DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
来た時はヒュンケルだけだったが、ポップも増えたらリリルーラでクロコダインに合流するのは無理そうなので、とりあえずルーラで森の中の小屋まで戻り、そこから王城へ向かった。
「というか、記憶がなくてただでさえ不安なダイを、牢屋に入れるとか酷くない!?」
「おれじゃねえよ!姫さんの判断だ!!」
「大体、あなた方の彼への態度も問題よ!
もう少し、ダイの気持ちを考えて…!」
「…見えてきたぞ。あれが王城だろう」
説教モードに突入しそうになったわたしを、絶妙のタイミングでヒュンケルが制する。
その時。
少し遠くに見える城の上空に、突如雷雲が立ち込めて、一筋の稲妻が大気を切り裂く光が見えた。
「……クロコダイン!」
あの輝きの下、彼がきっとひとりで戦っている。
わたし達が来るのを信じて。
☆☆☆
「ふ…不死身か、おまえは…!!?
ギガブレイクを2発もうけて、まだ生きている奴など、今まで誰もいなかった…!!」
王城の壁に身体を打ちつけられ、辛うじて砕け落ちずに済んだそれに身を凭せ掛けつつ、なんとか立っている状態のオレに、バランが息を乱した上、精神的にも動揺しているのがわかる。
「フフフッ…不死身はヒュンケルの代名詞…。
オレごときがこんな攻撃をくらい続けていたら、確実に死ぬさ…!
だがオレの生命と、おまえの
ここに至るまでに、オレはバランの渾身の剣撃と、ギガブレイクを2発食らっていた。
姫の
判っていて、敢えてそうするのだ。
仲間割れのふりをしてまでダイを守ろうとした、ポップの心に殉じる為に。
「さては勝つ事が目的ではないな!!
おまえ自身の生命を盾として、私の体力と魔法力を消耗させる事が狙いかっ…!?
天下の獣王クロコダインが、この場で捨て石になろうというのかっ!!?」
今更驚く事ではあるまい。
オレの覚悟はあの日、グエンと共にこの男と対峙したあの時と変わらん。
「オレにできることといったら、せいぜいこれくらい…それにおまえの
たとえ捨て石となろうとも、仲間を信じ抜く。
仲間の為ならばこの生命を賭ける。それだけだ。
「仲間だと!?そんなものが…!!?」
「来る!必ず!!」
オレが断言すると、バランは理解できないものを見るような目をした。
だが…オレにはわかる。
これは、かつてのヒュンケルと同じ目だと。
この男は、愛や友情、心の絆の素晴らしさを知らぬ男ではないと。
恐らくは…姫のサポートと、ドラゴンの鱗とまではいかずとも鋼鉄と呼ばれたオレの肉体の防御力があったにしても、紋章の力を使い、最大の技をもってしてもオレに一撃でとどめをさせないのは、奴の心が揺らいでいるからだ。
何度でも来るがいい。
たとえ五体バラバラになろうとも、おまえの
もう一撃が来る前に、レオナ姫が回復の為、オレに駆け寄ってくる。
だが、その行く手を、一筋の雷光が阻んだ。
あれは…バランの
姫がその威力に抉られた地面に足を取られ、転倒する。
直撃していたら即死だったろう。
もっとも、今の攻撃はあくまでも威嚇で、当てる気は無かったのだろうが。
「女を殺したくはないが…一歩でも動いたら黒コゲになると思え!!」
バランは姫にそう言うと、再びオレに向き直る。
これで姫はそこから動けなくなった。
バランは、やるといったら本当にやる。
姫がそこから動けば、
「今度こそ、本当にとどめだっ!!!」
先ほど二度受けた、ギガブレイクの構え。
姫の回復が受けられなかった身体に、オレはせめて残りの全闘気を防御に集中させる。
この一撃に耐えきれなければ、オレは死ぬ。
気合声と共に、バランがオレに踊りかかり…
「だっ…だめッ!!やめてっ!!」
満身創痍でバランの技の前に身を晒すオレの姿に耐えきれなくなったのだろう、立ち上がったレオナ姫がこちらに駆け寄ろうとする。
「い…いかん!!姫っ!!動いては…!!!」
「バカめが!!忠告を無視しおって…!!」
紫電が、閃いた。
☆☆☆
わたしが状況を理解する前に、ヒュンケルが、隣を走っていたわたしの手から槍を引ったくり、投擲した。
天空から降り注ぐ
その槍のそばで、それを呆然と見つめへたり込んでるのは、レオナ姫だった。
ヒュンケルが槍を投げ放たなければ、本来の落雷地点はレオナ姫の身体だったようだ。
「…どういうつもりなのだ!!ラーハ…」
