DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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33・武器屋の娘は戦場へ赴く

 …あたしが持つ原作知識と、あたしがバランから聞いた話によれば、彼を助けた時の聖母竜(マザードラゴン)は、最初、確かに絶望していた。

 力というものにどうやら上限はなく、何度滅ぼされても悪の力は、代を重ねるに従い膨れ上がっていく。

 今世を席巻する大魔王バーンの力は、本来それを粛正する筈の(ドラゴン)の騎士はおろか、もはや神々の力すら越えていると。

 彼女自身既にその力を失っている上、例え可能であったとしても、この先何度自分の子を死地に向かわせたところで、悪の力を滅せはしないのだと。

 その静かな嘆きの心に一石を投じたのは、バランが訴えた我が子ダイの存在。

 力が全てを司る世界で、その魂をもって悪を討つ。

 それがまさしく、力を超えた強さという事で。

 知恵や心も、強さのひとつ。

 アバンの使徒が最終局面で改めて意識することになるその言葉の意味するところは、大魔王バーンの信念とは、完全に真逆のところにある。

 

 ………けどね!

 それを為す事を本来期待されるべきは、この世界の主人公たる勇者ダイである筈だけど!

 少なくともイナカ村のオンボロ武器屋の娘が期待される事じゃねえわ!荷が重すぎるわ!!

 配役を明らかに間違えとるだろうが!!

 てゆーか、先ほどから見ていたって言ったけど、確かアンタ、ここにたどり着くのが遅れて戦いに参加できなかったって言わなかったっけ!?

 見てたって一体どのシーンから見てたの!?

 と、色々つっこみたい部分がありつつも、既にどれからつっこんでいいのかわからない。

 そもそもつっこんだら負けなような気すらしている。

 

 …そんなこんなで、アブレラさんはあたしに参戦の意志があるか、もう一度訊ねてきた。

 そもそもあたしに選択権があるのか逆に聞いてみると、それに対しては肯定してくれたものの、その後に続く確認の質問とともに、何か見透かしたような視線があたしを捉える。

 

「まあ、これ以上は私の口からは言いませんけど、あなたには心残りがある筈です。

 例えばなにか一言?ど〜うしても言ってやりたい相手がいる、とか?

 …ていうか、実のところその人物とは、私も些か因縁がありまして。

 2人なら心強いですし〜、私と一緒に彼に、文句のひとつも言いに行っちゃいません?」

 …いやなにその、親友の片想い中の先輩の卒業式直前に、告白を促す女子高校生みたいなノリ。

 てゆーか待て。

 あたし(の頭の中のオッサン)が『みやぶる』で看破した正体に間違いがないなら、このひとは3ヶ月ほどの期間、地上の情報からは隔絶された環境にいた筈だ。

 それが、一体どこまで事情を知っているというのだろう。

 どう考えてもこの言葉、あたしとハドラーの奇妙な交流を、知っているようにしか聞こえないんだけど。

 

『この方、地上に戻ってきたのがちょうど今日の明け方頃で、その後すぐに大魔道士マトリフの隠れ家にルーラで飛んで、そこで身支度を整えてきてますね〜。

 そこに至る3ヶ月もの間、入浴も着替えもほぼ出来なかったようですから、おふたりが顔を合わせられた時には…ええ、何というか、相当アレな姿だったようです。

 マトリフさん曰く『なんか、見ちゃいけねえモンを見ちまったような気がする』との事で。

 その時に彼から、居なかった間の情報も仕入れてますので、リリィさんとハドラーの事情についても、お兄さんが相談したくらいのところまでは聞いたみたいです』

 ああそうでしたか!そうだよね!

 珍妙な姿になってはいるけど垢じみてないし、髭もきれいにあたって、服もセンスはともかくきちんと洗濯したうえパリッと糊付けしたものを身につけてて、ちゃんと身綺麗にしてきてるもんね!

 てゆーか、最近とみに体調を崩しがちなマトリフ様の前にいきなりルーラで現れるとか、結構考えなしだなこのひと!

 状況が状況だけに、最悪びっくりして心臓止まるよ!?

 そこまでいかなくても腰抜かして転倒したり、その拍子にどっかぶつけて怪我したりとか、老人驚かせるとか結構危険だよ!?

 お年寄りは大切に!配慮は欠かさない!

 隣人との距離感が近いイナカ村じゃ共通認識だから!!

