DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
高性能な、かませ属性(爆
「なっ…なんで檻ごと居なくなってんだよ!?」
お前じゃ無理だから檻を破壊できる助っ人を連れて来い(意訳)と妹に厳命されたポップが、飛んで帰る途中で(ルーラで戻ろうとしたら魔法力が残っていなかった)合流したクロコダインを案内して戻ったその場所に、あるべきはずのものを見つけられずに、呆然と立ち尽くす。
「…ポップ、確かにここで間違いないのか?」
この死の大地には、似たような地形の場所が沢山あるようだ。
一度足を踏み入れただけのポップが、間違えた可能性もゼロではないと考え、クロコダインが問う。が、
「間違いねえよ!
おれが呪文で溶かした岩だってそのまんまだ!
…クソッ、やっぱり目ェ離すんじゃなかった…!!」
ポップが悔しげに唇を噛む。
もっとも、一緒にいたところで何もできはしなかった。
問題解決の為の適材適所、という考え方が身についた典型的なベンガーナ人気質の妹が、決してそれを良しとしないこともわかっている。
ふと、足元に目をやり、落ちているものに気付いて、ポップはそれを反射的に拾い上げた。
くしゃりと丸まった布の塊。
それは、ポップ自身が着けている黄色いバンダナに、色も光沢もよく似た風合に見える。
「ポップ、それは?」
「…リリィのシュシュだ。
やっぱりここで間違いねえ。」
リリィはいつも三つ編みを黒い紐で纏め、それを上からこれで覆う。
最初は、兄とお揃いがいいと駄々をこねて、母親に作ってもらったものだった。
大きくなって自分で縫えるようになってから、何度か自分で作り直しているが、頑として色だけは変えていない。
久しぶりに会ってすっかり兄離れした様子の妹の髪に、まだこれが着けられていた事に、少し安堵した事はポップの心の中だけの秘密だ。
拾ったそれを、思わず握りしめる。
「絶対におれが見つけてやるから、待ってろ…!!」
だが、誰に言うともなく呟いた言葉は、突如轟いた音と揺れにかき消された。
「な、なんだ!?」
「…どうやら、島の反対側で、戦闘が起きているようだな」
「ひょっとしてグエンのやつ、まだ戦ってんのか!?」
そのポップの言葉に、クロコダインの視線が動く。
人間であれば、眉を顰めたというところか。
「…ならば、オレはグエンを手助けしに行く。
ポップ、おまえはどうする!?」
「勿論行くぜ!
あっちにはあの死神ヤローも居んだろ!
リリィをどこにやったか白状させてやる!!」
2人は頷きあい、その場から飛び立った。
☆☆☆
…瞬間、なにが起きたのかわからなかった。
わたしの身体が突然の衝撃に吹き飛ばされたと同時に、せっかくそこに集めた光の力が、技を発動する直前で霧散する。
わたしを含めたその空間そのものに叩きつけられたそれが、凝縮された圧倒的な闘気であると、気付いたのは一拍あとだ。
地面に背中から落下したわたしが、落雷にも似た闘気の奔流の中に、その人影を見つけられたのは、ほぼ奇跡に近い幸運だった。
この威力が直撃したら、間違いなく即死していたのだから。
…けど、何やら仰々しい兜の下から、真っ直ぐわたしを睨みつけるその視線は、そもそもそれだけで人くらい殺せそうだ。
「…待たせたな、ミストバーン。
オレのパワーアップは完了した…!!
