DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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29・半魔の僧侶は逆上する

「いやああああ─────ッ!!!」

 唐突な悪夢に目覚めさせられたメルルは、自身の悲鳴で目を覚ました。

 

 …夢なんて生やさしい感じじゃなかった…。

 すごくリアルで…。

 

 荒い息をなんとか落ち着かせて、頭の中をよぎった光景に思いを巡らせる。

 絶対に敵わない強大な敵に、一人突っ込んでいく、魔法使いの少年。

 その身体が、呆気なく打ち砕かれて…。

 そこまで思い出して首を振った瞬間、不意に思い当たる。

 幼い頃から何度となく、夢で見たことが現実に起きた事が、彼女にはあった。

 

「まさか…予知!!?ポップさん!!!!」

 淡い想いを抱く相手の名を呼びながら、牢のある地下室から、メルルは足をふらつかせながらも階段を駆け上がった。

 

 ☆☆☆

 

 それは、まさに地獄絵図だった。

 

「ぬうううッ!!!ぬっ…抜けん…!!!

 ひっ…非力な魔法使いごときの握力なのに…!!!」

「あ…あったりめえよッ…!

 この指先にはな…おれの全生命エネルギーを込めてるんだ…抜けてもらっちゃ困るんだよ…!!」

「やめなさいポップ!

『それ』なら、わたしがやるから!

 わたしなら蘇生の可能性があるからッ!!」

 魔法力を込めた指をバランのこめかみに食い込ませているポップに向かってわたしは呼びかける。

 

「はっ、おれだって毎度毎度女に庇われて、のうのうとしてられねえっての!!

 そうやって男のコンプレックスいちいち刺激してっから美人なのにモテねえんだぜ!

 黙って見てろよ、オネーサン!!」

 今わたしのコンプレックスを刺激したのは間違いなくおまえだ、というツッコミが言葉にならない。

 ポップはバランに対し、己の生命そのもので攻撃しようとしている。

 即ち、自己犠牲呪文(メガンテ)でバランを倒そうとしているのだ。己の生命と引き換えに。

 自己犠牲呪文(メガンテ)は本来は僧侶の呪文。

 神の祝福を受けた僧侶、つまりここでの場合ならわたしが使う分には、万にひとつの確率で蘇生の可能性はあるが、それ以外の者の肉体は、その衝撃には耐えきれない。

 そんな決断をこの若い魔法使いにさせてしまったこと、これはもう、わたし達大人が呆気なく、この魔獣に伸されたのが原因だ。

 

 生命力から変換された魔法力はその性質上、通常のそれよりもはるかに強い。

 外から干渉しようにも弾かれるし、そもそも自己犠牲呪文(メガンテ)は爆発を伴う呪文故に、その威力を敵に集中させる為、また味方を爆発に巻き込まない為に、術者と対象者の周囲にある程度の力場が生じ、それ以外の者はそこに踏み込めない仕様になっている。

 つまり自己犠牲呪文(メガンテ)が発動し始めたが最後、術者自身がその発動を止めない限り、それを外から止める手段はない。

 

「やめろ──ッ!!

 ポップ!!!バカな事をするな──ッ!!!」

「そうだッ!!

 バランにそいつが効くかどうかもわからん!!

 ムダ死にするかも知れんのだぞっ!!!」

 地面にへたり込んだままのヒュンケルとクロコダインも、わたし同様制止の言葉をかけるが、思いつめた表情のポップは呪文の発動を止めてくれない。

 こうなったら腕を引きちぎってやる、と抵抗を試みるバランだが、そのバランでさえ力場に捉えられ、動きを制限されている。

 

「みんな…あとは頼まぁ…。

 マァムには…うまく言っといてくれや…」

 その言葉に、わたしはほぼ反射的に言い返す。

 

「やめてよバカ!いいこと!?

