DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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今回、大半は副主人公視点。
つまり、残念まつり開催中(爆


15・武器屋の娘は静観する

「マァム、元気そうね」

「ええ、グエン。…ヒュンケルも」

「……ああ」

 久しぶりに会ったマァムに、以前より大人びた印象を受ける。

 いかにも武闘家然とした、身体のラインにぴったり沿い両端に深いスリットの入ったワンピースのデザインが可愛いかつセクシーだというのもあるが、修業に入る前には全体的にむちっとしていた身体が締まり、程よい筋肉の付き加減も相まって更にメリハリのきいたボディラインになっているし、何よりその目の輝きに、明らかに自分はこれだというものを見極めた者しか持ち得ない自信が現れていた。

 これは、相当強くなったものとみて間違いないだろう。

 

 …それはそれとして、一瞬互いを見交わしたマァムとヒュンケルの間に、形容しがたい甘い空間が生じており、間に挟まれていたわたしが思わずたじろいでそこから半歩退くと、その光景を苦々しい表情で見つめていたポップと目が合った。

 いや、そんななんとかしろみたいな目で見られても。

 

 ただ、ここのところずっと行動を共にする中で、それとなく聞いてきた話から判断するに、ヒュンケルはマァムをやたら神聖視しているところがある。

 聖母、女神、天使…多分、ヒュンケルの中のマァムはそんなイメージだ。

 パルナ村滞在中のある晩、宿の女将さんがサービスで出してくれたドリンクがアルコール入りという事に気付かず飲んで酔った勢いで説教モードが発動し、

 

『マァムだって生身の女の子で、そこまで神聖視してるのはアンタだけよ。

 ほっとけばいつかどっか知らない男のモノになって、あのくっそエロい体をその男が毎晩好き放題するわけよ。

 そりゃそうよね、あんだけ可愛い子、誰だってほっとかないわ…アンタ以外はね』

 というような事を言ったところ、あっちも酔ったアタマでメッチャ鮮明に想像したのか、見た事ないくらい悶えながら呻いてたから、この先もそのままだとは思わないけど。

 ほほほ、いいわねえ若いって♪

 

「…積もる話は、あのデクの坊を倒してからだ…!!」

 ヒュンケルの薄い青の瞳が、遥かにそびえ立つ城の巨人を映す。

 ああっと、失礼失礼。

 意識が明後日の方に飛んでいたわ。

 

「…フッ…フフフフッ…!!」

 と、何者かの含み笑いの声がその場の空気を直接振動させたように、わたし達のいる空間一帯に響き渡った。

 

「相も変わらずの自信過剰だな…ヒュンケルよ…」

「…ミストバーンだな。そこから出てこい!」

 ヒュンケルが口にした名前は、確か魔王軍の軍団長のひとり…わたしの記憶に間違いがなければ、ヒュンケルに倒されたハドラーを連れていった、禍々しく濃い瘴気の塊のような気を持った男?だった筈だ。

 …うん、声を聞いたのは初めてだが、男なのは間違いないだろう。

 

「どうせ最後に、貴様はオレに倒されるのだ。

 いらぬ手間は省きたいからな…!!」

「フッ…おまえは知らぬのだ。

 我が魔影軍団の強さとこの、大魔王様からお預かりした、鬼岩城の恐ろしさを…!!」

 声と共に巨人の腹部にある大きな扉が、軋むような音を立てて開く。

 

「おまえ達ごとき、こやつらがいれば充分よ!!

 私の顔を見る事など…二度とない!!!」

 腹部に持っていった巨人の手が、そこから現れた複数の影をその上に乗せて、地面に降ろす。

 それは三体の、先ほどより大きな鎧兵士だった。

 

「…行けっ!!!

 我が軍最強の鎧兵士、デッド・アーマーたちよ!!!」

 地響きを立てて地に降り立つそれを見た仲間たちの目が、驚きに見開かれる。

 

「あっ…あれはフレイザードが使った、魔影軍団最強の鎧…!!」

 わたしは初見だったが話には聞いている。

 ダイに核を破壊され炎だけになったフレイザードが乗り移ったもので呪文はまるで効かず、クロコダインすらパワー負けしたという代物だ。

 

「…しかも、それが三体…!!!」

 そのクロコダインが、呻くように呟く。けど。

 

「ねえお師匠サマ。あれ、そんなに強いかしら?