 ……マトリフ様大丈夫かな、腰とか痛めてなきゃいいけど。

 無事に帰れたら様子見に行こう。差し入れ持って。

 初めて訪ねた(兄に連れてかれた)時に作ったうちの薬草スープは、『色がキモチ悪い』『オレは野菜も牛乳も好きじゃねえ』とか言われて実は結構不評だった(一応残さずに食べてはくれたらしい)から、なにか見た目にも美味しい別のものを。

 それはさておき、どうやら我らが同士たるビーストくんこと拳聖ブロキーナ様は、そのアブレラさんの正体を素で見抜いてるっぽい。

 あと、この地上の戦士たちの総司令官であるカール女王も、なんかちょっと青い顔して彼を凝視してるんだけど、できれば本格的に気付くのはもう少し後にして欲しいところだ。

 で、当のアブレラさん本人はそんな事を意に介さずに、今この瞬間もあたしの答えを待っているんだが…

 

 ……正直、怖い。

 戦いそのものよりも、死を目前にしたハドラーと、もう一度向き合う事が。

 だって、それをしてしまえばあたしは確実に、あのひとの最期を目にすることになる。

 前の戦いでダイやグエンさんについていって、その覚悟を問われた時には大丈夫と答えはしたけど、あれはあの場で実際には、そうならない事を知っていたから。

 原作知識とこの神の目、更にギリギリ死なない範囲内としか思えない申し訳程度の特殊能力で、ある程度冷静な判断を下せる余地があるとはいえ、素の『リリィ』は無力な武器屋の娘に過ぎない。

 感情が理性を上回る事だって当然ある。けど。

 

「……あたし、行きます。

 先生、あとのことお願いします」

 気がついたら、あたしはそう言っていた。

 あたしを抱え込むノヴァの腕に更に力がこもり、言われた先生はひとつ、ため息をつく。

 

「最終的にはそう言うと思ってた。

 …だから連れてきたくなかったんだ。

 だが…止めたって無駄なんだろう?」

「ごめんなさい。

 けど、あたしにできる事が…あたしにしかできない事があの場にあるというなら、あたし達を認めてくれた地上の皆さんの為にも、そうしたいです」

 …ついでに自分の気持ちにも、はっきりとけりをつけてこよう。

 そうしなければ、あたしはきっと前に進めない。

 この戦いに敗れてしまえばそこで終わりだけど、そうならないならあたしの…まだ13歳のリリィの人生は、それまで生きてきたよりもずっと長く続くんだから。

 その長い人生、後悔を抱えて生きたくはない。

 

 …そうだよ、何が『続きは来世で聞かせてくれ』だ!

 あの時は別れのムードに流されたけど、よく考えたらそんなに待てるか!

 一度転生しといてなんだけど、今生を後悔抱えた上、来世までアンタに縛りつけられちゃたまらんわ!!

 今年の汚れ、今年のうちに…は、ちょっと違う?

 別にいっか。

 

「ちょっと待ってくれ。ボクも……」

「いいえ、ノヴァもうちの先生と一緒に、地上に残っていてください」

 と、ちょっと脳内で盛り上がってる隙に、ノヴァが余計な提案してきたのを慌ててバッサリ斬ると、ちょっとショック受けたみたいな顔された。

 けど、彼の同行を許したら他の皆さんからも手が上がるだろうし、そうなると収拾がつかなくなる。何より。

 

「ここに居る皆さんは確かに世界の強豪ですが、多少の回復はされたと言っても、先の戦いによるダメージがまだ残っています。

 そんな状況でクロコダインやラーハルトといった一線級の戦力があちらに向かうという事は、この魔法陣の守りが、手薄になるという事でもあると思うのです。

 追い討ちはないかと思いますが万イチを考えて、予備戦力として待機していてください」

 …って、本当は終盤の危機を回避するのに、この2人が要るからだけど。

 ザボエラに勝利してひと段落ついたものの、地上の戦いはまだ終わったわけではない。

 この後、勇者たちが戻ってこれない中、地上ではその存亡をかけた爆弾騒ぎが発生する。

 地上に残った者たちだけで解決しなければならないそのミッションの為には、ルーラでその爆弾の元まで行ける&ヒャドの使える者が必要になり、ノヴァはまさにその筆頭なのだから。

