DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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…師弟関係というくくりがあるにせよ、ロン・ベルクと深く関わらせすぎたかもしれん。
年齢的な事(種族的にも見た目的にも)から対象外にしてたのに、これ普通にリリィのメインヒーローのルートに入ってきてないか…?


9・武器屋の娘は停滞する

「オレの弟子が段々人外にクラスチェンジしてきて辛い」

「はっはっは、先生もそういう冗談を言うんですね」

「殴りたい、この笑顔!」

 そんなわけで、本日あたし達はオーザムに来ています。

 見てください、この猛吹雪!

 え、見えない?うん、知ってる。

 

 あの後先生に事情を説明し、新たに得た『時空扉』という能力を試しに使ってみようとしたら、目の前に明らかに『ど◯でもドア』的なやつが出現した。

 頭の中のオッサンが言うにはこれ、どうやらあたしのイメージ力の問題らしく、『扉』というネーミングと『任意の場所への移動が可能』という事柄から、あたしが無意識にイメージした形になったのだろうとのこと。

 そうだよね!

 元日本人の感覚だと確実にそうなるよね!

 で、そもそも今日先生に会いに行こうとした目的が、オーザムの例の鉱山に連れて行ってもらう為だったので、ここで会えた事を幸い早速連れていく事にした。

 で、突然現れたどこ◯もドアに一瞬驚きはしたものの先生の手を引っ掴んで扉を開け、途端にものすごい吹雪がこちらの空間に流れ込んできて、防寒具の用意もさせずにこんなトコに連れていこうとするとか殺す気かと怒られた。

 一旦閉じると扉は消え、先生の小屋へ行って互いに身支度を済ませ、改めて使用して今、ここにいるわけである。

 

「それで、なんでわざわざまた、この鉱山に来たんだ?

 ミスリルならこの前採取した奴がまだ残ってるぞ?」

「以前仰っていた魔法インゴット、今ならば採れるかと思いまして。

 この地は魔王配下のモンスターたちに『焼き払われた』と聞きましたので」

 あたしの言葉に、ロン先生が瞠目する。

 

「…なるほどな。

 確かにおまえの能力ならそれが可能だ。

 だが、オレ達がそれを手にする事の意味を、おまえは判っているか?」

「…ここに住んでいた人達の不幸があって、その上で得るものだという事くらいですが」

 考えなかったわけじゃない。

 むしろ最初から考えてた。

 あたしはこの国が、こうなる事を知っていた。

 誰にも伝える方法はなかったし、自分一人で動いたところで、阻止する事は出来なかった。

 あたしがどう立ち回ったところで、フレイザードに真正面から向かって行って勝てるわけがないのだから。

 

 キルバーンと戦えたのは、アイツが完全にあたしを舐めていたのと、人形ならともかく自分に攻撃してくる事を想定していなかったからだ。

 仕留め損なった今、恐らく次はない。

 

「…充分に判っているようだな。

 おまえはそれでもなお、オレに自分の剣を打てと?」

 それは、ここで死んだ人達の命を背負う事。

 無駄にするわけにはいかない。

 剣とは、武器とは、戦うためのもの。

 失われたその命を背負うならば、決して眠らせてしまってはいけないのだ。

 あたしはこれを先生に打たせる事で、先生を否応なく、戦いの場に引きずり出してしまうことになる。

 正史ならばそれは当然の流れで。

 けどこの『ロン先生』は、物語の『ロン・ベルク』と、同じであって違うひとだ。

 違う道を選ぶ事もできるだろう。

 むしろ、戦わせない選択肢の方が、剣を完成させることよりも、彼を待つ運命を回避させるには現実的なのではないかという気もする。でも。

 

「…それでも、強い力は、正しく使うひとのもとにあるべきかと思います。

 ここの人達の命と引き換えに生まれた力なら、それが正しく振るわれる事を、糧となった人達は望むでしょう。

 勿論、先生がそこまで背負えないと言うのであれば、あたしも無理にとは言いません。

 けど、もしも…」

 先生は何も知らなかった。知っていたのはあたし。

 ならば、罪も心の痛みもあたしが背負えばいい。

 あたしが背負うのが、筋だ。

 あたしは先生のように戦うことはできないから、せめてそのくらいは。なのに。

 

「みなまで言わなくていい。

 …くそ、そこまで計算尽くか?

