DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
「自警団?」
「はい。半年ほど前、この村がならず者たちの被害に遭っていたのを、旅の勇者様に救っていただいた事は、未だ記憶に新しい事と思います」
頭皮に汗を滲ませた村長に対して、少し睨むような視線を向けつつ話をするのは、いま話に出した件の、原因になったのがこのハg…オッサンの最初の行動だからだ。
村長っても田舎村の長、別に金とか持ってるわけでもない筈のこのひとに、若くて美人の奥さんがいるのは世界の七不思議のひとつだと思う。
ほかの六つ知らないけど。
「余所者にも寛容なのがこの村のいいところではありますが、暴力に対して無力である事実も否めません。
戦闘能力を持つ住人も確かにおりますが、大人は普段仕事をしていて、急な場合には駆けつけるのが間に合わない場合も多々あります。
何より、被害にあうのは老人や女性、あたしのような子供といった、抵抗すらままならない弱者です」
肉体的な危害を加えられる前に相手の精神を完膚なきまで破壊できるおまえのどこが無抵抗な子供だ、と後ろに付いてる保護者のひとりがちっさく呟いた気がするがまるっと無視する。
「ちなみに最後に被害を受けたのはあたしと兄で、多分兄がその勇者様について旅に出たのも、自身すら守れず妹のあたしも顔に怪我をさせられた、自責の念があったからかと」
「待て!ならず者に怪我させられたなんて話はオレも聞いてないぞ!しかも顔って!?」
唐突に話の腰をへし折る声は、先ほどなんか言っていた保護者その1。
「助けてくださった勇者様に呪文治療されました。
別に、嫁にいけなくなるような不埒な真似もされてはおりませんので御心配なく」
「そう聞いて安心していいのか、まだ月のものも来ないガキがその発言をした事を別な意味で心配した方がいいのか判らん!」
月のものは来とるわ失礼な!!
こないだ来たやつでようやく2回目だけど。
あと、だから顎クイはやめれと言うに。
まだ子供のあたしだからいいようなものの、年頃の若い娘さんとかにやったら下手すりゃセクハラで訴えられますよ?
あたしの心の声が聞こえたわけではなかろうが、保護者その2がその手を掴んで引き離す。
「ひとの娘に気安く触んな。ロン。
…村長、悪いな。
引き続きうちの娘の話、聞いてやってくれや」
そう、あたしは我が師ロン・ベルクと父親であるジャンクという、恐らくは武器製作及び販売業界において最強の戦闘力を後方に従えて、村長の前で弁舌をふるっているのだ。
さっきから窓から入る西陽を反射してあたしの網膜に若干のダメージを地味に与えている侮れん頭部を持つこの
あれから、先生のところで修行という名の錬金実験と時々素材探しの日帰り旅(ロン先生はルーラという移動呪文が使えるので、行ったことのある場所ならば一瞬で行ってその日のうちに帰ってこれる)、今まで以上の家業への参加という毎日を過ごしながら、あたしは自分にできる事を考えてきた。
世界を申し訳程度にでも巡った事と、店に立つついでに武器を必要とする人たちとの会話などを通じて、狭かったあたしの世界が一気に広がった事もあり、それは少しずつだが見えてきている。
「この村はベンガーナ領に位置してはいますが、隣国テランともほど近い為、生活水準は王都よりむしろあちらの方に近いです。
道具や設備など不便のない程度には充実していますから、暮らし向きはこちらが豊かですが。
そしてテランといえば、十数年間前から施行されている武器の開発禁止令が影響して、野盗などの被害が水面下で増加し続けており、国民の国外への流出は主にこの事が原因になっていますが、その辺は他国の事ですのでこれ以上は言及いたしません。
この村にも数世帯、テランからの移住民がおりますし。
ですが問題は、テランから住人に混じって、例のならず者達のような犯罪者もまた、流れてくる危険があるということです。
彼らは王都のような場所よりも、むしろテラン本国やこの村のような、人々がのんびり暮らしている田舎の方が活動はしやすいでしょうから、今後もまたあのような事態は起きうるでしょう。
今回はたまたま助けられましたけど、旅の勇者様は、いつでも都合よく村を通りかかってはくれません。
自力で解決を図れるよう、村全体の戦闘力を上げるべきです。
そこで!村の子供達を中心とした、自警団の設立を、あたしは提案するわけなのですよ!」
