DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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はっきり言ってバラン戦においてのグエンの役割って、鎧の魔剣先輩の命を守る事だけでした。
つまり剣問題さえなんとかなればお払いボックス。


31・半魔の僧侶は邪魔される

「剣を交えた瞬間にわかったわ!!

 その剣に我が剣ほどの強度はない!!!」

 そりゃそうだろ!

 魔法で強化してあるだけで、本体は定価3500Gという、決して安くはないが特別高くもない店売りの剣だからな!

 しかも複数の魔法がかかっているせいで淡い光を帯びてるのはいいんだが、通常戦闘に使用しない呪文が混じってるせいか、それがなんか気持ち悪い色になってるし。

  それはさておき、バランは自身の剣に電撃呪文を溜めて、ギガブレイクの構えを取る。

 

「…この形態(フォーム)でギガブレイクを使った時の破壊力は、私自身にも想像がつかん!!!」

 と言うが…、

 

「それは完全なギガブレイクじゃない!!」

 ダイはやはり看破していた。

 バランが今使った電撃呪文が、ギガデインではなくライデインだった事を。

 そもそもあれだけの威力を持つ魔法を2発撃っておいて、それでもまだ数発のライデインが撃てるだけ魔法力が残っていた事自体が化け物レベルなのだ。

 だがもはやそれも尽きかけているのだろう。

 

「同じ条件なら…おれたちが勝つ!!」

 ダイが剣を振りかざし、雷がそこに降り注ぐ。

 更に、注がれるダイの、紋章の力。

 そうしてから、独特の構えで剣を握り直す。

 

「おれの(パワー)と…先生の技と…グエンの呪文と…ヒュンケルが届けてくれた剣と…!!

 …そして、ポップが取り戻してくれた、おれの思い出のすべてをひとつにして……おまえに、ぶつけてやるッ!!!!」

 今、ダイはとても自然に『おれたち』と言った。

 場違いにもその言葉に感激して、目尻に溢れた涙を拭おうとして、まだ手が痺れたままだった事に気付く。

 わたしの顔を覗き込んだクロコダインが、一瞬フッと笑って、見なかったフリをするように、上空のダイの方へと視線を向けた。

 

 …ちなみに。

 ダイに剣を渡した直後、落下したわたしの身体は、クロコダインに受け止められており、今も彼に姫抱きされている。

 ヒュンケルは最低限の受け身を取ったものの普通に地面に叩きつけられていたので、ちょっと申し訳なかったと思うが、メルルが駆け寄って回復呪文をかけてくれていたので大丈夫だろう。

 

「な…なぜ技を出さないのかしら…!!?」

 そのメルルが、上空を見つめて言う通り、上空に浮かび未だ戦うダイとバランは、小さな鍔迫り合いを繰り返すのみで、互いの決定打を温存し続けている。

 

「次が最後の一撃になると、どちらも気付いているからだ…!

 この勝負…一瞬でも隙を見せた方が負ける…!!!」

 大技を繰り出す瞬間が、達人同士の戦いならば、最大の隙になり得るということか。

 けど、あの状態で長時間は続かない。

 というより、ダイの剣にかけた呪文の効果が切れたら、それで終わりだ。

 

「…頑張って、ダイさん!

 ポップさんの為にも…!!」

 そう呟いて視線を向けた先で、蘇生呪文(ザオラル)の発動を続けながらも、少し不安げな表情を浮かべているレオナ姫がいる。

 その肩で黄金のスライムが、ぽろぽろ涙をこぼしているのが見えた。

 

 恐らくは…無理なのだろう。ならば…。

 ほんの僅かでいい、わたしの魔法力を回復させることにしよう。

 わたしは、クロコダインの腕の中で、目を閉じた。

 

 ・・・

 

 ドオオォン!!!!!

 

「ぅえっ!!?」

 浅い眠りに落ちていたわたしは、突然の爆発音に、強制的に叩き起こされた。

 

「バッ…バカなあッ!!?死人が呪文をぉッ!!?」

 背中から煙を出したバランが、驚きの目を眼下に向けている。

 え!?死人!?

 覚醒したばかりの頭をフル回転させて、現時点でそれに当てはまる条件の人間がいる方に視線を向ける。

 そこには横たわったまま手を上に伸ばすポップと、その傍で驚いた顔をしているレオナ姫がいた。

 そして…

 

「今だああッ!!!

 アバンストラッシュ!!!!」

 バランの気が逸れた瞬間、ダイが溜めていた力を解放する。

 ふたつの力が上空で大爆発を起こし、次の瞬間、大小ふたつの影が、同時に地面に激突した。

 

 結果は……相討ち。え、なんで!?

