DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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ほぼ副主人公(グエン)視点。


21・武器屋の娘は宣伝する

「…追ってきたんだね、オネエサン…!!

 キミまで来てくれるなんて嬉しいよ」

 ふざけた言葉を口にして手から離れた鎌を拾いながら、キルバーンがこちらに顔を向ける。

 

「ちぇ〜〜!!

 あとひと息で、あいつの兄を殺せたのにィ!!」

 そのキルバーンの肩の上に小さな使い魔…確かひとつ目ピエロとかいう種族か…が、悔しそうに叫んでいたが…うん?

 なんだか人質に連れてきたリリィ自身に含みがあるような言い方だな、それ。

 …それはさておきわたしの動きを牽制するように、ミストバーンがキルバーンの側に瞬時に移動(リリルーラ)してきた。

 こちらも相手の動きを警戒しつつ、ポップの状態を確認する。

 

「グ…グエン……!!」

「…どうやら麻痺に近い状態のようね。

 キアリクをかけるわ。リリィは大丈夫?」

「あたしは平気です。

 この呪法檻には呪文や状態変化などの攻撃を無効にする効果があります。

 主に、中からの脱出を防ぐのが目的のようですが」

 囚われの少女の、思いのほかしっかりとした返答に密かに驚く。

 見たところ特別な戦闘能力を持たないごく普通の女の子で、こんなところにいきなり連れてこられて、パニックを起こしていてもおかしくないのに。

 そういえばこの子は、わたしを初めて見た時にも、突然現れた事に驚きはしていても、怖がる様子は見せなかった。

 まあ、ダイの剣の作成を依頼した魔界の名工の弟子と言っていたから、魔族は見慣れているのかもしれないが、そもそもその弟子入り自体が、ただの村娘の行動じゃないし。

 どうやら見た目に反して、相当豪胆な少女であるらしい。

 

「…そうなんだ。

 居心地は悪そうだけど、それなら戦いが終わるまでの間は、逆にそこにいた方が安全みたいね。

 ごめんなさいね、リリィ。

 必ず助けるから少しだけ、待っていて」

「なっ!グエン!?」

 わたしの言葉にポップが反応する。

 まあ当然だろう。彼にとっては大事な妹だ。

 けど、この子を守りながら戦うのでは恐らくわたしもポップも全力を出しきれまい。

 敵の作ったモノでも、この中がひとまず安全だというなら、中にいてもらう方がいい。

 非情なようだが、わたし達が死んでしまえばこの子だって助からないのだ。

 そしてやはりこの少女は肝が据わっていた。

 わたしの言葉に動揺の欠片も見せず、こちらに向かって頷いてみせたのだから。

 

「了解です。

 というかあたしが連れてこられたのは人質としてと同時に、キルバーンのあたし個人への報復的な嫌がらせでもありますが、彼にちょっとでも冷静に考えるアタマがあるなら、あたしが殺される事はないかと思います。

 戦略的には一旦退却して、戦力を整えてから改めて奪還に来ていただけるのが、一番望ましいのですが」

 更に、人質の心境としてはあり得ないような提案までしてくるとあっては、何というか恐れ入るしかない。

 てゆーか、報復的な嫌がらせって何!?

 報復ってことは、その前にリリィから何かしたって事!?

 そもそも今のセリフ自体、キルバーンに対して思い切り喧嘩売ってるんだけど、この一見か弱い小柄な少女と、危険な死神との間に一体何があったの!!?

