DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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グエンとバランがお互い『なんか虫が好かない』程度の感覚だったのに対し、リリィとキルバーンはもう『不倶戴天』くらいのとこまでいってると思います。
まあ、この場合悪いのは一方的にリリィの方なんですが(笑


19・武器屋の娘は死神に拉致される

「この間は、ピロロがお世話になったからね。

 是非ともお礼をしなくちゃと、ずっと思っていたんだ。

 もうボク達の仲だし、そろそろ名前で呼ばせて貰って構わないかな?

 会えて嬉しいよ、リリィ。ウフフフッ……」

 いやどんな仲か。

 実に白々しい台詞を『キルバーン』が吐きながら、アタシの入った『鳥カゴ』を撫でる。

 兄たちはミストバーンとの戦闘に入ってしまい、あたしの窮地には気付いていない。

 ここで気付かれて動揺されるのも厄介なので、却って有難いのかもしれないが。

 そんなあたしの視線に気が付いたのか、『キルバーン』はその仮面からの連想を裏切らない含み笑いをする。

 

「あの魔法使いクンは、なかなか侮れないねぇ。

 以前見た時には、ダイ君の足を引っ張ってるようにしか見えなかった子が、今はパーティーの主力になって戦っているなんて。

 これが人間の言う『士別れて三日なれば即ち更に刮目して相待すべし』ってやつかな?

 まさかキミのお兄さんだとは思わなかったけど。

 でも言われれば確かに、油断のならないところなんかはソックリだよねぇ。

 ウッフフフフフッ……!!」

 あたしとポップの関係をもう知ってるって事は、少なくともさっきのクロコダインとのやりとりは確実に見ていたって事だ。

 てゆーかコイツは原作でもポップを一番警戒していたから、そこに妹であるあたしの存在が、更に輪をかけちゃったって事か。

 ヤツがなんのつもりであたしを捕まえたのかは知らないが、人質にせよ殺す気にせよ、大人しく捕まったままでいるわけにはいかない。

 カゴの中で、ひとまず時空扉を出そうと試みる…が、現実は非情だった。

 

『時空扉の使用には、使用者の周囲に最低1.5㎥の空間が必要となります。

 リリィさんのいる檻は、その条件を満たしていません』

 まじか!

 確かに今まで狭いところで出そうと思ったことも、その必要もなかったから気づかなかったけど、さっきの時間制限といい、思ってたより制約多いよ時空扉!と、

 

「今、何かしようとしたみたいだけど、ムダだと思うよ。

 その呪法檻は、魔力やそれに類する力を通さないからね」

 そうなのか?でも隙間あいてるし、そこから手は出せるんだけど。

 ものは試しにカゴの隙間から、ポーチにまだいくつか残っていた爆弾石を一個投げてみる。

 勿論、『ピロロ』に向かって。

 

「あ痛っ!

 ホントにキミ、ボクの事目の敵にしてるよね!!」

 …命中はしたが、どうやら不発らしい。

 というか、爆弾石の破裂力だけが、多分檻の隙間をくぐり抜けた時に切り取られたっぽい。

 投げた時に一瞬ビリッと静電気みたいな感覚を指先に感じたのは気のせいじゃなかったか。

 念の為足元に『あなほり』を試してみたが、こっちは発動すらしなかった。

 これでは恐らく、マァムから預かっている魔弾銃(まだんガン)も作動しない。

 なるほど、あたしの能力には魔力由来のものはないから大丈夫と思っていたが、そこはむこうも考えてるって事か。

 多分だがフレイザードが使った禁呪法の結界の、簡易版みたいなやつなんだろう。

 

「相変わらずつれないなあ。

 ピロロばかり構って、ボクの事は見てくれないんだ?」

 その言葉につられ、あたしは『キルバーン』に目を向ける。

 

『前に見たのと同じ【死神人形(アサシンドール)】です。

 以前と特に能力や機能の変化はありませんが、強いて言えば司令中枢の黒魔晶に貯められた魔力が、1/3くらいになっている事ですかね。

 この間【時空の結晶】を錬金した際に一旦枯渇して、そこから徐々に補充したみたいです』

 …どうやら『みる』は使用可能らしい。

 うん、基準がまったくわからない。いいけど。

 

「この檻はねぇ、キミの事だけを考えて、キミの為に特別に作ったんだよ。

 キミの能力の全貌がまだよくわからないから、あらゆる可能性を考慮したんだ。どう?」

 ああ、それでまず魔力封じなのか。

 あたしの使う技が、どの系統の技なのかがいまいち掴めなかったから。

 まあ、よもや商人系の技能を戦闘に応用している馬鹿が居るとは思わないだろうからね。

 ってやかましいわ。

 そういえば今あっちで戦ってるグエンさんは、トラマナを防御系呪文として使用したって言ってたけど、意外と彼女はあたしと発想が似てるのかもしれない。

 今はそんな事どうでもいいが。

 

「いや全然嬉しくないし!

