DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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リリィさん、ようやく原作開始(爆


18・武器屋の娘は看破する

 ダイの手が、台座から剣を取り上げる。

 瞬間、『みる』が自動的に発動し、頭の中に例のオッサンが現れた。

 

『できたてほかほか、【ダイの(つるぎ)】です♪』

 …うちの先生の魂がこもった地上最強の剣を、温泉地の土産物屋の店頭で(ふか)してる黒糖まんじゅうみたく言うな。

 

『…何を言われているのかはわかりませんが、勇者ダイ、所有者(マスター)認定完了。

 但し現在、精神波長の合一化が未完了である為、一定レベル以下の敵との戦闘時の使用は不可能です。

 その基準は剣自身の判断となります。

 …どうも材料になっているオリハルコンが、【覇者の冠】時代に器でない所有者の手を転々と渡り歩いた経緯があって疑心暗鬼になっているのと、勇者ダイの持ち物になって以降、しばらくガラクタと一緒に放置されていた事で、若干ヘソを曲げたみたいですね』

 まじか!

 オッサンの言葉を裏付けるかのように、ダイは鞘から剣を抜こうとして呻いている。

 

「なんだこの剣…!!?

 まるでカギがかかったみたいに抜けないよ!!」

 慌てたようなダイの言葉に『あたりまえだ』とでも言うように赤魔晶がまたもきらりと光る。

 

「言ったろ。そいつには魂がある。

 自ら戦う時と場所を選ぶのだ」

 …ロン先生がそれっぽい説明してくれてるし、さっきオッサンの説明してくれた真実は言わない方がいいな、うん。

 

「けっこう、わがままなやつなんだなあ…」

「プライドが高いと言ってあげて」

 けど一応、これ以上剣がヘソを曲げない為のフォローは入れておく。

 

「その理由はすぐにわかる。

 おまえが戦いの中で真の力を欲した時、おまえの闘志に呼応して、自らの意志で封印を解くだろう…!!」

 その先生の言葉に、少し物言いたげな表情で剣を見つめるダイに、あたしはそっと言葉をかけた。

 

「…この剣は確かに生まれたてだけど、覇者の冠だった時代にはあなたよりずっと長い時間、戦いの歴史を見てきているから、その判断に間違いはないと思うよ」

「そっか…よしっ!!」

 ダイが、あたしの目を見返して頷く。

 そうして、鞘に取り付けたベルトを留めて、ダイがその剣を背に負うと、不思議な事にそれこそが真の姿であったかのように、ダイと剣が一体化して見えた。

 ふと、見るともなしにロン先生を見上げると、その表情には、見たかったものを見る事ができた歓喜と、幾ばくかの羨望が、ありありと浮かんでいた。

 …聖石の錬金、急がなきゃいけないな。

 けど天使のソーマなんてレア材料、どう手に入れればいいんだろう。

 流通してないわけじゃないけど、何しろ高価だ。

 てゆーかマァムから預かってるこの魔弾銃(まだんガン)の弾丸を一個でも貰えれば解決なんだけど、これはマァムにとっては師の形見。

 たとえ一本だろうと壊していいわけがない。

 

 壊し…あれ?

 今、なんか引っかかった…なんだっけ?

 まあいいや、今考えても仕方ない。

 

「いつでもいいから、成果はちゃんと聞かせに来いよ!」

「うん!

 本当にありがとう、ロン・ベルクさん!!

 リリィも、おじさんたちも…!!」

 先生の小屋を出て、これから戦場へ向かうとは思えないくらい、穏やかに挨拶を交わす。

 

「…ダイさん。

 ポップをよろしくお願いします…!!」

 母さんが小さな勇者に頭を下げると、父さんはフン、と鼻を鳴らした。

 

「足手まといになるようならほっぽっといても…痛ててっ!!」

 最後まで言い切らなかったのは勿論、相変わらず素直じゃない事を言う父さんの脛に、あたしがささやかな蹴りを入れたのが原因だ。

 

「アハハ…心配いりませんよ。

 おじさんたちが思っているよりも、ポップはずっと強いんですから……あの、だからもうやめようよ、ね、リリィ?」

 最初の一撃と寸分違わぬ箇所に正確に3発目の蹴りを入れようとしたところで、心配そうなダイの声に制止され、あたしは仕方なく脚を引っ込めた。

 父さんが涙目で睨んでくるのは見なかったことにする。

 

「…じゃあ、行ってきま」

「あ、ちょっと待ってダイ。

 …これから全力で戦うなら、ちょっとでも体力温存しないとでしょ?あたしが送ってあげるよ」

「え?」

 確かダイは竜闘気(ドラゴニックオーラ)で魔力を高めなければルーラを使えなかった筈だ。

 あたしが時空扉で送り届ける方が効率的だ。

 …なにせこの戦い、これから戦うお城ガンダムなんかよりずっと強い敵と、連戦しなきゃいけないはずだから。

 

「…あれを使う気か?