 

「…憎たらしいくらい冷静な判断だ。

 けど、ボクがそれを許すと思うかい?」

 そんなわたし達の会話にキルバーンが口を挟んで、思考が強制的に中断された。

 その長い脚を一歩踏み出し、例の大鎌をくるりと回す。

 ヒュン、と風を切るような音が鳴った。

 

「グエン、気をつけろ!あの大鎌は……!!」

「【死神の笛】破損率5%、ただし現時点で、道具としての使用は不可能!!」

「なにッ!!?」

 その大鎌をかざしてキルバーンが襲いかかってくると同時にリリィが叫び、それにキルバーンが反応する。

 そのリリィの言葉を頭で理解するより先に、わたしの身体が動いていた。

 槍と同じ長物の得物でも、鎌という武器の特性上、攻撃の際は相手の身体の外側から刃を回り込ませなければならない。

 その為どうしても大振りになるから、一瞬身体の側面がガラ空きになる。

 

「海鳴閃ッ!!」

 次の瞬間、放ったわたしの槍の一撃が、キルバーンの脇腹を掠った。

 …掠った、だけだった。残念なことに。

 それはアバン流最速の技…だったのだが。

 わたしの腕が未だ未熟な為か、それとも奴が咄嗟に身を引いた為なのか、大したダメージもなくキルバーンは一旦退いて間合いを取り直す。

 

「げげっ!!?

 キルバーンの攻撃がきかないっ!!?なんで!!?」

 ひとつ目ピエロが慌てたように叫び、その声に応えるように、リリィの声が続いた。

 

「さっき、グエンさんのブーメランが当たった箇所にヒビが生じてます!

 もう音波催眠による攻撃は使えません!!」

 振り返って彼女の方を見ると、腰に手を当ててふんぞり返り、なんかもの凄いドヤ顔をしている。

 

「この攻撃力と汎用性!更にフォルムの美しさ!

 魔界の名工・ロン・ベルクの武器の御用命は、ランカークス村のジャンクの武器屋へ!!」

「今そんな事言ってる場合かよ!!

 つか、こいつらにマジで来られたらどーすんだ!」

 …いや、この状況で店の宣伝できる彼女は勿論だけど、それにすかさずつっこめるあなたも相当な強心臓よ、ポップ。

 わたしに対するヒュンケルはそれに近い役回りだと思うけど、彼は緊迫してきたら途中で、何かはわからないけど確実にわたしの何かを諦めるからね。

 しかし、なるほど。音波催眠による攻撃ね。

 さっきのポップの状態はそういうことだったか。

 

「…ラッキーだったわね。

 けど、単純な武器としての機能は失ってない以上、これでプラスマイナスゼロってとこかしら。

 むしろ人質を取られている分、わたし達に不利」

 気を取り直して、改めて敵と向き合う。

 己の武器を確認して、キルバーンの仮面の下の目がわたしを見た。

 その感情を一切感じない視線に、背中がぞわぞわする。

 それと同時に、わたしの裡の魔力が高まり始めた。

 これは、久しぶりに感じる魔力暴走の兆しだ。

 ならば…と、天に聖なる祈りを捧げて、回復魔力を高めておく。

 暴走状態ならば、回復魔力を光の力に変換するあの技が使えるから。

 

『…わたしが攻撃して奴らを引きつけるわ。

 充分に距離が離れたら、ポップ。

 あなたはリリィをなんとか救出して、彼女を連れて逃げなさい』

『なに言ってんだ…って言いたいトコだけど、あんたの言う通りするしかなさそうだな。

 クソッ…妹の前だってのに、カッコ悪いったらねえぜ』

『カッコ良いお兄ちゃんになりたいなら、まずはこの場面を生き残る事だわ…お互いにね』

『…だな。

 あんたも深追いせず、いいところで逃げろよ』

 敵から目を離さぬまま、小声でポップと簡単な作戦会議を交わす。

 一方むこうでは、キルバーンの傍らでミストバーンも戦闘態勢を取っているようだ。

 

「…待ちたまえ、ミスト。

 キミが遅れを取るとは思わないが、光の闘気を操れるあのオネエサンは要注意だ」

 いいトコロに目をつけたみたいだけど、悪い。

 あの技ならば、あなた方全員一度に攻撃できる。

 けど、まずは。

 

「さみだれ突きッ!!」

 先手必勝とばかりに正面から突っ込み、手数勝負を仕掛ける。と、

 

速度倍化呪文(ピオリム)ッ!!」

 後ろからのポップの声とともに濃密な魔力が身体を包み、途端に自分の身体が、羽のように軽くなったのを感じた。

 ナイスアシスト、ポップ!

