DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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…思ったより話が進んでいかない。
ほぼモノローグです。御了承を。


4・武器屋の娘は未来を憂う1

「もう、先生!

 仕事の前にお酒飲むのやめてください!没収!!」

「…オレは酔ってるくらいの方がいい仕事ができるんだ。いいから返せ、リリィ」

「却下!それは酔っ払いの常套句です!

 まったく信用なりません!!」

 さて。

 魔界の名工の弟子という称号を得たあたしは、次の日から修業に明け暮れて…いなかった。

 何せ、その師匠はあたしには武器職人の素質はないと断言している。

 それでも弟子に取ってくれたのは、弱き身に分不相応に宿る力を、権力を持つ者の目から守る為だ。

 だが、一応世界を救う目的でこの世界に送り込まれた身としては、守られるままでいるわけにもいかない。

 

 あたしの知っている物語での『ロン・ベルク』は、最強の武器の探究を望みながら、その一方でそれを諦めてしまっていた。

『腐りたくない』と言って、豊かな生活を約束された大魔王のもとを離れた筈が、登場した時点では半ば腐りかけの日々を送っていたのだ。

 そこに、自身の力を受け止める武器を求めて訪ねてくる勇者ダイと出会った事で、失望に濁っていたその目にかつての輝きを取り戻すのが、『ロン・ベルク』の抱えるドラマの流れになるわけで。

(いやまあ、あたしの元いた世界では、後に彼の弟子となる北の勇者との間に、違う意味で腐った展開を繰り広げるという流れもなくはなかったが、それはあくまでも別の時空(うすいほん)での話だし、今はとりあえず関係ない)

 なので、ここは黙っていてもその時になれば、『ロン・ベルク』は武器作りへの情熱を取り戻す。

 けれどそこで本気になった『ロン・ベルク』は、勇者ダイの剣だけでなく勇者一行の武器を一通り作る事になるわけだが、それに心を傾けるあまり、本来は自身の一番の目的であった、己の剣を完成させる事ができぬまま、最後の戦いに赴く事になる。

 そこで自身の身体すら滅ぼすほどの剣技を、その威力を受け止められない剣で振るった事により、『ロン・ベルク』は腕の機能を失ってしまう結果になるのだ。

 それがわかっていて、その通りの結末を受け入れるわけにはいかない。

 あたしが弟子入りした『ロン先生』には、その先に待つ未来をどうにか、回避して欲しいと思う。

 その為にはそれより早い段階から本気に戻ってもらい、彼の求める『星皇剣』を、完成させなければならないわけで。

 それに個人的に、彼が本気で打つ武器を、作る過程を目にしておきたいというのもある。

 より高いレベルの技術を目に焼き付ける事により、あたしの『目』に見えてくるものが、より詳細になるかもしれない。

 というか、オッサンの存在を伏せた上で、得られる情報が時々曖昧だと話したら、それはレベルが低いせいだと断言された。

 既にうちの店に定期的に、或いは注文に応じて、武器を打ってくれる約束にはなっており、その都度報酬も支払う契約にもなっているが、彼にしてみればうちに卸すものなど『居眠りしながら打った』程度のランクのものだ。

 それでいて父が打つものよりいいものを寄越すのだから、うちの父がもっと繊細な性格をしていたら、下手すりゃ槌を置いてしまってもおかしくない。

 だが幸いなことに…というか、これも予定調和なんだろうけど、父とロン先生はやけに気が合うようで、彼の存在が父のやる気を削ぐような事態にはならなかった。

 

 …つまり、あたしがここにいる以外、現時点では状況はほぼ変化していない。

 

 否、我が家が介入してあたしが行き来するようになった事により、先生は村に物資の調達に来る必要がなくなり、自分の小屋に引きこもる事が出来るようになってしまったのは、むしろよくない変化だった気がする。

 そこに一旦の責任も感じるあたしは、気がつけば先生の生活に、うるさく口を出すのが仕様となっていた。

 何せそうしなければ昼間っから酒かっくらって、日が高くなるまでゴロゴロしてるんだから。

 

「つか、いいからとっとと仕事しやがってください」

「敬意がまったく感じられない!

