DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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びっくりした…いつのまにか、お気に入り件数が100越えてた…!
皆様ありがとうございます。


14・半魔の僧侶は王女に拉致される

 マトリフ様のところで修行を受けていたダイとポップを、マァムがなんだか複雑な表情で陰から見つめていたのは知っていた。

 ついでにマトリフ様がそのマァムにセクハラして撃退されてたのも。

 てゆーか、素面でもこんな事してるのかこの人はと、その時は思っただけだったが。

 

「このままじゃみんなの足手まといになっちゃう…武器での戦いや回復呪文だって、グエンの方がずっと上手いし…」

 どうも『僧侶戦士』というカテゴリーの彼女としては、純粋な『僧侶』であるわたしに、そのどちらの能力も劣っているという事実を目の当たりにして、自身の力の底上げを考えざるを得ないところまで来たという事のようだ。

 まあでも、言わせてもらえば、単なる僧侶でもそれなりに年季が入ってるわけなんで、成長力という点では君ら若者にはまだまだ伸び代はあるし、それほど気にしなくとも…けど、そんな悠長なことを言っていられないのも確かで。

 

「そうね。

 もっと強い攻撃能力がないと、本当に足手まといになりかねないわ」

 これからの戦いはより激化する。

 その事を踏まえてのその決断は確かに正しい。

 レオナ姫の言葉は厳しいけれど、裏を返せばこの戦いで、誰も死んでほしくないという気持ちの現れだった。

 だから、はっきり言い切った彼女の言葉に、一瞬傷ついた表情を浮かべながらも、次には笑って、

 

「あなたのそういうところが好き」

 と返したマァムの、その瞳にもう迷いはなかった。

 

「私…武闘家になろうかなって思ってるの!!」

 確かに、マァムは女の子にしては力が強い。

 マトリフ様を撃退した時の手腕を見て、この子を怒らせるのは絶対にやめようと思った。

 割と大柄な分手足も長いから、それは格闘においては有利になるだろう。

 基本の体術とそれに伴う技などを覚えれば、きっと相当に強くなれる。

 聞けば、彼女の故郷であるロモスの山奥に、武術の神様と呼ばれる人が住んでいるらしい。

 そう聞くとわたしもちょっと会ってみたいと思ったのだが、どうも彼女のコンプレックスを一番刺激したのがわたしらしい事を考えると、さすがにそんな事は言えなかった。

 次の日、マァムは旅立ち、ポップがルーラで送って行った。

 

「ポップはね、マァムの事が好きなんだ」

 ダイの言葉に、そういえばマァムが一時パーティーを離れると言った時に、最後までゴネていたのがポップだった事を思い出して妙に納得した。

 同時に、その恋愛的な「好き」の意味を、ダイは本当に理解してるんだろうかと思った後、そもそもわたし自身が恋をしたことがなかった事に初めて気付いて少し落ち込んだ。

 恋愛経験で十才年下の男の子に負けてるとか。

 帰ってきたポップの顔で、二人きりになっても告白はできなかったのだと一目でわかったが、とりあえず彼には頑張って欲しいと思う…わたしの分まで。

 

 ☆☆☆

 

 マトリフ様にすすめられてスカラの呪文契約をして、成功した。

 しかもレベル的には足りていたらしく、契約してすぐ使えた。

 もう少し経験を積めば、この上位呪文であるスクルトも使えるようになるそうだ。

 

「ところで、防御力を上げるって、具体的には何に対してなんですか?」

「…あ?」

「元々、その人間が持っている肉体の衝撃耐性なのか、それとも、その時点で身につけている防具を強化しているのか…。

 肉体に対して影響を与えるのなら、それは硬度を上げるものではなく、衝撃に対しての反発力と考える事ができますし、防具に対してであれば…」

「オレが知るか。

 そんな事考えんのはてめえくらいだ。

 知りたきゃてめえで検証しろ。

 …ま、わかったら教えろ。オレも興味はある」

 ……いや、ズルイでしょそれは。

 

 結局、マトリフ様にも手伝ってもらい色々検証した結果、普通に発動させた場合、肉体も防具も関係なく、全体を薄皮一枚の魔法力で包み、衝撃を散らす呪文である事がわかった。

 

