DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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3・武器屋の娘は神の目で見る2

 喉の奥でカチリと音が鳴った。

 それはあたしにしか聞こえない音。

 求められている情報に対し、あたしの知識の中に、この世界の人間に公開してはいけない部分がある時の合図だ。

 まあ、特に注意する必要はない。

 そこに抵触する言葉があたしの口から出ようとしても、その部分は絶対に声にはならないのだから。

 けど、その様子を相手に気取られれば、明らかに不審は抱くだろうから、その辺は気をつけねばならない。

 これまでの経験からして、頭の中のオッサンの件は神様的に一応セーフらしく、ポップや両親には言った事があるのだが、皆一様に残念なものを見るような目をしただけだった。

 幼い頃の話だし多分だがみんな信じてなかったと思う。

 そしてロン先生に同じ事を正直に言っても、同じ反応をされる可能性が非常に高い事を考えると、この話題もやめておいた方が良さそうだ。

 というよりあの視線にはあたしが耐えられない。

 

「神託…かどうかはわかりません。

 これがある意味特別な能力(ちから)と理解したのも、割と最近ですし」

 嘘は言っていない。

 神様の事を思い出す以前は、武器屋の娘的にちょっと便利なだけの、あってもおかしくない能力と解釈していたから。

 使命を理解してからは、特別なんだろうけど世界を救うにはどうなの!?というくくりになったけど。

 

「その目の事、知っている者はどれだけ居る?」

 …ん?ロン先生の視線が、何処か深刻な色を帯びている気がする。

 

「基本は、両親と兄だけかと…あ、でも店に来るお客さんの前では、普通に『見』たりしてましたが、それは商人の技能の域を超えるものではなかった筈です」

「…兄?」

 一度、家の方を振り返ってロン先生が怪訝な顔をした。

 そうだよね、食事を一緒にした時はあたしと両親だけだったからね。

 

「兄は家d…魔法の才能があるのが判った為、魔法使いになる為の修行に出ておりまして、今はうちには居ません。

 師匠と一緒に旅をしている筈ですから、どこにいるかの特定も難しいです」

「今、家出って言おうとしなかったか!!?」

 …まあ、この世界ではその気になれば、探し物を見つける魔法使いとか占い師とかに頼れば、そこそこ手がかりは得られるだろうけど、基本人間は動くモノだ。

 その時点でそこに確かにいたとしても、たどり着いた時にはもう居ないという事だって充分ある。

 占いといえば隣国のテランには、有名な占い師が居ると聞いたことがあるが…って、アレ?

 そういやうちの兄、その孫娘に惚れられてなかったっけ?

 まあ、まだ先の未来の話だけど、うちのポップに目をつけるとは、若いのになかなかに見る目のある娘ではないか。

 確か兄と同い年だからあたしより2つ上の筈だけど。

 

「…しかし、そうか。

 すぐに口止めできない場所に居るとなると、厄介だな」

 先のツッコミをスルーされて、一瞬何かを諦めたような表情をしたロン先生だったが、すぐに気を取り直して、難しい顔で言った。

 

「口止め?」

「…おまえは自覚してないだろうが、それは、使い方によっては軍事利用されかねん能力(ちから)だぞ」

「え」

 なんか変なこと言い出したよこのひと。

 いくらなんでも大袈裟すぎる。

 転生特典と言っても、実際にはモノを見極めるとか、見つける事が出来るだけだよ?

 

「…ピンときてないようだから、例を出して説明してやる。

 仮にベンガーナくらいの技術力を持つ国の軍部が、秘密裡に開発した大型兵器があったとする。

 おまえの目は恐らく、見た瞬間その構造や弱点、作成した人間、ひいてはそれが作られた状況までもを見て取れるという事だ。

 その兵器を脅威に思う他国の軍部は、おまえのその『目』を欲しがるだろうし、兵器自体を持つ国は、逆にそれを邪魔に思うだろう。

 …今までの事はさておきこれから先、この件は絶対にここだけの話にしておけ。

 でなければ、最終的には命の危険すら出てくる」

 まじすか!?

 意味不明の転生特典にまさかの戦略チート疑惑浮上!?

 いやいや絶対それは違う!過大評価されてる!

 だってオッサン情報、いい加減な事は言わないけど、割と曖昧だったり中途半端だったりするよ!?

 …あとすいません、顎クイはやめてもらっていいですか先生。

 

「…それで、おまえの兄は、おまえの能力を吹聴するような男か?」

 なんとなく打ちひしがれるあたしに、少しだけ声をひそめてロン先生が問う。

 

「それはないと思います。

 多分あたし同様、特にすごい事だって思ってなかった筈ですから」

 むしろ、家の役に立てる能力が、あたしにはあるのに自分にない事をコンプレックスに感じていた筈だから、それをわざわざ自分から口にしたりはしないと思う。

 あたしの答えを聞いて、ロン先生は少し考えていたようだったが、やがてため息混じりに言葉を発した。

 

「…そうか。なんにせよ信用するしかないな…。

 ま、乗りかかった舟だ。

 師匠としてせいぜい守ってやるから、安心しろ」

「は?」

「昼間言った通り、おまえに武器の作成は無理だ。

 だが表向きはオレに弟子入りした事にしておけ。

 師匠がいる、という一点さえあれば、その目の事はある程度誤魔化せる。

 余計な事さえ口に出さなければ、いい物を見慣れているから、師から与えられた知識があるからと、周りは勝手に理由づけをしてくれるもんだ。

 ……それに、単に助手としての存在なら、おまえの能力はオレと相性がいい。

 存分にこき使ってやるから、覚悟しとけよ?」

 え?えっ!?

 つまりこれ、弟子入りの承認が得られたって事!?