 正直この子に補助呪文でのアシストを期待していなかったから驚いたけど、とても助かる。

 

「トベルーラ!!」

 素早さが上がったところで更なる機動力を求めて飛翔呪文を使い、さみだれ突きを更に追加した。

 ここでようやくミストバーンが動き、例の伸びる指を繰り出してきたが、今のわたしはポップのお陰で、そんなもの容易く躱せる。

 躱した先にキルバーンの鎌が襲いかかるも、その刃先を蹴って跳躍した。

 

 …この男、このスタイルに合わせてこんな使い勝手の悪い武器使ってるだけで、本当に得意なのは剣なんじゃなかろうか。

 体捌きとか見てると、そんな気がしてくる。

 まあ、こっちとしては有難いけれど。

 

 そうやって攻防を繰り広げ、気づかれぬよう徐々に、リリィとポップの居る場所から離れる。

 そうする間にも膨れ上がった回復魔力を、徐々に光の力へと変換していった。

 

 星よ、集え…光よ、高まれ…聖なる力よ、渦を巻け…。

 偉大なる星雲の輝きよ、我が敵を討て…!

 

「な、なにッ!?」

「これは……っ!!」

 小さな星々の煌めきが渦を巻いて、その度に密度を上げ、キルバーンとミストバーンのみならず、小さな使い魔さえもをその中心に拘束する。そして。

 

「グランドネビュラ!!!!」

 

 ☆☆☆

 

「クッソ、やっぱり開かねー!」

 ポップがあたしの居る呪法檻の格子を、引っ張ったり叩いたり、果ては呪文をぶつけて破壊しようと試みたが、それはまったくビクともせず、相変わらずあたしを閉じ込めていた。

 

「うん、これ物理的な力でこじ開けるしかない。

 そして残念ながら、ポップには圧倒的にその力が足りない。

 ここでうんうん唸ってるより、助っ人を連れてきた方がいいと思う」

 あたしが冷静にそう言うと、ポップは苦いような表情で、軽くあたしを睨む。けど。

 

「…ね。

 昔、あたしが森で迷った時はそうしたじゃない。

 その判断、父さんは怒ったけど、あたしは正しかったって今でも信じてるよ?

 ポップの事は、いつだって信じてる。

 …あたしはポップの事、大好きだもん」

 昔から言い続けてるけど、冷静に考えると、実の兄に向かって言う台詞じゃないな。

 けど、間違いなくあたしの本心だ。

 ポップは一瞬、ハッとした表情を見せたが、大きなため息をひとつ吐いた後、それがじわじわと微笑みに変わっていく。

 まだ2人とも小さかった頃、あたしが遊んでとしつこくまとわりついた時に見せた『しょうがねえな』って顔で。

 

「…たく。知ってるよ、バーカ。

 わかった。必ず戻るから。…信じて、待ってろ」

 返事の代わりに格子の隙間から手を伸ばして、小指を出す。

 その小指にポップの一回り長い小指が絡んで、軽く揺らした。

 

 ・・・

 

 だから、こんな展開は望んでない。

 

「…人質、か。

 オレが言えた事ではないが、他人がやっているのを見ると、実に見苦しいものだな」

 などと呟く、ひとに(あらざ)る大きな手が、あたしの入った檻をひょいと持ち上げて、置かれていた場所から持ち去ったとか。

 なんか知らないけどそのまま、薄暗い洞窟みたいな場所に運ばれて、

 

「しばらくここにいろ。

 オレの用が済んだら、そこから出してやる」

 と言われて置き去られたとか。

 

 こんな展開は、望んでない。




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