DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
グエン一人加わっただけで、バトルシーンが冗長極まってしまい、それをどうにかしようとグダグダ考えてたら、時間が過ぎ去っていきました。
つまり、開き直るまで時間がかかりました。
…ええ別に、他に書きたいもののアイディアが無駄に浮かんでいたとか、特に番外編の構想に気を取られていたとか、ましてや「あさしん」のバレンタインデー企画に夢中になっていたとか、関係ないけど近所のスーパーのお菓子コーナーでずっとかかってるイチゴがどうたらという内容の歌が頭の中でループして止まらないとか、そんなものに時間を取られたりなんかしていません。
し、していませんとも……!!
「よくも、このワシの自慢の牙を!!!
粉みじんにしてくれるぞ…!!!」
怒りに身を震わせて立つ、ボラホーンと呼ばれたトドマンは、大きさ的にはクロコダインよりひとまわり大きいくらいか。
多分クロコダインと同じような、同種族の中でも王様級かと思う。
「悪あがきならさっさとしろ。先を急ぐんでな」
「若造があッ!どこまでもひとをなめおって!!」
…敵として相対してたらこの態度、確かにすごいムカつくんだろうな。
わたしとポップの、ヒュンケルに対する見方が微妙に違うのは、ひょっとしたらその立場に立った事があるか無いかの違いかもしれない。
「天下無双とうたわれたこの海戦騎ボラホーンさまの
受けてみるがいいわあッ!!!」
巨大な拳がヒュンケルを、その身体を、打ち砕かんと襲いかかる。
だがヒュンケルはあろう事か、その渾身の拳を、無造作に上げた自身の拳で受け止めていた。
「これで天下無双の力とは笑わせる。
オレの仲間には、おまえの倍は腕力の強いやつがいるぞ」
流れ的にはクロコダインの事を言ってるんだろうけど、倍はいくらなんでも盛りすぎじゃないだろうか。
ていうかこの状況を見る限り、ヒュンケル自身がすごい剛力なように見えるけど、これ実はアバン流の基礎の中に体術的な項目があって、それの応用らしい。
わたしもポップに説明してもらっただけだからよく知らないけど、気合いを溜めて部分的に力を集中させることによって、瞬間的な攻撃力や防御力の上昇を図れるとかで、これを使えばポップも、大岩を抱えた状態でスクワットとか普通にできるそう。
とはいえ基礎体力がしっかりしてないと、やった後の疲労感が半端ないらしく、ポップはその基礎体力不足、ダイは修業が途中で終わってしまった為に、彼らには完璧な形では身についていないけど、マァムはそこそこ使いこなしていたそうなので、ヒュンケルにも自然に身についていてもおかしくない。
見た感じ、このトドマンがヒュンケルの手に負えない相手のようには見えないから、任せてしまって構わないだろう。
…わたしは、こっちのバカに用がある。
「…わたしは、あなたを止めるわ、ラーハルト。
わたしの命を懸けてでも、止める」
…一昨日会った時は一人だった上、自分でも思った以上に覚悟が足りなかったせいで、思わず逃げてしまったが、今は違う。
ここはもうわたし一人の問題じゃない。
自分のせいでこうなったのだという責任もある。
「グエナヴィア…どうしてもか」
その返事がわりに棍を構え、かつて弟とも思っていた男の前に、わたしは進み出た。
どうやらラーハルトの武器は槍。
…なんだかえらく物々しいそれに、そこはかとない既視感を覚えるけど。
バランの時と同じようにして、ひとまずスカラとトベルーラで、防御力と機動力を確保。
それから、やはりバランにしたように、マヌーサからの連続攻撃。
まずはこれで様子見としよう。
この子は呪文はあまり得意ではなかった筈だから、フバーハは必要あるまい。
「くっ……!!」
ラーハルトはわたしの分身に一瞬戸惑ったようだが、驚く事に彼は、そのすべての動きに対応してみせた。
効率が悪いようだが、全て躱せるのならば、分身を見極める必要もない。
こいつ、速さだけならバランを上回るかも!!