 そう見えないのは、わたしがまだ未熟だから?」

 どうしてもそのように見えなくて、隣のヒュンケルに問うてみると、ヒュンケルの唇に苦笑が浮かぶ。

 

「師匠は止せ。

 あなたに言われるのは些か、こそばゆい。

 …あの程度、今のあなたの敵ではあるまい。

 逆にあなたは奴らの天敵だ。試してみるか?」

 心強いその言葉に、笑みを返しながら頷いてみせる。

 

「オッケー♪みんな、下がっていて!」

「えっ!?で、でも一人では…!!」

「そうだ!

 おまえはまだ、修業をはじめたばかりではないか…!!」

 後ろ手に手を振りながら、わたしがそこから踏み出すと、仲間たちの心配げな声が背中にかかった。

 それをヒュンケルが、落ち着いた声音で制している。

 

「…アバンはダイに3日足らずの間で、大地斬と海波斬をマスターさせたという…。

 不肖の一番弟子とはいえ、わずか数日でもその程度、教授できなければ面目が立たんだろう?

 …それにしてもグエンは規格外だったがな」

 …最後のは正直ちょっと引っかかるが、まあいい。

 

 デッド・アーマーと呼ばれた鎧兵士が、一斉にこちらに向かってくるのに、わたしはそのままの位置で迎え撃つ。

 槍は盾にまだ収納したまま…目を閉じる。

 斬るのは鎧そのものではなく、その中に宿る、(まが)つ力。

 目には見えないそれを感じ、それを滅する力を、手に集中させる。

 その手で槍を引き抜く。力が、槍に伝わる。

 そして…

 

「うわああっ!殺られるッ!!」

「グエンッ!!」

 少年と少女の声が響く中、わたしは槍を薙ぎ、穂先から力を解放した。

 

「アバン流槍殺法・虚空閃ッ!!!」

 

 …次の瞬間、三体の鎧は傷ひとつつかぬままバラバラのパーツに分解されて、音を立てて地に落ちた。

 

 ・・・

 

「以前、オレ達があれほど苦戦した敵を、いともたやすく…!!」

 驚きを通り越して呆れたようなクロコダインの声に、振り返ってサムズアップを返す。が、

 

「…一番最初に虚空閃を成功された時には、正直こちらが教えを請わねばならぬと思ったのだが…まさかその後、初歩の地雷閃で躓くとは思わなかった」

「せっかく格好良く決まったのに言わないでよ!!」

 続いて後ろから聞こえてきたヒュンケルの声には、思わず文句を言った。

 そう、基本的な槍術を学び槍殺法の下地を作ってから、ヒュンケルにアバン流の教えを受けて地・海・空それぞれの技の概念を教え込まれた後、実技に移って一番最初にわたしがマスターしたのがこの虚空閃、ダイやヒュンケルの刀殺法でいう空裂斬にあたる技だった事に、ヒュンケルは『出鱈目過ぎる』と頭を抱えていた。

 けど、わたしは僧侶で、悪しき力を滅する正義の光という概念を、ニフラムで既に顕現化させている。

 わたしにとっては当たり前の概念であり、方法が魔力から闘気に変わっただけだ。

 闘気の操り方さえ覚えてしまえば、難しい事などまったくなかった。

 その後スピード技の海鳴閃を辛うじてマスターしたものの、単純に膂力が足りない為に、本来は初歩の技だというパワー技の地雷閃だけが、未だに修得出来ずにいるのだが、それがヒュンケルに言わせると『どう考えても順番が出鱈目』らしい。

 そういえばルーラの修行をマトリフ様のところでした際に、初めて発動したのがトベルーラだった事で、マトリフ様にも『非常識』とか言われたっけ。

 でもあれはイメージが間違っていただけで本来はできている筈の呪文だったから、別に順番が本当に間違っていたわけじゃない。

 

「仕方ないでしょ!

 あなたやダイと違って、こっちはか弱い女僧侶なんですからね!!

 海鳴閃はできたんだから後もう少しよ!」

 …だからクロコダイン以下全員、そんな『凄い!』から一転した、かわいそうなものを見るような目はやめて!!

 

「今に見てなさい!

 完成させたらダイと2人で、ダブル・アバンストラッシュを撃ってみせるんだから!!」

「わかったわかった。後はオレと交代だ」

 急にぞんざいになったヒュンケルはわたしをクロコダインの方に押し退けると、(つか)を逆手に持った剣を、刃先を下にして掲げた。

 もう片方の手を、(つか)と刃が交わり十字を描く部分に当てて、例の城に向けて構える。

 その身体から闘気が溢れ出し、それが十字部分へと集中するのがわかった。

 …やはり闘気の操作技術は、わたしなどではヒュンケルの足元にも及ばない。

 

「…さあ、前座は終りだ!!

 出てこないと城の首ごと吹っ飛ばすぞ!!