(てゆーか、先生もルーラが使えて、更にオーザムにも行ったことはある筈なんだが、原作で最後に行かなかったのは何故なんだろう。自身でヒャドが使えなくてもノヴァを同行させれば、オーザムに飛ぼうとしてノヴァが魔力切れで落っこちる事もなかったろうに。いやアレか。もしかして原作時空での先生はオーザムに行ったことがなかったか、或いはあの時点で既に魔力切れだったのか。まあ、どっちにしろオーザムの柱はニセ勇者パーティーが最終的にはどうにかしてくれるし、あの、柱に向かって彼らが高笑いしながら走っていくシーンは原作中屈指の名シーンだったから、なくならないに越したことはないんだけど)

 …出来れば起動させる前にハドラーの時に使った手で(あの時は起動してたから半分失敗しただけで、起動さえしていなければ一番安全な手段だった…筈)、誰の手も届かないところに捨ててしまうのが一番なんだけど、あたしの異界扉は出すことはできても、グエンさんの協力がなければ開く事ができない以上、あたしだけここに残ってもできることはないし。

 ………てゆーか、思い出した。

 ここの爆弾処理が『停止』しか出来なかったことで、引き起こされる最後の、最悪の事態について。

 今の今まで、それが起きてからグエンさんと一緒に処置すればいいと思ってたけど、起きる前に回避できる可能性がまだ、よく考えたらあの戦場にひとつ残っている。

 そして、その為には今、あたしをそこに連れ出そうとしてるこのひとが物語の中で取る行動を、ほんの少し変えてやる必要があり…それができるのは、確かにあたしだけだ。

 

「…いい加減その手を離せ、ノヴァ。

 こいつがこういう目をする時は、何かしらオレ達には見えないものが見えてる時だ」

 今この場では誰にも言えない決意を密かに固めるあたしを、未だ抱き込んでるノヴァに、ロン先生が言葉をかける。

 どうやら先生の中で彼は、いつのまにか『坊や』から名前に昇格したようだが、ノヴァはその事に気が付いていないようで、ちょっと嫌そうにロン先生を睨みつけた。

 

「…ボクはあなたのそういう、彼女のことは自分が誰よりも判ってるという態度が、一番気に入らないんですけどね」

 少し拗ねたように先生にそう言ってから、ノヴァは少しだけ躊躇ったあと、ゆっくりとあたしから離れる。

 あー。そうか、ロン先生の両腕を守った事で、本来なら弟子入り志願するくらい彼を尊敬する事になるノヴァの、そのきっかけを奪ってしまった事になるのか。

 まあ、この時空には既に、ロン先生の弟子としてあたしが存在する以上、新たに彼を受け入れる事はないと思うけど。

 こう見えて実は人見知りだからね、うちの先生。

 

「……けど、わかったよ、リリィ。

 ボクは、キミを信じてここで待つ。

 だから…必ず、戻ってくるんだ。いいね?」

 その真剣な瞳を見つめ返しながら、あたしは殊更に元気に言葉を返す。

 

「はい。ノヴァもいい子にして、先生と待っててください」

「ぶふっ」

 瞬間、どこからか噴き出す音が聞こえた。

 なにげに周囲を見渡すと、なんか周りのみんなが肩を震わせている。

 魔法使いのフォブスターさんとか、背中向けて咳き込んでるし。

 

「ゲホッ…いや、悪ィ、笑ったりして。

 けど嬢ちゃんにかかっちゃ、北の勇者も形無しだな」

 ゴメスさんがノヴァの背中を軽く叩きながらそう言って、何故かノヴァがため息と共に萎れたような表情になり……次の瞬間、全員が決壊した。

 

 ・・・

 

「…こいつの近くに居るようになれば、おまえもすぐに理解できるようになるさ。

 安全な場所に閉じ込めとくことができん事もな。

 …オレ達を監視するんだろ、北の勇者?」

「ボクが一番に超えなきゃいけない壁は、どうやらあなたのようだ。

 …いつか必ず超えてみせますよ、男として」

 ある程度、笑いの波が収まったあたりで、今度はロン先生が、ノヴァの肩をぽんぽん叩きながら声をかけると、なんだか吹っ切れたように、ノヴァはロン先生に微笑みを返した。

 …なんだかわからないが、仲良くなったようなのでいい事にする。

 

