DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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3・半魔の僧侶は回想する2

 …息苦しさに目を覚ますと小屋の中で、ラーハルトの母親が使っていたベッドにいた。

 これはラーハルトが作ったもので、この家にベッドはこの一台のみだ。

 わたしとラーハルトが寝ていたのは干草の束の上に毛布を敷いただけの寝床であり、彼女が亡くなった後もどちらも寝床を移動しなかったから、彼女の死後初めてこのベッドを使ったのはわたしという事になる。

 おかしい、わたしは何故ここにいるのだろう。

 ふと、見るともなしに自身の身体を見下ろすと、わたしが身につけているのは、故郷を出る時の荷物として持たされて普段から身につけている若干大きめの尼僧服ではなく、ラーハルトの母親の部屋着だった。

 

 …息苦しかったのはこれが原因か。

 

 あの人は小柄で痩せていたから、わたしが着るには丈は若干短いし、最近妙に膨らんできた胸も少しきつい。

 それに、何やら手の甲がひりひりするので見てみれば、 浅い切り傷がついていて、それがかさぶたになっている。

 

 …………ッ!?

 

「ラーハルト!!」

 ベッドから飛び出して、彼の姿を探す。

 狭い小屋にはランプもなくもう暗くなってはいるが、わたしは魔族の血のせいか割と夜目が利く。

 探すほどのこともなく、いつも彼とわたしが眠っている干草を置くスペースに、ラーハルトは横になって寝息を立てていた。

 怪我などはしていなさそうだ。良かった。

 ホッとして彼に歩み寄り、その金色の髪をそっと撫でる。

 むにゃむにゃと何事か呟いた彼は、目を覚ますことなく、薄く微笑んで小さくわたしの名を呼んだ。

 と、

 

「目が覚めたか」

 不意に、聞き覚えのない低い声が小屋の隅から聞こえ、わたしは咄嗟に身構えた。

 

「…誰っ!?」

「助けてやったというのに、随分なご挨拶だな」

 …その瞬間まで、他に人のいる気配を、わたしはまったく感じていなかった。

 声の聞こえる小屋の隅には、闇がわだかまっており…その闇が、立ち上がって、わたし達を見下ろした。

 背の高い男だった。

 年の頃は30手前、恐らくはそれを越してはいない。

 あっ、と思った。

 この顔は、気を失う寸前、最後に見た顔だ。

 途端、その直前の光景が、頭の中でフラッシュバックした。

 服を切り刻まれて晒された肌の上に、のしかかろうとする人間の男。

 一瞬で、燃え尽きるように、消失するにやにや笑い。

 血の一滴すら流さずに、仰向けに倒れる、首から上を失った身体…。

 そこまで思い出して、胸がむかむかした。

 

「何が起きたか、思い出したようだな」

 言われて、わたしはその男を睨みつけた。

 確かに助けられたのだろう。

 だが、わたし自身、助かったとは思えなかった。

 先ほどとは違う意味で、この男から危険なものを感じていた。

 憎しみとか、怒りとか、そういった激しく昏い感情を孕んだ目は、その身体のうちに凝る闇を、映し出しているように思えた。

 それが自分に向けられたものでないとわかっていても、まともに目を見返すと、反射的に背筋が震える。

 何よりラーハルトは、

 

『襲ってきた奴ら全員、この人が殺してくれた』

 と言った。

 つまりその光景を、10才の子供に見せたという事だ。

 それが、わたしには許せなかった。

 助かったとは思えなかった。

 むしろ新たな火種を抱え込んだ気すらしていた。

 

「あなたも、人間ではないのね…」

 姿は人間と変わらないが、そうでない事は一目でわかった。

 むしろ獣に近い匂いというか、空気を感じる。

 わたしの言葉に、男は一瞬、眉だけを動かした。

 それから、小さく息を吐いて呟く。

 

「…あのような、身勝手で醜い生き物と一緒にするな」

 その言葉にカチンときて、思わず言い返す。

 

「そういう言い方はやめて。

 わたしもラーハルトも半分は人間なの。

 わたしの母は、生まれたばかりのわたしを殺そうとしたらしいけど、あの子の母親は優しくていい人だった。

 確かにさっきの連中のような輩も中にはいるけど、一括りに断じられるのは不愉快だわ」

 そのわたしの言葉に、それまで無表情だった男が、少しだけ目を見開く。

 なんだ?

