DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
ひじき「てめえ、たまに食べると美味しいけど毎日食べるとちょっと飽きる焼きビーフン馬鹿にすんじゃねえええ!!!!」
…という夢を、書きながら寝落ちした朝にみました。
もう完全に廃人と化したと自覚しております。
腹いせに焼きビーフン買ってきました。
ざまあみろ、バラン(違
…圧倒的無力感に支配され、湖に沈みながらも、どうすべきかまだわたしは考えていた。
まだ打つ手はあるだろうか。
今最優先でなにをすべきか。
そうだ考えろ。その為の頭だろう。
…クロコダインの声が聞こえた気がする。
ダイたち勇者パーティーの事は、勿論仲間というか、大事な友達だと思っているが、同時に守らなければならない存在だという認識もある。
その点でクロコダインとヒュンケルは、ある意味特別だ。
彼らに関しては、背に庇うよりは、互いの背を守り合う存在であるように思う。
彼が居るなら、まだ戦える。
クロコダインとわたしが居れば、バランがいくら強敵でも、絶対に渡り合える。
沈みながら、魔力を集中し、呪文を唱えた。
詠唱自体は、口から発する気泡のゴボゴボという音にかき消されはしたが、発動に問題はなさそうだ。
“リリルーラ”
☆☆☆
それは全身を鋼鉄のように強化して、あらゆる呪文をはねかえす防御幕となる。
同じ紋章が現れた時のダイの身体が、信じられない強度になるのはそのためだったのか。
バランの説明を聞きながら、オレはようやくそれまでの事が腑に落ちた。
やはり、ダイがバランの子である事は、もはや疑いようがない。
「この
その言葉を証明するようにバランがオレに突進してくる。
剣ではない、技でもなんでもない拳の乱打で、このオレの鋼鉄の身体が、なすすべもなく振り回される。
たまりかねて斧を振るったがそれは空を切り、次の瞬間バランはオレの腕を掴むと、その腕を取ったままオレの背中に回り込んで……
「ぐああああ───ッ!!!」
捻りあげられた腕が、厭な音を立てた。
「おっ…おっさあぁ──ん!!!」
ポップの声が、どこか遠くに聞こえる。
その腕の方向に何とか身体を向けた瞬間、視界の端に入ったバランの額から、光線のようなエネルギーが発せられたのがわかった。
それがオレの両目を掠め、激痛が走る。
同時にバランの手が離され、重力に逆らう事なく、オレの身体は地に伏した。
「…これで、もうおまえは戦えない…!!!」
が、唐突に。
「っ…ホイミ!!」
若干咳き込んだような声とともに、目を、温かいものに包まれた。
次の瞬間痛みは消え、目を開けると白い掌が、オレの目を覆っていた。
次に、全身を温かい光が包む。
「ベホマラー」
ようやく手が離された時、そこにグエンの姿があった。
全身ずぶ濡れで、衣服の胸元が破れ肌が見えている。
その真ん中にあった赤い傷が塞がるのが見て取れた。
どうやら複数人を同時に回復させる呪文だったようで、それは体力までもを回復させるものではなかったが、今バランにへし折られた腕の骨が徐々に繋がっていくのが判る。
「なにボーっとしてるの!?
あなた方は、早くダイを!」
はだけた胸元にマントの端を脇から回しクロスさせて、その端を首の後ろで結びながら、グエンはポップとレオナ姫に声をかける。
そうして2人がハッとしたように動き出すのを見てから、グエンはオレの隣に立ち、バランを睨みながら棍を構えた。
「これ以上続けても同じとわからんか…降伏しろ」
「スカラ」
バランの言葉に答えず、グエンはオレにまた呪文をかけた。
確か、防御力を上げる呪文だったか。
全身をピリピリとした何かで覆われた気がするが、それは不快なものではない。
そうしてから、視線をもう一度バランに戻して言う。
「…これと同じよね、今のあなたの状態は。
闘気と魔法力の違いはあるにせよ、薄皮一枚で物理的な攻撃の威力を散らす。
けれど、散らせる力には限りがあり、それ以上の衝撃を与えられればダメージは通る。
そして、この場でそれが可能であるのがクロコダインだけであると判断したからこそ、あなたは本気でクロコダインを叩きのめした。
…間違っていて?」
それを聞いて、バランの目が一瞬見開かれる。
「…その通りだ。
クロコダインのように力や闘気をもって戦うタイプが一番怖い…。
だが、それをよく見抜いたものだ」
「スカラの構成の解析は、今生きている人間の中で最も偉大な魔法使いと共に行なったものよ。
その概念があれば、推測するのも可能だわ」
偉大な魔法使いというのは、フレイザード戦の時協力してくれていたという、魔王ハドラー時代、勇者パーティーの一員だったという老人の事だろう。
オレは直接会ってはいないが話だけは聞いている。
グエンがその言葉の中で、『人間の』という言葉を敢えて強調したのが判ったのだろう。
バランが一瞬眉を動かす。
しかし次にはまた表情を消し、少し馬鹿にしたように、フンと鼻を鳴らした。
「だが、それが解ったところでどうする?