 形だけの師匠とはいえ表面上くらい取り繕え!」

「敬意は払ってますー。

 仕事してる時のロン先生はカッコいいですからー。

 カッコいいロン先生が見たいですー」

「これ以上ないまでに完璧な棒読み!!」

 ……ううむ。ロン先生は、あくまで『前世のあたし』の好み的には、くたびれ加減でかなりいいセンいってるが、吹っ切れてない分色気が足りない。

『ダイの大冒険』の登場人物であたしが一番萌えたのが、何を隠そう超魔ハドラーだ。

 もと魔王の肩書きを持つがゆえ執着していたものを捨てたことによって、それまでの小物感を彼方に吹き飛ばして覚醒したハドラーは、吹っ切れた感と同時に漂う哀愁、それによって生まれたとてつもない色気が、前世のあたし的に完全にツボだった。

 …当時の友人に言ったら、

 

『それ、オッサン萌えの感覚じゃねえか』

 って呆れられたけどな。失礼な。

 それはさておき、ロン先生は完全に目指す方向性を間違えている。

 中途半端に枯れるくらいなら武器オタクの面を前面に押し出して、逆にアツイ男にシフトした方が、よっぽどその無駄なイケメン顔を活かせるだろう。

 少なくとも本筋の『ダイ大』におけるロン・ベルクは、クールでありながら芯に熱いものを持ったキャラだった。

 …一体誰なんだ、目の前にいるこの残念な男は。

 

「…オレは、嫁を貰った覚えはない」

 結局あたしに酒瓶を取り上げられて、ジト目で睨んでくる魔族に、聞き捨てならないことを言われて言い返す。

 

「こっちだって嫁にきたつもりはありません!

 そもそもあたしは実家を継ぐので、婿を貰わなきゃいけない身です!」

「あんまり口うるさいと、その婿のきてだってなくなるぞ。

 まあジャンクの奴は、その方が喜ぶかもしれんがな」

 あたしが少しムッとして思わず口をつぐむと、ようやく余裕を取り戻したように、ロン先生はニヤリと笑った。

 

 …正直なところ、あたしは自分の恋愛は諦めている。

 成人するまでの時間の余裕もそれほどないし、実家を継ぐという決意を既に固めているあたし的には、結婚は条件に合う人とすべきだと思ってるので、それには恋愛感情は邪魔なだけだ。

 いや、まあ好きな人と結婚できればそれに越した事はないけど、『リリィ』的には現時点で、ポップより好きな男性はまだ居ない。

 なら、ぶっちゃけ好きになるのは結婚してからでも遅くないと思うのは、やはりこの村で生まれ育った、ある程度の合理性を重んじる気質によるものだと思う。

 

 …まあ、先述の超魔ハドラーと今世で出会う事があれば、ひょっとしたら結婚相手の条件なんざすっ飛ぶくらい好きになるかもしれないが、『リリィ』のスペックでは、直接ハドラーと顔を合わせる事自体が決定的にあり得ない。

 しかもロミジュリ的な大恋愛とかその果ての悲恋とか、物語で見る分にはwktkだけど、自分に降りかかるのは遠慮申し上げる。

 やはり程々のところで幸せになれる道を選びたいものだ。

 

 あっと、ちなみにこの世界全体をみれば、身分の高い人たちの間の政略結婚は、前世の常識と比べるとありえないほど、実はそれほど当たり前ではない。

 否、むしろ王族くらい身分の高い人たちの方が、恋愛結婚を重要視する傾向がある。

 理由としては、血統を分散させたくない事が挙げられるだろう。

 王様に形だけの配偶者をあてがって、別に抱えた側室との両方に子供生ませて、将来的に王権争いの火種を抱えるよりは、好きな相手と結婚させてその相手との間に子供を生ませ、王家の直系を維持させる方がいいという考え方だ。

 

 …そう考えると、ひとつ納得できる点がある。

 この物語の主人公である勇者ダイは、実は亡国アルキードの王子である。

 アルキード王国の王女ソアラと、(ドラゴン)の騎士バランが出会い、愛し合った証というべき存在。

 2人の愛は悲劇的な結末を迎えるわけだが、実はこのあたりに、前世の常識で考えると明らかに不自然な事態が生じていた。

 ソアラとバランの出会いは偶然にしても、2人の関係が深まるまでの間に、『バランがアルキード城に招き入れられた』という過程が存在するのだ。

 そして更に、アルキードの家臣たちが、バランに王の座を奪われる事を危惧した点。

 王族に個人の意志より政略的な婚姻が重要視される世界であれば、そもそも何処の馬の骨ともわからない(しかも王女を助けたというのでもあれば話は別だが実際は逆に助けられている)『単なる旅の騎士』が、城に招かれる自体があり得ないし、仮にそうなったとしても家臣たちには、バランが彼女と結婚する可能性など考えすら及ばなかった筈だ。