ならば…本来は槍を以って使う技だし、見よう見まねだけど。
「さみだれ突き!!」
それは、パルナ村でオミットさんに演武を見せていただいた中で、一番棍に応用できそうだと思っていた、連続突きの技だ。
わたしの生きる力、技は、人間がくれたもの。
それを否定する者に、負けるわけにはいかない。
…だがそこに、更に驚く事が起こっていた。
確かに未熟だが、それでも相当な高速である筈のわたしの突きが全て、ラーハルトの槍で弾かれたかと思うと、最後の突きがその穂先で合わされ、止められていたのだ。
信じられない、あんなに大きな武器で。
「もう止せ、グエナヴィア。言ったろう。
オレはもう、守られるだけの…子供だった時のオレじゃない」
一旦押し返して間合いを離そう…と思ったが、それができない。
わたしが力を込めて押し返せば、向こうから同じだけの力が加わって、均衡を保とうとしてくる。
バカにしてる。
力では間違いなくラーハルトが上だ。
それをわざわざ、同じだけの力で合わせてくるなんて。
そして、この状態から引くわけにもいかない。
この状態で力負けすれば、その勢いは全てわたしの方に来てしまう。
考えろ。頭はその為にある。
戦いは、力の優劣で決まるものじゃない。
その時。
「ブハアァ───ッ!!」
「ムッ!!」
ヒュンケルが戦っているトドマンが、どうやら氷のブレスを吐いたらしい。
見る限り、マヒャド級の威力がありそうなそれは、直撃を食らえば一瞬で凍りつくだろう。
そこに武器を撃ち当てて砕く戦法か。
さきの粉みじん発言は、どうもそういうことのようだ。
なるほど、うまい手だ。けど相手が悪い。
一瞬、ラーハルトの視線がそちらに逸れた。
…この瞬間を逃す手はない!
わたしは棍を横にずらし、ぱっとそのまま手を離すと、トベルーラで跳躍してラーハルトの頭上へ飛ぶ。
「なっ…!!」
一瞬、力を逸らされたラーハルトの身体が泳いだ。
その背中を蹴って、もう一度空中へ飛び、そこで体勢を整えながら、手に魔法力を溜めた。
「バギマッ!!」
瞬間。
何故か、トドマンのブレスの中でヒュンケルが口にした
「「
風が。
吹雪が。
かき消された。
「それは…まさか!?」
「なるほど。
あれはまさしく魔界最高の名工といわれたロン・ベルク作…鎧の魔剣。
火炎・凍気をはじめとする、電撃以外全ての呪文を弾く…オレのこの『鎧の魔槍』と並ぶ傑作だ」
「ふ…吹雪が効かん!!!!!」
動揺するトドマンの武器を手刀で砕くと同時に突進し、ヒュンケルがその巨体を素手で殴り飛ばす。
「…遊びは終わりだ!!」
言ってヒュンケルは兜から剣を取り外すと、先ほどガルダンディーとか呼ばれていた鳥に放ったのと同じ技で、トドマンの胸を貫いていた。
「ブラッディースクライド!!!」
…ラーハルトが身につけていたのは、ヒュンケルのものより軽装ながら、それと質感の似た金属で作られた鎧だった。
なるほど、あの巨大な穂鞘は、ヒュンケルの剣の鞘と同様、鎧に変化する部分だったか。
などと感心している場合じゃない。
なんて事だ。
ヒュンケルと同じ鎧であれば、呪文攻撃は一切無効ということになる。
呪文だけじゃない。
先ほどのヒュンケルがブレス攻撃すら弾いたのを見る限り、属性攻撃そのものが無効化されるらしい。
それはわたしの攻撃も、バギや氷結乱撃は通用しないという事。
「ヤツとならこれで戦力は互角…いや、腕はオレの方が上だから、オレが有利かな…?」
わたしの場合、ヒュンケルは最初から味方だったが、この魔法防御力を持つヒュンケルに敵として相対したダイ、ポップ、マァムの、ファーストコンタクト時の絶望感が如何許りであったか、今なら理解できる。
「ほざくな…次は貴様の番だ」
と、トドマンを片付けたヒュンケルが、再びわたしの隣に立つ。
それだけで、その存在感のなんと頼もしいことか。
「下がっていろと言った筈だぞ、グエン。
どうやらそいつとは因縁があるようだが、戦いはオレに任せておけ。
…あなたも、あなたの守りたいものも、オレが必ず守る!!」
「…ヒュンケル!」
ヒュンケルは、わたしにそう言うと、剣を構えてラーハルトに向かった。
ラーハルトはそのヒュンケルの剣撃を、左腕に装着された小さな盾で受け止める。
「おまえの秘技を拝ませてもらった礼をせねばなるまい…今度はオレの秘技をお見せしよう!」
そう言って、その盾に収納されていた突起を引き出す。
ラーハルトの手の中でそれは長く伸び、先ほど手にしていたのと同じ長さの一本の槍となった。
それが、構えたと同時に、疾る。
次の瞬間、その穂先は、反射的に首を傾けて躱したヒュンケルの足元に、彼の兜を落としていた。
ヒュンケルが一旦間合いを離す。
「上手く躱した…と言いたいところだが…。
今のはほんの挨拶がわりだ。
落ちた兜をよく見ろ!」
…それは真ん中から、綺麗に二つに割れていた。
ヒュンケルだけでなく、後ろに控えるわたしも息を呑む。
やはりラーハルトのスピードは桁違いだ。
しかもわたしの時は、半分の実力すら出していなかっただろう。
そして、元々器用な子だった彼は、今やそのスピードに加え、正確さ、精密さまでもを兼ね備えている。
ヒュンケルの剣技には正確さがないとは言わないが、やはりその
だが一撃の破壊力は上でも、その一撃が当たらなければ意味がない。
総合的な部分での二人の戦闘力にそれほど違いはないだろうが、ヒュンケルにとってのラーハルトは、相性のいい相手とは言い難い。
「その気になればオレの槍は、おまえがまばたきしている間に、その心臓を貫くことだってできる」
涼しい顔で言ってのけるラーハルトの言葉は、決してハッタリではないのだろう。ならば。
「お…面白い!そんなことができるのなら……」
「ヒュンケル、挑発に乗らない!
