DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
この辺はまだポップがランカークス村を出て数日の時点ですので、原作開始まで1年ほどの期間があります。
現時点でポップは14歳、リリィは12歳です。
ロン先生(もう、勝手にそう呼ぶことにする)が言うには、基本的に鍛冶の仕事は力が必要で、女でも小さいうちから鍛えていればそれなりに使えるだろうが、あたしの年齢からそれを始めても、成長分を加味しても大した効果は見込めないだろうとの事。
「人間はさっさと成長してさっさと歳取っちまうからな」
だそうだ。そりゃ魔族から見ればそうだろうけど。
「うちの父さんが鍛冶師の修行を始めたのは、あたしくらいの歳の頃だったそうですけど」
「男と女じゃ地力が違う。
…って、鍛冶師の子なのか?なるほどな」
「麓の村でただ一軒の武器屋を営むジャンクの娘で、リリィと申します」
「ランカークス村か。
そういえば確かにそんな店もあった。
こんな田舎の小さな村に、大した品揃えもなかろうと思い、通り過ぎるだけだったが」
「父は…無論、ロン先生には及ぶべくもありませんが、腕のたつ職人です。
旅の途中で立ち寄られたお客様は大抵、いい武器が揃っていると、褒めてくださいますよ。
そもそもこの村の周辺の山は、いい鉱石が採れるんです」
「確かにそうだ。
しかし、おまえが持っていたような純度の高い鉄鉱石は、オレも見たことがない。
それにこの周辺で、まさか赤魔晶が採れるなんて、オレも随分長いことここに住んでいるが、全く知らなかったぞ。
あんなもの、おまえら人間には加工し切れん材料だろう。その場所を教えろ。
弟子にしてやる事は出来んが、そうしてくれるなら、おまえん家に武器を作ってやる。
…なんでかは知らんが、オレが『名工』と呼ばれていた事実を知ってんなら、その価値も理解できる筈だ。
悪いことは言わんから、それで妥協しろ」
うーん。これはどう考えるべきなのか。
だが、「ロン・ベルク」と「ジャンク」がどこかで出会い、友好関係を結ぶのは決定事項なわけだから、うちの武器を作ってもらう約束を取り付けるのは、悪いことではないだろう。
そしてその縁さえできれば、今は断られても、なし崩しに弟子に取ってもらう事も不可能じゃない…かも知れない。
「…両親に、会ってもらえませんか」
…なんか、交際中の恋人に結婚を迫ってるみたいな台詞になってるけど、ひとまずは原作の流れを断ち切らない方向に導いておこう。
ロン先生はしばらく考えていたが、やがてため息とともに頷いた。
「…いいだろう。
商売的な契約になっちまってる以上、おまえとオレだけの話にしとくわけにもいかん。
それにどっちにしろ、怪我をしたガキ1人、森に放り出すわけにもいかないしな。
無事に親元に返さんと、途中で死なれでもしたら、それなりに寝覚めも悪い。
…たく、面倒な拾い物をしたもんだぜ」
それはひょっとしてあたしの事なんだろうか。
けど、不機嫌顔で面倒だと言いつつも世話を焼いてくれる様子に、思わず笑いそうになって慌てて顔を背けた。
ロン先生は、食料やお酒、生活に関わる物資を贖う為に、時々村へ来ていたらしい。
手袋を着け、フード付きのマントを深く被って、念の為顔の下半分をマフラーで覆うという、あやしさ大爆発な格好で。
そういや、変な格好した背の高い男が時々買い物に来ると、酒屋のおばあちゃんが言っているのを聞いた気もする。
『ちらっとだけ目元が見えたんじゃが、それがちょっといい男でのう。
うちのじいさんの若い頃みたいな…』
このおばあちゃん、数年前に亡くなった旦那さんの話始めると長いから適当にスルーしてたけど。
まあ、魔族の姿を堂々と晒して、人間の村を歩き回るわけにもいかないか。
けど、今後はうちとの交流を密にする事で、いずれは村のみんなに、彼の存在を慣らしていくべきだ。今のままでは、色々暮らしにくい筈。
だとしたら、あたしを助けてくれたって事実は、少しはそこにプラスに働くかもしれない。
幸いにも、国境ギリギリとはいえベンガーナ領にあるこの村は、イナカ村の割には意外と余所者にも寛容な地域柄だ。
田舎モンの素朴さと、ベンガーナ人のいい意味でのドライさを気質に併せ持つこの辺の住人は、言い方は悪いが相手を『役に立つかどうか』で判断するところがある。
徹底的な実力主義と言ってもいい。
だから一芸に秀でる者や、なんらかの技術を持っている者は、なんだかんだで一目置かれ、頼りにされる傾向が強いってわけ。
このひとは最初こそ恐れられはしても、武器職人としての実力を村人たちが知ることとなれば、下手すりゃ村の守り神くらいの扱いを受ける可能性だってある。
…そうなるとうちの店なんか廃業かもしれないけど。
いや、そうならないように、早い段階から専属契約を結べばいいだけだ。
名工、ロン・ベルク作の武器が手に入るのはここだけ!みたいな。
…あと、原作通りに話が運べば、このひとは最終的に、両腕の機能を失ってしまうんだった。
こうして知り合いになったからには、できることならその運命も変えてしまいたい。
それには例の…星皇剣、だっけ?
