DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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※若干の暴力というか、一方的な蹂躙表現があります(爆


8・武器屋の娘は警戒される

 そいつを目にした瞬間、自動的に『みる』が発動した。

 

『あれは【死神人形(アサシンドール)】。

 あらかじめ登録しておいたマスターの魔力によって操作する、精巧な操り人形(マリオネット)です。

 エネルギー源は魔界のマグマ。

 それが熱を保ったまま、血液のように全体を流れています。

 操作の中枢は頭部にある黒魔晶ですが…うわわ!

 これ、スイッチひとつで魔界の超爆弾、【黒の核晶(コア)】に変化する呪法が仕込まれてます!!

 ぎゃあああ、怖い怖いぃっ!』

 ちょ、とりあえずもちつけ。いや落ち着け。

 

『ぜえはあ…あ、あと、手に持たされているのは【死神の笛】です。

 見た目は大鎌で、その通りの使用も勿論できますが、本来は笛で…息を吹き込んで音色を奏でるのは勿論、振るう事で耳には聞こえない特殊な音波を発生させ、聴覚から神経を狂わせて全身の自由を奪う、恐ろしい武器です。

 …どうやら、マスターは肩に乗っているひとつ目ピエロのようですね。

 呪法のスイッチが彼の魔力なので、下手に刺激しないほうが良さそうです』

 …うん、まあ知ってるけど。そうだよね!

『キルバーン』はひとつ目ピエロの方であり、死神の方は人形なんだから、アイテム扱いで、普通に『みる』の有効範囲内だよね!

 頭に内蔵されてる黒魔晶が今はまだ爆弾じゃないとかは初めて知ったけど!

 確かに、常に爆弾状態だとマグマの熱で自爆する可能性高いもんね!

 てゆーか本来原作ラストにくるネタバレをこのタイミングで堂々とかますとか、ほんとにチートだなこの能力!!

 

 …そう。今、あたしの目の前に立っているのは、『ダイの大冒険』のラストを衝撃的にした張本人、死神キルバーンだった。

 けどなんで!?

 こいつは物語の中では、主要人物を暗殺するという役割で動いていた筈。

 物語中は結局ひとりも殺せていないという指摘もあったけど、それはあくまで描かれている部分だけの話で、彼が標的にした相手がバラン、ポップ、アバンといった実力者だったからだ。

 …その時点でのポップは充分に、魔王軍からすれば要注意人物だったんだよ!

 (あたし)の欲目じゃねえわ!

 まあつまりは間違っても、あたしみたいなただの村娘の前に現れていいキャラじゃない。

 

「ふうん…こんな怪しいやつが目の前に現れても怖がらないんだ。

 村へのモンスターの襲撃に、準備万端で先頭切って立ち向かった事といい、やっぱり見た目通りの、か弱い人間の女の子じゃないよねぇ…キミ、何者?」

 やっぱりあの時の村での戦いの映像は魔王tubeにアップされて悪魔の目玉による動画配信がされていた模様。

 けど、何者とか聞かれても困ります。

 あたしはちょっと特殊な能力を持ってるだけの、見た目通り可愛い普通の女の子デスよ?

 

「…なんの話デスか?人違いだと思いまスけど?」

「わ〜、清々しいまでの超棒読み〜♪」

 やかましいわ本体。

 てゆーか、あたしの能力が危険だっていうロン先生の言葉が、今ならはっきり理解できる。

 あたしが前世の記憶を思い出していなければ、この『目』で今見たものの事を、コイツの前で口にしかねなかった。

 喉の奥のカチリ音がしなかった事を考えても、相手が既に知っている事を口に出す分には、神様のタブーに抵触しないのだろう。

 けど口にしていれば間違いなく、あたしはコイツに殺される。

 だから、とりあえずすっとぼけておく事にする。

 

「…あなた、誰?

 あたしに、なんの用でしょう?」

 何も気づいていない(てい)で、人形の方に向かって話をする。

 

「ボクの名はキルバーン。こっちはピロロだ。

 キミは確か、リリィ…だったかな?」

 大丈夫、うまくいってる。

 

「攫う気…なんですか?」

 一応は怯えたふりをして一歩後ずさってみる。

 演出というか、サービスですよサービス。

 

「フフ…どうだろうねぇ。

 実はボクの知り合いで、キミに会いたいってひとがいてねェ。

 けど、むこうからは、ちょっと事情があって会いに来れないんだ。

 できれば一緒に来てくれると助かるんだけどな?」

 言って人形が一歩、あたしに近づいた。

 一歩の幅の違いからか、あたしが引いたよりも近くまで寄った。ってやかましいわ。

 同時にこの後の行動の為にか、『ピロロ』がふわりと肩から降りる。

 