…気負わなくていいわよ。
わたしへの気遣いは無用だわ。
人間の力は、仲間との絆。
生死を共にする仲間として、お互いを信じ合う心。
…一緒に戦いましょう、ヒュンケル。
わたし
無策で突進して行こうとしたヒュンケルを制して、彼の身体にスカラをかける。
…以前、回復呪文が通ったから大丈夫とは思ったけど、どうやら補助呪文も問題なく通るようだ。
この鎧の魔法無効化は、『害意ある』ものに限られるらしい。
今度彼に協力してもらって、もう少し詳しい効果の範囲を検証させてもらおう。
…まあ、それには今、目の前に立ちはだかる
「グエン……わかった」
スカラをかけるために触れていたわたしの手に、ヒュンケルの手が重なった。
互いに視線を合わせて頷き合い、意思の疎通が完了して、改めてラーハルトに向き合う。
「…グエナヴィア!
オレと敵対してまで、人間の手を取ると言うのか…!
いい加減に目を覚ませ!!
おまえを守れるのはそいつではない、このオレだ!!」
言うや、ラーハルトの槍が回転した…ところまでは目視できた。
だが次に、閃光が幾筋も疾ったように見えたかと思えば、ヒュンケルの身体が後方に吹き飛んでいた。
「うおおおおッ!!!」
ヒュンケルの身体の至る所に、ラーハルトの放つ鋭い突きが命中する。
スカラをかけていなければ、鎧が砕かれて結構なダメージを負っているだろう。
だがダメージは流せても勢いは殺せず、ヒュンケルの身体は、後ろの岩山に叩きつけられた。
「ヒュンケルッ!!」
「グエナヴィア…おまえが信じた人間がいかに無力か思い知ったろう。
さあ、いよいよ予告通り、心臓を貫いてやろう」
「…それを実行するには、わたしを殺すしかなくてよ、ラーハルト。
今度はわたしが相手をする。
全力でかかってきなさい!!」
それでも、ヒュンケルのダメージはさほどでも無いはずだ。
隙さえ作れれば攻撃のチャンスはある。
そして攻撃さえ当たれば、ヒュンケルなら勝てる。
それを作るのが、仲間としてのわたしの役目だ。
ラーハルトは「わたしを守る」と言った。
けれど彼の言うそれは、それまで生きてきたわたし自身を、壊す事と同義だ。
バランが、ダイを手に入れようとしているのと同じように。
バランは「ダイ」を壊して、「ディーノ」を手に入れようとしている。
ラーハルトもまた、彼が守ろうとしているのは、別れた当時の無力だった少女の頃のわたしであり、彼の中に今のわたしは存在しない。
わたしにもラーハルトにも。
ダイにもバランにも。
同じ時間が流れている筈なのに、誰もそれを認めようとしていなくて。
…だから、わたしが時間を進めよう。
あの日のラーハルトを取り戻そうなどとは、もう思うまい。
できれば殺したくはなかったから、無力化する程度に留めたかったけど、そんな甘い考えで勝てる相手じゃない。
どちらかしか、選べないなら。
わたしは、「今のわたし」を選ぼう。
「今のわたしが守りたいもの」を守ろう。
目の前にいるのは、それを壊そうとする、敵だ。
☆☆☆
「……誰か、ここへ来るよ…わかるんだ。
ぼくは…その人を知ってる…!」
「
「やめろと言うのに」
バトル漫画のセオリーは一対一。
けどドラクエのシステムはパーティー戦。
僧侶とか魔法使いの存在って、そのパーティー戦の象徴だと思うの。
…それはそれとしてラーハルトって入力しようとしてラーまで打つと、やたらとラーメン関係の予測変換が出てくるの何とかして欲しいんですけど。
なんともなりませんかそうですか。