 どこまで見えてるんだ、その目には?

 さぞや、見たくないものまで見えちまってるんだろうな」

 忌々しげな口調とは裏腹に、その大きな手は、優しくあたしの頭を撫でた。

 それが、答え。

 

 見上げたロン先生の、何かを吹っ切ったような微笑みは、今まで見た中で一番カッコよかった。

 

 魔法インゴットは、不思議な輝きと質感を持つ金属だった。

 家に帰ってから父さんに、先生が今受けている以降の仕事は当分取れなくなる旨を伝えた。

 

 ☆☆☆

 

「…単体での強度は、これ以上にはならんか。

 後は付加効果でなんとかするしかないが、どうもこの金属は、赤魔晶との相性が良くないようだ」

 ロン先生が渾身の剣を打ち始めてから約一週間、ほぼ先生の家に泊まり込みで、今まで以上に身の回りの世話をしているあたしが、今日の晩ごはんを何にしようかと考え始めたあたりで、それまでほとんど口をきかなかった先生の、そんなつぶやきが耳に入ってきた。

 さすがの先生も、伝聞だけで実際には扱ったことのない金属であったらしく、ある程度試行錯誤しながらの作業になってしまっている。

 先生の打つ剣は刀身だけでなくその拵え、(つか)や鞘なども付加効果を付けるのに重要であり、今悩んでいるのがまさにその部分だった。

 

「ちなみに、どんな効果を付けようと思ってました?」

「自己修復機能。オリハルコンの性能に近づけるのが理想だから、これは外せん。

 更に、ある程度の柔軟性を持たせる為…」

「柔軟性?硬度ではないのですか?」

「ああ、衝撃を受け止める為のな。

 硬度だけ上げたところで、それでは強い衝撃で容易く砕ける可能性が高くなる。

 だから、そのバランスが最も重要なんだ」

「なるほど。

 ではそれは、どのような方法で付加するんですか?」

「魔界から持ってきていたメタスラのかけらがまだ残っているから、それを赤魔晶にインストールして使うつもりだった。

 これだけで自己修復機能と硬度の強化、更に柔軟性も付加できる。

 昔からオレが、ずっと使っている仕様だ。

 勿論、おまえんちに卸す程度の武器には使用していないがな」

 言い方がムカつく!けど、そりゃそうか。

 そんなもん、イナカ村の武器屋に置いたところで、買える人なんか居やしない。

 魔界じゃどうかわからないが地上では確実に貴重な素材を使ってるだけに、値段も相当なものにしないと割に合わないし、そんなのうちじゃ仕入れ値だって払えやしないわ。

 

『うーん。

【聖石】があれば、解決なんですけどねー』

 と、唐突に頭の中に、『みる』で現れるオッサンの声が響いた。

 

「は?」

「…ん、どうした?」

「いえ、なんでもありません」

 思わず声を上げてしまって、ロン先生に不審な目で見られてしまった。

 …てゆーか、いきなり何?

 

『【聖石】です。

 白魔晶を精製して作られる人工石で、赤魔晶ほどではありませんがそれに近い機能を有しており、魔力や呪文を吸収して貯めておける性質があります。

 それも、赤魔晶が若干の地属性を帯びているのに対し、聖石は無属性なので、魔法インゴットとの相性も問題ない筈です。

 …ただ、その製法が特殊な上、カール王国の一貴族の家系に伝えられているのみで。

 確かジニュアール家という、有名な学者を代々排出している家系で、当代の当主は前魔王戦を戦った勇者です。

 リリィさんは、一度お会いしてますよね?』

 …思い出したよ!

 確か最終決戦で勇者アバンが現れた時持ってきてた、シルバーだかゴールドだかの羽に使われてたやつだ!