 …あたしに乱暴する気でしょう!?

 エロ同人みたいに!工口同人みたいに!!」

 そんなわけないとは知ってるけど、とりあえずお約束なので言っておく。

 

「…何を言われているかはわからないけど、まあ見ているといい。

 人間ってやつは、自分が痛めつけられるより、目の前で仲間が傷ついていくのを、何も出来ずに見るしかないことの方に、苦痛を感じるものなんだろう?

 勿論、ボクらには理解できない感情だけど」

 おのれ。悪趣味、ここに極まれり。

 その言葉にあたしは思わずキルバーンを睨みつけた。

 

 …今、『ピロロ』が『キルバーン』の肩にいる状態で良かったと思う。

 そうでなければ、先ほどからふざけた言葉を発している死神をまったく無視して、使い魔のひとつ目ピエロの方を睨みつけているという不自然な状況を、誤魔化しきれなかっただろうから。

 

 ☆☆☆

 

『…潰れろッ!!!!』

 諸国の王や重鎮たちが集まる大礼拝堂に、城の巨人が迫り、その巨大な岩の拳が、彼らをひとまとめに叩き潰そうと振るわれた。

 次に来る衝撃と悲劇を予想して、そこに居る者たち全員が、心臓を握りつぶされたような恐怖に恐れ慄いた刹那。

 

「うおおおおおおおっ!!!!!」

 咆哮をあげながら真っ直ぐ巨人に突っ込むものが、その場にいた誰の目にも、一筋の閃光にしか見えなかったろう。

 それは巨人の頭部にぶち当たり、砕ける事はなかったが、それでもその巨体がバランスを崩し、ぐらつく。

 

『なっ…なにいっ!!?』

 声を発したのは、巨人の操縦席に座した、シャドーと呼ばれる魔物。

 そいつが傾いた巨人の体を慌てて立て直すと同時に、大礼拝堂の鋸壁の上を、先ほどの閃光の正体である、小柄な少年の両足が降りたち、踏みしめた。

 それを目にし、パプニカの若き指導者、王女レオナが、その美しい(かんばせ)を、輝かんばかりに綻ばせる。

 

「ダイ君!!」

 そこに立ったのは、彼女の勇者。

 この地上に生きる、全ての者たちの希望。

 それが、再びこちらに向かって歩を進めてくる城の巨人に向かいながら、背に負った小振りの剣に呼びかける。

 

「さあ…おれの(つるぎ)よ!

 今こそ、おまえの力をかしてくれ!!!」

 その勇者の呼びかけに応えるように、彼の背に負われた剣に埋め込まれた赤い宝玉が輝いた。

 

『愚かな!!剣で城が斬れるかっ!!!

 貴様もいっしょに潰してくれるわ──ッ!!!!』

 城の巨人が無造作に振り上げた右手が、剣に手をかけた勇者と大礼拝堂に迫る。

 本来なら手の一振りで、その言葉を実行するのはたやすい事だったろう。

 だがその瞬間、剣の宝玉の輝きが強さを増し、勇者の求めに従って、その封印が解かれた。

 竜の力を纏い鞘から抜き放たれたそれは、そこに閉じ込められていた力を解放するが如く白い軌跡を描く。ほんの、一閃。

 …だが光は、巨人の胸元を通り過ぎただけのように見え、そのまま消える。

 

『フ…フハハハッ!!