 

 クロコダインの腕から下ろしてもらいながら、僅かな時間眠っていたわたしは、状況の説明を求めた。

 最大の技の発動を先に仕掛けたのはバランの方だったそうだ。

 確実に決まったと思ったその時、全闘気を攻撃に集中させ、無防備となった背中に、攻撃魔法が叩きつけられた。

 そこからはわたしも見ていた通り。

 あの時のバランは完全に動きが止まっており、意識が目の前のダイから逸れていた。

 

「死んだと思っていたポップの一撃で、バランは一瞬たじろいだ…。

 ダイのストラッシュの方が僅かに早く決まったため…ダイは直撃を避けられたんだ」

 つまりあの爆発は、ふたつの技の激突だったのか。

 

 地面に叩きつけられたダイは、一瞬気を失ったようだが、すぐに起きあがり、よろめきつつも立ち上がった。

 

「ダイ!!大丈夫かっ!?」

「う…うん…み、みんなのおかげで…助かったよ…」

 そう言いつつも倒れそうになるのを、寸前でメルルに支えられる。

 その瞬間、手にしていた破邪の剣から気持ち悪い色の光が消え、次にはまるで乾いた粘土のように、粉々に崩れ落ちた。

 

「グエン…ごめん」

「どうして謝るのよ?

 それより、あなたが無事で良かった。

 それに、ポップも…!」

 そう言って、最大の功労者を振り返る。だが…、

 

「…だめ…ポップ君は…生き返らない…!!」

 綺麗な瞳から大粒の涙を溢れさせながら、レオナ姫が首を横に振った。

 

 え…どういう事!?

 ポップは先ほど、呪文でダイを助けた筈だ。

 

 なぜあのようなことが起きたのか、レオナ姫にもわからないという。

 だが現実に蘇生呪文(ザオラル)は成功せず、ポップは冷たい骸のまま横たわっている。

 ごめんなさい、と泣き伏すレオナ姫の側に行き、その小さな肩に手を置いた。

 

「泣かないで、姫さま。

 今度はわたしがやってみるわ」

「えっ!?」

「わたしは僧侶よ。こういう事は、わたしの役目」

 そう言って場所を譲ってもらい、先ほど僅かに回復した魔力を集中させた。

 それをもとに生命力を徐々に魔力に、編み上げるように変換する。

 そして、最後に呪文を詠唱…

 

 ………ッ!!?

 

 …できなかった。

 

 首筋に強い衝撃を受けたと思った瞬間、わたしは意識を失っていた。

 

 ☆☆☆

 

「バッ…バランッ!!!!」

 高速移動でグエンの背後に立ち、頸部に当身を食わせたのは、先ほどまで勇者一行と戦っていた、魔人だった筈のものだった。

 携えた剣が半ばから折れており、それが最後の技の激突の激しさを物語っている。

 その姿は人間の男と違わぬ姿に戻っており、胸元の傷からの出血が痛々しい。

 そこから流れる血の色も、赤に戻っている。

 その腕が、倒れたグエンの身体を受け止めた時、突然の事に呆然としていた全員の硬直が解けた。

 

「なっ…何するんだ!!グエンを離せッ!!」

 ふらつきながらも向かって来ようとするダイを、バランは言葉でそれを制した。

 

「今グエナヴィアが使おうとした呪文が発動されていたら、どうなっていたか判るか?」

「えっ!?」

 それまでの流れから、蘇生呪文であると疑っていなかった全員が、一様に戸惑いを見せる。

 

「蘇生呪文…ではないの?

 確かにあたしの蘇生呪文(ザオラル)とは、発動の仕方が違ったようだけど…?」

「あれは蘇生呪文(ザオラル)ではない。

 ……自己犠牲蘇生呪文(メガザル)だ。

 己の生命力と魔力を全て仲間に与える呪文で、発動すればその少年は蘇生した上、貴様らまでも完全回復しただろうが、グエナヴィアは死んでいた」

「なっ…!!」

「バ、バカな…!なんという事を…!!」

 気がつかずそのまま見守っていたら、結局は仲間をひとり失っていた。

 それを阻止したのが、今の今まで敵として死闘を繰り広げていた相手である事実を、ダイが受け止めきれずに、バランをじっと見つめる。

 その視線を居心地悪く思いながら、バランは足元に横たわる魔法使いの少年を見下ろした。

 

 …間違いなく心臓が停止している…なのに何故…!!