 確かに便利だが、あの扉を潜る際の、一瞬視界がぐにゃりと曲がる感覚がどうも慣れん。

 …ダイ、気をしっかり持てよ」

 あれ?そんな感覚あります?あたし、感じた事ないんですけど。

 それはさておき、何にもない空間からどこ◯もドア出す娘の姿を両親の目に晒すには若干抵抗があるので、ダイの手を引いて小屋の裏手に回った。

 何をするつもりかと訊ねる父に、ロン先生が無難な説明をしてくれる。

 そっちは任せても大丈夫だろう。すぐ戻るし。

 

 …と、そんなふうに考えていた時期があたしにもありました。

 

 ☆☆☆

 

 弟子と勇者が去った後、ギルドメインの山から吹き下ろす風に、長い髪がなびくまま佇んでいたロン・ベルクは、傍らに差し出される琥珀色の瓶に気がついた。

 

「…ご苦労だったな。

 うちの娘が戻らねえうちに、一杯()れよ」

 それを差し出す手は、弟子の父親で、唯一友と呼ぶべき人間のもの。

 その瓶が自分の一番好きな種類の酒であると気付いて、遠慮なくそれを受け取ると、笑みを浮かべながら片手で栓を飛ばす。

 

「気がきくな。年の功ってやつか?」

 その言葉に、友が肩をすくめながら、大して気にもしていないふうに返してくる。

 

「よく言うぜ!

 オレの何倍も生きてやがるくせによ!!」

「…魔族の生は密度が薄い…。

 人間の何倍も生きられるもんだから、ダラダラ生きてるヤツが多い。

 何百年生きたって、中身がカラッポってヤツも少なくない。

 こんなにうまい酒が飲めるやつは何人もいないさ…!」

 種族が違えば寿命も違う。

 生きている時間がまったく違う。

 目の前の男も、その娘も、いつかは必ず自分を置いていく。

 

「…今日はとことんつきあうぜ、ロン!!」

 …ならば今、共に酒を汲みかわせるこの時を、大切にしなければならん。

 決して言い訳じゃないからなと、言い訳としか思えない言葉を、すぐに戻ってくるであろう弟子の為に、ロン・ベルクは頭の中で用意していた。

 

 ・・・

 

「あなた…」

「おう、スティーヌ。

 さきに帰ったんじゃなかったのか?」

「リリィが…戻ってこないんです」

「…なにぃ!?」

 目の前で友人夫婦が交わす会話に、さすがのロン・ベルクにも微かにまわっていた酔いが、瞬間いっぺんに醒めた。

 

「あの……馬鹿…!!」

 

 ☆☆☆

 

 今思えばこの時、事前説明をきっちりしておけばよかったんだと思う。

 扉を出現させ、目を丸くしているダイの前で、一旦扉を開けて周囲が海とかでないことを確認し、やや宙空の高い場所だったので位置を微調整…していたらそれは起こった。

 

「え!?あれパプニカのお城だよね!!?

 ここから行けんの?どうなってるの!?」

 あたしの後ろから覗き込んでいたダイが、そこから見える風景に驚いたついでに、一歩踏み出してしまい、

 

「わわっ!!!」

 当然のことながら、脚を踏み外した。

 というより、落ちた。

 ……どうやら反射的にらしいが、あたしの手を掴んで。

 そして、時空扉はあたしが通るか、その手で閉じるかした瞬間に消える。

 

「きゃ───っ!!!!」

 パプニカ王都の宙空、少なくとも二階建てより高い位置から、あたしは勇者と共に落下していた。

 

 ────ドウン!!