「もっとも、散らせる力には限りがあり、それ以上の衝撃を与えられれば、普通に傷は負わされる。

 だが、その薄皮一枚が、生死の分かれ目になる事だってあり得るわけだ。

 あと、散らせられんのはあくまでも、物理的な衝撃のみだって事も忘れんな」

「ひょっとして、同じようなかけ方をフバーハでできないものでしょうか?」

「…また妙な事を考えやがるな…その目的は?」

「属性付きの武器しか持ってない時に、同属性の敵と戦うことになった場合、武器の属性が邪魔になる場合があるじゃないですか。

 その場合、武器に呪文をかけて属性を封じ込められれば、無属性の武器と同じダメージを与えられるかな、と」

「…かける事自体は不可能じゃねえだろうが、外からの属性攻撃に対してならともかく、武器そのものが持つ属性を封じ込めるってのは不可能だな。

 それができるってんなら、通常の発動でフバーハの防御壁に守られてる間は、こっちからの属性攻撃もできねえことになっちまう。

 どっちにしろ、通常通りに発動させんのとは、違う集中力が必要になるだろうぜ。」

「魔法は、発想力と集中力、ですか」

「そういうこった」

 うまくはいかないものだ。

 研究する余地はありそうだけど。

 

 ☆☆☆

 

 パプニカ王都の武器屋や防具屋が何軒か店を再開したが、今のところ大した品揃えは期待できないようで、街に武器を見に行ったダイとポップがちょっとがっかりして帰ってきたのだが、ポップの報告によると、防具屋の方は女性用の防具に力を入れ出したとかで、

 

『戦場でも装い美しく!【グエン・モード】続々入荷中!!』

 

というノボリが立てられているそうだ。何それ。

 気になったのでわたしも見に行ってみたら、わたしが身につけてるものに似た旅人の服や帽子や、他に綺麗めだけど防御力的には大した事ない女性用装身具が、ちょっと強気(高め)の値段設定で並べられていた。

 お店の方に話を聞いてみたら、それでも結構売れてるらしい。

 お礼と言われてレースのついたサテンの長手袋をプレゼントされた。

 ラッキー♪

 

 …は、いいのだが、若干基準がおかしな事になっているというか…とりあえずビスチェ系はともかく、「あぶない水着」とか「エッチな下着」まで【グエン・モード】にカテゴライズすんのやめてもらっていいですか。

 わたしはヒュンケルと違って、戦場を半裸で闊歩する趣味はない。

 ごめんなさい言い過ぎました。

 ヒュンケルは別に趣味でやってるわけじゃない。

 それは判っている。

 でも考えてみればなんで半裸だったんだろあの子。

 鎧が破壊されたとは言ってたけど、あの下にアンダースーツみたいの着てたよね?

 …止そう。なんかつっこんだら負けな気がする。

 

 ☆☆☆

 

「あ、グエン!」

 ルーラで城に戻り、充てがわれている部屋に戻ろうと、城の長い廊下を歩いていたら、向かい側からとてとてとダイが走ってきた。

 

「こら。廊下は走っちゃいけません」

 とか言いながら、つい頭を撫でてしまう。

 なんとなくこの子には無意識に、別れた時のラーハルトを重ねてしまっている気がする。

 もっとも、あの時のラーハルトよりも、今のダイの方が、年齢がふたつも上だと聞いた時は驚いたけど。

 この子が小さいのかラーハルトが大きかったのか。

 あの子は魔族の血の方が濃いから後者かも。

 魔族の男性は大体長身のイメージがある。

 まあ個体差はあるだろうけど。

 炎魔塔の下で会った魔族の老人は矮躯だったし。

 

「あは、ごめん。

 ねえ、グエンはベンガーナって行ったことある?」

「ええ、あるわ。

 今着てるこの服が、ベンガーナで買ったものよ?」

「そうなの?じゃあさ、デパートって…」

「ちょっと、ダイ君!

 …ああ、もう!こうなったら仕方ないわ!!

 グエン、貴女も来なさい!!」

「え?えっ!?」

 …なんだかわからないうちに、ダイと話をしていたわたしは、気付けばレオナ姫に拉致されていた。

 ていうか、勇者と王女の二人に手を引かれて、凱旋キャンペーンで散々乗って移動させられた気球船にまた乗せられていた。

 

 ・・・

 

「いいのかい。これって泥棒なんじゃないの?」

 ついでに誘拐です。

 

「王宮のものをあたしが使ってなんで泥棒なのよ。

 いーじゃない!!」

 わたしは王宮の者じゃないので誘拐です。

 

「それとさ、ポップは連れてかないの?」

 勇者が更なる誘拐の教唆すんのやめてください。

 

「あの魔法使い君ね、別にいいんじゃない?