今度は、オレがおまえを助ける!!!」
「……ハドラー!!」
その男の言葉を受けて、ミストバーンが呼びかけた名は、かつてこの地上を支配せんとした魔王の名前。
そうか、この男がハドラーか。
確かわたしがバランと会っていた間にテランの小屋を襲撃して来て、万全のコンディションとはほど遠いダイ達に撃退されたと聞いていたが、パワーアップとはそれを鑑みてのことか。
わたしが顔を見たのはバルジ島でヒュンケルに倒された時だけで、まともに向き合ったのは今、この時が初めてだ。
けど心なしか、そもそもが長身だったあの時よりも、更に身体が大きく見える。
「おまえたちは手を出すな。
…なるほどな、貴様がグエンか。
女の身で、噂通りなかなかの強さだ。
少々格は落ちるが、アバンの使徒どもと戦う前の、パワーアップの試金石にちょうど良い獲物よ!!」
「…御期待には応えられそうにありませんわ、元魔王様」
背中をしたたかに打って正直息苦しいけど、そこはなるたけ平気な顔をして立ち上がり、なんとか軽口を返す。くそ、冗談じゃない。
アバン流の技を会得して確かに以前より強くなったとはいえ、こんなやつとまともにやりあって勝てるとは、さすがのわたしも思えない。
そもそもわたしがここで戦っているのは、人質であるリリィを抱えてポップが逃げる時間を稼ぐ為だ。
あの檻は頑丈そうだったし、可能な限り引き伸ばすべきだが…どこまでやれるか。
手負いの、非力な女僧侶1人には少々荷が重すぎるが、やるしかない。
「…スカラ」
ハドラーの戦い方は攻撃呪文と格闘術と聞いている。
呪文攻撃はこの鎧があれば無効化できるから、物理攻撃に対する備えをすべきだ。
「海鳴閃!!」
ひとまず、自身が持つ最速の技をもって先手を取る。
だが、眉間を狙った槍の切っ先は、あろうことかハドラーの指に捕らえられた。
「なっ…!!」
「…この程度か?
だとすれば確かに、期待外れと言わざるを得ん」
ハドラーが無造作に腕を振り、槍を握ったままのわたしの身体が振り回される。
「きゃあっ!!」
そして更に追撃とばかりに放たれた、闘気を込めた拳の一撃が、それが当たった鎧の肩のパーツを砕いた。
それで止まらなかった勢いが、わたしの身体を後方へ吹き飛ばす。
「くはっ…!!」
またもわたしの身体が、地面に叩きつけられて転がる。
スカラをかけてなかったら、まともに腕一本持ってかれていたところだ。
けど、今のでわかった。
少なくとも現時点でのわたしの攻撃では、この男にはまったく通用しない。
彼にダメージを通すにはある程度の物理的なパワーが必要で、そしてわたしはそれがない故に、未だ地雷閃を会得できないわけで。
今使っている武器が槍である事が惜しい。
棍だったら、いっそ全力で撃たせてカウンターで返す、刃の防御が使えるのだけど。
…もう、諦めるの早いけど逃げていいだろうか。
そもそもグランドネビュラが不発だった上に、元魔王が加わったこの3対1という状況。
今はその元魔王が、他の2人を止めてくれてるけど、それだっていつまで続くか。
さっきから回復呪文をかけ続けてるのに、肩の痛みが全然消えないし、そうこうしてるうちに魔法力の残量が不安になってきてるし。
わたし、頑張ったよね?もう大丈夫だよね?
立ち上がり、息を整えて、先ほど別れたポップの顔を思い浮かべる。イメージ力、大切。
「リリルー…」
「グエン──ッ!!」
と、わたしがリリルーラを唱えようとした瞬間、まだ声変わりの済んでいない可愛らしい少年の声が、わたしの名を呼んだ。
「…ダイッ!!」
…救世主は、最悪の場面に飛び込んできた。
なんてこった。これでは、わたし一人で逃げられないではないか。
「ダイよ…よく来た。
この場でオレと勝負してもらおう!!一対一でな!!!」
「ハ…ハドラー!!!!」
まるで待ち侘びた恋しい人を目の前にしたような熱を込めた目をダイに向けながら、それに相応しくない物騒な言葉をハドラーが、わたしを背に庇うダイに向けて吐く。
「この日のためにオレは、つまらぬ誇りを捨て、魔族の身体すら捨てた!!
オレの望みはいまやただひとつ!!