 

「…っ……!?」

 …確かに痛いけど、思ったほどじゃない衝撃に、あたしは恐る恐る目を開ける。

 

「ごめん、リリィ。大丈夫だった?」

 …見渡せば、恐らくどこぞの家の屋根の上。

 申し訳なさそうにあたしの顔を覗き込む勇者は、こうして見ると普通の男の子にしか見えない。

 

「う、うん…平気…」

 言いながら、あたしはその場で時空扉を再び出…そうとした。だが、

 

『時空扉は5分に1回のみ使用可能です。

 次に使用できるのは4分12秒後になります』

 唐突にオッサンの声がメッセージとして脳内に流れ、あたしは愕然とする。

 まじか!連続使用の必要がこれまでなかったから気がつかなかったわ!!

 

「どうしたの?」

「…時空扉、5分間置かないと使えないの。

 心配しないで。5分経ったら勝手に帰るよ。

 それよりも、ほら」

「…あっ!」

 少し離れたところで、多分だが勇者パーティーと敵…ミストバーンという、大魔王バーン様の腹心である敵幹部…との戦闘が起きている。

 そしてその向こうには、巨人の影。

 一刻の猶予も許されないはずだ。

 ダイは頷くと、背の剣の(つか)に手をかけ…やはり抜けないことを確かめてから、腰のベルトに付けていた鞘からナイフを出して、構えをとった。

 

「ぐああああ────ッ!!!!!」

「ヒュンケル───ッ!!!」

 どうやらミストバーンがかけた暗黒闘気の圧力で圧死させられそうになっているらしいヒュンケルさんに向けて、技を放つ。

 確か暗黒闘気に唯一対抗できる『空』の技だ。

 勇者が放つ光の斬撃は、バチッと音を立ててミストバーンとの間の空間を切り裂くと、ヒュンケルの身体を吹っ飛ばすと共に、その拘束から解き放った。

 

「ダイ!!!!!」

 全員の視線が、こちらに集中する。

 

「…って、リリィ!?

 なんでおまえがここに居るんだよっ!!?」

 …そこはつっこまないでいただけると助かります、お兄様。

 あたしも来たくて来たわけじゃありません。

 

「……貴様か、ダイ…!

 姿が見えんと思っていたが、新しい剣を探していたというわけか…面白い!

 (ドラゴン)の騎士の力に耐え得るものかどうか、見せてみるがいい…!!」

「…やだよ!!」

 ミストバーンのリクエストに応えたくても応えられない現状を、いかにも余裕というように、ダイがニカッと笑って却下する。

 

「おまえなんか見せる相手じゃないって、この(つるぎ)が言ってらあっ!!!」

「こっ…小僧っ!!!のぼせ上がりおって!!!」

 どうやらいつもは沈着冷静なミストバーンさん、今日はブチ切れてらっしゃるようです。

 

「貴様もこの滅砕陣に呑まれて果てろ…!!!」

 先ほどヒュンケルにかけていた拘束技を、今度はダイに向けて放つ。

 って!今、ダイと一緒に居るあたし、普通に巻き込まれる流れなんだけど!!

 

「ひっ!!」

 避けようにも傾斜のある屋根の上、身動きもかなわずあっさり体が拘束されるあたしの存在をまる無視して、ダイが足元の屋根を蹴り、空中高く跳躍する。

 

「…そのぐらいの技なら普通の武器でも充分だ!!

 アバン流刀殺法・空裂斬!!!」

 再び放った光の闘気が、地面の上にクモの巣状に広がる暗黒闘気の網の、中心へと放たれ、地面に亀裂が走ると共に、それに捕らわれていた仲間たちが次々と、その場で動き出すのが見えた。

 その怪しげな輝きがすべて消えた地面に、勇者様が降り立つ。

 

「大丈夫か!!?みんな!!!」

「ダイッ!!!!」

 兄を含め、その場の仲間たちがダイに駆け寄るが…

 

「た、助けて!落ちる───っ!!」

 屋根の上で暗黒闘気の束縛を受け、すぐにそれから解き放たれたあたし、動かなければ保たれていた筈のバランスを完全に崩して、今、屋根の上から滑り落ちかけております。

 

「あっ!忘れてた!!」

 なんか不届きな台詞が聞こえたが今はいい!

 

「リリィ!!」

「きゃあああ──っ!!!!」

 そしてあたしの足が屋根の(へり)すら踏んでいない状態となり、当然の事ながら落下して…

 

 ──ぼっすん☆…あれ?

 

「おっさん!」

「ナイスキャッチ♪クロコダイン!!」

「怪我はないかね、お嬢さん?」

 頭の上から聞こえてきた渋い声に、思わずがっちり瞑ってしまっていた目を開けると、あたしは妙に男前なワニさんの両腕に、すっぽりとおさまっていた。

 

 …獣王クロコダイン!?