 友を想う心が死してもなお、この少年の身体を突き動かしたとでもいうのか…!!?

 そんな…奇跡が…!!?

 

 バランは打ちのめされていた。

 世界の審判者として与えられた3つの力…即ち(ドラゴン)(パワー)、魔族の魔力、人の心。

 そのうち最もくだらぬものとして捨てた人の心が、彼を強く打ちのめしていた。

 

『人間は確かに臆病で弱い。

 けどわたしは、あの涙を信じたい』

 腕の中の魔族の女…まだ少女だった頃の彼女が、あの(きつ)い目をしてそう言った時には、なんの夢物語かと思ったものであるのに。

 その臆病で弱い人間が、死を超えても尚、友のために戦う意志を、心の強さを、示してみせたのだ。

 

 バランは少年の顔の真上で拳を握ると、そこから流れる血…魔族の青でも人の赤でもなく、金色に輝くその雫を、少年の口に滴らせる。

 それからふらつく身体を誤魔化すように、未だ目を覚まさぬグエンを、自分を見つめ続ける息子の方へと、突き飛ばすように押しやった。

 

「グエン!」

 その腕が彼女を受け止めるのを確認して、その側を通り過ぎようとする足を止める。

 

「…ディーノよ、もはや何も言わん。

 おまえはおまえの信じた道を進むがいい…」

 それまでの自分を睨むように見ていた息子の目が、驚きに見開かれるのを見て取り、バランは一瞬そこに、愛した女性の面影を見た。

 彼女の面影が、記憶の中ですら微笑まなくなった事に、自分はいつから気がついていなかったのだろう。

 だが…彼女が戻らないのと同様に、自身が犯した過ちもまた、取り戻せはしない。

 

「だが、この世に(ドラゴン)の騎士は二人も要らん!!

 我が剣が甦り、傷の癒えた時こそ、雌雄を決してやる!!!」

 今更生き方を変えられはしない。

 ならば、せめて裁きは、この世で最も大切な者の手で。

 そう思い極め、バランは息子の目を睨み返す。

 

「おまえが私に勝てたら、人間のために魔王軍を滅ぼすがいい!

 しかし私が勝てば…私は人間を滅ぼす…!!」

 そう言って去ろうとする背中に、ダイが叫んだ。

 

「わからずや──っ!!!」

 そういえば再会して以来これが初めて聞いた、息子の子供らしい言葉だったのではないだろうか。

 かつて感じたことのない胸の奥の痛みを覚えながら、バランは一言、ようやく返した。

 

「なんとでも言え…」

 

 

 

 と。

 

「…ポップ君が…!

 い、生き返ったわ…脈がある…!!」

 レオナ姫の声に、皆が驚きに目を瞠る。

 見れば先ほどまでと違い、倒れたままのポップの頬には確かに赤みがさしており、よく見れば胸も静かに上下している。

 信じられないことだが、理由があるとすれば、それは…!

 

「…敵に塩を送るのはこれが最初で最後だ。

 今度会った時には容赦せん…!!」

 この奇跡を起こしたであろう男は、振り返りもせずにそう言うと、そのまま歩み去っていく。

 いつの日か再びこの男は、ダイの前に敵として立ちはだかる。

 その場に意識ある者は誰もが、竜の親子の宿命の重さを感じずにはいられなかった。

 だが、ダイは初めてその背中に、それまで知らなかった『父親』という存在の、温かみを感じていた。

 

 ☆☆☆

 

「う……ぅん」

「お、目ェ覚ましたな。気分は?」

「悪くはないけど…ちょっと喉が痛いかも。

 ここ、割と乾燥してるのかもね」

「そっか。ほら、水飲めよ」

「ありがと……えっ!?」

 寝起きのわたしにコップを手渡してくれた相手を見て、わたしは思いっきり固まった。

 

「……ポップ!!?」

「おっす。言っとくけど夢でも幽霊でもねえし、お互い死んでもねえからな。

 とりあえずソレ飲んどきな。オネーサン」

 言われて手の中のコップに気がつき、中身を零さないように一気に煽ってから、もう一度目の前の相手を見つめる。

 服はボロボロだし、手当はされてるみたいだけど身体中傷だらけで、けど。

 そこにあるのはいつも通りの、ポップのちょっとひねくれた笑顔だった。

 そして、今いる場所はどうやら、例の森の中の小屋らしい。

 

「…どうもな、バランに助けられたらしいんだわ。

 おれ達二人ともな」

 そう言って説明してくれた内容に、驚きを禁じ得ない。

 自己犠牲蘇生呪文(メガザル)を唱えようとしたわたしを止めた後、バランは自分の血をポップの亡骸に与え、それによりポップは蘇ることができたのだと。

 それにしても……!