クロコダインを捨て石に使うつもりか?」
バランにしてみればそれは挑発だったのだろう。
しかし、
「…ある意味、その通りかもね」
グエンは薄く微笑みながら、そう答えを返す。
「…人間の間で暮らす事で、下衆な考えが染み付いたか。
仲間と言っておきながら…」
いかにも我慢ならないといったように、バランがまた、眉をひそめた。だが。
「捨て石でも構わん。
オレはグエンを信じる。そして人間を信じる!」
そのやり取りに、オレは敢えて口を挟んだ。
「クロコダイン?」
「人間などつまらぬ生き物と侮っていたオレに、互いを信じあいながら戦う、人間の絆の素晴らしさを教えてくれたのは、心の濁った汚れを取り除いてくれたのは、人間であるポップだった。
オレを仲間と、友と最初に呼んでくれたのはグエンだった。
オレは、それを信じる…その為に生命をかける!!
バランがかなわぬ敵だからといって、このまま手をこまねいていたのでは、おまえ達の仲間たる資格が無い!!」
たとえ命を差し出せと言われたとしても、オレはこいつらを信じ抜く。そう決めたのだ。
「ありがとよ、おっさん…!」
と、お互いに睨み合うオレ達の視線から外れた位置から声がして、反射的にそちらに目を向ける。
「ポップ…?」
「だけど、あんた1人を死なせやしねえ。
…グエン!なんか考えがあんなら言え!!
俺たち2人の命、こいつを倒せるんなら、いくらでもぶつけてやるぜ!!」
そう言ってオレの横に立ち、杖に魔法力を込めるポップ。だが、
「ありがとう…。
でも、ポップは邪魔だから下がってなさい」
「えええ!?そんなんアリかよぉ!?」
グエンは苦笑しながら、そのポップの決意をあっさりぶった切った。
それから間髪入れず、オレに向かって指示を出す。
「クロコダイン!!全力でお願い!!」
「応ッ!!さあいくぞ!!バラン!!!」
オレは腕に闘気を込めた。
これが今のオレの最強の技だ。
☆☆☆
「貴様らにこれはかわせまい!!!」
それは、先ほどわたしとダイをいっぺんに吹き飛ばした技、ギガブレイクの構え。
「…先ほどは相手が
たとえかつての僚友といえども、人間を素晴らしいなどと抜かすやつを生かしてはおけん…!!!
3人揃って、灰になれっ!!!」
バランの目に現れているのは、紛れも無い憎悪だった。
てゆーかあれで加減してたのか。
ひょっとして生きるか死ぬかのギリギリの線でって事か。
死ななきゃいいってもんじゃないだろうに。
と、唐突になにか、形容しがたい高い音が響く。
次の瞬間、湖から水柱が立ったかと思うと、ダイが額に紋章を浮かべて飛び上がってきて、わたし達の側に降り立った。
「…ダイ!!」
そこから一拍遅れて、水中からレオナ姫が顔を出す。
「
「さっすが、賢者の卵!!!」
だけは、って事は、怪我の治療は為されてないって事だろうか。
見た感じは、大きな傷はないように見えるのだけど。
まあ、確認するのは後だ。
クロコダインだけでなくダイの力も加われば、まさに鬼に金棒だ。
「…今更復活したところでどうなるかあっ!
もう一度、全員まとめて吹き飛ばすのみだっ!!」
いける。今のバランは冷静さを失ってる。
「来るわよ…まず全力で撃たせる!