 あなたが今ここで死んだりしたらわたし、マァムにあなたの悪口、ないことないこと、ボロクソに吹き込むわよ!!」

 実際にそんな事をしたらあの優しいマァムにさえ、人でなしを見るような目で見られるだろうけど。

 今更だ。わたしは人間じゃない。

 

「はは…ほんっと、残念な美人だよな、あんた」

 なんて言いながらポップの浮かべた大人びた笑みが、先ほどわたしを人質に取られた上にそのわたしに罵詈雑言を浴びせられたときのヒュンケルの表情と、一瞬重なって見える。

 

 今わかった。

 これ、『仕方のないやつだな』って思いながら、同時にそれを許してくれる、大人の男の余裕の表情なんだ。

 

 …そんな顔、アンタには10年早いのよ!!

 あとヒュンケルは、さっきぶん殴ったけど後でもういっぺんしばく。

 

「あ…うわぁぁっ…!!」

 そのポップを見つめて、何か言おうとしながらも言葉にならないのだろう、呻くような声しか出せずにダイが首を横に振るのを見て、ポップが呟く。

 

「……あばよ、ダイ…。

 おまえとはいろいろあったけど…楽しかったぜ。

 でも…おれの冒険は…ここまでだぜ…!!」

 その瞬間、魔力に変換された生命力が最高潮の輝きを放った。

 非力な筈の魔法使いの作り上げた力に拘束されたバランが、雄叫びのような悲鳴を上げる。

 そして。

 

 

 

 ──メガンテ!!!!

 

 

 

 生命が、魔力が、大爆発を起こし…、

 

 

 

「ポップ〜〜〜!!!!!!」

 爆風の中で、ダイが叫んだ。友の名を。

 

「ポップ!!ごめん!!ごめんよぉぉぉ──ッ!!!」

 その生命の爆発の威力は、ダイの記憶を封じていた枷すら破壊した。

 

「…う…そ…!!!」

 視界の端で、王城の中から飛び出してきたメルルが、地面に膝をつくのが見えた。

 思い出の代償は、あまりにも大きかった。

 

 それなのに。

 

「あ…ああっ!!!」

 爆発がおさまって見上げた上空には、絶望が…、

 

 片手にポップの身体を掴んでぶら下げたバランが、翼を広げ、浮かんでいた。

 

 ポップが生命をかけた自己犠牲呪文(メガンテ)すら、全く効かなかったのかと嘆くクロコダインの言葉に、バランは御丁寧に答えを返す。

 

「…こいつが未熟なおかげで助かった。

 全生命エネルギーを、指から送り込み爆発させる瞬間、わずかなスキが生じ、指の力が弱まったのだ。

 私は上空に飛び、その勢いでこいつをふりほどいた…!!」

 そう言ってから、掴んでいたポップの身体を、無造作に地面へ放り投げる。

 ポップは受け身を取る事なく、投げ出されるままに地面に横たわっていた。

 その身体が生命活動を行なっていない事は、一目見ただけで明らかだった。

 

「………犬死にだ!!」

 吐き捨てるように言い放ったそのバランの言葉に、わたしの内側で、なにかが切れた。

 

「─────ッ!!!!!」

 発音にもならない叫びが勝手に喉から発せられるのにも気付かず、わたしは槍を構えてバランに向かって飛ぶ。

 

「グエン!?」

 もはや戦術も何もなく、感情のままに槍をバランに突き立て、振り下ろす。

 勿論竜闘気(ドラゴニックオーラ)に覆われたバランの身体には傷のひとつすら与えられない。

 わかっていても、それでも。

 ぶつけずにはいられなかった。この怒りを。

 

「グエン!!だめよ!!やめてっ!!!」

 レオナ姫の制止の声が、耳には届いたが心には響かない。

 

「…私に触るな!!」

 軽く振ったバランの腕が、容易くわたしの身体を弾き飛ばす。

 わたしはトベルーラで自分の身体にブレーキをかけると、一旦着地して、槍の柄を地面に突き立てた。

 

 黒いモノがわたしの身体の奥から…否、どこか違う場所からわたしの身体の奥にある扉を通して、湧き上がってくるような感覚を覚えた。

 それは地の底から上ってきて、わたしが手にする槍へと這い上り、空へと向かおうとする。

 天からではなく地から、黒い稲妻が立ち上がる。

 

 それは、地獄の(いかづち)

 

 怒りによって開かれた地獄の扉から呼び出された、雷撃の蛇。

 槍に絡みついたその力を、わたしはためらう事なく解き放…………

 

「…やめて!おれ、そんなグエン見たくないよ!」

 …とうとした次の瞬間、腰に柔らかく温かいものが絡みついた。

 

「ダ……イ…!?」

 黒い稲妻が、霧散する。

 怒りに沸騰していた頭が、急速に冷えていく。

 

 わたしは…今、何をしようとしていた!?

