

 ぐしゃりと音を立てて、差し伸ばした両腕がそれに圧し潰される。

 そもそも巨体の、そして剛力自慢の獣人が、両手を使って扱う武器。

 落下速度までついたその重量は計り知れない。

 むしろ腕だけで済んで良かったくらいだが、ザボエラの身体はその腕にかかる重みにより、完全に地面に縫いつけられる形となった。

 

「クロコダイン!

 きっ…貴様ァッ、ワシに絆されたフリをっ…!!!」

 その言葉が途中で止まったのは、硬い鱗に覆われたクロコダインの掌に、可視するほどに凝縮された闘気の塊を見たからだ。

 それはまさしくクロコダインの必殺の技で、それがまさにザボエラの頭上に落とされようとしている。

 この距離、そしてこの状況では、いかなザボエラでも避ける事は不可能だ。

 

「……ザボエラよ。頭の悪いオレだが、騙され続けたおかげで、ひとつ物を知った…それは…、

 

 この世には本当に、煮ても焼いても喰えぬヤツがいる!

 

 …という事だ!!」

「まっ、待てクロコダイン!!待っ……」

 

 瞬間、闘気の塊が眩しい光を放って、妖魔司教と呼ばれた魔族の老人の、その肉体ごと魂を、この地上から消し去っていた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 …先ほどのザボエラの言葉は、命乞いの上の妄言だと片付けるべきなのだろう。

 だがグエンの生い立ちや、半分人間の血が流れているにもかかわらずの魔力の高さ、奴の持つ毒に対する耐性など、そう言われれば符合する部分が多すぎる。

 しかし…もしそれが事実であれば、グエンは間違いなく己の存在を責める筈だ。

 

 …オレは、グエンの父親をこの手にかけたのかもしれない。

 ヤツの所業を考えれば後悔する気はないが、彼女が真実を知る権利を握り潰した事だけは確かな事実。

 

 “…あなたは、高潔な武人だわ。

 少し言葉を交わせばわかる”

 初めて会って助けられたあの日、彼女がオレに言った言葉。

 思えばあの時にはもう、オレは彼女に惹かれていたのだろう。

 だが、真実を闇に葬らんとするオレのこの行為は、彼女の言う『高潔な武人』には程遠い。

 

 だから。

 この罪は、彼女の出生の秘密とともに、オレが一生この胸に抱えて生きていこう。

 そしてその戒めとして、彼女への想いもまた、この身の裡に封じる事にする。

 

 “クロコダイン、あなたは天才よ!愛してるわ!!”

 いつか戦いの最中に、恐らくテンションが上がった状態で口走った彼女の言葉に、柄にもなく胸が騒いだ事を思い出す。

 彼女の言う『愛』が、友愛に過ぎない事は判っていても。

 

 

 ──オレも、おまえを愛している

 

 

 おまえの幸せだけを願い、全てを心に封じて生きていく事こそ、今のオレに示せる、唯一の愛の証だ。

 

 

「クロコダイン!

 とうとう倒したのか、この妖怪ジジイを!!」

 と、少し離れた場所から駆け寄ってくる人間の老人の声に我に返ったオレは、微かに溢れかけた涙を払って、頷いた。




さらばザボエラ。
あの件、本当は『そうなんだろうな』と仄めかすのみの台詞を羅列して構成しようと思っていたのに……単純に技量不足でした(爆

そしてグエンのクロコダインルートのフラグ、ここで折れました(爆
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