必ず食い止めるから、2人はわたしの後に続いて!」
「グエン!?」
「…信じて!!」
わたしが言い終えぬうちに、バランが天の怒りを呼ぶ。
それを剣で受け止め、
「ギガブレイク!!!!」
その、体ごとぶつけるような剣撃の前に、わたしはもう一度身を晒す。
「…刃の防御!!!!!」
バランの全力が、わたしの棍を砕く。
やはり受け止めきれなかったかと思ったと同時に、その威力の大半が放った本人に返っていく。
そして。
「アバンストラ──ッシュ!!!!」
「獣王会心撃!!!!!」
「うおおおおッ…!!!?」
バラン自身の力と、ダイの力、そしてクロコダインの力。
その全ての威力がぶつかり合い……大爆発が起こった。
・・・
「…き、決まったあ〜っ!!」
呆然とポップが呟く。
「グエン!」
ダイは、さっきバランの技を跳ね返した衝撃で後ろに吹っ飛んだわたしを振り返り、駆け寄ってくる。
「棍…折れちゃったの!?」
「兄弟子にあたる方からいただいたものだけど、命にはかえられないわ。
あなたは平気?」
微笑みつつ立ち上がろうとするも、身体に力が入らない。
それに気付いたダイが、レオナ姫に声をかけた。
「レオナ、グエンをみてあげてくれっ!!」
「わかったわ!」
湖畔へ泳ぎ着いてようやく岸へたどり着いたレオナ姫が、わたしに駆け寄ろうとする。
だが、白い小さな手は、それとは別な方向からわたしに触れた。
「メルル…!!」
「…大丈夫。
電撃呪文の影響で身体が痺れているだけで、外傷はないようです」
言いながら、わたしにキアリクをかけてくれるメルルが、天使に見えた。
「あんたら、まだ逃げてなかったのかよ…!」
「逃げたかったんだけど、この子がどうしても、おまえさんたちを助けるんだって言い張ってさ…」
ナバラさんの説明に、ポップが半ば驚き、半ば呆れたような表情を浮かべてメルルを見つめる。
「…私だって、簡単な回復呪文ぐらいできます!」
その視線を受けて目を逸らした、メルルの頬が少し赤い。
けど、そんな事を気にしている余裕は、今のわたし達にはない。
厳しい目をして、ダイがメルルに告げる。
「そんな事はレオナに任せて逃げるんだ!」
「ダイの言う通りだ、お嬢さん」
クロコダインが近づいてきて、わたしの身体を抱き上げてくれた。
「他の奴ならともかく、我々の戦っている相手は、地上最強の男なのだ…!!」
言いながらわたしの身体を下ろし、ちゃんと立てる事を確認してから、手を離す。
その間も、大爆発の起きた空間から、片時も目を離さず。
やはり、この男はよくわかっている。
「でもよ、いくらなんでも、あんなすげえのをくらっちゃあ…」
そしてわかってない子が1人。
この子は物事を楽観視する癖を改めた方がいいかもしれない。
まあ、それがポップの長所でもあるから、難しいところではあるのだけれど。
と、そちらの方から、微かな金属音がした。
未だ立ち込める、爆発による煙が、瞬時に弾き飛ばされる。
その中心には、剣を地面に突き立てて身体を支える、背の高い男。
その身体から、とてつもないエネルギーが放出されているのがわかる。
「や…やっぱり…!!」
「
やはり、この男、とんでもない。
絶対に死んではいないと思ってはいたが、あの攻撃をくらって、それでもまだこれだけの闘気を発散できるなんて。
「いや…効いてる!!!」
ダイの言葉に、わたし達は一斉にバランを凝視する。
「…血!?」
その言葉の通り、バランは額から流血しており、本人もそれに、指摘されて初めて気がついたようだ。
「私たちと同じ…赤い血だわ…!」
メルル、それ今関係あるようで関係ない。
ちなみにわたしの身体に流れてる血も、人間と同じ赤だ。
ラーハルトは魔族寄りの体質で青だったけど、それは適正とかそういうものに影響はしないようだ。
わたしには中途半端だが呪文の適正があるし、あの子はあれだけ純魔族に近い外見をしていても、呪文はあまり得意じゃなかった。
「クロコダイン!
おれたちの技は、まったく効果がなかったわけじゃないんだ!!
こうなったら…!!」
「ウム!
奴が倒れるか我々が倒れるか…力尽きるまで技をふるうのみ!!」
…わたしがちょっと余計な事を考えている間に、男どもが大声で打ち合わせをする。
それも実に脳筋な策を。
「残念だが、同じ手は二度とくわん!