 

 何を隠そう前世のあたしの、超魔ハドラーの次くらいに萌え対象だったのがこのひとだ!

 …あれ?でも、あたしの知ってるクロコダインは、確か隻眼だった筈なんだが、このひとはちゃんと両目開いてるな?ワニ違いか?

 でもさっき、多分グエンさんの声が確かにクロコダインって呼んでたから、ひょっとしたらこれも、彼女の存在による変化なのか。

 うん、それにしても…。

 

「おっと…済まんな。

 市井のお嬢さんに、この顔は恐すぎるか…」

「…かっこいい」

 思わず口から零れ出たあたしの言葉に、クロコダインとおぼしきワニ紳士が目を(みは)る。

 

「………え?」

「…あ!し、失礼しました!

 助けていただいてありがとうございます!!

 あと、兄がいつもお世話に…!」

「おっさん、うちの妹がホント済まねえ!」

 こちらに駆け寄ってくる兄の言葉に、クロコダインがあたしとポップを交互に見てから、そっと下ろしてくれる。

 紳士だ、紳士すぎる。

 

「てゆーかリリィ!

 おまえ、ほんとになんでここに居るんだよ!」

「ごめん、ポップ。

 おれが連れてきちゃったみたい。

 5分経てば帰れるみたいだけど」

「おまえか〜〜っ!

 ただでさえ厄介な敵と戦ってる時に、それ以上の厄介ごとを持ってくるんじゃねえよ!!」

 …それはどういう意味でしょうか、お兄様。

 念の為もう一度時空扉を出そうとしたら、

 

『時空扉は5分に1回のみ使用可能です。

 次に使用できるのは3分14秒後になります』

 というメッセージが流れた。長いな!

 前世でバトル漫画なんか読んでる時に、

 

『十秒でこの勝負に終止符をうつ!!』

 とか言ってカウントダウンしながら会話する敵のシーンなどを見て、

 

『いや、それ言ってる間に秒数経ってるよね?』

 的なツッコミをしていたものだが、実際当事者になってみると、こういう時は嫌がらせかってくらい、時間の流れるのって遅いもんなんだね。

 

 …しかもこの時のあたしは、非戦闘員にとっての戦場ど真ん中での5分がどれほど長いか、考えすら及んでいなかった。

 そうだよね!

 カップうどん作るときすら普通に長かったのに、一歩間違えたら死と隣り合わせの状況での5分なんて、永遠にすら思える時間だよね!!

 

「と、それはともかく。

 どうしたんだよ、新しい剣は!!

 完成しなかったのか!!?」

「それは…」

「危ないッ!!」

 呑気に会話してる兄たちに向けて、上空に浮かびながら…技名あったよな、確か…えっと、ビーフストロンガー?いや、絶対違うけど、なんかそれっぽい響きの名前の、鋭い指…爪?を伸ばして攻撃する技を、ミストバーンが仕掛けてくる。

 と、次の瞬間何か円盤状のものが飛び、その伸びてきた爪を全て切り落とした。

 それは大きく弧を描いて回転しながら、放った人の手に戻る。

 

「グエン!!!」

 それは鎧の魔槍の、左腕につけられているちいさな盾。

 ダイに呼びかけられた綺麗な顔が、答えるように微笑んだ。

 

 …その顔が一瞬、痛そうに歪んだ気がするが気のせいだろうか。

 

「盾がブーメランに!!?」

「あの鎧の魔槍ってやつは、一体いくつの武器がついてんだよっ!!?」

 ごめんなさい、一応『見』たけど覚えられませんでした。

 

「正確なところは、わたしも検証しきれてないから、後で製作者に聞くことにするわ!

 それよりダイ、ミストバーンはわたし達に任せて!あなたは、あっちをお願い!!」

 グエンが指差す方向を見れば、城の巨人が建物を踏み越えて、高台にある塔のような建物に向かって歩いているところだった。

 

「きょ…巨人が、大礼拝堂に…!!!」

 確かあの場所にレオナ姫と、彼女が招集した世界の王様が集まっていたんだっけ。

 

「あの鬼岩城には、半端なパワーは通用しない!!