どうやら邪魔をしたものがラーハルトの槍である事が一目でわかったらしい。
怒りの表情でバランが、私たちの方を振り返った。
体力も満タンでその場に並ぶわたし達…恐らくは、特に鎧の魔槍を身につけたわたしの姿に、目を
「グエナヴィア…!!」
そのバランをとりあえず全力で見なかったフリをして、ここを守ってきた2人にわたしは声をかけた。
「ごめんね、戻るのが遅くなって。
ついでだから、彼らと合流してひと仕事終えてきたわ!」
…今出来得る限りのドヤ顔に、ウインクとサムズアップ付きで。
「ヒュンケル!グエン!ポ…ポップ君も…!!」
「い…生きていてくれたか…!ポップ!!」
クロコダインは満身創痍ながらもホッとしたように、レオナ姫は花が咲いたような笑顔で、二人ともポップを見たところを見ると、どういう経緯でかは知らないが、彼がわざと憎まれ口を叩いて足留めに出た事を、姫様もクロコダインも知っているようだ。
「へへっ…おれたち三人で、竜騎衆は全員キレイに片付けてきたぜ!!」
「バカなッ!!でたらめを言うな!!!」
こちらはVサインしながらのポップの言葉に、バランはわたし達を睨みながら声を荒げる。
バラン的には精鋭だったんだろうから、信じられないのも無理はないが、残念ながら本当だ。
ていうか、実力はラーハルトが飛び抜けてるだけであとのふたりはそれなりだったが。
…まあ、わたしは一人も倒せてない上、むしろ足引っ張ったんだけどさ。くっそ、あのトド。
というか、魔法使いの立ち位置的には今回のポップの行動、決して褒められたことではなかったけど、実は密かに結果としてはいい方向に傾いたんじゃなかろうか。
少なくとも、ここで竜騎衆とバランを一度に迎えるよりは。
しかも、足留めに来たのがポップひとりだったからこそ、バランはあの場に竜騎衆を三人とも置いていった。
ポップが見た目の割に強力な呪文の使い手だとバランは知っており、尚且つ自分が相手するまでもないという、適度には侮れる相手だったからこそ。
これがわたしならせいぜいひとり残して他は連れてかれただろうし、ヒュンケルならバランは先に行く選択をせず、こっちを確実に潰してからダイのもとに向かう事にしただろう。
「でたらめではない。
そうでなくては、オレ達がこの場に現れるわけがあるまい」
少し冷静さを欠いてるバランにヒュンケルが言うと(今気がついたけど、バランって結構頭に血が上りやすいタイプかもしれない)、バランはヒュンケルから目線をわたしに移し、強い目で睨みつけてきた。
「そうか。…おまえたちはラーハルトを倒し、その鎧を奪ったというわけか…!」
「違う!
この鎧はラーハルト自らの意志で、グエンに委ねられたものだ!!」
その視線からわたしを庇うように、ヒュンケルがわたしの前に進み出る。
その間にレオナ姫が立ち上がって駆け寄って来ようとするのを、手だけで制してクロコダインを指してやった。
わたしの意図を察したレオナ姫は、一度頷いてからクロコダインの方に向かって走っていく。
今ならバランは姫に攻撃はすまい。
回復するなら今が最後のチャンスだ。
「ヤツはおまえのことを、オレたちに託し、死んでいった。
この鎧はその時ヤツからグエンが譲り受けた、いわばヤツの形見だ。
バラン…おまえの悲劇はラーハルトから聞いた」
恋に落ち、子までもうけた愛する人を、その同族である人間によって失った事。
それにより生まれた人間を憎む心が、彼の心に耐えきれない矛盾を生んだ事。
人間を滅ぼす事でその矛盾を消し去ろうとしている事…。
ヒュンケルはあくまで、バランの苦悩や悲しみには共感した上で、それは人の心を持つ者として、正しいあり方ではないと訴える。
愛した人はそれを望まぬと。
親としてダイを愛するなら、そのダイには人の心で接するべきだと。
…ただ、ヒュンケルは忘れていた。
相手が、人の心を持ってはいても、人を超越した別な生き物である事を。
人間とは立ち位置がそもそも違うが故に、視点が違うという事を。
その男は神の使いであり、裁き、滅ぼす、その決定権を、生まれながらに与えられた存在。
彼にしてみれば、神の代行者である己により、裁きが既に決定した汚らわしい下等生物たちが、言葉を弄して足掻いた末に、己の裡の大事な領域に、土足で踏み込んだとしか思えなかったのだろう。
わたし達はその事に、後になってから気がついた。
「…ならば…捨てよう!