 だから言ったろう、そんな攻撃など……ッ!!?』

 嘲るようなシャドーの言葉が止まったのは、本来なら城にその魔力を伝えて動かせる筈の、玉座の操作盤(コントロール・パネル)が、全く反応を示さなくなったからだ。

 次の瞬間、巨人の右肩から横一直線に亀裂が走り、それが胸を通って左肩まで続いた。

 

『なっ…なにィッ!!?』

 巨人の両腕が肩の部分から、重力に従って落下する。

 更に魔力が途絶えた事で、胸から下の部分も崩れ落ちる。

 土台の部分が壊れてしまえば、上もまた連鎖的に落下するしかなく、一度バランスを崩した城壁は、その自重に耐えきれず、あっという間に瓦礫と化した。

 

『バカなあっ!!!バカなバカなっ!!!!

 バーン様自慢の鬼岩城が破壊されるとはっ…!!!

 あの小僧、いったい何を…っ!!!』

 だがシャドーのその疑問の答えを、彼が知る事は永遠になかった。

 

「くらえええええっ!!!!」

 再び、今度は縦方向に振るわれた勇者の剣の一閃が、次の瞬間には彼の居る玉座ごと、その暗黒の生命を両断していたのだから。

 

『ミ…ミストバーン様ァ〜〜〜ッ!!!!』

 

 ☆☆☆

 

 城の巨人がバラバラに崩れ落ちる光景が、あたしの今いる場所からもはっきり見て取れて、自身の置かれた状況はさておき、先生の腕の確かさにひとまずホッとして、貧相な胸を撫で下ろす…ってやかましいわ!

 それまで戦闘中だった兄たちが一瞬動きを止めてその光景に見入っており、最前線にいたグエンとヒュンケルが、めっちゃ悪そうな表情で笑って頷きあってるのがわかった。

 そして彼らと相対していたミストバーンは、あろうことか敵に背を向けて宙空で棒立ち(言葉のチョイスにやや違和感)したまま、崩れゆく城の巨人を見つめており、あたしの位置から見てもわかるほどに肩を震わせている。

 

「スキだらけだぞミストバーン!!!空裂斬!!!!」

 その背に向かってヒュンケルが放った技が、その肩を貫いた。

 もう少し下に当たっていればとチウが残念がっているが、技を放ったヒュンケルは、それが当たった事に逆に驚いているようだ。

 

「なんという失態…バーン様の鬼岩城を、あのような姿に…!!

 …これも私が、ダイの新しい剣の力を見抜けなかったせい…私の…私のせいだあああっ!!!」

 これまでの冷静さをかなぐり捨てて、咆哮するが如く叫ぶミストバーンに、多分その場の全員がドン引きした。

 ええと、これ『あァァァんまりだァァアァ』とか泣き出したあとスッキリするやつだっけ…あ、いや違う。

 多分だけど作品違う。

 

「へっ!!どうだくやしいかっ!!!

 おれたちの力をなめてっから、そーいう目に遭うのさッ!!

 とどめはおれの呪文でっ…!!」

 あ、ドン引きしてないやつが1人いた。

 割と調子に乗りやすいのがポップの長所でも短所でもあるが、確かこれって…!

 

「待てポップ!!今、迂闊に攻撃するな!!!」

「焼け焦げろっ!!!閃熱呪文(ベギラマ)──ッ!!!!」

 ヒュンケルの制止も間に合わず、攻撃呪文をポップが放つと、ミストバーンがようやく振り返り、それをまっすぐ胸で受け止める。

 本来ならその高熱で燃え落ちるはずの衣には焦げあとひとつなく、その内側で…ポップが放った熱エネルギーが、膨れ上がったように感じた。そして。

 

「ぬおおおおっ!!!!!」

 何やら気合とともに、そのエネルギーが爆発した。

 それが、呪文を放ったポップだけではなく、仲間たち全員の方へと向かう。

 その爆発力は彼らの足元の地面をえぐり、一番重いだろうクロコダインの身体さえ吹き飛ばして、近くの建物の壁に激突させた。

 グエンとヒュンケルの鎧には呪文そのもののダメージは通らないが、そこからの二次的な効果である爆風には逆らえなかったようで、やはり2人とも壁に叩きつけられていた。

 これ、一応帰ってからロン先生に報告しとこう。

 まあ、帰れたらの話だが。

 …あと、パプニカの兵士の確かバダックさんっておじいさん、壁とクロコダインの間に挟まれてたけど大丈夫だろうか。

 ちなみにあたしを捕らえているこの檻が、魔力効果を通さないというのは本当らしく、あたしのいる路地まで爆風は届いていたが、あたし自身は髪の毛一本すら揺れ動かなかった。