用意してきた提案書を叩きつけるようにして言い切ると、あたしはようやく息をついた。
…実のところ、今言った事は建前でしかない。
早くて半年、遅くとも1年以内には魔王軍の地上侵攻が始まり、魔王の魔力による地上モンスターの凶暴化という事態が起こる。
周囲を森や山に囲まれたこのランカークス村は、地理的にも規模的にも、モンスターの
一応対人の備えとして提案しているが、実は完全にモンスター対策だ。
…ちなみに物語では、勇者ダイが紋章の力に完全覚醒した後、彼の全力を受け止められる剣を求めて、ポップの故郷であるこの村にやってきた時、そのような事態が起きた形跡は、少なくとも漫画の描写の中にはなかった。
起こらないならそれでいいし、漫画で読んでいた時には全く気にならなかった点だが…ここに暮らすあたしの立場になると、まったく考慮に入れないわけにはいかない。
というより、起こらなかったとしたら、その『起こらなかった理由』を推測するべきだと思うくらい、実はこの事態は不自然だ。
うちと似たような環境にあった、マァムの故郷であるネイル村も、モンスターの一斉襲撃などには見舞われてはいなかったが、それでも一歩村の外に出た場合の危険は間違いなく存在しており、マァムは村の戦闘要員として、あの時点で彼女に可能な範囲での、万全の備えをしていた。
救いがあったとすればあの地のモンスターは傾向が獣系であったゆえ、ほぼ全ての種類が獣王クロコダインの統括下にあったから、魔王の魔力の影響を受けたにしても、無軌道に暴走などする筈がなかった事。
そもそもあの当時のクロコダインは人間など取るに足らないものと見下しており、居たとしても脅威となり得ない些細なものの存在を気に留めてはいなかったと思われるので、わざわざそんな指示も出しはしなかった筈だ。
そうでなければ、マァムやもと勇者パーティーのレイラさんがいくら頑張って戦ったとしても、あんな小さな村ひとつ、潰すことなど容易かったろう。
またあの山には武術の神様と呼ばれる拳聖ブロキーナが隠れ住んでおり、モンスターの単体での襲撃くらいなら彼が密かに止めていた可能性もある。
実際、魔王の復活前とはいえひとに迷惑をかけていた大ねずみを1匹捕獲して、魔王の影響すら跳ね返せるよう体質改善を施していた前例があるし。
…そして、この村を取り巻く森にも、隠者然として暮らしている実力者がいるわけで。
ロン先生は、ひねくれたモノの言い方はするが、基本的には面倒見のいい
しかもその時期、既に『ジャンク』との交流があれば尚更、村を一人で守ろうとすることは、充分に考えられる事態じゃないか。
恐らく、原作でのランカークス村は、魔王の復活時にモンスターの襲撃を受けなかったわけではなく、襲撃してきたモンスターの群れを、密かに一人で戦って排除した者がいた…と考えるのが一番納得できる答えなんだがどうだろうか。
…あくまで仮定の話だし、それがわかった以上そうさせないように動くけどな!
あたしは絶対にロン先生を、一人で戦わせたりなんかしない。
むしろそれすら利用して、先生の村での立ち位置を確立させてやる。
「リリィくんの意見はわかった。
だが具体的には、どのようにするつもりかな?
一応は大人として、子供達に武器を取らせるというのならば、慎重に考えたいのだが」
「いえ。中には素質のある子もいるでしょうが、武器というものは使えない者が持ったところで意味を成しません。
力のない者でも戦えるよう戦略を講じ、ありとあらゆる事態に対応できるようシミュレーションして、マニュアル化します。
…まあ恐らく、基本的な攻撃手段はこれになるでしょうが」
言って、持参していた見た目だけは宝箱風に装飾した木箱(気分の問題ね。前世でラインストーンで持ち物デコるの好きだったし)を開けてみせ、中に一杯に詰まった石を示す。
件の素材探しの旅でリンガイアのヘビーメタル鉱山の近くに偶然発見したポイントで採取したものだ。
普通の人が採取するのは危険が伴うが、あたしの能力ならまったく問題なく、しかも大量に手に入った。
そもそもこれを運ぶ為に、男2人に手を貸してもらわねばならなかったというのもある。
「…何かね、これは?」
「爆弾石です。
自爆した爆弾岩が残した欠片ですが、このくらいの大きさならある程度の爆発力は残っていますので、投げれば充分な殺傷りょk」
「ちょ、こんなもんどっから集めてきたの!!?