 ミストバーン!!!」

 ヒュンケルの言葉に従って、なのかどうかは知らないが、巨人の頭に当たる部分の、柱の間から、いつかの『衣のモンスター』が、姿を現わすのが見えた。

 

「…来たな…!」

 

 ☆☆☆

 

 そういえば。

 この戦いの直後、 ポップが暗殺されかかるんじゃなかったっけ。

 で、それを助けに行ったダイが超魔ハドラーに負けて、一時行方不明になる流れだった筈。

 くっそ、今更だがあのひとつ目ピエロ、あの時に息の根を止めておけなかった事が悔やまれる。

 でもこのイベントがなければ、敵の本拠地が死の大地である事や、超魔ハドラーや、ひいてはオリハルコンの親衛騎団の驚異も、知る事ができなくなるわけで。

 ん?けどあれでハドラーがダイを下さなければ、オリハルコンの駒をバーン様から賜る事もないのかな?

 いや、なんだかんだでそこは避けられない気もする。

 だとすると、この先は下手にねじ曲げると、あとあと取り返しのつかない事態を招きかねない…のか?うーん。

 そんな事を考え込んでいて、ふと視線を感じた。

 その方向を見ると、ダイが何故か、じっとこっちを見つめている。

 

「…どうかしました?」

「あ、ゴメン。

 …最初はあんまり似てないと思ったけど、たまにすごく似てる時があるね、リリィとポップは」

 ちょっと面白そうに言った勇者様の、さっきよりは明らかにリラックスした表情に、こちらも笑みを返す。

 

「そうですか?

 ふたり並べるとあまり似ていないと言われるのですけど、兄妹ですからね」

 正確には村の大人達が言うには、あたしとポップはあまり似てないけど、間に母さんを挟むとやっぱり似てるという印象になるらしい。

 あと、あたしと父さんもあまり似てないと言われるが、何故かポップを挟むと似てるらしい。

 ひとの目ってのは割といい加減だ。

 どっちかというと実際に目から入ってくる情報よりも、イメージの方で認識する割合が多い。

 

「…ねえ、普通にしゃべってくれないかな。

 ポップと話す時はそんなんじゃなかったじゃん」

 …最初は何を言われているのかわからなかったが、どうやら敬語を止めろと言われているらしい事に、数瞬遅れて気がつく。

 目上の人間やお客さんと話す事が多く、家族や友達以外と話す時には自然とそうなっていたので、自分ではあまり自覚してなかった。

 一応目の前の人もお客さんではあるわけだが…ここは武器を求めにきた客としてより、兄の友達として扱った方がいいのだろう。了解した。

 

「え…あ、そう、だね。わかった」

 ちょっと切り替えに時間がかかりそうだが。

 

「良かったー。

 ポップに似た顔で敬語で話されるの、なんか違和感あってさぁ」

 そういうものか。

 

「…リリィはさ、怖くなかったの?」

「え?」

「モンスターと戦ったんだろ?

 村中のみんなで、とは聞いたけど、リリィはその先頭に立ってたとも聞いたよ?

 ひょっとしたら怪我したり、死んじゃったりするかもしれないのに、どうして」

「…怖かったから、かな」

「……えっ?」

「自分だけでなく、大事なひとたちが傷ついたり、死んだりするのが、あたしは怖かった。

 戦わなければ、この村がなくなってたかもしれないし、そうしたらポップだって悲しむもの。

 だったら、たとえどんなに弱くても力がなくても、自分のできる事で、戦うしかないじゃない?」

 一番先頭に立ってたのは、戦略的な采配ってだけで他意はなかったけど。

 あたしの答えに、ダイは不得要領な顔をしていたが、やがてその口元に笑みが浮かんだ。

 

「そっか。じゃあ、おれとおんなじなんだね。

 おれも、じいちゃんや島のモンスターを守りたいって思ったし、島を出たのはレオナを助けたかったからだし。

 リリィって、ほんとは勇者なんじゃないの?」

「残念ながら、ランカークス村で今、勇者とか英雄とか呼ばれてるのはうちの先生ですー。

 あたしは『魔王』だから♪」

「それなんだけどさ、なんで『魔王』なわけ?

 ポップが、自分が原因だって言ってたけど…」

「……ポップは小さい頃、よく村の子たちにいじめられてたから、弱いなりに守ろうと、力以外の報復を繰り返していたら、いつの間にか」

「ゴメン。

 自分から聞いといてなんだけど、もうそれ以上聞いちゃダメなような気がする」

 ほほ…賢明ですね、勇者様。

 

 槌の音が、まだ響いている。

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