 

「だめだよ…それじゃ、グエンまであいつと同じになっちゃう…そんなのおれ、嫌だ…!!」

 必死にわたしにしがみつくダイの体温が、わたしを正気に戻していく。

 彼のつむじを見下ろす両目から、知らず、涙が溢れた。

 

「ダイ…だって、だってポップが……!」

「ごめんね…おれが不甲斐ないばっかりに、ポップを死なせて…でも、グエンが()()()()()()に行く必要ない!」

「ダイっ………!!」

 ぐしゃぐしゃに泣きながら、ダイの身体を抱きしめる。

 これじゃどっちが大人なのかわからない。

 けど、次の瞬間ダイはわたしを突き飛ばすと、それまでわたしが立っていた場所に身体を移動させ、両腕を広げた。

 

 ドン………!!!!

 

 地面に尻餅をついたわたしが見上げた勇者の肩越しに、バランが上空からこちらを睨みつけている。

 ダイの背中から、煙が立ちのぼっているのが見える。

 

 えっ…これは、まさか。

 バランの攻撃からわたしを庇った!?

 

 慌てて立ち上がろうとして、ダイが発する気に、一瞬怯む。

 

「やめろ…!

 これ以上…おれの仲間に手を出すなッッ!!!!」

 その額から光が溢れ出し……その輝きよりも強い瞳で、ダイは上空のバランを睨みつけて言い放った。

 

 ダイの記憶が完全に戻ったと認識するや、バランは再び、紋章を無理矢理共鳴させる。

 

「ダイッ!!」

 バランが消し去ろうとしている『ダイ』を、なんとか引き止めるべくその名を呼ぶ。

 ダイは苦しそうな表情を浮かべながらも、それでもかすかに微笑んでみせた。

 

「…大丈夫だ、グエン!!おれは負けない!」

 そう言ってバランに向き直り、その力を押し戻そうとするように、強い瞳で見返す。

 

「おれは二度とポップの事を…みんなの事を忘れない!!

 おれはおれだ!勇者ダイなんだ──っ!!!」

 ダイはそう叫ぶと、右の拳を突き上げた。

 気のせいか先ほどの額の輝きが、その拳から放たれている気がする。

 

「おまえなんか、父さんじゃないっ!!!!」

 そのままダイはバランに向けて飛び立つと、その拳をバランの顔に命中させた。

 竜闘気(ドラゴニックオーラ)の完全防御を突き抜けて加えられたダイの一撃に、バランは体勢を崩しながらも、両足で地面に降り立つ。

 その目が、驚愕に見開かれた。

 バランだけでなく、その場で意識のある者が、全員瞠目する。

 

 バランを睨んで構えを取るダイの、先ほどまで確かに額に現れていた(ドラゴン)の紋章は、今はその右拳の甲で、輝きを放っていた。

 

「ど…どうなっているんだ!?

 (ドラゴン)の紋章が…拳に現れるとは…!!?」

 呆けていた意識が、クロコダインの声に引き戻される。

 

「恐らくダイが、自らの意志でそうしたのだろう…」

 クロコダイン同様、倒れ伏したままのヒュンケルがその声に答えるのが聞こえ、わたしは彼らの方に駆け寄った。

 そうだ、泣いてなんかいられない。

 倒れてなんかいられない。

 ダイは、わたし達を守るために戦ってくれている。

 

「バランの頭脳支配から逃れ、ヤツ以上のパワーを得るには、紋章の力を、額以外のどこか一点に集中させるしかないと悟ったのだ。

 全闘気の力では大人のバランに劣っても、一点に集中すれば…一撃の破壊力は勝る…!!」

 ヒュンケルは直感だがと前置きしてから、この奇跡がダイの身体に半分流れている人間の血が起こしたのだろうと説明していた。

 ポップを想う人間の心が血のたぎりとなって、竜と魔の力を腕へと追いやり、逆に支配したと。

 