 いてもいなくてもおんなじだと思うけど…!」

 だったらわたしも解放してください。

 

「ああ見えて結構たよれるんだぜ…」

「そうかな?

 ああいうタイプって、仲間(パーティー)がピンチになったら真っ先に逃げ…ちょっとグエン!

 いつまでもそんな隅っこでのの字書いてないで、いい加減あきらめなさいよ!

 あたしだって、こんなに無理矢理連れて来る気なんかなかったけど、ダイ君が計画バラしちゃうんだもの、共犯にするしかなかったのよ!」

 そうですかわたしは被害者ではなく共犯なんですねわかりません。

 …でも、さっきまでの流れからすると、どうやら新しい武器防具はベンガーナで探すという事になったようだ。

 豊かで物が豊富な街だから、わたしもあちらに寄った際にはよく服などを見てまわったものだ。

 食べ物は同じくらい豊かだった時期のパプニカの方が美味しかったけど。

 ふと、視界の端に何か蠢くものが見え、そちらに目をやるとポップがよじ登ってくるところだった。

 どうやらトベルーラでついてきていたらしい。

 考えればわたしも今はルーラが使えるのだから、嫌なら飛んで逃げれば良かったのだ。

 思いつかなかった自分にちょっと愕然としたけどまあいいか。

 この際だから、わたしも久しぶりに、ウインドウショッピングを楽しませてもらおう。

 

 ☆☆☆

 

 ベンガーナ。

 軍備、商業ともに発達したこの王国は、世界一とも言われるその経済力をバックに、豊富な武器、物資によって魔王軍の侵攻を防いでおり、今現在“最も安全な国”と呼ばれている。

 不満な点があるとすれば、この国の国民性なのだろうが、教会の地位が著しく低い。

 毒の治療に訪れるのはたまに訪れる旅人ばかりで、地元の人間はまず立ち寄らない。

 つまり教会業務では稼げないということだ。

 買い物する場所はあるのにそのお金が稼げない。

 これはもはや拷問だと判断して、以前のわたしはいずれ永住する国リストから、そっとこの国を外したのだった。

 

 まあそんな事はどうでもいい。

 パプニカ国内ならばそのままでも出歩けるが、よその国ではやはりまだ魔族の姿を晒すわけにはいかず、わたしはしっかりと帽子を被っているのだが、その帽子が何度も飛ばされそうになるくらい、凄いスピードで走る馬車の上に今はいる。

 なんというか、そろそろ悟りが開けそうな気がしているのは錯覚だろうか。

 

「もっ…もうちょっとスピード落とせよ、姫さんよおっ!!」

 わたしとは対照的に、常識的なツッコミを発しているのはポップ。

 それに対してレオナ姫は、

 

「なんてことないわよ、このぐらい…!」

 と実に豪胆なコメントを返す。

 どういう性格してんだこいつ、と小さくぼやくポップに対し、ダイは少し嬉しそうに笑って言った。

 

「いいんじゃないの?

 おれ、ちょっと安心しちゃったよ。

 …パプニカにいる時のレオナは、みんなをまとめなきゃいけない立場だったから、なんだか冷たい感じがしたもん…。

 今のレオナのほうが生き生きしてて…レオナらしいや…!!」

 どうやらダイはレオナ姫にとって、会った時から素の自分で接することのできる相手だったようだ。

 ダイにとってのレオナ姫が、パプニカの王女などではなく、ひとりの女の子の「レオナ」なのだとすれば、確かにこれまでそつなく王女、まして今や一国の指導者として振る舞う彼女の姿に、違和感を覚えるのは仕方ない事だったろう。

 

「おれたちゃお姫さんのストレス解消のおつきあいってわけかい…」

 その一言を最後に、ポップはぼやくのをやめたようだ。

 うん、ある程度悟ったほうが楽だと思う。

 

 ・・・

 

 そんなこんなで、ベンガーナのデパートに着いた。

 ダイとポップはぽかんとして建物を見つめている。

 

「でっ…でけえ…」

「こっ…この中、みんなお店なの…!?」

 さもありなん。

 わたしも、初めてここに立った時はまさにこんな感じだった。

 …それにしても、やはり世界一豊かな国。

 そこらを歩いている女の子のファッションもメイクも洗練されてる。

 