君、爆破テロでも起こすつもりなの!!?」
その石の名称を出した途端、
あたしの説明を最後まで聞かず、突然涙目で叫び出す。
「まさか。
けどか弱い女子供の身で、身を守る為に手段は選んでいられませんから」
「いやそこは選んでお願いだから!!!」
「あと、採取した場所はお教えできません。
悪人の耳に入ればそれこそ危険ですし」
「今の段階では君が一番の危険人物にしか思えない!!」
…なんか酷い言われような気がするんだが、うん、多分気のせいだ。
と、よくわからないが小動物のようにぶるぶる震えている
「あー…不安に思うのはとてもよくわかるが、とりあえずこいつの手綱は師匠であるオレと、ここにいる父親がちゃんと握っておく。
オレの命にかえても決して暴走はさせん。
信用してくれとは言えんが、約束する。だから…」
「信用します!
信用しますから、リリィくんが世界を滅ぼそうとしたら、絶対に止めてくださいね!!」
…なんだかよくわからないが、
とにかく魔王侵攻より早い段階で、ロン先生の存在をこの村に普通に認知させていかないといけないと思っていたから、思ったよりすんなり話が運んでくれて助かった。
…けどこの村の大人たちは、一体あたしを何者だと思っているんだろう。
子供たちの間では確かに魔王とか言われてるけど、あんなのただのあだ名だからね?
☆☆☆
そして。ついにその日はやってきた。
あたしが13歳になって4ヶ月ほど経過したその日、とうとう世界を覆った魔王の魔力がこの大陸にも及び…村をとりまく森から現れ襲ってきたのは、マドハンドと呼ばれるモンスターの大群。
普通は沼地とか水場の近くに現れるモンスターなんだけど、恐らくは邪悪な魔力により変化した森の植物ではないかとの事。
ここ半年間修業を重ね、レベルの上がったあたしは、元々の能力の他に『タカの目』という特技を身につけていた。
本来は旅の空の下で、近くにある町や施設などを探知する特技なのだが、あたしのはこの村の周辺くらいなら、その辺で動き回っている生き物の気配とかも、その気になれば察知できるのだ。
ありがとう神様。ありがとうチート。
空気がおかしい、淀んだ魔力が凝っていると朝早くに訪ねてきたロン先生が警告してくれ、あたしがタカの目で無数のモンスターの気配を察知、すぐに村全体に伝達されて、対集団での戦闘態勢の布陣を村の外に展開していた。
とりあえずは、空を飛ぶモンスターが居なくて助かった。
一応あらゆるケースに合わせたシミュレーションはしてきているが、対人としての戦闘訓練に組み込む為の理由付けが弱かった為、空中戦の対策にやや不安があったので。
この日の為に、割と年長の子供達の戦闘訓練は、武闘家のターレンさんが体術を、狩人のソーケッツさんが弓術、ロン先生が剣術を担当して、ある程度のところまでくると、その子によっても適性が違うので、その適性を伸ばす方向での訓練になった。
あたしも含め、女の子や非力な年少の子供たちは、投石の飛距離と命中率を高める訓練と、これは全員参加の逃走訓練に重点を置く。
この半年でみるみる戦闘力の上がったこの村は、ふらっと立ち寄ってチンピラ紛いの悪さをしてくる冒険者程度なら、ほぼ子供達のチームワークだけで撃退できるほどになった。
そして子供たちの戦闘力が上がってくると、大人たちも負けてはいられないと思うのか、週に一度の戦闘訓練に参加する人数が増えてきた。
そして、今に至る。
「そぃやあぁぁっ!!」
ドゴォォン!!
あたしはやはりこの半年でレベルと性能が格段に向上した「あなほり」の特技を用いて、マドハンドの足元(言葉のチョイスにはてしない違和感)の地面を砕く。
これも本来は、土の中に埋まってるお宝を掘り出す為の特技で、多分だが遠距離広範囲操作ができるのも、戦闘に使うという発想をしたのもあたしだけだろう…あ、1G発見。回収。
それだけでかなりの数が生き埋めとなり、押しつぶされてただの土に戻るも、そこから這い上がってくる運のいい個体達もまだまだ数限りない。
そこに向かって一斉に放たれるのは爆弾石の礫。
「そおぉい!!」
「ちえすとォォ──っ!!!」
「デストロ────イ!!!!」
ドオオォォォン!!!!!