 うん、最後の言葉がちょっとだけ気にはなるけど、表向きでもカモフラージュでも、とりあえずは弟子になれたって事だよね!?

 やった───っ!!

 

 先生をポップの部屋に泊めた翌日、やや二日酔い気味の父さんにようやく商売契約の件とあたしの弟子入りを告げることができた。

 

「…修業もいいが、週にいっぺんくらいはちゃんと店、手伝えよ」

「それ以上にちゃんとやるよ。

 将来はこの店継ぐつもりだからね、あたし」

 あたしの言葉に、父さんが難しい顔をしつつも頷いてくれ、母さんが『なら、いいお婿さんを探さなきゃね♪』と横から口を挟んで父さんにジト目で睨まれてた。

 

 余談だがこの世界で成人したと見なされる年齢は、国によっても違うが大体16歳くらいだ。

 結婚適齢期が女性が18歳〜24歳くらい、男性がその2歳上くらいからになる。

 基本、大人になるのが早い世界ゆえ、あたしの年齢なら、充分将来を考え始めていてもいい頃だったりする。

 というか村の子供たちは、都会の学校に行く余裕のある家の子以外、大体は11歳くらいから家業を手伝い始めたり働きに出たりしてるし、村の中で同年代の子供を持つ親同士で、なんとなく結婚相手も決められる感じになる。

 勿論基本的には本人の希望が最優先になるから、必ずその通りになるって事はないけど、子供の頃からそんなふうに扱われてると、自然と気持ちもそうなっていくもんらしく…って洗脳か!

 ちなみにこの村には、あたしと同世代の女の子が武闘家のターレンさんちのジンジャーくらいしかおらず、そっちは父親が自分より強い男じゃなきゃ嫁にやらん的な事を早くから言ってるので、実は結構あたしは引く手数多だった。

 過去形なのは、うちの武器屋をポップが継がない可能性が濃厚になった事で、継ぐのはあたしだと村中が認識して、求婚者候補(正確にはその親)が一斉に手を引いたからだ。

 

『そうでなければ俺が最有力候補だったから、魔王と結婚する事にならなくてホッとした』

 と宿屋の息子のレイゲンに言われた時は、とりあえずアイツの腹にストマッククローをかましておいたが。

 さすがに今はあたしも、ポップのお嫁さんになれるとは思ってないし、一生独身を貫く気もない。

 店を継ぐ事になればお婿さんを貰わねばならず、当然それなりに鍛冶の腕を持った人を選ばなければいけないと思ってるので、あたしの相手は村の外から探してくるか、まずは父さんに弟子入りして貰うかになる。

 最低限、商売人の心得を持っている相手を選んで仕入れと外注でやっていくのもアリかとも思うが、ぶっちゃけそれはあたしだけでもできる事だし、やはり自分のところで作った武器を売るというスタンスは貫きたいので、それは最後の手段にしときたい。

 …という事を一通りシミュレーションができるくらい、母さんの言葉も単なる軽口ではないのだという事を、大まかに判ってもらえれば幸いである。

 …誰に向かって主張してんのか知らないけど。

 

 …ポップが14歳になった時点で自身の方向性を見定められていなかった事も、今思えば彼のコンプレックスのひとつであったのかもしれない。

 彼の才能がこの村にとどまるものではなかったから、仕方ないといえば仕方ないんだけど。

 そう考えると、あたしの存在はポップにとって、悩みのモトにしかなってなかった気がする。

 

 それでもポップはこれまで一度だって、あたしを邪険に扱った事なんかない。

 小さい頃から兄のことが大好きで、暇さえあれば『遊んで〜』とまとわりついてくるあたしを『しょうがねえな』って言いながらも可愛がってくれてたと思う。

 …そのポップが最終的に悲しい思いをしなくて済むように、あたしは今、ここにいるのだとせめて思いたい。

 

 ☆☆☆

 

「…とんでもねえ奴を弟子に取っちまった…!」

 例の、白魔晶と赤魔晶が採れたポイントにロン先生を案内して、幾つか採取して見せた途端、先生は頭を抱えた。

 

 …なんでですか。あたし、何かおかしな事した?

「おまえ、今まで本当にそれを、単にモノの存在を探知するだけの能力(ちから)だと思ってたのか?」

「…違う、という事ですか?」

「ああ。恐らく、おまえが言う『チカチカ光って見えるポイント』を、オレが掘ったところで、何にも出て来やしない。

 おまえは埋まってるモンを見つけてるんじゃなく、土から錬成してるんだ。

 おまえの目に見えるチカチカは、おまえが形として発掘してるモノの、恐らくは構成要素だろう」

「…は?」

 すいません、ちょっと何言ってるかわかんないです。

 

「つまり、おまえのソレは『発掘』じゃなく『錬金術』だ。

 その土の成分に構成要素が全部揃ってさえいれば、理論的にはオリハルコンすら錬成する事が可能だろう。

 …ある意味おまえの存在は、世界にとっての爆弾だぞ」

 マジですか!!散々文句言ってごめんなさい神様。

 あたしの転生特典、密かに充分過ぎるほどのチートだったんですね。

 って判り辛いわ!

 つかそれだってやっぱり意味不明だし!!

 錬金と神の目、それをどう使えば世界を救えるわけ!?

 

 今度はあたし自身が頭を抱える番だった。

 …ともあれ、あたしの魔界の名工の弟子としての生活は、まだ始まったばかりだ。




という事でポンコツだと思っていたリリィさん、実はグエンとは違う方向性のチートだと判明しました。
てゆーか本当はこれが判明するまでもう少し引っ張りたかったんだけど、なんか引っ張りきれなかったのだ。ぐはあ。

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