「さあ、行きましょ!」

 けど、わたし達一行の先頭をスタスタ歩く少女は、そんな都会の女の子達と比べても、格段に美しかった。

 道行く男性がみんな振り返るほどに。

 お忍びなのにこんなに目立っていいのかお姫様。

 

 案内板に従って、まずは服や鎧の店がある5階までエレベーターに乗って行く。

 このエレベーターの中でも少年たちは大騒ぎして、レオナ姫に呆れられていた。

 わたしも以下略。

 

「こりゃすげえや…。

 おれの実家の武器屋の、百倍くらいでかいぜ…」

 ポップが呆然と通路で呟く。

 

「あら、ポップの実家って武器屋さんなの?」

「あ、ああ、おれは継がねえから、多分妹が継ぐと思うけど…って、どうでもいいだろ、そんな事」

 …なんか、あんまり触れられたくなさそうだ。

 自分で言ったくせに。わがまま坊主かお前。

 

「カッコイイな、これ…!」

 あこがれの目で見つめながら、ダイがディスプレイされた鎧に触れる。

 だが、その目が値段の書かれた札に止まった時、あこがれの目が驚きに見開かれた。

 

「うげえっ!!さっ…3800G(ゴールド)…!!」

 触っちゃまずかったかな、と小声で呟きながら、何故かわたしの後ろに隠れる勇者。

 

「ちなみに、今幾らくらい持ってるの?」

「ええと…」

「1500Gってとこかな。

 ロモスの王様に貰ってから、ほとんど使ってないから」

 代わりに答えたポップの言葉に、わたしは首をひねる。

 

「それじゃ、鋼鉄(はがね)の剣一本がせいぜいってところね。

 あなたの場合、最優先なのは剣のようだし、ならば防具までは無理なんじゃないかしら」

「えっ、マジ!?結構大金だと思ってたのに!!」

「ええっ!?武器や防具ってそんなに高いの!?」

 …うん、そんな気がしていた。

 けど、武器屋の息子がここにいるのに、ここまでものの値段に無頓着なのはいかがなものか。と、

 

「ダイ君、5000Gまでならどれ買ってもいいわよ」

 と、実に太っ腹なレオナ姫の声がして、少年たち二人がずっこけた。

 本人も大量の服の山を手にして、試着室に入ろうとしてるけど。

 

「そ、そんなに…」

「これは試着するやつよ。

 全部買うんじゃないの…」

「そーゆー意味じゃなくてだなっ…そんなに金持ってんのかって事だよ!!」

 ポップの言葉に、レオナ姫は優雅に微笑み、ウインクまでしつつ答える。

 

「平気よ!!

 パプニカの金属や布は、すっごく高値で売れるのよ。

 あたしのこのドレスを売れば、2〜30000Gにはなるわよ!」

 やはり最高級のパプニカ絹か。

 30000Gを着て歩いてたのかこの娘。

 ケタが違う…というポップの呟きに、ごもっともと思うしかない。

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 どうする?とわたしとポップを見上げたダイに、ポップが答える。

 

「おれはいいよ。

 武器もマントも師匠からもらったからさ」

「わたしは見てるだけで充分よ」

 品揃え的には、以前見た時とそう変わらないようだ。

 だとすれば、今のところわたしの欲しいものはない。

 あったとしても自分で買うし。

 

「じゃあやっぱり、これ…」

「あ、これだけはやめときましょ、ダイ。

 ヒュンケルくらいの背丈があるならまだしも、あなたの体格じゃみっともないだけだわ」

 ダイがさっき見ていた3800Gの鎧を指差したのを、わたしは一言のもとに切り捨てた。

 

「ええ〜〜っ!?」

 そんな顔したってダメ。

 強引に連れてこられたとはいえ、わたしが一緒に来ている以上、勇者様にみっともない格好はさせられない。

 勇者一行のファッションリーダーとしての使命に、わたしは拳を握りしめた。




ヒュンケルがフレイザード戦の後で「半裸だった」事に関しては完全にアタシのミスです。
いや、原作通りなら半裸で間違いないんですが、ここでのヒュンケルはマグマから救助された後、『手当て』ではなく『呪文治療』されてるので、アンダースーツは脱がされてなかった筈なんです。自分でちゃんとそう意識して書いたのをすっかり忘れてて、宴のシーンのグエンの回想でそういう事になってました。
まあ、鎧が破壊された際のフレイザードの拳に、炎でも纏ってたくらいの話にしといてください。

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