 

「…あの子の母親?姉弟ではないのか?」

 ああ、そういう事ね。ていうか、そこ?

 

「…わたしは旅の途中で、たまたまここに立ち寄った際に、ここで暮らすあの子とその母親に出会い、彼女の最期を、あの子と共に看取っただけ。

 わたしと彼は境遇が似ていたから、つい離れがたくて居着いてしまったけれど、元々まったくの他人です」

「なるほど。

 ここにある衣服のどれもが、君の身体に合わなかったのはそういうことか。

 一番ゆったりとした形のそれでも、着せるのに苦労した。

 単に山の中の生活で、調達が間に合わなかったのだろうと思っていたが」

 

 ………え。

 

 あの、つまり、この服をわたしに着せたのは、この男だったという事だろうか。

 いや、そうなのだろう。

 ラーハルトではそもそもわたしをここまで運べないし、彼なら母親の服をわたしに着せようなどと考えもしない筈だ。

 まあいい、逆に考えるんだ。

 ほぼ裸の状態のまま放置されなかっただけありがたいと考えるんだ。

 

「君たちはこれからどうする気だ」

 若干モヤモヤした気持ちを己の中で整理をつけていたら、男が話しかけてきた。

 

「どういう意味?」

「人間たちの襲撃が、これで終わると思うのか?

 奴らは同族以外を人と思ってはいない。

 ここにいたら、また君たちは同じような目にあう」

 …そうだった。

 奴らは、どこぞの貴族の依頼で、剣の試し斬りに使う魔族の少年を捕まえる為にここに来たのだ。

 依頼を受けた者たちが戻って来なければ、次の者を送って寄越すに違いない。

 

「……この子を連れて、旅に出るわ。

 どこかひっそりと暮らせる場所を探す」

「一生隠れてか?」

「一生とは思っていません。

 わたしもラーハルトも、半分は人間だもの。

 いつかは分かり合えると…信じています」

 だが、わたしの言葉に、男は首を横に振る。

 

「夢物語だ。そんな都合のいい話はない。

 というより、そのいつかを待つ間に、君たちは迫害の末に命を落とす。

 いや…君一人なら、命だけは助かるだろうが、彼は確実に死ぬ」

「っ!!」

 多分それは、わたしが女だからなのだろう。

 さっきの事を思い出して、わたしはまた吐き気を覚えた。

 だが、

 

「…私と来い。

 私ならば、君たち二人とも、守ってやれる」

 男が、わたしに向けて手を差し出す。

 確かに、先ほどの男たちをどのようにしてかは知らぬが全滅させた事実がある。

 けれど、わたしは本能的に、この男を信じる気になれなかった。

 

「守るってどういう意味?

 襲ってくる人間はみんな殺してくれるって意味なの?」

「必要とあらば」

 即答する。その迷いのなさに恐怖すら覚える。

 

「わたしは人間を殺したくなんかない!

 そんな人についていけると思って?」

 どうしても己の中で受け入れることができない部分を主張するわたしに、男はラーハルトを示しながら言う。

 

「彼は私についてくると言ったぞ」

 …わたしが眠っている間に、そんな約束が交わされていたのか。

 ラーハルトは人間を憎んでいる。

 それは、この出来事で、ますます拍車がかかったろう。

 わたしといると、同じような事が起きる。

 そして彼はますます人間を憎む。

 その、繰り返し……、

 

「……そう。なら、連れていくといいわ。

 わたしではラーハルトを守れないと、彼自身が判断したのならば、そうするしかないでしょう」

 できるだけ冷静に言ったつもりだったが、それでも少し声が震えた。

 そのわたしを見る男の目に、少しだけ哀しげな色が見えたのは気のせいだろうか。

 

「…何故だ。君も人間に迫害されてきたのだろう。

 何故それでも、奴らを信じられる?」

「…わたしを育ててくれた人たちは、わたしを守ろうとしてくれたわ。

 わたしが故郷を離れる時、守ってあげられなくてごめんなさいと泣いた。

 人間は確かに臆病で弱い。

 けどわたしは、あの涙を信じたい」

「………」

 男はわたしの答えを聞いて何か言いかけたようだったが、それ以上の言葉は紡がれなかった。

 わたしは、ずっと小屋の片隅に置きっ放しだった自分のリュックを探り、尼僧服とケープを引っ張り出す。

 

「…悪いけれど、後ろを向いててくださる?

