DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
外伝割り込み投稿してます。
或いは『名工師弟は2人の世界への突入を邪魔される』。
ここは前話後半のクロコダインサイドの話と、ほぼ同時進行になります。
恐らく生活の拠点は魔界になるんだろうとか、それでも自給自足の体制が整うまでは地上を行き来しなければいけないだろうとか、そもそも太陽の光の恩恵を受けない地で畑とか作れるんだろうかとか、そんな事を先生の腕の中で考えていたら、
「…そんな。そんな事はさせない!!
要は、その剣をあなたが持たなければいいだけでしょう?」
「えっ!?」
…唐突にあたし達の会話に割り込んできた声に、驚いてそちらを見るより先に、駆け寄ってきたノヴァは何故か、先生の剣を地面から引き抜き、手にしていた。
「え?ちょ」
「………御免!!」
パキイィン!
硬質な音を立てて、先生がずっと渇望して、ようやく手にした筈の完成品の剣が、北の勇者の手刀により根本からパッキリ折られる。
あまりのことに一瞬固まったあたし達に構わず、ノヴァは非情にも、もう一本にも手をかけ同じことをした。
この奇行にあたしと先生だけでなく、先ほどのあたしの説明にドン引きしていた世界の強豪達も、驚いて声も出せずに固まっている。
一拍のち、ようやく状況が呑み込めた先生が一瞬、あたしと目を合わせ、あたしを地面に下ろしながら、諭すようにノヴァに声をかけた。
「…そんな事をしても恐らく無駄だ。
たとえ『この剣』が無くとも、オレとリリィが居る限り、新たに生み出される可能性はゼロじゃないんだ。
オレ達自身にその意志がなくとも、世界のすべてがそれを信じるかは別の話。
それを生み出せるオレとリリィの存在丸ごとが、平和な世には邪魔なだけなのだ」
…物語では、ロン・ベルクの腕という代償を支払っていた事でその可能性は払拭されて、彼はその先も地上で生きる事を許されたが、今回の場合は違う。
あたし達の存在は、地上ではこれから先、世界の不安を呼び起こす種であり、最悪命を、良くても自由を、奪われる結果となりかねない。
「平和な世に於いて、強い力は恐怖と化す…確かにそれは事実ですが、今後考えられる事態のひとつでしかありません」
そしてそこに、柔らかだが凛とした声音が入ってきて、その場の全員が背筋を伸ばした。
「フローラ様!」
悲痛な声でその人の名を呼んだノヴァが、あたし達を庇うように前に立ち塞がったが、今や世界の先導者たるカールの女王は、あたしとロン先生に視線を向ける。
「…私も一国の王として、この状況を見なかった事にはできません。
ですが、ロン・ベルク。リリィ。
あなた方は自分たちさえ居なければ、その事態を避けられると思っていますか?」
「えっ?」
思いもよらないフローラ様の問いかけに、あたしは一瞬固まった。
フローラ様が続ける。
「…私は、この大魔王戦に於いて、世界の戦士たちの総司令官としてここに居ます。
自身の国すら守れずにこの場に立っているという時点で、私にはこの先、判断を誤ることは許されない。
更にこの戦いよりもむしろ、その先にまで目を向けなければならないのです。
今は共通の敵に、世界が一丸となって立ち向かっていますが、それがなくなった後も、その関係が続くとは限りません」
「あなた方の住むランカークス村は、ベンガーナ領の村です。
そして今、あなた方の有能さが示されてしまった以上、ここでもし私が、あなた方の出奔を許してしまえば、ベンガーナはこの大魔王戦を終えた後、『貴重な人的財産を損なった』という名目で、私とカール王国に対して賠償を求める事になるでしょう。
勿論、今の私個人には、賠償に耐える財産がありませんし、カールという国は魔王軍に滅ぼされてしまっていますから、最終的にはそれは領土の譲渡という形で決着する筈です。
恐らく殆どのカール領はベンガーナ領として国境線が書き換えられ、ギルドメイン大陸の地図から、カール王国は消える」
ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえる。
それは確かに考えられる未来だ。
「…けれどそれは、そのまま進めば、の話。
実際には、ベンガーナが今よりも力をつける事に、世界各国が危機感を抱くことになりましょう。
現時点で復興の目処が立たないリンガイアや、厭戦主義のテランがどう出るかは判りませんが、ロモスやパプニカといった大国は、必然的にカールに助力する形で、それを阻止する方向に動くはず。
それは最悪、世界大戦に突入する恐れがあるという事です。
単純にあなた方が去ればいいという問題ではないのです」
そこまで言って息を一つ吐く、その表情からは感情が読み取れず、それが却って、そのひとの苦しい決断を窺わせた。
…確かに前世に於いても、要人の暗殺に対する報復と、周辺諸国、それぞれの思惑による双方への支持が、世界大戦に繋がった事例がある。
そんな要人と自分たちを比較するのは些か恐れ多いけど。
「だとすればあなた方にはむしろ、目の届くところに居てもらわなければなりません」
そう言ったフローラ様の目が、そこで初めて揺れた。
「それは、オレ達を世界の監視下に置くということだな」
問いかけながら、先生はあたしの肩をしっかりと抱き込む。
思わず見上げたその顔は、先ほどの優しい笑みとは別人のように、冷たく強い気を孕んでいた。
「…こうなると思ったんだ。どうする?リリィ」
状況次第ではここからルーラで飛ぶ事も視野に入れているのだろう。
あたしは、ほぼ無意識に先生の体に身を寄せ、その服の端を握りしめていた。と、
「リリィ…プロポーズは一旦撤回する。
誤解しないでほしいんだが、ボクの、キミへの気持ちは変わらない。
世界一の鍛冶師になるよりも、たとえ名前だけでも勇者のままでいる方が、キミのことを守れそうだからだ」
…吐きそうなほどの緊張感を破ったのは、この場に若干そぐわない台詞だった。
瞬間、周囲に声にならない騒めきが広がる。
いやそれ今言うこと?てゆーかプロポーズって何?
ん?もしかして昨日のアレ、告白通り越して求婚だったの!?
いや確かに結婚の話からの流れだったけど!
ほら、先生まであたしを見下ろしながら、明らかに『そんな事あったのか』って目してるし!
「監視役が必要だというなら、ボクがなる。
『北の勇者』たるボクが側で見守って、キミ達が世界の敵になり得ない事を、この名にかけて証明していく。
そして世界の思惑から、キミ達の自由を守る。
万一、キミ達が変心したならば、今度こそ命を懸けて、それを阻止してみせる。
…だから、地上を去るなんて言わないでくれ。
ボクら地上の人間を、残りの一生を投げうってでも、守ろうとした恩人たちを追放するような、恩知らずにはさせないでくれ!!!」
「ノヴァ……!」
必死の様相で説得してくるノヴァの、その気持ちはとてもありがたいとは思う。
けどそれはあたし達の事情に、彼までもを巻き込む事に他ならなくて。
「…提案があります、フローラ女王」
そこにかかったのは先ほどの女王様のものとは違う、女性の声だった。
振り返った先に居るのは、プラチナブロンドの魔族の女性。
グエンさんは一度あたしに視線を向けると、勝気そうな微笑みを浮かべる。
わずかに動いた唇が、明らかに『だいじょうぶ』と言ったのがわかった。
「御挨拶が遅れて申し訳ありません。
わたしは勇者パーティーの僧侶で、グエンと申します。
半分だけですが、見ての通り魔族の血が流れております。
それ故に、彼らの抱く危惧は、ここにいる他の皆さんよりも、遥かに理解していると自負しますわ」
「グエンさん…!」
そうだった。
グエンさんはダイと出会うまでは、魔族である事を隠しながら旅をしており、知られればその度に、その地を離れなければならない生活を強いられてきたという。
だから、人間達に恐れられて拒絶されたダイの哀しみに共感できた。
……それはいいが、なんか時々チラチラとこちらに向く視線に、ちょっと面白そうなものを見る色が混じってる気がするのはあたしの気のせいなんだろうか?