あれを、完成させなければいけないって事だ。
ひょっとしたら、あたしの目があれば。
ロン先生の力だけで完成できない剣でも、もしかしたら。
ロン先生が身支度を整えて来たのを見計らって、あたしもリュックを背負…おうとしたら、それを大きな手に奪われた。
「え?ちょ」
取り返そうとしたら、その手が今度はあたし自身を、荷物みたいにひょいっと肩に担ぐ。
「怪我人の自覚を持て馬鹿。
こんな重たいモン背負って、村まで歩くつもりか?」
…すいませんありがとうございます。
けど、荷物扱いはやめてもらっていいですか。
☆☆☆
「どこの馬の骨とも分からん男に娘はやれん!」
「要らん!…というか問題はそこなのか!?」
…基本的に噛み合ってない会話が、酔っ払いオヤジどもの間で交わされる。
というか、父さんは結構できあがっているのだが、ロン先生は基本ザルらしく、全くと言っていいほどテンションが変わらない。
皮膚の色が青だから顔色の変化もよくわからないし。
更に2人とも、その顔はボコボコに腫れ上がっており、時々痛そうに顔をしかめるのだが、それでもなんだか嬉しそうなのは何故なんだ。
…なんでこんな事になってるかっていうと、怪我をしてるあたしを家まで連れてきてくれたロン先生が、あたしの帰りが遅い事を心配した挙句顔を見た瞬間に物凄い形相で突進してきた父さんに対し、あたしを庇ったついでにアイアンクローかました事から始まる。
何故かその後、武器職人による人間対魔族の拳同士の語らいが一通り繰り広げられた後、
「おまえ強ぇな」「おまえこそ」
的な、女には理解し得ない魂の交流を深めた模様。
しかしそれよりも、
「リリィ、薬草スープ味見してくれる?」
という平常運転過ぎる母さんの、見た目に反する肝の大きさの方が、より大きなカオスを形成している気がしてならない。
どうしてこうなった。
いや、ある意味計画通りなのか。
・・・
「…すいません。
ああなるとこれ以上、情報の上書きができなくて…」
完全に酔っ払って、ロン先生をあたしの求婚者であるかの如き言動から一歩も先に進まぬまま父さんが潰れてしまい、例の契約について話ができなかった事にあたしが頭を下げる。
どう見ても大人の男が12の小娘を嫁に欲しがるとかどうすれば思えるんだ。
「構わん。それより店の品物を見たい。いいか?」
同じ武器職人として父さんがどんなものを作っているか気になるらしく、そう申し出てきたので、カウンター側から店内に案内した。
もう暗いのでランプに火を灯す。
ちなみに父さんとの拳での語らいによる顔の腫れは、無理矢理引き止めて付き合わせた夕食に出された薬草スープにより綺麗に引いた模様。
うん、せっかくのイケメンが台無しだと思っていたので良かった。
顔の真ん中のバツ字古傷は治しようがないが。
「ここの武器は、全ておまえの父親の作か」
「こっちのコーナーは、うちじゃ作れない特殊な形状の武器や、買い取った武器を研ぎ直したものを並べてあります」
一応、父の専門は刃のついた武器である。
ハンマーとか棍などの打撃系の武器は専門外なので、そういうのは外注している。
ちなみに先日、旅の商人がすすめてきた『どたまかなづち』の発注は必死に止めた。
父さん的にはものすごく心動かされたらしいけど。何故だ。
「それ以外は全て父の作です。
…あくまでも一般的なレベルですが、いい造りでしょう?
研ぎや修理をしながら使っていけば、余程の激戦を一年中くぐり抜けるような生活でもない限り、ほぼ一生モンの品だと思ってますよ。
ある程度の数を揃えて、王宮の軍部に売り込みに行けば、一括お買い上げ間違いなしってくらい。
父には面倒くさいからと、即却下されましたけど」
並べられているものを手に取っては、じっくりと眺めていたロン先生は、あたしの言葉を聞くと、少し考えてから言った。
「…いや、以前は王宮に卸していたんじゃないか?」
「え?」
ロン先生は腰のベルトから、一振りの短剣を引き出す。
「コイツを見てみろ。おまえの『目』で」
「…?」
言って鞘から抜き、あたしの前に示したそれは、一見するとただの鉄のナイフだ。
手入れは行き届いているが鞘もシンプルだし、変わったところは無いように思える…。
あたしは『みる』を発動させ、頭の中のオッサンを呼び出した。
『呼ばれて飛び出て…』
そういうのいらん。
『…失礼しました。
これは【
魔力や加護の付帯はなく、道具として使っても何も起きませんが、それだけに万人に使いこなせるでしょう。
剣に不慣れな若い兵士の為に特別に打たれた短剣で、当時のベンガーナ王宮随一の鍛冶師の手によるオリジナルです。
鋼鉄製ですが剣よりも軽く、しかも丈夫!
