DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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11・半魔の僧侶は取り込み中である

「斬った…!手ごたえ、あり…!!」

 ダイの足元に転がった石が地面に落ちて音を立て、蒸発するように消滅する。

 あの(コア)の魔力によってフレイザードは、灼熱の身体と極寒の身体を繋ぎ止めていた…それを失ったということは…!!

 

「グワアァァァ──ッ!!!!!

 や…やべえっ!!左右の身体が維持できなくなってきやがった…!!

 これ以上つなぎとめておくと…消滅しちまうっ…!!!」

 言うやフレイザードは左右の身体を分離させた。

 こうなればやる事はひとつだろう。

 

「今だ、ポップ!!」

「おっ…おっし!!閃熱呪文(ベギラマ)──ッ!!!」

 ポップが氷の方の半分に向けて呪文を放つ。

 両方が繋がっている状態のヤツだったら、もう片方の腕で受け止めただろうが、今はそのもう片方がない。

 防御もできぬまま、断末魔を上げて、氷の半身が消滅する。

 残った炎の方はオレ達に取り囲まれ、言葉も出ない様子だ。

 

「こいつをどうする…!?」

「二度と復元できぬよう、粉々に打ち砕いてくれる……覚悟!!」

 だがオレの剣がヤツに届いたと思った瞬間、何かの力でオレは身体ごと跳ね飛ばされた。

 次の瞬間、どこから現れたものか、魔影参謀ミストバーンが、掌底をオレに向けて、フレイザードの前に立っていた。

 ミストバーン。オレの、闇の闘法の師。

 アバンに返り討ちにあったオレを拾って、魔剣戦士として育てた男。

 そうだ、そういえばグエンが言っていた。

 オレが倒したハドラーをヤツが連れて行ったと。

 ハドラーをどこかに運んだ後、またこちらに戻ってきたというのか。忙しいヤツだ。

 この死にかけのフレイザードはともかく、今のオレ達のコンディションで、こいつを相手に戦うとなると、相当な苦戦を強いられるだろう。

 

 …グエンは、まだこちらに来られないか。

 彼女が居れば、まだ少し違ったものを。

 

 そんな事をふと思って、この短い付き合いの中で、いつの間にか彼女の存在を、思いのほか頼りに思っている自分に気付く。

 

「ミストバーン…!助けてくれッ…!!頼むッ!!

 このままじゃ死んでも死にきれねえ…助けてくれよォッ…!!」

 フレイザードが懇願すると、ミストバーンは虚空を指差した。

 思わず向いた視線の先の空間に、何か…折りたたまれた鎧といった形状の、金属の塊が出現した。

 

「…これは我が魔影軍団最強の鎧…おまえが炎の暗黒闘気、即ち魔炎気と自らを化す決意があるなら…与えてやろう…」

 …こいつの声を聞いたのは久しぶりだ。

 この男はオレにものを教える時ですら、ほとんど口をきかなかったのだ。

 そのミストバーンの言葉に、フレイザードが難色を示す。

 岩石生命体の身体を捨てて、魔炎気としてあの鎧に宿るという事は、ヤツは鎧のモンスター、つまりミストバーンの部下になるという事だ。

 出世欲の塊であるフレイザードには、堪え難い屈辱だろう。

 だが、一旦背を向けて去りかけたミストバーンに、フレイザードは苦いものでも呑み込んだように声をかける。

 

「本当にそいつと一体化すりゃあ、やつらに勝てるんだな…!!」

 その言葉に、敵はないと答えたミストバーンに、フレイザードが頷いた。

 ミストバーンが手を掲げると、フレイザードの身体の岩から炎だけが離れ、残された岩がボロボロと崩れる。

 離れた炎の方は、上空に浮かんだ鎧に吸い込まれるように入っていき、それとともに折りたたまれた手足が伸びて、重い音とともに、地面に降り立った。

 

「力が…みなぎってくる…信じられないような…凄まじい力だ…!」

 オレ達が立ちすくんでいるその場面に、パプニカ兵士の鎧を身につけた老人と、確かダイ達が連れていた翼の生えたスライムが駆け込んできた。

 

「最悪の場面に飛び込んできやがって…!!」

 ポップの呟きはもっともだ。

 フレイザードはまず、無力そうなその老人に突進したのだから。

 

「あぶないッ、じいさんッ!!!」

 あわや老人の身体を打ち砕くかと思われたフレイザードの拳を、クロコダインが受け止める。

 そのクロコダインの踏みしめた脚が、地面にめり込んだ。

 そしてフレイザードが更に力を込めると、めり込んだ部分から地割れが起きて、クロコダインも老人も、その裂け目の中に落ちていく。

 それを救わんと駆け寄るオレとポップに、フレイザードは突進してきた。

 