「…という事はあちらへ向かうメンバーはわたしとクロコダイン、ラーハルト、アブレラ、そしてリリィ…」

「あ、ビーストくんも行きたいみたいなんでお願いします。

 彼、格闘術だけでなく回復呪文も使えますんで」

 グエンさんがまとめようとしたあたりですかさず口を挟み、さっきからユラユラ動きながらアブレラさんの後ろにくっついてるビーストくんを巻き込む。

 てゆーか、そっちの端で『私!私!!私!!!私!!!!』ってオーラ出しながらすっごい目でこっち見てる誰とは言わないが女性賢者とか居るけど気がつかなかった事にしとこう。怖い。

 アブレラさんはビーストくんの存在に明らかに『今気付いた』という動きを見せたが、それ以上つっこまずに頷いてみせた。

 この方は原作において、ミストバーンの正体を見極めるくだりで重要な役割を果たすひとだ。

 是非とも連れていかねばなるまい。(まあ、大局を見ればあのくだり、なきゃないでいい気もするけどね。どうせダイとバーンが激突すれば正体判明するし)

 

「ウム。先ほどから見ていたがあの体捌き、只者ではないと感じていた。是非とも頼む」

「クロコダインが認めるならば、わたしに否やはないわ。よろしくね!」

「なんでもいいが、オレの足を引っ張るなよ」

 …そういえばこの人ら、ロモスの武術大会見てない組だっけ。

 死亡確認されてたラーハルトは勿論のこと、クロコダインはパプニカにとどまっていた筈だし、グエンさんはヒュンケルさんについてアバン流の修業をしていたと聞いている。

 この変な布袋の正体が、高名な武術の達人という事は、多分話には聞いているだろうが、実際に見たイメージとはまだ繋がっていないのだろう。

 あとクロコダインに対するグエンさんの信頼度が天井を知らない。

 ビーストくんは彼らの挨拶(になってないやつも居るが)にひょこひょこと頭を下げ、そしてあたしとアブレラさんの側に寄った。と、

 

「ちょっと待ちたまえ!ぼくを忘れてはいないか!?」

 突然に元気いっぱいの声がそこに響き、全員の視線がそちらに向く。

 そこには小さいながらもしっかりと胸を張って立つ、大ねずみの姿。

 確かに彼も原作では、クロコダインやビーストくんと共にあちらに向かっているのだが…

 

「ビーストくんやあにまる子ちゃんが行くのであれば、ぼくも獣王遊撃隊の隊長として…」

「チウ。あなたには、他にやるべきことがあるわ」

「……えっ?」

 あたしがどうすべきか考えている間に、グエンさんの声が、意気込んだチウの言葉を遮った。

 そのチウと目線を合わせてしゃがみながら、グエンさんは微かに微笑む。

 

「クロコダインがいない間、あなたが仲間モンスターをしっかりと統率していた事、様子を見ていればわかるわ。

 そのあなただからこそ、任せたいことがあるのよ」

 そう言って、彼女が綺麗な指で指した先には…先ほどまで交戦していた、今は怯えたように身体を縮めている、2体のバァラックだった。

 …しかも指さされて、明らかにビクッてなってるし。

 

「…彼らは、主人に裏切られた上で、それを失っていて、他に行き場所もない筈。

 生き残ればいずれはこの地上に、居を定める事になるでしょうけど、その為には今、彼らを庇護する者が必要だわ。

 彼らのことを是非、あなたにお願いしたいのよ…駄目かしら?」

 恐らくは。

 あの2体のバァラックを人間たちの中に残しても、ここにいる世界の強豪が、彼らに危害を加える事はないと思う。

 チウがここに残らなかったとしても、他の地上のモンスターも居るわけだし。

 けど、彼ら自身がそれを信じるかはまた別であるし、何かの拍子にその齟齬による軋轢が、不意に生じないとも限らない。

 原作では起きなかった事ではあるが、それを知らないグエンさんは多分そういう、人間以外の種族ゆえに起きうる事態を心配したのだろう。

 そこは彼女でなければ思いもよらなかった部分だ。

 チウは少しの間視線を泳がせていたが、やがて決心したように顔を上げ、先ほど名乗りを上げた時と同じように、高らかに声をあげる。

 

「……わかった!任せてくれたまえ!!」

 言ってから、まだオドオドしているバァラックたちを振り返る。

 

「おまえたちは今をもって、獣王遊撃隊の一員だ!