 危険から守られているのは間違いないが、これに捕らえられていなければそもそも今ここには居なかった筈なので、勿論感謝はしない。

 

「あちゅちゅちゅちゅ〜〜っ!!!」

 チウは体毛か衣服に火がついたらしい。

 熱さから逃げようとしてなのか走り回っている。

 

「氷結乱撃ッ!!」

 そこに、一番最初に立ち上がったグエンが槍の技を放った。

 チウの背中についた火と同時に、辺りに燻った炎もそれで消えていく。

 …こんな器用なことできたんですねグエンさん。

 残念な美人さんだと思っててすいませんでした。

 それを皮切りに全員が立ち上がり、信じられないといった表情でミストバーンを見上げた。

 

「ん…んなバカなっ…呪文をはじき返しやがったのかァ!!?」

「いや…!今のは増幅して撃ち返した感じだったぞ!!」

 ポップの言葉にクロコダインが答え、その下敷きになっていたバダックさんに多分回復呪文をかけながら、グエンさんが頷く。

 

「そもそもポップのベギラマの威力が、並の魔法使いの倍近いところに、更に倍返しをくらったわけね。

 恐らくは極大クラスの威力よ、今の」

「冷静に分析してる場合かよ!!」

「そんな場合よ!

 てゆーか本来、冷静な分析は魔法使いのあなたの仕事だからね、ポップ!!」

「最前線で戦士と一緒に戦ってる僧侶に言われたくねえ!!」

 なんかポップとグエンが掛け合いを始め、戦いの最中だってのにちょっと和みそうになった刹那。

 宙空に浮かんだままミストバーンの両手が自身の衣にかかって、そこから凄まじい程の殺気が溢れ出したのが、非戦闘員であるあたしにすら判った。

 

「もはやこれまで…!

 我が闇の衣を脱ぎはらい、おまえたちをこの場で消す以外にない!!!」

 

 ・・・

 

「あ〜…これ、ちょっとマズイかも。

 ごめんね、リリィ。

 ほっとくとボクの親友が、上司のお咎めを受ける事態になりそうだ。

 すぐ迎えに来るから少ぉしここで、いい子で待っててくれるかい?」

 いや悪い子で逃げようにもあたしはここから動けないんだけどな!

 死神人形(キルバーン)はあたしをそこに残したまま、本体(ピロロ)を肩に乗せてフワリと飛び上がる。

 てゆーか本当にアイツ、ここで捕まえたあたしをどうする気なんだろう?

 現時点では単なる嫌がらせがしたいようにしか思えないんだけど。

 

「なんて事なの…!

 ミストバーンから感じるこの威圧感は、あの巨大な城よりはるかに…!!!」

「でっ…でかいっ…!!!」

 下から見上げるマァムとポップが息を呑む。

 まあそうだろうね。

 身体を操ってるのは暗黒闘気の塊の生命体だけど、その動かしてる身体こそが、ラスボスである大魔王バーンの、全盛期の肉体なんだから。

 

「このミストバーンの真の力!!今こそ見よっ!!!!!」

 止まる事なく溢れ出すその禍々しい気が、その不気味さに似合わない眩い輝きすら放ったところで、全ての時間が一瞬、止まった。

 

 …ところに、空気読まないやつが乱入して、再び時間が動き出した。

 

「はい、スト〜〜〜ップ。

 そこまでにしておきたまえ、ミスト…」

「キル……!!」

 指先で弄ぶようにして回した大鎌の刃が、ピタリとミストバーンの首元に当てられる。

 彼らにしてみれば唐突に現れた『キルバーン』の姿に、ポップが最初に口を開く。

 

「や…やつは確か、ベンガーナで会った…!!」

「死神キルバーン…とか言ったかしらね?

 てゆーかやっぱりあなただったんだ、その鎌。

 あの日それに攻撃されたせいで、お気に入りだった帽子をドラゴンに燃やされたんだけど、弁償してくださらない?」

「だ・か・ら!今そんな事言ってる場合かよ!」

 …どうもグエンさんが入ると場の緊張感が削がれる気がする。

 このへんは天然じゃなくわざとやってんのかもしれないけど。

 そういえばバランとの戦いの前、ベンガーナのデパートに買い物に来た勇者パーティーにドラゴンの群れをけしかけたのは、バランではなくコイツだったっけ。

 時期的に、あたしとの森での攻防とどっちが先かって頃だったと思うけど。

 

「なにッ!!?し…死神!!」

「あいつが…!!?」

 そして死神の名に驚く元軍団長のおふたかた。

 そこに場違いに甲高い、耳障りな声が響き渡る。

 

「い〜けないんだ、いけないんだ〜っ!!