この、人の心と…身体を…!!!」
…気付いた時には、既に遅かった。
顔の右半分を覆っていた仮面のようなアクセサリーを引きちぎるように外したバランの素顔に、ほんの少しだけダイに似たところがある、と一瞬だけ呑気な事を考えたのは、一種の逃避だっただろうか。
力任せに握りしめたアクセサリーがグローブを突き破り、その手を傷つける。
流れた赤い血が、蒼に変わる。
そのまま突き上げた拳に、閃光が降り注ぐ。
紫電を纏わせたその身体が徐々に、人とは異なるものに姿を変えてゆく。
「竜と…魔族と…人の力を併せ持った、
竜魔人と呼ばれる姿だ!!!」
出会った時、人間と変わらぬ姿のバランの奥に常に感じていた、獣を思わせる気が、今や彼の身体全体を覆っていた。
…魔獣の姿が、そこにあった。
・・・
「…ポップ!城の中へ逃げろっ!!!」
ヒュンケルがいつでも応戦できるよう構えを崩さぬまま言う。
「冗談じゃねえ!!おれも戦うぜ!!」
そのヒュンケルに反論するポップだが、こうなったからには彼の出番はない。
マトリフ様のところでの修業を見ていた限り、この子は確かに攻撃呪文の適性が突出してるのは間違いないが、そちらを重要視するあまり補助呪文の価値を軽視している傾向があった。
最初はルーラですら戦いの役に立たないと言っていたと、マトリフ様が舌打ちしていたくらい。
魔法使いに適性がある補助呪文には戦略的に結構使えるものがあり、
「…あのバランの全身を覆う凄まじい闘気が、わからないわけはないでしょう?
通常形態のバランにさえ、あなたの最大呪文は通じなかった。
現時点で申し訳程度にしか回復できていない、あなたの魔法力で何が出来て?」
「てっ…てめ……えっ!?」
こちらに詰め寄ってくるポップの手を掴み、首に腕を回して、ハグするみたいな形を取る。
「トベルーラ!」
そのまま、彼を連れて城の扉へ向かって飛ぶ。
本当はダイのそばまでリリルーラ出来ればそれがベストだったのだが、今のダイがわたし達を『仲間』と認識していない以上、それは不可能だ。
「地下牢のダイを頼む!!
我らに万が一の事があったら、ダイを連れてどこまでも逃げろッ!!」
どうやら回復が恙なく済んだらしいクロコダインの声が背中に聞こえ、ポップはようやく状況を汲んでくれたようだった。
「くっ…くそっ…!わかったよ!
死ぬんじゃねえぞ!!みんな!!」
扉の前で着地し、ポップの身体を離す。
目を見合わせ、頷き合ったその時、
「危ないっ!!」
レオナ姫の声が聞こえ…次の瞬間、肩に衝撃が走り、わたしの身体は、前方につんのめった。
……一拍遅れて、激痛が走る。
「…ああぁぁッ!!!」
「グエンッ!!」
倒れかかるわたしの体を、ポップの腕が支えた。
「女を後ろから撃つとは…!!?
なんということを…!!!」
後ろで叫んだクロコダインの声が、怒りに震えている。
そのクロコダインに答えるバランの声は、わたしの耳に、どこかひび割れて聞こえた。
「…悪いな。
竜魔人となった私は、ただ目の前の敵を全滅させるだけの、魔獣にひとしい存在だ。
あまりに強大な力ゆえ、自らの意志でセーブする事ができん。
女だろうが未熟者だろうが、手加減などしてやれんのだ…。
……だが、仕方ないだろう…私の心の傷に…無闇に触れた…貴様らが悪いんだからなァァッ!!!」
地獄が…蹂躙が、始まろうとしていた。