更に伝説の名工による研ぎも加えられ、切れ味も抜群ですよ!
店屋に売れば110Gになるでしょうが、今となっては結構なレアものですから、売ってしまうのはもったいないですね。
ちなみにその鍛冶師ですが…リリィさんの知っている人ですよ?』
…って。
「なんだ最後のその中途半端な情報!!」
「…ん?」
「…いえ、何でも。
この鋼鉄製のナイフは、かつてベンガーナ王宮の兵士の為に作られた品と見ましたが、ロン先生はこれを何処で?」
あたしがオッサンから得た情報を口にすると、ロン先生はじっとあたしを見つめる。
「…当たりだ。
もう20年近く前の話だが、路銀に困った旅の兵士が道具屋に持ち込もうとしていたのを、横から倍の値段で買い取った。
一目で、いい品だと判ったからな。
そいつは元ベンガーナの兵士だったが、剣よりも大型兵器が重用され始めた流れで人員削減案が可決され、その煽りで職を失ったらしい。
…その削減の対象となったあたりで、そいつの実力はお察しというところだが、そいつが言うにはそれを打った鍛冶師が王宮を出ていかなければ、こんな事にはなっていないだろうと」
「なるほど…まあ、半分は言いがかりのような気がしますが」
「まったくだ。
武器が良くても使う奴がそれに値しなければ意味はない。
…オレは、それを打った鍛冶師と、ここの武器を打っている鍛冶師が同一人物とみたが、どうだ?」
「ええ、その短剣は間違いなく、夫の打ったものです」
と、ロン先生の質問に答えたのは、あたしではなく母さんだった。
いつの間に来ていたんだろう。
「ジャンクはかつて、ベンガーナ王宮に勤める鍛冶師でした。
その当時のこと、夫は私にはあまり詳しく話してはくれませんが、重い剣が扱えないという兵士さん達に、使いやすい短剣を打った事があるという話は、何かの折に聞いておりました。
けれど、なんでもその当時の大臣という方に、とても嫌な思いをさせられたのだそうですわ。
あの通り、口より先に手の出る人ですから、遂にその大臣さんに手を上げてしまって、その足で生まれ故郷のこの村に帰ってきて…私と結婚してこの店を構えたのは、その後のことですの。
…私は彼とは幼馴染で、子供の頃からあの人が好きでしたから、むしろ大歓迎でしたけれど」
ちょ、最後に惚気入ったようちの母!
言うだけ言ったらきゃあとか言って引っ込んだよ母!!
しかもランプの灯りしかない中でも判るくらい頬が赤らんでるとか乙女か母!!
てゆーか、そういえば確かに『ダイの大冒険』中盤、勇者一行が訪れるロン・ベルクの家で、『ベンガーナ王宮随一の鍛冶師だったのに、威張ってばかりいる大臣をぶん殴って辞めた』と語られていた筈だ。
…てゆーか、母さんは本当にこんな男のどこに惚れたんだろう。
まあ、父さんがいくら口より先に手が出るとはいえ、あたしや母さんにその手が上がった事はなく、父の体育会系指導を受けていたのは専ら男であるポップ一人だったけど。
基本頭脳派であるポップには、まったく向かない教育方針だったわけで、ポップが表面上は強がるくせに自分に自信がなく、自身に対する優先度が低いのは、父さんの要求に応えられない故のコンプレックスも、結構大きかったんじゃないかと思ってる。
…その辺の最後の部分をあたしが突っついてしまっていたわけだし。
少し意識が逸れていた事に気付かれたのだろう、唐突にロン先生の手に、ポンポンと頭を叩かれて我に返った。
「…失礼しました。
うちの母が乙女過ぎて軽くショックを受けていました」
「そんな事はどうでもいい。
それより、おまえのその『目』は、神託だな?」
…は?
「…自分でもよく判っていないって顔だな。
だが今の様子を見る限り、物品鑑定の域を超える情報を、この剣から読み取ってる筈だ。
自身が見ても、聞いてもいない情報をモノから引き出すのは、単なる鑑定の域じゃないだろ。
それは生まれつきの能力なのか?」
ロン先生は、睨むような目をしてあたしをじっと見つめている。
喉の奥で、カチリという音がした気がした。
スティーヌさんの性格が若干おかしな事になっているのは、原作と違いこの性格の娘がいる事による
当初はこんなに変化させる気はありませんでした。