 今は無理だがこの戦いを無事に終えたら、おまえたちにも遊撃隊のバッジを作ってやるからな!!」

 そう声をかけられたバァラックたちは、つぶらな瞳をうるうるさせ、尊敬のまなざしでチウを見つめた。

 …うーん、いいのかなあ。

 こうなるとこれまでとは逆の『本来いた筈のキャラが居ない』事態が生じるんだけど。

 確かに原作でもチウは、戦闘の役には立たなかったものの、主にヒムが仲間になる際に、精神的な部分で割と重要な役割を担うキャラの筈だし。

 ………………まあいっか。

 そっちの方は最悪、あたしがなんとかしよう。

 

「…助かったぞ、グエン」

「いいえ。ただでさえ思ったよりも大所帯になってしまったし、あまりゾロゾロ向かっても、お互いの行動の妨げになると思っただけ。

 …けど、クロコダイン。あなたもうかうかしていられなくてよ?

 あの子、実力はともかく、器の大きさは並じゃないもの」

 そう言って、やけに張り切ってるチウの後ろ姿に目をやるグエンさんは、なんだか楽しそうだ。

 …多分、チウの事もこれからの地上の民の在り方、人とそれ以外の知性ある種族が、共に生きる未来を作る、その一員と考えているからだろう。

 

「フフッ。そうだな。

 獣王の座はまだまだ譲るわけにはいかん。

 まずはこの戦い、気を引き締めてかからねばな」

「そうしてもらおう。

 全てはダイ様の、そして、ダイ様が守らんとするこの地上の為。

 オレたちは戦って、勝ち残らねばならん」

「そうね。この地上に今、生きている人びと…そしてこれから生まれてくる子供たちの為にも、わたし達は二度と負けるわけにはいかないわ」

「こ、子供!!?……………ああ、そうだな」

 …どうやらグエンさんの言葉の意味を、ラーハルトは若干違うふうに解釈したみたいだけど、まあやる気が出るならそれに越した事はないので、口は挟まないでおく。

 …バランがラーハルトに言った『あれと一緒になったら苦労する』ってのは、間違いなくこういうとこなんだろうな。

 

「じゃあ皆さん、行ってきます!」

 こちらを見守る地上の戦士たちを振り返ってあたしは一礼してから、魔法陣の中心に歩みを進めた。

 そのあたしを囲むように、今厳選したメンバーが、次々魔法陣に入ってくる。

 その最後尾についたアブレラさんは、その手前で一旦足を止めると、ゆっくりと後ろを振り返った。

 

「必ず、帰ってきますよ……今度こそ」

 そう声をかけた彼の視線が捉えていたのは、この場の総司令官である、カール女王だった。

 フローラ様がハッとした表情を浮かべたのを、彼はきっと見なかった事だろう。

 その瞬間にはもう彼はこちらに歩みを進めており、それ以上振り返る事はしなかったのだから。

 

 …少しだけ、そんな2人を羨ましく感じつつも、あたしは円陣の真ん中に時空扉を開けた。

 

 ・・・

 

「フローラ様…?」

「なんでも……ありません。

 ………皆、改めてよく戦ってくれました。

 ですが、これで終わりではありません。

 先ほどリリィも言った通り、私たちはこの大破邪呪文(ミナカトール)の魔法陣を守らねばなりません。

 これは大魔宮(バーンパレス)を停止させる結界であると同時に、勇者たちが帰還する為の道でもあるのです。

 彼らを無事に地上に帰す為にも…」

「あの……女王様。そのことなのですが…」

 対大魔王第二陣が魔法陣の内側から消えた後も、暫し茫然としていたフローラ女王が、バウスン将軍の呼びかけにようやく我に返り、戦士たちに労いの声をかけた時、ずっと隅の方に控えていた占い師の少女が、おずおずと言葉を発した。

 

「この場所…すぐに避難しないと全員が危険です。

 何か、恐ろしいことが起きそうな…それが起きてからでは間に合わない…そんな気が、するんです…!!」

 

 ☆☆☆

 

 そして。

 

「今の私はハドラー様の愛のために生き、ハドラー様の愛のために戦うラブウォーリアーなのです!!

 その私に、恐れるものなどありません!!」

「言っている意味はわからないけれど、とにかく凄い自信だわ…!!」

 時空扉が開いた先で展開されていたのは、小さな身体のオリハルコン戦士と女性武闘家が、なんか変なこと言いながら対峙している光景だった。

 

 どうしてこうなった。




お前や(爆

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