「ヒャダルコ!!!」

 ポップがオレの後ろから、ヤツに呪文を放つ。

 だがそれは鎧の表面で弾かれ、その威力が空中に霧散した。

 これは、オレの鎧の魔剣と同じ効果だ。

 恐らくは、オレの鎧と同じ金属でできているのだ。

 ならばそれに、電撃系以外の呪文は効かない。

 そしてヤツの本体は魔炎気だ。

 生身の肉体ではない以上、電撃でダメージが与えられるとも思えない。

 驚いている間にもヤツの突進は止まらず、オレとポップはまとめて一度に、ヤツの拳に吹っ飛ばされた。

 衝撃をまともに受けたオレの鎧が、粉々に砕かれる。

 一撃で動けなくなるオレ達を尻目に、フレイザードの攻撃目標は、今度はダイに向いた。

 そのダイの身体を支えながら、恐らくは回復呪文をかけていたのだろうマァムが、身を竦ませるのが視界の端に映る。

 マァムの回復呪文は、グエンのものと比べて時間がかかるようで、ダイはオレの目から見ても僅かしか回復していない。

 だがダイは自身からマァムを引き離すと、その小さな身体をフレイザードの前に晒す。

 

「大丈夫だ、マァム…おれ、勝てるよ…。

 何故だか知らないけど…こいつには負ける気がしないんだ…!」

 その言葉が癇に障ったらしいフレイザードがダイに猛攻を仕掛ける。

 が、先ほどの血糊がまだ目に残った状態でダイは、ヤツの攻撃を見切り、躱していた。

 

「…完成だっ!!

 空裂斬を会得した事によって、ダイのアバン流刀殺法は完成をみた。

 それは、あの必殺技の完成をも意味する!!」

 ダイは無意識に、その破壊力を悟っている。

 当然だ。あの技は…!!

 

 大地を斬り…海を斬り…空を斬り…そして全てを斬る!!

 今のダイならば…そう、すべてが斬れる!!!

 

「これが本物の…アバンストラッシュだ〜〜っ!!!!!」

 

 ・・・

 

 ダイの一撃でバラバラに砕け散るフレイザードを見ていたにもかかわらず、ミストバーンがこちらに攻撃してくることはなかった。

 あまつさえ小さな炎のかけらとなったフレイザードを、最後には踏みにじって、そのまま何処かへと消えていった。

 ヤツは、ダイの力を試すためにフレイザードを利用したのか…!?

 だが今は考えている時ではない。

 パプニカの姫のもとにはグエンが行っているが、彼女がこちらに駆けつけて来なかったところを見ると、何か困ったことが起きているに違いない。

 

 ☆☆☆

 

 ハア…ハア…ハアッ……!!

 

 次々に現れていた炎と氷のモンスターの相手もそろそろ疲れてきた。

 特に、一匹一匹潰さなければならない氷系がキツい。

 特にブリザード。

 たまにザラキとか唱えてくるから、あいつらにはマホトーン必須だし。

 わたしは魔法耐性を持つパプニカ絹の帽子を今はちゃんと被ってるけど、王女は無防備だ。

 

 …ん?

 でもあのドレスはひょっとしたら、最高級のパプニカ絹なんじゃない?

 だってあの人王女様だし。

 …ま、まあ一応念の為。

 

 群れで出てきた氷河魔人を棍の先で砕きながら、階段の方からなにか近づいてくる音を耳でとらえた。

 そちらに顔を向ける余裕はないが、今のタイミングでこれ以上敵に増えられるとさすがに困る。

 そんな事を思っていたら、棍の先から逃れた一匹が、わたしの足元をすり抜けて、王女に近寄っていくのが見えた。

 

「しまっ……!!」

「ベギラマ──ッ!!」

 と、あたり一帯を高熱の嵐が吹き荒れ、わたしと王女を取り囲んでいた氷河魔人の群れが消滅する。

 声のした方に目をやると、そこに立っていたのはちいさな勇者。

 それも何故か全身に不思議なエネルギーを纏い、そのエネルギーはどうやら額の部分から発生しているようで、その額に不可思議な模様が浮かんで、輝きを発していた。

 そのエネルギーから受ける感覚に覚えがある気がすると同時に、何故かはわからないが一瞬、あの山奥でラーハルトとわたしを人間から救った男の顔が、脳裏に浮かんですぐに消えた。

 

 上の方からフレイムが続いて現れたが、下の光景にちょっとあわあわしているのがわかる。

 その群れに向かって、野太い声が高らかに叫んだ。

 

「おまえ達の大将は死んだ!

 これ以上の抵抗は無意味だ!