「パプニカのレオナ姫は、魔王軍の軍団長だった2人と、半分魔族であるわたしを味方に引き入れた事を、それこそ大陸中に出向いて知らしめました。
姫様曰く、よく知らないからひとは恐れを抱く。
知らないことは教えてあげればいいのだと。
わたしも同意見ですわ。
理解して、安心してもらうには、言葉を交さなければ駄目。
けど逆に、言葉さえ交わせれば、いつかは分かり合える。
現に、わたしやクロコダイン、そしてヒュンケルも、それによって自由を奪われる事なく『地上の民』である事を認められました。
…それと同じことを、世界規模で行なえばいいのですわ。
わたし達は、彼らに助けられたのだと、ここに居る皆が、世界中に訴えていくのです。
そもそもこの事はロンやリリィだけではなく、上の…ダイ達が勝利して地上に戻ってきた、その後にだって、必要になる事ですもの。
彼らの勝利を、本当の地上の勝利とする為に。
彼らが胸を張って、この世界は自分たちが守ったのだと言えるように。
あと個人的にノヴァとロンのリリィを巡る三角関係の行方とかもっと見ていたむぐう」
…多分先の発言を台無しにするような事言おうとした残念美女の口を、青い大きな手が塞ぐ。
そのままグエンさんを抱き込むようにしてこちらに視線を向けたラーハルトが、続けるように言葉を発した。
「…『人間』に迫害されていたオレを守ってくれたのは、バラン様だった。
だから正直オレはまだ、『人間』全てを信じる気にはなれん。
だが、一度は魔王軍に与したバラン様やオレを、なんのこだわりもなく受け入れて、ダイ様との橋渡しをしてくれたのは、他でもない『人間』であるリリィだ。
その上で更に、戦う力を失い、本来ならかつて滅した国の民たちの恨みを買って殺されていてもおかしくなかったバラン様を、守ろうと動いてくれていたのも。
他の『人間』を信じられなくてもリリィだけは、オレは信じる。
こいつが世界の敵になんぞなる筈がない。
今ここには居ないが、バラン様とて同じ意見だろう」
…あたしはコイツに嫌われていると思っていたから、その言葉にちょっとだけ驚いている。
「オレ達も伝えていくぞ!
嬢ちゃんとその魔族の先生が居なきゃ、ここでオレ達は全滅してたかもしれねえんだからな!!」
「そうだ!
世界の敵どころか、それ考えたら2人は英雄じゃないか!」
「命を救ってもらった礼に、今度はオレ達みんなの力で、あんた方を守ってやるって!」
「あにまる子ちゃんは我らが獣王遊撃隊の隊員12号!
隊長は部下を守るものなのだっ!!
他の隊員たちも、仲間を守ることになんの躊躇いもある筈がない!そうだなっ!?」
「ガオッ!」「キキィッ!」「うむ」
地上の戦士たちが次々と、その言葉に賛同する声を上げ、その波が全体に広がっていく。
「…と、いう事ですよ。リリィ。ロン・ベルク。
ここにいる者たちは、いわば世界の代表。
皆にこう言わせたという事は、世界があなた達を認め、守る意志を示した事に他なりません。
それでも他の思惑が、あなた達2人を排除するというのであれば、この強者達はむしろ、世界に向けて弓を引くでしょうから。
……彼らの覚悟を聞いた上で、それでもまだあなた達は、この地上から去りますか?」
最後にかかったフローラ女王の言葉に、あたしと先生は互いの顔を見合わせる。
「ね?大丈夫だったでしょう?」
いつの間にかそばに来ていたグエンさんが、あたしの耳元に顔を近づけて、小声で言った。
「…人間の群集心理は、攻撃的な方向に向かうと、本当に恐いものよ。
けど逆に、その方向性を味方につける事さえできれば、こんなに頼もしい力はないわ。
神々が与えた『人間の心』の力って、ひょっとしたらこういう事も、そのひとつなのかもしれないわね」
…恐らくは、それにより何度も苦難を強いられてきただろうグエンさんが、未だ盛り上がる戦士たちを一度振り返って続けた言葉は、彼女自身がその恐怖を乗り越えた事の証明だったかもしれない。
「…グエン、礼を言う。
どうやらオレ達はこの先も、この地上で普通に暮らしていけそうだ」
「あら。あの場はわたしが言わなくても、誰かが声をあげたでしょうよ。
…あの女王サマ、絶対この流れに導く為に、一旦悪者になった筈だもの」
…そうだとしたらあのカール女王、とんだ食わせ者だけど。
このどう考えても御都合主義な展開に、それでも目頭が徐々に熱くなっていくのを、あたしは止めることが出来なかった。