 えー…でもつまり、それが手に入らないと、ロン先生の剣は完成しない…?

 でも、最初に死んだ事になって一度退場した後、最終決戦で再登場するまでの間、勇者アバンはどこに居たんだっけ…?

 あーうん、ちょっと混乱してきた。

 

「リリィ…大丈夫か?」

 気がつくとロン先生が、訝しげにあたしの顔を覗き込んでいた。

 その先生の服の袖を掴み、目を見返して告げる。

 

「先生!カール王国に行きましょう!!」

「またか!おまえはいつも唐突だな!!」

「そいつはやめた方がいいぜ。特に今はな」

 と、あたしたちの他に別の声が入ってきて、二人同時にそちらに目を向ける。

 そこには小屋の扉を開けてうちの父さんが、食料だのなんだのを抱えて入ってきたところだった。

 …その手に持ってる瓶は持って帰んなさい。

 今、先生にお酒は要りません。

 

「邪魔するぜ、ロン」

「ジャンク、今のはどういう意味だ。

 カールに何かあったのか」

 先生の問いに、父さんが苦い顔をして答える。

 

「カール王都は魔王軍との激戦真っ只中だそうだ。

 襲ってきてんのはちょっと前までは中身空っぽの鎧兵士の軍団だったのが、今度のはリンガイアの時と同じ、(ドラゴン)の軍団だとさ。

 どうやら魔王軍が本気出したみてえだな。

 あそこの騎士団は確かに強いが、こうなるとそれをもってしても恐らくは、保ってあと一週間ってとこだろうぜ」

 超竜軍団。それは魔王軍最強とも言える軍団だ。

 率いるは竜騎将バラン。

 当代の正統なる(ドラゴン)の騎士にして、勇者ダイの父親。堕ちた英雄。

 確かカールは最初は魔影参謀ミストバーン率いる魔影軍団が攻めていたのを、自身の立場を危惧した魔軍司令ハドラーが勇者ダイとバランを会わせぬ為にそちらへ向かわせたもの。

 

 ハドラーにしてみれば自分を倒した勇者の出身国であり地上世界屈指の騎士団を抱えたカール王国なら、ある程度バランの足止めもかなうものと思っていた。

 しかしバランはその仕事も4日だか5日だかで終えてしまって、その中でカール王国最強の騎士だかを、紋章の力の一撃で倒したという話もあった筈だ。

 それは余談だが、カール王国が陥落するのは、バランが勇者ダイとテランで邂逅する、ほんの数日前だった筈。

 

 とすると勇者は既にヒュンケルとの戦いを終え、今は凍らされたパプニカのお姫様を救出したかしないかのタイミングか。

 ならばそろそろ、兄やお姫様とベンガーナに買い物にやって来る日も近いって事だ。

 更に後日、テラン入りして宿命の親子対決と。

 

 勇者が剣探しのためこの村にやって来るのはその後、ロモスでの武術大会を挟んでの事になるから、それまでに先生の剣は完成させておきたいんだが、必要な素材の手がかりを持つ唯一の人物がいる筈の地は、今現在魔王軍の攻撃を受けております、という事らしい。

 うーん、どうすべきか。

 

「そんな情報が入ってきた日にゃ、一週間も家に戻って来ねえ娘を、母親が心配すんのも無理ねえだろ?

 で、迎えに来てみれば今まさに、その戦火の中に飛び込んでく算段をしてやがる。

 危なくて放っておけやしねえや」

 父さんはそう言うと、持ってきた荷物を無造作に置いて、空いた手が何故か、あたしの手を掴む。

 

「……父さん?」

「てなわけで、悪いが一旦連れて帰らしてもらうぜ、ロン。

 オレとしても、まだ嫁にやった覚えはねえんでな」

「オレも貰った覚えはない!」

 あたしも嫁に来た覚えはないが…そんな事はどうでもいい!