 着替えたいの」

「む……」

 わたしが服を示しながら言うと、男は少し慌てたように背中を向けた。

 振り返る様子もなさそうなのを確認して、窮屈な借り物の部屋着を脱いで、着慣れた尼僧服に袖を通す。

 破かれたものの他はこれ一枚しかないから、次にたどり着いた街か村ででも調達しなければいけない。

 というか、別に尼僧服にこだわる必要はない。

 ケープが付けられるから耳を隠すのに都合がいいってだけで、大きな街に行けば、もっと旅に都合が良い、服でも帽子でもなんでもあるだろう。

 

「ラーハルトが眠っている間に行くわ。

 彼のことはお願いします」

 ケープを頭に被りながら、男の背中に話しかける。

 

「…本当に、彼と離れて構わないのだな?」

「もともと他人だって言ったでしょう?

 それに、わたしと居たらこの子が死ぬって言ったのはあなたよ」

 リュックを背負い、旅装を整えて、もういいと告げると、男は振り返った。

 そしてわたしの姿を見て、少し驚いたように言う。

 

「…尼僧だったのか」

「わたしは修道院で育ったのよ」

「なるほどな。この理不尽な世界を作った存在の、(しもべ)というわけか。

 道理で甘いことばかり口にすると思っていた」

「なんとでも言えばいい。

 わたしは、人間と共存してみせる。

 今は無理でも、いつか必ず分かり合えると信じる。

 …そうなったら必ず帰ると決めていた故郷はもうないし、だからわたしを育ててくれた人達も、今はもう居ないけれど」

 そのわたしの言葉に、男がまた目を見開く。

 

「故郷が、ない?」

「半年ほど前に、領土ごと沈んだそうよ。

 旅の途中で立ち寄った街で、そう聞いたわ。

 詳しいことはわからないけど、地殻変動だろうって」

「…君の、故郷は?」

 何か、男の口調に苦いものが混じった。

 

「アルキードよ」

 わたしは振り返らずにそう答えると、小屋の戸を開けて、外に出た。

 …一人になって見上げた星空が、信じられないほど美しくて、涙が溢れて止まらなかった事を、今でもはっきり覚えている。

 この広い世界で、自分はまったくのひとりぼっちだという、それまで一度も感じたことのない想いに、胸が締め付けられたから。

 

 ☆☆☆

 

 …夢見が良くなかった気怠い朝。

 昨夜あれだけ食べたのに、朝になるとやっぱりお腹は空くのだと、目覚めと同時に苦笑する。

 宿は朝食は出る筈なので、身支度を整えて食堂に向かった。

 宿の女将自慢の焼きたてパンと、優しい味の温かいスープ、付け合わせのミニサラダとチーズまでぺろりと平らげ、わたしは宿を後にして、街の門に向かった。

 

 一歩街の外に出れば、旅人の為の街道以外は、ほぼ荒野か山道だ。

 野生の獣や弱いモンスターなどと出会う事もなくはない為、一応自分にトヘロスをかけておく。

 次の目的地のパルナ村は、以前訪れた事がある。

 薬草の群生地が近くにあるんだけど、その辺はバブルスライムの生息域でもあり、解毒依頼が結構あった筈だ。

 てゆーか、わかってるなら毒消し草を持ち歩けよとちょっとだけ思うが、まあ旅をするならば常備は必要だけど一般の村人には確かにちょっと割高かも。

 まいどありー。

 あと、棒術の達人って人が住んでて、以前訪れた時少しだけ師事した。今もお元気ならば訪ねておきたい。

 

 歩きながら、今朝見た夢を思い出して、また涙が出そうになるのを慌てて止めた。

 あれから…もう12年になるのか。

 

 わたしは、人間と関わって生きていく。

 あの男の手を振り払った自分への意地もあったけど、何よりわたしが、孤独に耐えられそうにない。




関係ないけど、(旧)アニメ版のダイ大のキャスト、マァムとレオナは絶対逆の方が合ってたと今でも思ってる。逆にポップとアバン先生は合い過ぎてて悶えた。ハドラーは後のことを考えてもう少し若めの声の方が良かったと思う。そしてキルバーンはもっと長く放映が続いていたら田中秀幸さんが地獄をみていた。

そういえばヒュンケル(残念イケメン)の声が、堀秀行さんだったんだよな…フッ。
…それはそれとしてダイ大の登場人物の中で、一番イケメンなのがワニっていったいどういうことなんですか?
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