 それでも向かってくるなら、今度はこの獣王が相手になろう!!」

 クロコダインがそう言って片手を前に突き出すと、フレイム達は悲鳴をあげて飛び去っていく。

 それを見てわたしは、立っていた場所に膝をついた。

 もう大丈夫だ。ホッとして力が抜ける。

 疲れた。とりあえず寝たい。ベッドで。

 教会の固くて狭いベッドでいいから、とにかく今日はベッドで寝たい。

 

「グエン、大丈夫!?レオナは…!?」

 ふらつきながら駆け寄ってきたダイが、わたしと王女を交互に見る。

 

「お姫様は無事。眠ってるだけよ。

 助けてくれてありがとう」

 ダイに事の次第を説明すると、状況を理解してようやく安心したダイは、王女を自分が背負うと言ってきかなかった。

 自分だって疲れてるだろうに。

 

「グエン…!」

 マァムが近寄ってきて、わたしに回復呪文をかけてくれる。

 パッと元気になる感じじゃないけど、この子のベホイミはあったかくて気持ちいい。

 母親など知らない筈なのに、十近くも年下の女の子に、お母さんってこんな感じかなとふと思ってしまった。

 まずい、油断すると寝てしまいそうだ。

 

 この後、パプニカ三賢者の一人であるという女性が、気球船に乗ってダイ達を迎えに来た。

 重量の関係でクロコダインはガルーダで陸地に移動、その際ヒュンケルも連れて行き、わたしはダイ達と一緒に気球船に乗せられて、かつての勇者アバンと共に戦ったという大魔道士の隠れ家に連れていかれた。

 着いてすぐに王女は別な場所に運ばれたようだ。

 ところで、最初メンバーに居なかった筈のわたしにみんな戸惑ったようだったのだが、ダイがわたしが僧侶だと紹介すると、ただちに負傷者の治療を頼まれた。

 鬼か。鬼かおまえら。

 そう思ったが回復呪文の使い手としては三賢者より王女の方が腕は上だそうで、現時点で動けるベホマの使い手がいなかったらしい。

 そういえば王女はそもそも賢者としての能力が高いってヒュンケルが言っていたっけ。

 ちなみに三賢者って言っても、どうも先だって起きた王女暗殺未遂事件のあおりで代替わりしたばかりだったらしく若年の者ばかりで構成されており(迎えに来たエイミという女性は大人っぽく綺麗な顔立ちをしていたがまだ18歳だそうだ)、フレイザードに襲撃された際、王女を守りきれなかったのもそこのところが原因だとか。

 まあ、あれはモンスターの中でも規格外に化け物だったから、前三賢者がどれほどの腕を持っていたにしても、戦いにはならなかったように思うけど。

 とりあえず一番最初に、フレイザードに顔を焼かれたっていうエイミのお姉さんの火傷の状態を確認した後、ベホマで速攻で治療した。

 女性の顔に傷が残ってはいけない。

 どうやらマリンという名前であるらしい彼女は、妹のエイミとそっくりの綺麗な顔をしていたし。

 その様子を見ていたマァムが、なんとも言えない複雑な表情を浮かべていたのが少し気になった。

 

 ☆☆☆

 

 とりあえずクロコダインとヒュンケルに合流して、二人に状況を説明した。

 

「夜にささやかな勝利の宴を開くから、パプニカ神殿の跡地に来てくださいって、あのバダックさんってお爺さんに言われたんだけど…あんまり気がすすまないわね」

「オレはここで待つ。

 モンスターのオレが、人間の宴に混じるわけにもいかんしな」

「そっか。

 クロコダインが行かないならわたしもやめとく…」

 わたしはモンスターではないけど、普通の人間から見ればきっと似たようなものだろう。

 それに、これまでは普通に耳だけ隠して人前に出ていたけど、このままの自分を受け入れてくれているこの二人の、自然な対応が居心地良すぎる。

 だが、

 

「いや、あなたは出るべきだ。

 レオナ姫を救ったのはあなたなのだから」

 と、ヒュンケルが強く言い切った。

 

「でも……」

「…安心しろ、オレも行く」

 不安を隠せないわたしの肩に、ヒュンケルが手を置く。

 実のところ彼も宴には出ないと思っていたから、その言葉は意外だった。けど…

 

「先に教えておく。

 パプニカ王の遺体を葬った場所は、城の裏手の英雄像の下だ。

 ほとぼりが冷めた頃にでも、あなたの口から、姫に伝えてやってくれ」

 そう告げる言葉に、わたしとクロコダインが同時に言葉を返す。

 

「おい、まさか…?」

「ヒュンケル、あなた…!」

「…何も言うな。これはケジメだ」

 そう言われてしまうと、わたしもクロコダインも、それ以上口を挟めなかった。

 ヒュンケルは、この国を滅ぼした魔王軍の軍団長。

 その責任を取ろうと、彼は覚悟を決めていた。




魔弾銃先輩には、一応この後、別な形でお世話になる予定でおりますので、ここでは破壊させない運びになりました。
ですがそのせいで原作以上に役立たずだったマァムが、原作通りの焦燥感を感じ始めてますので、そこに悪影響はない筈です。

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