「攫う気満々じゃないですか」

 害意を確認した以上は、先手必勝。

 ひとつ目ピエロの短い足が着地する寸前、あたしはそれが着く筈の地面を砕いた。

 

「わわっ!!?」

 あたしの攻撃を警戒していなかったわけではない、むしろ充分に警戒しているからこその行動だっただろうが、恐らくは明らかにあたしに向かってくる人形(キルバーン)を無視して、自分(ピロロ)が先に攻撃されるとは、思ってもみなかったのだろう。

 突然なくなった着地点に、『ピロロ』ことキルバーンは、焦ったように足をばたつかせた。

 そこをまたあなほりで追撃。

 土塊がちいさなひとつ目ピエロの身体に降り注ぎ、そこに更なる追撃として、常備していた爆弾石を投げる。

 

「なっ、なっ、なんでボクに狙いを定めてくるんだよぉ〜〜!!」

「弱そうな敵から潰して敵ターンの攻撃回数を減らす!

 RPGバトルの鉄則でしょーがっ!!」

「意味がわからないよォォッ!!!」

 そうだろうな!

 あたしもドラクエはⅢまでしかやってないからな!

 そもそも、おまえの正体知ってる事、気付かれない為の言い訳だけどな!!

 

「てゆーか、キミ本気で人でなしだよねェッ!!!!」

 そうかそうか、そんな軽口を叩ける余裕があるか。

 ならばと、人形に魔力を伝える時間を与えない為に、あたしは『ピロロ』への攻撃頻度を上げる。

 

 あなほり!生き埋め!爆弾石!

 逃げたところをまたあなほり!更にあなほり!

 穴にハマって動けないところに、爆弾石!

 そして爆弾石!!爆弾石!!!爆弾石!!!!

 

 ドォン!

 ドオォン!

 ドドオォォン!!

 

「きゃああぁぁぁぁぁああ!!!!」

 静かな森に爆発音と悲鳴が響き渡り、泣きながら逃げ惑うひとつ目ピエロに、少女が執拗に爆発物を投げつける事案が発生する。

 目論見通り、コイツに絶え間なく攻撃し続けていれば、人形の方は動いてこない。

 けど念の為、人形もすぐに動けないよう肩近くまで穴に埋めといてから、また攻撃対象を『ピロロ』へと戻す。

 はたから見れば弱いものいじめ以外の何物にも見えないが、一見弱そうに見える者を侮った奴が酷い目にあうのは、ポップの戦いのテーマのひとつだった。

『キルバーン』がポップをあれほど警戒したのは、自身がそういう存在であったからという理由に他ならないのだろう。

 実際、勇者アバンに完全に存在を侮られたお陰で、コイツは生き延びてまんまと超爆弾を作動させる事になるのだから。

 

 ならば!この世界の完璧なハッピーエンドの為に、潰せるうちにコイツはここで潰す!!

 若干戦い方がえげつないのは認めるけどな!

 

 …だが『ピロロ』は、思ったよりタフだった。

 まあ、当然か。

 コイツはただのひとつ目ピエロじゃない。

 実際の強さはどうかわからないが、呪法や騙し討ちに長けた、悪魔の頭脳の持ち主だ。

 恐らくはダメージを減らす何らかの、装備か呪文でも使ってるんだろう。

 しかもあたしの攻撃を致命にならないギリギリで躱しつつ、奴は考えなしに逃げ回っていたのではなかった。

 人形からは引き離していた筈が、少しずつその距離を縮めていた事に、追い詰めるのに夢中で気がつかなかった。

 

「くっそ!悪魔だ、コイツ!!」

 おまえに言われたくないわ。

 心の中でそうつっこみながら、割と残り少なくなった爆弾石を構えてはっと気づく。

 この距離では人形を巻き込んでしまう。

 今、この段階で黒魔晶を黒の核晶(コア)に変える呪法を発動させはしないだろうが、絶対にしないという確証はない。

 

 あたしの動きが一瞬止まったと見るや、『ピロロ』は人形に向かって、飛んだ。

 …てか飛べるのかよ!いや、そうだよね!

 確かに作中でもフワッと浮かんだりしてた気もするよ!

 そこに気づかなかった自分にびっくりだよ!

 てゆーか、コイツ多分突然のあたしの行動にびっくりして、自分でも飛べること忘れてたに1ペリカ。

 ともあれ『ピロロ』が触れた瞬間、『キルバーン』が「あ〜」とか言いながら首をゆっくり回した。

 それ、キャラ違うわ!まさか「イライラするぜェ…」とか言いださないだろうな!?

 

「うわわ〜〜ん!アイツ酷いよ!