 

「もう、バカ!

 命を粗末にするなって言ったでしょ!!

 とりあえずお前一発殴らせろ」

「あんた、ひとのこと言えんのかよ!暴力反対!!」

 …逃げられてしまった。

 どうやら隣の大部屋の方に他のメンバーもいるらしく、声が聞こえた。

 

 さて。

 完全にではないけど、眠ったおかげで体力も、魔法力も少し回復している。

 だとしたら、やっておかないといけないことが。

 …約束したんだもの。

 

 一人になったところで、リュックの中から、尼僧服を引っ張り出して着替えをする。

 ケープはラーハルトに取られてあの場に置いてきてしまったから、今度余裕がある時に、どこかで新しいのを調達しなきゃ。

 窓を開け、そこから身体を半分出して、イメージを頭の中に構成してから、呪文を唱えた。

 

「ルーラ」

 

 ☆☆☆

 

 夜はすっかり更けており、昼間とは趣を異にしていたが、迷うことなくそこに着地した。

 岩山の陰に、マントで包み、野生動物に害されぬよう一応トヘロスもかけてはいたが、やはり戻るまでは不安だった。

 包んだマントをそっと剥ぎ、その眠るように穏やかな顔に、笑いかける。

 

「ただいま。

 …さあ、一緒に帰りましょう、ラーハルト」

 かつて共に暮らした、あの場所へ。

 わたしが連れて帰ってあげる。

 

 だが。

 ラーハルトの亡骸を背負った瞬間、周囲がドス黒い気に覆われた。

 

「キシャシャシャシャ──!!」

 金切り声のような笑い声が周囲にこだまする。

 見ればどこから現れたものか、鎌を持った小さな幽霊みたいなモンスターが、無数の群れでわたし達を取り囲んでいた。

 

「死神……!!」

 普段ならなんという事のない敵だが、数が多い上、今のわたしは本調子じゃない。

 

「厄介ね…ニフラム!」

 死霊系モンスターは、本来なら僧侶のわたしにとって相性のいい敵だが、やはり数が多過ぎる。

 ある程度数は減らせても、次から次へと襲いかかってきて、キリがない。

 しかもこれはどうやら、魔王の瘴気によって大量発生したもののようだ。

 やがて1体の死神が、わたしの背中から、ラーハルトを引き剥がそうとし始めた。

 

 冗談じゃない!

 この子は然るべき場所で、聖なる祈りをもってわたしが送り出さねばならない。

 死神なんかに連れていかれたら、悪霊かゾンビにされてしまう。

 

 ラーハルトの身体を抱きしめて必死に抵抗する。

 小さな鎌がわたしの身体に無数の傷をつけてくる。

 

 その中のひとつがわたしの髪…長く伸ばした三つ編みを、半分くらいの長さにぶった切った。

 

 …あの山の中の小屋で暮らしていた頃、夜中に目を覚ますと、隣で寝ているラーハルトが、わたしのこの髪を握っていたという事が、何度となくあった。

 それが千切れて飛んだのを見た瞬間…ラーハルトの死が今更、わたしの胸にリアルに迫ってきて、もう一緒に死んであげた方がいいような気持ちに、一瞬だけなった。

 

 そして。

 周囲に雷撃が、一斉に降り注いだ。

 死神達が、断末魔をあげて消滅する。

 

 何が起こったのかと周囲を見渡すと…そこには。

 黒髪で背の高い、逞しい体躯の40過ぎの男が、こちらを見つめて立っていた。

 

 ・・・

 

「ラーハルトの亡骸だけがどうしても見つからんと思っていたら、君が隠していたのだな」

 初めて会った時と同じような、感情の見えない声で、男はわたしに言葉をかける。

 

「…渡さないわよ。

 彼は、お母さんのところに帰すの。

 もう二度と、あなたにだけは渡さない」

 そのバランの目を睨みつけ、首を横に振りながら、わたしはラーハルトを抱く腕に力を込めた。

 これで三度も命を助けられた、その相手に取る態度ではないと判ってはいても、感情がついていかない。

 

「そうはいかん。

 処置が遅れれば、助かるものも助けられん」

 だが、駄々をこねる子供を嗜めるようにバランがわたしに返した言葉は、予想を超えるものだった。

 思わず口から、え、と小さく声が漏れる。

 