気がつけば先生の腕の中で号泣していたあたしを、皆が微笑ましく、ノヴァだけが少し切なげな目で見ていた事を、あたしは知らない。
・・・
「…ところで、ノヴァ。
こんな事、あまり言いたくはないのだけれど。
…ロンの剣を折るのは、大魔王との戦いが終わってからでも良かったのではないかしら?」
「あっ」
…先生の服をいいだけ湿らせたあたしが、ようやく平静を取り戻した頃、呆れたような声でそう言ったグエンさんは、半目でノヴァを睨みつけていた。
見ればさっきまで居なかったクロコダインが戻ってきており、ラーハルトと共に魔法陣の側に陣取って、どうやらこれからダイ達の跡を追う準備に取り掛かっているらしい。
準備といっても、メルルやエイミが彼らに回復呪文を施しているくらいのものだが。
「リリィをロンに持ってかれるかもしれない事態に、焦ったのは判るんだけどねえ。
……話の流れから察するに、プロポーズって『世界一の鍛冶師になってやる』とでも言ったのかしら?」
「なってやるなんて言い方はしてない!」
「つまり、似たような事は言ったわけね!?」
…なんだかとても嬉しそうにノヴァに詰め寄るグエンさんと、それに対して反論しつつ墓穴を掘っていくノヴァに、世界の戦士たちが笑い声をあげた。
「……けど、残念ね。
あれがあれば、ロンにもわたし達と共に、追加戦力になってもらえたでしょうに、丸腰で戦えとはいくらなんでも言えないじゃないの」
「…それでしたら、代わりに私を連れて行って頂けませんか?」
「え?」
…そこに唐突にかかった声に、全員が注目する。
そこに立っていたのは、コウモリの羽みたいなのが両耳のところについたデザインの赤い帽子を被り、目には角状の突起がついたぐるぐる模様の眼鏡をかけた、帯剣した細身の男性だった。
「初めまして。わたくし、アブレラ・エ・ジェントリィと申します旅の剣士です。
微力ながらこの度の魔王軍との戦いに、わたくしも参加させていただこうと思い、この場に馳せ参じた次第ですが……ハハハ。
なにぶん、生まれついての暢気者の気性ゆえ、些か辿り着くのが遅かったようで。
こちらで戦えなかったお詫びとして、せめてお嬢さん方の護衛だけでも務めさせて頂きたく申し出ました次第。
どうか、お聞き届け願えたらと思います」
そう言って一礼したアブレラと名乗る珍妙な剣士の、その正体を頭の中のオッサンがあっさり説明してくれて、あたしはそれを茫然と受け止める。
確かにこのひとは最終決戦で、勇者パーティーと共に大魔王バーンの前に立つひとりではある。
どのようにして
『分岐点』の意味。
ロン・ベルクの剣の完成が間に合わず、原作通り両腕破壊ルートに突入していた場合、リリィはその時点で一生をロン・ベルクに捧げ、彼を支えて生きる事になってました。
その事は、リリィ編9話で魔法インゴットを入手した際に、彼女の中で覚悟ができていた事のひとつでした。
その事に気がついていたロン・ベルクは最初は彼女の決意を拒みますが、それでも意志を曲げないリリィに、結局は折れる事に。
というかロン・ベルクの破壊された両腕、実はリリィが触れている間だけは『状態改善』の能力により、元の通りとはいかないまでも、日常生活に困らない程度には動かす事が可能になるので、ロン・ベルクは事実上リリィ無しでは生きられない状態となって、この場合彼に選択肢は既になかったりします(笑
少なくともマァムが
なので実際の分岐はその時か、またはそもそも
更に今回の流れでも、ノヴァの懇願とフローラの誘導、そしてグエンの言葉がなければ、世界を滅ぼす力を生み出す可能性があるこの師弟は、迫害を受ける前にこの地上から2人で逃亡しています。
そして最終的には『創剣(または双剣)の魔王』と呼ばれて魔界に居城を据えたロン・ベルクの、リリィは伴侶として一生を共に過ごす事になります。
この場合は互いに意志は確認済みなので、前者の場合に比べるとゴタつくことはないですし、前者後者どちらにしろこのロン・ベルクルート、リリィにとってもロン・ベルクにとっても、そこに至る覚悟が悲壮な割に、その人生は割と幸せなものとなります。
リリィの寿命が尽きた後、残されたロン・ベルクがその後40年ちかく引きこもる程度には、いい奥さんになるのですよ、リリィは。
つまりノヴァ君、最大のライバルのフラグを剣と共に折りました(爆
更にこの件で弟子との駆け落ち未遂という醜態を想い人の前で晒した事で、ロン・ベルクはリリィだけでなく、グエンとのフラグも同時に折れてます。