 助けを求めて先生を見ると、ロン先生は小さく首を振った。

 

「…リリィ、親父の言う通り、今は一旦家に帰れ。

 思いついた事があるんだろうが、親に心配かけてまで急ぐ仕事じゃない」

 いや急ぐ仕事なんだよ!

 今完成させなければ、勇者パーティーの武器にかかりっきりになっちゃうんだから、その時間が取れなくなるじゃん!

 そんなあたしの叫びは、喉の奥にかけられた鍵により胸の奥へと封殺されて、あたしは引きずられるように、一週間ぶりの我が家へと連れ戻された。

 

 まあ、監禁されるわけじゃないし、あたしにはどこへでも行ける能力があるから、先生のお世話をするだけなら通えば済む事なんだけどさ!

 確かに一週間の泊まり込みはやりすぎたと反省してる。

 母さんに心配かけたのも悪かったと思ってる。

 けど、

 

「女の子なんだから、少しは男の人を警戒しないと。

 ロン・ベルクさんが信用のおける方なのは判っているけど、男の人はちょっとした瞬間に、タガが外れる事だってあるのよ?」

 なんていう生々しいセリフを、母親の口から聞きたくなかったよ!

 

 それからしばらく後、カール王国の王都が陥落したという話を、お店に来たお客さんが教えてくれた。

 そのうちの一人が、剣の修理を依頼しに来たニセ勇者だった事で、少しいやかなりテンションが上がり、その日は一日中父さんに気味悪がられた。

 3日後、新品同様ピッカピカになった剣を受け取ったニセ勇者は、その日のうちに仲間と共に村を発ったようだ。

 その後はベンガーナ王都のデパート周辺でドラゴンが暴れて街を破壊したとか、テランで謎の大爆発が起こって山がひとつ消滅したとか、外では色々起こっていたらしいが、ランカークス村はそこそこ平和に、時間だけが過ぎていった。

 

 ☆☆☆

 

 ロモスの武術大会には、受付時間に間に合わず出場できなかった。

 そしてその武術大会自体が魔王軍の企みだったらしく、おれとダイはそこで再会したマァムと共に、ザボエラの息子だという妖魔学士ザムザと交戦する事となった。

 おれ達は苦戦の末に奴を倒したが、その武術大会の賞品として用意されていた『覇者の剣』は偽物で、本物はザムザによってすり替えられ、ハドラーに献上されたという。

 結局剣は手に入らなかったが、ロモス王からパプニカのレオナ姫さんが、各国の王を招いて世界会議(サミット)を開くとの情報を得た。

 世界各国のお偉いさんの中には、勇者の剣の情報を知ってる人もいるかもしれないと、おれ達一行は明日発つという王様より一足先に、パプニカへ戻る事になった。

 …マァムの兄弟弟子だという大ねずみも一緒に。

 そこで、伝説に詳しいというテランの王様に面会させてもらい、同行してきたという占い師のナバラばあさんとメルルの2人に再会した。

 そして…

 

「…これは古代占布術といって、探し物の場所を、具体的な言葉(キーワード)で現す占いの方法です」

 そう説明するメルルは、テランで会った時のどこかおどおどした態度とは違い、神秘的な雰囲気を纏わせている。

 丸テーブルの上に広げられた白布に、ダイが手渡された燭台から、指示された通りに炎を落とすと、それは白布の上を這うようにして、焦げを広げながら転がった。

 おれ達にはただの焦げにしか見えないそれを、メルルが目を凝らして見つめる。

 その口から、途切れ途切れに紡ぎ出される言葉は、おれを驚かせるのに充分だった。

 

「…ラ……ン…カー……ク…ス」

 …間違いなく、おれの生まれ故郷である、村の名前だった。




以前、一言評価していただいた方の意見に、「誰視点なのかわからない時がある」という御指摘をいただいたのですが(結構前に貰ってたのに実は気付いたの割と最近でした)、言い訳させていただけば主人公視点の時以外は、割と意図的に判りづらく書いてます。
読者の方が考える余地を敢えて残しておくのも、ひとつの手法と考えてますので。

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