 バーン様に、おこられるぅ〜っ!!」

「そうだとも。

 キミの本当の姿は、いついかなる場合においても、バーン様のお許しがなくては、誰にも見せちゃいけないんじゃなかったっけ?

 それを破ったら…親友のキミでも、ただじゃ済ませられない…」

 そんな下の動揺に全く頓着せず、『親友』の首に鎌を当てるキルバーン。

 …ひとり二役の腹話術って事を知ってて見ると微妙にムカつくなこの演技。

 

「そうであった…」

 そんな事を全く知らず、自分を止めてくれた『親友』に感謝するシチュエーションにあるミストバーンを、つい哀れに思う程度には。

 もっとも、自分の正体を隠した上で付き合ってるのは、このミストバーンも同様なんだけどね。

 脱ぎかけたローブから手を離し、ミストバーンがようやく冷静さを取り戻したのを見て取ったキルバーンが、もう一度くるりと大鎌を回してそれを肩に担ぐ。

 

「鬼岩城なんて、バーン様にとっては、単なるお気に入りの玩具(おもちゃ)のひとつ。

 可愛いキミが、ちゃんと謝れば許してくれるさ。

 それよりこの場は、恥の上塗りを避けた方がいいんじゃないのかなあ?」

「……わかった。もはや二度と…失態は見せぬ…!!」

 ここからミストバーンさん、沈黙モードへ回帰。

 確かここで一旦、この戦いは終了なわけだけど…。

 

「じゃあ皆さん。

 そういう事で、ボクたちは失敬させてもらうよ。

 鬼岩城を撃破するとは、キミたちも中々大したもんだ。

 ダイ君にも“(つるぎ)の完成オメデトウ”って、伝えておいてくれ」

 キルバーンがそう言うと同時に、そのそばの空間が小さく歪んだ。

 それに躊躇なく腕を突っ込み…あたしの視界が、一瞬ぐにゃりと曲がった。

 

「リリィ!?」

 …次の瞬間、あたしは入っている檻ごと、キルバーンのそばに引き寄せられていた。

 この大きなものをどうやって、と思うくらい、上に付いた取手を握ってそれを持ち上げる腕に、揺らぎも力みも感じられない。

 そうだよな、人形だもんな!

 

「では…シー・ユー・アゲイン!」

「え…きゃ───っっ!!!!」

 キルバーンはミストバーンと共に、ルーラでその場から飛び立った…あたしを連れて。

 

「ま、待てっ!!妹を…リリィを返せ───っ!!!」

 あたしが連れ去られたと見るや、ポップは飛び出して、高速移動する2人を追いかけてきた。

 いや、待って!これ罠だから!!

 

「ダメ!戻ってポップ──ッ!!」

 あたしの叫びは、虚しく風にかき消された。

 

 ☆☆☆

 

「グエン!この中であいつのスピードに追いつけるのはあなただけだ!!!

 あのままひとりで行かせたらポップが殺される!!!」

「わかったわ!!」

 あれだけの高速移動している相手に、リリルーラで合流するのは無理と判断して、わたしもトベルーラでポップを追う。

 普段、高速でトベルーラを使うことがないから知らなかったけど、スピードを上げれば上げただけ、目を開けているのが困難になってくる。

 あのスピードで平気で飛び回れるとか、ポップも充分化物レベルなんじゃないの。

 今度コツを聞いておこう。

 あのキルバーンとかいう男が、ポップの妹さんを何故連れ去ったのかわからないが、何にせよ巻き込んだのはわたし達だ。

 ポップと一緒に、彼女も必ず連れ戻す!

 

 …冷静に考えれば、罠だという事に気付いた筈だ。

 つまりこの時のわたしは、全然冷静じゃなかった。

 ポップやヒュンケルの事なんか言えやしない。




出発前に若干ヘソ曲げていたダイの剣さん、リリィの僅かながらのフォローにより、ほんの少し機嫌が直ってました。
プライドが高いのは相変わらずですが、原作よりも初仕事を頑張ってくれたようです。
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