「助かる…どういうこと?」

「万にひとつの可能性だが、私にはその手段がある。

 …君たちの仲間の、魔法使いの少年のようにな」

「あっ……!!」

 そうだった、この男はポップを生き返らせた。

 古来より竜の血を浴びた戦士が不死身の肉体を得たという伝説がある。

 もっとも現在生き残っている、モンスターの一種として退化したドラゴンにそのような力はなく、その竜が神の眷族だったと考えられる事から、それを倒した戦士は元々それに近い力を持っていたのだという説もある。

 つまりは眉唾物の話なのだが、実際にその例を見てしまっている今、そこに縋らずにはいられなかった。

 

「ポップにしたみたいに、ラーハルトも生き返るの…!?」

「万にひとつの可能性と言ったろう。

 確実ではない。

 むしろ、処置を施してすぐに息を吹き返した、あの少年が特殊だった。

 見た目に反して、とてつもない精神力の持ち主だ。

 だが私の部下たちの中で、恐らく可能性があるのはこの子だけだ。

 僅かでも可能性が残されているならば、それに賭けたい。

 …この子も私の息子だ。

 言えた義理ではないのは判っているが、ここは私を信じて、今一度この子を私に託してほしい」

 初めて見るその真摯な眼差しに、この男の本気を見る。

 本当ならわたしに頭なんか下げたくないだろう。

 なんかそれを見たら、わけが判らなくなってきて、両目から涙が溢れて止まらなくなった。

 

 多分、わたしは疲れているんだ。そうに違いない。

 

 気がついたらラーハルトの亡骸を抱きしめたまま、わんわん泣いてしまっており、わたしの頭をバランの手が、泣き止むまで撫でてくれていた。

 その手が大きくて温かくて、考えてみたら誰かに頭を撫でられた事など、記憶にある限りこれが初めてだった。

 

 結局はラーハルトはバランに預ける事となった。

 そもそも死神たちとの戦いで、何度もニフラムを使ったせいで、あの山小屋へルーラで行って、もう一度テランへ戻るだけの魔法力が残っていない。

 

「…恩に着る。

 何かあったら、一度だけ頼みを聞こう」

 そんな事を言うバランに、わたしは首を横に振る。

 

「そういうのはいいから、ダイと今すぐ和解して」

「それはできん」

「…頑固オヤジ」

「なんとでも言え」

 …そんなやりとりをして別れた時には、空が白み始めてきていた。

 夜が、明ける。

 

 ・・・

 

 ラーハルトの亡骸に己の血を与え、用意していた棺に横たえた時、視界の端に見覚えのある紐のようなものを見つけたバランは、思わずそれを拾い上げた。

 それは、先ほどまで一緒にいた女の髪と、よく似た三つ編みの束だった。

 そういえば編んでいたはずの髪が、自分が着いた時には解けていたのだ。

 

「髪は女の命だろうに…惜しい事を」

 呟いて、それを手から離そうとし…思い直して棺の中の、青年の手にそれを握らせた。

 

「おまえを守ろうとしてそうなったのだぞ。

 責任を取るためにも、ちゃんと帰ってこい」

 そう言葉をかけ、棺の蓋を閉じ…、

 

「ルーラ」

 男と棺が、その場から飛び去った。

 

 ☆☆☆

 

「………ナニコレ」

 辛うじて残っていた僅かな魔法力でルーラして、戻ってきたテランの森の小屋は、建物自体は無事だったが、その周辺が様変わりしていた。

 木々に囲まれた小道だった場所が、爆発でも起きたように地面が抉れてしまっている。

 

「あ……グエン!!?」

 名を呼ばれた方向に振り向いた瞬間、お腹のあたりにものすごい衝撃を感じ、更に強い力で締め上げられた。

 

「グエン!グエングエン!!どこ行ってたんだよ!!

 いつのまにかいなくなってるから、ハドラーやザボエラに攫われたのかと、心配したんだよ!!」

 いやちょっと待って勇者サマ。

 色々聞きたい事はあるけど、何よりもまず口から内臓出てきそうだから!

 

 どうやらわたしがバランと居た間に、この場所にハドラーとザボエラが襲撃をかけていたらしい。

 ていうか、ハドラーってフレイザード戦の時に、ヒュンケルが倒したと思っていたけれど、生きていたのか。

 わたしの居ない間に合流して、一緒に戦ってくれたというマトリフ様も加わった、その場の全員から説教を食らった後、わたし達はパプニカへの帰途についた。




死神の群れにギガデイン。
多分相当オーバーキル。

次回でようやくグエン編終了です。
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