 そこに先ほどの、王族の恋愛結婚の考え方を当てはめると、割とストンと腑に落ちる。

 アルキード王は恐らく、この世界の常識に従って、自然にバランを娘の相手として、一旦は受け入れたのだろう。

 だからこそ家臣たちは、『バランは人間ではない』という理由をつけて、彼を城から追い出すまでしなければならなかった。

 だとしたらこの悲劇には、この世界の結婚観が一役買っていたのだと言える気がする。

 

 …要するに、愛し合う2人を引き裂くと最終的には周りまでもが巻き込まれて不幸の連鎖を招くというのは、なにも昼ドラだけの話じゃないって事だ。

 もっともこの悲劇がなければ『勇者ダイ』は生まれてはいない。

 彼本人がこの世に生まれる事が出来たとしても、それは(ドラゴン)の騎士の血を受け継いだ『アルキード王子ディーノ』としての彼であり、『勇者ダイ』とは全く別の存在になっていただろう。

 

 …なんて事を考えながら、先生のうちの炉に火を入れた。

 既に起こってしまった事態は取り返せない。

 けど、未来に待つ悲劇を阻止する事はできる筈。

 

「…なに考えてる」

 観念したように道具を揃え出したロン先生が、不意にあたしの顔を覗き込んだ。

 そんなに、深く考え込んでる顔をしていただろうか?

 

「…仕事の間に先生の晩ごはん作っときます。

 多分ひと仕事終えた頃には、出来てますから。

 しっかり食べて、明日も頑張ってくださいね」

「鬼か」

 憎まれ口を返しながら髪をバンダナでまとめたロン先生が、少し考えてから、もう一度あたしを振り返る。

 

「…おまえんちの、あのスープは美味かったな」

 その言葉に思わず吹き出した。

 うん、大人の色気には確かに欠けるが、これはこれで可愛いところもあるではないか。

 

「じゃあ今夜の分と、明日の朝食べる分も、作って置いていきますね」

 あたしの返事に、また唇に笑みを浮かべる先生にひらひら手を振って、あたしはかまどに向かった。

 幸いにして材料はある。

 お酒を取り上げて無理矢理仕事をさせているわけだし、晩ごはんのリクエストくらい応えてやろうではないか。

 あたしは鬼でも魔王でもない、優しくてしっかり者の可愛い女の子なのだから。

 

 ☆☆☆

 

 さて。

 先生のごはんを用意し終えてから、そろそろ暗くなり始めた庭に出たあたしは、鉱石等と一緒に山から採ってきた土を、大きな甕の中に入れて混ぜる。

 あたしに見えているモノが、掘り出しているモノの素材であるというなら、系統の違う素材の取れる場所の土を混ぜれば、違うモノが掘り出せるかもしれない、という実験だ。

 ここ数日で集めてきた土は多分16箇所くらいのものだが、新たにチカチカが見えてきたので掘り出してみると、ハート形の化石のような石が出てきた。

 

『これは【ホイミスライムの心】です。

 死んだホイミスライムの体から魔力が結晶化して残ったもので、ある程度の大きさのあるものだけがそう呼ばれます。

 そのまま使うとホイミスライムに転職できますが…』

 

 いや、ホイミスライムに転職ってなんだよ!?

 意味がわかんねえわ!!

 

『…最後まで聞いてください。

 これ、実は昔から、身につけるだけで徐々に体力が回復するタイプの、伝説の防具に使用されているものでしてね。

 赤魔晶にこの魔力をインストールして組み込むことにより…』

 ん……!?

 という事はひょっとして、これを使えば振るうたびに使用者の傷を癒す武器とか作れたりしない?

 ロン先生の発想は、技の衝撃に武器を耐えさせる事だけど、最悪武器が耐えきれなくても、ロン先生の受けるダメージを無効にする事ならできるんじゃ…!?

 

『…無理じゃないですか?

 防具の場合は、常に装着者に触れている状態だから必要ありませんが、武器に使うなら回復の対象を使用者に限定する為の、何らかの処置を施さないと、その武器を使って攻撃した敵も、一緒に回復されちゃうと思います。

 しかもその処置に特殊な魔法術式が必要なんです。

 多分ロン・ベルク先生にも、その加工は不可能でしょう』

 …デスヨネー。うまくいかないものだ。

 道のりは遠い。


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