 やっつけちゃってよ、キルバーン!!」

「フフ…可哀想にねえ、ピロロ。

 でも、歓迎されてないみたいだし、今日は帰ろうか。

 チャオ〜、お嬢さん。また会おうねぇ」

 …この期に及んで演技は続けるらしい。

 そして土に肩まで埋まったままの『キルバーン』は、『ピロロ』を肩に乗せた状態で、そこから這い上がるでもなく、逆にもっと深くに沈み始めた。

 確か『キルバーン』には壁からヌゥッと出てくる描写があったし、これは異空間を通って移動する能力なのだろう。

 人形の方が戦える状態になれば、あたし程度では絶対勝てないので、どうやら逃げられてしまうらしいがここは諦めるしかない。

 とりあえずダメ押しの形で、人形の頭のてっぺんだけ出てる地面を、あなほりで砕く。

 その時には転移は完了してしまったらしく、砕かれた地面には穴が空いているのみだ。

 

 否……穴の底の方に何か、キラキラ光るものが見える。

 

「なんの騒ぎかと思えば、やっぱりおまえか、リリィ。

 ……ここで何があった」

 不意に聞き覚えのある声が聞こえて、そちらを振り返ると、ロン先生が剣を携えて、こちらに歩いてくるところだった。

 

 先生の手を借りて穴の底に降りていき、落ちていたキラキラを拾ってみると、それはなんとも不思議なものだった。

 まず、物体として成立していない。

 何か光の粒子がぐるぐると渦を巻いているようなものが、そこにただ存在して、それでいて触れるし、拾える。

 

『これは…【時空の結晶】です。

 使えば時空間の隙間を縫って好きな場所へ移動できる【時空扉】の力を使えるようになります。

 かつては地上にも存在した、【旅の扉】と呼ばれる移動施設に使用されていたこともありますが、今ではその技術は失われていますね。

 時空の欠片自体は、意外とあらゆるところに存在してるんですが、結晶化させるには、本来ならものすごく膨大な魔力が必要なんです。

 これは、さっきの死神人形(アサシンドール)がその機能のひとつである転移の呪法を展開している最中に、リリィさんがあなほりの能力を使用した事で、転移の際に集まっていた時空の欠片と、人形の黒魔晶に溜まっていた魔力を、切り取って錬金しちゃったんでしょう。

 ちなみに移動呪文のルーラと違い、【時空扉】は行ったことのない場所にも行けますよ。

 出現する場所には充分注意しないと、海の上に出ちゃって次の瞬間ザッパーンなんて事になりかねませんけど』

 なるほど、それは便利かも。

 …ところで『使う』ってどうすればいいわけ?

 

『一番簡単なのは、口から摂取する事ですね。

 魔力の高い人なら、手に持って念じれば自身の魔力に融合できますけど、リリィさんは魔力的には天才的なポンコツですから、食べるのが一番手っ取り早いです』

 ちょっと待てお前今なんつった。いや、まあいい。

 言われた通り、手にしたそれを口に入れる。

 

「あ、おい!」

 と、ロン先生が驚いたような声を上げ、あたしの顎を掴んだ。

 ビックリしたと同時に思い切り飲み込む。

 一瞬喉に引っかかる感覚を覚えたものの、それはすぐにシュワっと消えた。

 

「赤ん坊かおまえは!

 地面に落ちてた得体の知れんモノを口に入れるな!

 吐け!吐き出せ!!腹でも壊したらどうする!!」

 あたしの口を無理矢理開けさせ喉に指を突っ込もうとするロン先生と、必死の攻防を繰り広げ、なんとか勝利を収めた頃、西に傾いた夕陽が沈もうとしていた。

 

 ☆☆☆

 

「なんなんだアイツ!

 確かに人間は時々思いもかけないことをするけど、まさかあんな小娘が、躊躇なくボクを殺そうとするなんて!!

 …それに、人形の操作中枢の黒魔晶に、貯めてた魔力が枯渇してる。

 これじゃあ、当分は使えやしないじゃないか。

 …このボクをここまでコケにするとは、ちょっと許しがたいね、あのお嬢さんは…!」

 

 ☆☆☆

 

「それで…どういった経緯でこんな、森の中の道が穴ぼこと黒焦げの状況になった」

「若干の戦闘がありました」

「若干!!?」




リリィは純粋な人間である上に、ここがドラクエ世界であるという無意識下の感覚も加わって、モンスターを殺す事に対する抵抗は、グエンより全然ないと思います。
自分が弱い事を知ってるからこそ、危険を摘み取る事に容赦がない、ある意味ゾウやサイといった大型草食動物みたいな性格かも。
身体はちっこいけど(爆

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