「そっ…それでは今のダイは…」

「…そうだ。おそらく…自らの意志で100%、(ドラゴン)の紋章を操れるはず…!!!」

 それはまさに、バランが捨てた、人間の心の力だった。

 

 ダイは紋章の力を奮い、バランと互角に立ち回っている。

 けれど、体格差が体力差とイコールしないにしても、長引けばダイの不利は明らかだ。

 

「…さあ、わたし達大人も、いつまでも呆けていられないわよ」

 彼がバランを引き付けている間に、さっきまでは不可能だと思っていた、男二人の回復を行う。

 更にスクルトと、念の為フバーハを重ねがけし…それからふと思いついて、リュックの中から、ずっと入れたままだったダイの破邪の剣を取り出した。

 森の中の小屋にいた際、キレたポップがダイに突き出して泣かれ、仕方なくわたしが預かっていたのだ。

 

「…どうする気だ?」

 剣をじっと見つめるわたしに、問いかけたのはヒュンケル。

 

「…竜闘気(ドラゴニックオーラ)での攻撃はほぼフバーハを突き抜けた…つまり、属性よりむしろ物理に近い…そして同じエネルギーを、バランは常に防御に回して身に纏わせている…。

 ならばその防御を、武器への攻撃であるとイメージすれば…もしかしたら」

 剣を手にした腕に、魔法力を込める。

 それから、回復を済ませた男2人に指示を出した。

 

「2人は、ダイのサポートをお願い!

 攻撃対象を1人に集中されないよう、常に同時攻撃、接近戦で!!

 勝てとは言わない!

 せめて引っかき回して、できる限り時間を稼いでくれると助かる!!」

 クロコダインとヒュンケルは、一瞬だがお互いに顔を見合わせた。

 わたしが何をするか気にはなったらしいが、それでもすぐにコクリと頷いて、駆け出していく。

 

「…ゆくぞ、クロコダイン!

 俺たちはダイの剣にして盾だ!!」

「ウム!!!」

 物分かりの良い友人達で助かる。

 少し離れたところでは、メルルがレオナ姫を回復しているらしい。

 …ん?レオナ姫はポップの身体のそばに歩み寄って何かしようとしており、ゴメちゃんが心配そうに肩に乗っているのが見える。

 その間にもダイとバランは激しい攻防を繰り広げており、バランが額から放った紋章の力を、ダイは片手でいなし、その逸らされた破壊力が、森を突き抜け山を砕いた。

 

「でやあああッ!!!」

「ぬううううんッ!!!」

 次の瞬間、二つの影がバランに躍りかかる。

 

「ムッ!」

 しかしバランの腕が振るわれ、剣と斧の軌跡がバランの身体に届く前に、2人とも後方に弾き飛ばされた。

 それでもスクルトを先にかけていた為か、ダメージは軽減できており、クロコダインもヒュンケルも地面に叩きつけられはしたが、すぐに体勢を整えて、更なる攻撃に移る。

 その間にダイも、紋章の力を纏わせた拳で、バランに向かっていく。

 

 そう、拳。

 

 一応あれでもバランの竜闘気(ドラゴニックオーラ)をの防御を抜けて、彼の身体に命中させる事には成功しているが、やはり武器なしでは決め手に欠けるのだ。

 

 魔法力を調整して、破邪の剣にスクルトをかける。

 本来なら味方全員の身体を覆う防御膜を、一本の剣に集中させる。

 …やはり難しい。マトリフ様の仰った通りだ。

 ラーハルトとの戦いで防御壁を張った際は、魔力暴走が起きていたから、本来の数倍の防御力が確保できたけど、さっき暴走したのを解き放ったばかりだから、今は起きそうにないし。

 

 けど、魔法は発想力と集中力。

 そう言ったマトリフ様の悪そうな笑みが頭に浮かぶ。

 あのひとはポップの成長を密かに楽しみにしていた。

 

 こんな事になってしまってごめんなさい。

 …けど、落とし前はきっちりつけるつもりです。

 

 お願い……わたしに力を貸して、ポップ。




…読んでてお判りでしょうが、今回のグエンさんの仮説と発想、間違ってるというか若干ズレてます。
そうじゃねえだろ。
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