 おまえの力で…なんとか食い止めてくれ!!!」

「わたし達は残る力すべてをふるって、あのミストバーンを食い止めるわ!!!」

 行って、ヒュンケルとグエンが、向かってきたミストバーンに攻撃を仕掛ける。

 どうやらグエンさんは『空』の技を使えるようで、ヒュンケルと連携し、更に飛翔呪文なども駆使しながら、戦っている…けど、ちょっと動きが変だ。

 

「で、でもグエン!

 ひょっとして肩、怪我してるよね!?」

 同じ事に気付いたらしいダイが、彼女の背中に向かって叫ぶ。

 

「いいから行きなさい!わたし達を信じて!!」

「行けっ!!!行くんだダイッ!!!!」

 そうか、グエンの動きが不自然なのは怪我をしているからだったか。

 けどあのひと僧侶だし、回復できるんじゃ…って、そうか!

『暗黒闘気で受けたダメージには、回復呪文が効かない』って設定だった!!

 

「そうだぜ、おれ達だってまだ戦える!!!」

「レオナ達を守って…!!」

 …けど、同じ攻撃を受けていた筈の、兄たちの組は平気っぽい。

 単に、ダメージの程度の問題なんだろうか。

 

「…わかった!!!見ててくれ、みんな!!

 ロン・ベルクさんの作った、この剣の威力を…!!!」

 仲間たちの覚悟を受けて、ダイが紋章の力を使い、城へと飛ぶ。

 

「使えんのかよ…あの剣…!?」

 うちの兄が心配そうにそんな事を言いやがったのが、ちょっとムカついた。

 うちの先生が完成もしてない剣を持たせるわけがないでしょう。しかし、それよりも。

 

「ダイ──ッ!

【鬼岩城】は頭部にある司令中枢の玉座から、搭乗者の魔力で操縦されます!

 故に、搭乗者を守る為に、その部分が一番頑丈に作られ、多少の攻撃ではビクともしません!

 けど、起動装置があるのは左肩部分!

 そこを破壊すれば、全身の機能が停止します!!」

 動いている鬼岩城を『見』た瞬間、頭の中のオッサンがまくし立てた情報を、あたしはそのまんま復唱して叫ぶ。

 

「…!!小娘、貴様、何故それを…!!?」

 以前、ロン先生が言っていた。

 あたしの『目』は、状況によっては軍事利用されかねない能力(ちから)だと。

 その意味が、ようやく今、はっきりと実感できた。

 あの巨人の城はいわば、一国どころか世界をも滅ぼせるほどの兵器。

 それの弱点がこうもあっさり看破されては、確かにそれを持つ者にとってはたまったものではない。

 最終的には命の危険すら出てくるという警告は、決して大袈裟じゃなかった。

 

「リリィ!危ない!!」

 一瞬呆けていたあたしに、どうやら例のミストバーンの爪が向かってきていたらしい。

 ポップがあたしを抱えて飛び退き、元いた場所の地面が抉れる。

 どうやらグエンやヒュンケルが追撃を防いでくれてるらしく、それ以上はあたしに向かっての攻撃はない。

 

「おまえ、今のってどういう…って、話してる時じゃねえな。

 後でちゃんと話聞かせてもらうから、今はそっちの隅にでも隠れてろよ!!」

 あたしを地面に下ろしたポップの言葉に頷いて、少し離れた建物の陰に走り込む。

 ポップがその場から飛び去り、それを見ながらほうっと息をつく。

 それから、もう一度時空扉の使用を試みた。

 

『時空扉は5分に1回のみ使用可能です。

 次に使用できるのは0分02秒後になります』

 おっしゃ!ちょうどいいタイミングだ!!

 と、今度こそともう一度、扉を出そうとした瞬間、

 

「ハロォ〜、久しぶりだね、お嬢さん」

 と、魂を底冷えさせる声が、背後から聞こえた。

 振り返る前にその正体に気付き、そこから駆け出そうとした時、同じトーンで小さく囁く声が続いた。

 

「スペード・テン」

 次の瞬間、あたしの足元から、無数の剣のような突起が現れ、それがあたしを取り囲んだかと思うと、あたしの頭の上で、先端が一つにまとまって閉じられる。

 

「キャハハハハッ!

 やったあ〜!!ざまあみろ〜〜!!!」

 大きな鳥カゴのような形状の檻に閉じ込められたあたしを見て、死神の肩の上で、ひとつ目ピエロが甲高い声で笑った。




そしていきなりのピンチ(爆
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