爆発の土煙が上がり、敵の数がやはり大幅に減る。
それでもその土煙の中から、まだわらわらと出てくる群れに、今度は矢、投げナイフ、ブーメランなどの飛び道具の嵐が降り注ぐ。
「クロスカッター!!」
「
「狼髏館秘技・翔穹操弾!!」
…なんか変なの混じってる気がするけどまあ、そんなことはどうでもいい。
その嵐すらすり抜けてきた個体を、ロン先生をはじめとする直接攻撃組が各個撃破するという作戦だ。
ちなみに父さんはこのポジションにいて、でっかいハンマーをふるっている。
「はッ!!」
「ぬんっ!!」
「オオォォ──ッ!!!」
…このようにして、村全体が力を合わせて戦った結果、早朝に押し寄せてきたマドハンドの群れは、昼前には村に1匹も入らせないまま、ほぼ殲滅する寸前だった。
だが、恐らくは最後の数匹だろう群れを一気に生き埋めにすべく「あなほり」を敢行…しようとした瞬間、それは起こった。
「ぐっ……あ、ぁぁーっ!!」
それは、近くにあった木からぶら下がる、丸くて小さなモンスターが伸ばした触手だった。
それが唐突にあたしに向かってきてあたしの首に、そして体全体を締め上げるように巻きついたのだ。
「リリィ!!」
その場の全員の動きが一瞬止まる。
まずい。マドハンドは仲間を呼ぶ。
1匹でも残すとそこから増える。
僅かでも時間を与えちゃいけない。
視界が塗りつぶされそうになるのを必死に堪えて、手で全員に攻撃の指示を出す。
次の瞬間にはその手も触手に捕らえられたが、その時には誰かが投げた爆弾石が、残ったマドハンドに直撃していた。
そこから次々と、新たな爆発が連続する。
それを薄れそうな視界に捉えて、呼吸の苦しさに意識が途切れた。
…のも束の間だった。
「無事だな、リリィ!?」
目を開けると、ロン先生が至近距離であたしの顔を覗き込んでおり、服になんか…赤とも紫ともつかない色の液体がべっとりと付着していた。
あーこれ洗濯大変なやつだ。
無駄に冷静に状況を観察したところ、どうやらあたしはロン先生に抱えられているらしい。
周囲を見渡そうとして、何故か頭を押さえられる。
「見るな。
おまえを拘束したモンスターは俺がぶった斬ったが、派手に体液を撒き散らしてそこに転がってて、結構グロい。
ガキには、しかも女にゃ刺激が強すぎる」
「先、せ」
声を出そうとして、思うように発声できない事に気づく。
締められていたせいか、喉がおかしい。
「喋らなくていい。
あれは悪魔の目玉というモンスターで、通常ならば人を襲う事はない…が、どうやらリーダーがおまえだという事を見抜いたな。
恐らくは魔王かその手下の『目』だ」
…え?
悪魔の目玉…って確か、作中では妖魔士団に所属する正規の魔王軍のモンスターだった筈だ。
それがこの戦いを監視していた?
なんで?
と、不意に視界が真っ暗になって、目が何かに…ロン先生の、大きな手に覆われていた。
「…考えなくていいから、少し休め」
「も」
「モンスターの群は殲滅させた。
あの時、あれより2秒も指示が遅れていたら、少なくとも5倍の数をまた相手してなきゃいけなかったところだ。
爆弾石の雨から逃れた数体は、怒り狂ったおまえの親父が、瞬く間にぶっ潰してたぞ」
…想像したらメッチャ怖いんですがそれ。
なんかもうほんとすいません。
「よくやったな。…いい子だ」
「………えへ」
目を塞がれたままの状態で、耳元で囁かれた言葉に、急に達成感がこみ上げた。
何か言おうと思ったけど、口からは気待ち悪い笑い声しか出てこなかった。
「……いつもこのくらい素直なら可愛いんだがな」
なんか失礼な事言われた気がしたが、そこから先は強い眠気が急に襲ってきて、それに抗う気も起きぬまま、あたしはゆっくりと目を閉じた。
という事で原作開始のタイムテーブルです。
このランカークス村でのモンスター殲滅作戦は、グエン編4話と5話の間くらいの時系列になります。
そしてリリィの存在とこの出来事により、ロン・ベルクはランカークス村の英雄扱いになりました。
というか「魔王リリィを制御できるのはあの先生しか居ない」的な、方向性が明らかにおかしい尊敬の念を抱かれているとかいないとかwww