グエナヴィアの武器がない以上、ギガブレイクをかわすことはもうできまい!!」
…さっきのは、バランが冷静さを欠いていたから通じたのだ。
そうでなければ、一度見せている刃の防御を、もう一度使うことはかなわなかった。
もう、今度の今度こそ通じないし、そもそもわたしは今は無手だ。
「だが万に一つということもある…その子は恐ろしい可能性を秘めている」
だが、そのまま攻撃してくるかと思ったバランは、まっすぐダイを見据えて言った。
「だから私は、残る全精力を傾けて、ダイの力の“根源”を奪う…!!」
“根源”…?何を言っているんだこいつは。
わたし達が戸惑っている間に、何故かバランは闘気を消し…正確には放出していた闘気を一旦内側に押し込めて…それからそれを、今度は額に集中させた。
「ど、どうしたんだ!?紋章が勝手に…!!?」
見れば、ダイの額からも輝きが溢れ出て、ふたつの紋章が共鳴し始める。
それとともにダイが頭を抱えて苦しみ始め、わたしは思わず駆け寄って、彼の身体をきつく抱きしめた。
…その輝きと共鳴音が最大限に達し、それが急に止まる。
それとともにわたしの腕の中の、ダイの身体から力が抜けた。
同じように、バランもその場に膝をつく。
「息子にはもはや不要なものを奪った…。
その為、力を使いすぎたわ…。
この場はひとまず退かせてもらう。
いずれ改めて、
そう言って剣をおさめ、ルーラで飛び去るバラン。
呆気にとられるわたしの手からダイを引きはがし、レオナ姫が呼びかけながら彼の身体を揺する。
ゆっくりと目を開けたダイは、どこかボーッとした表情で、呟くように言った。
「君たち、だれ…?」
その言葉に、全員が顔を見合わせる。
「どうしてこんなところにいるの、ぼくは…?」
額から紋章の形に流血している、勇者
☆☆☆
「完全な記憶喪失だ」
クロコダインが言いにくそうに言った通り、ダイは記憶を失っていた。
怪物島で育った過去も、レオナ姫やポップと出会った事も、師を失った事もクロコダインやヒュンケルと戦った事も、全て。
ナチュラルにお兄ちゃんと呼ばれてカッとなり、怒鳴りつけて怖がられてしまったポップはすっかり落ち込んでしまっているし、自分たちの大切な思い出を押し付けてしまい、やはり声を荒げてしまったレオナ姫も、どう接していいか戸惑っている。
…無理もないけれど、みんな少し落ち着いた方がいい。
造形がそもそも可愛らしいゴメちゃんはともかく、わたしやクロコダインを見ても怖がらないところを見ると、ダイがこれまで生きて形成してきた彼自身の人格を、まったく失っているわけではない。
少し話をしてみた限り、剣は武器、パンは食べ物だといった、当たり前の事は当たり前に認識しているし、使えはしなくても魔法の種類もある程度は理解していた。
「…で、お姉さんは誰?」
…小さな頃から一緒にいたというゴメちゃんの事まで思い出せないのだから、わたしのことだって覚えているわけがない。
そのゴメちゃんを伸ばしながら、初めて会った時と同じことを問われ、少しだけ胸が痛みながらも、わたしは彼に向かって微笑んでみせる。
…笑顔も僧侶の仕事のうちだ。
少なくともわたしはそう思ってる。
「わたしはグエン。
ゴメちゃんとは友達になったのよね?
わたしともお友達になってくれる?」
「うん」
「ありがとー♪」
ギュッとダイを抱きしめると、なんだか懐かしいような匂いがした。
この匂いと感触は、変わらないダイのままだ。
知らない人になってしまったわけじゃない。
「…みんな、ぼくを見て悲しい顔をするんだ。
笑ってくれたの、グエンだけだよ」
メルルが持ってきてくれた物資の中から、小さなリンゴを一個剥いて、切って食べさせていたら、わたしを見上げながら寂しそうにダイが言った。
…この子は覚えていないだけで、まわりが見えていないわけじゃない。
むしろ何もわからないのに周りから期待され勝手に落ち込まれて、一番不安なのは彼なのだ。
この小さな勇者の肩に、わたし達は今までどれ程のものを背負わせ、どれだけ頼ってきたことか。
そう思ったら、申し訳ないのと可哀想なので涙が出そうになったけど、ぐっとこらえて笑いかける。
「……美味しい?」
「うん」
…絶対に守ってあげる。今度こそ。
グエンは、可愛いと思ったら餌付けするタイプ。