我が生涯の宿敵・アバンが残したおまえたちを、打ち倒すことだけだっ!!!!」
その瞬間、ダイの背中に、括り付けられた鞘が光を放つ。
ガシャンと音を立てて、鞘に付けられた装飾が、鍵が開くようにして左右に分かれたのを、わたしは確かに見た。
というより、本当に鍵なのかもしれない。
ミストバーンと対峙した時には、ダイはこの剣を使おうとしなかった。
使わなかったのではなく、その時は抜けなかったのか。
…詳しい事は後で製作者に聞いてみることにするが、恐らくは本当に『使わなきゃ危険』という時にしか使えない仕組と判断する。
物語とかであるよね、この剣を抜いたものこそ剣の主、みたいなの。
なんて呑気なことを考えていたら、ダイが右の拳に、例の紋章の力を溜めはじめたのがわかった。
「くおおおおおっ…!!!」
「ダイッ…!!?」
確か、ダイの紋章の力は、放出量の調整が課題だった筈だ。
一気に高めたらすぐにエネルギー切れを起こし、その状態で長時間は戦えない。
「今までのハドラーじゃない…全力でやらなきゃ…殺される…!!!」
「…よくぞ見抜いた!!!さすが我が宿敵…!!!!
…それでこそ、アバンの使徒よ!!!!」
瞬間、ハドラーの闘気が、ダイの力の昂まりに呼応するかのように膨れ上がった。
同時に、身につけた兜やマントが弾け飛ぶ。
その下から現れたものは、衣服でも鎧でもない、異形の肉体。
そのフォルムがどこか、竜魔人化したバランを彷彿とさせる。ばかな。
以前見た時のハドラーは、屈強そうな肉体を持った、それでも普通の魔族だった筈だ。
「まさかっ…超魔生物!!!?」
驚きの声をあげるダイに応えるのは、先ほどまでは兜の装飾だとばかり思っていた額の角の下の、不敵な笑みだった。
「超魔、生物…?」
聞き慣れない言葉に、場の緊張感を一瞬忘れて、ダイに問うてしまう。
「…ザボエラの息子のザムザってやつが、あらゆるモンスターのいいところだけを組み合わせた、究極の生物を作るための研究をしていたんだ。
ザムザは自分の身体を改造して自らそれに変身して、ロモスでおれ達と戦った…!
そして戦いの後でそのデータを、ザボエラに送ったらしいから、今のハドラーはそれをもとに改造されたんだ…!
…そうだろ、ハドラー!!」
わたしに答えたダイの言葉は、最後はハドラーへと確認となる。
「…戦ってみればわかることだ。
その目、その耳で、確かめてみればいい…。
このオレが…全てを失った代償として手に入れた力を…!!!
そしてそれが…おまえがかつて戦った強敵たちを…どれほど超えているかをなっ!!!!」
そう言う言葉が終わらぬうちに、ハドラーがダイに向かって突進してきた。
それは、まさかのショルダー・タックル。
多分本能的になのだろう、ダイは間違いなく、紋章の力を集中させた右手でブロックした筈だ。
だがそれでハドラーの勢いは殺せず、ダイの小さな身体が、周囲の岩山を砕きながら弾き飛ばされた。
「ダ、ダイ──〜〜ッ!!!」
岩の下敷きにはならずに済み、そこから這い出したダイに向けて、息つく間もなくハドラーが更なる追撃に向かう。
今度は体当たりではなく、右の拳から爪のような武器を出して、それで攻撃してくるつもりらしい。
対するダイは…どうやら、先ほどハドラーの攻撃を受け止めた影響で、右手が満足に動かないようだ。
つまり、せっかく封印が解けた剣が抜けない。
「リリルーラ!」
わたしは咄嗟に転移して、2人の間に割り込んだ。
「グエン!!?」
「スクルトッ!!!!」
魔法力を前面に集中させて、防御壁をつくる。
それと同時にハドラーの爪がその防御壁に届き、それが反発して紫電を放った。
「一対一の筈だぞ、卑怯者〜〜!!」
「やかましいっ!
おまえらのルールで戦う義理が、こっちにあると思うなハゲ!!」
…緊急時なのでこのくらいの暴言は許してもらおう。
「ハゲ…ハゲって……」
…言われたひとつ目ピエロがちょっとへこんだ気がするけど、それこそわたしの知ったこっちゃない。
ハドラーの攻撃の威力が、防御壁の上を滑って散る。
だが、恐らくは完全に防ぐ事は不可能。
防ぎきれなかった威力が防御壁を破壊するのは時間の問題だ。
ラーハルトの時は、散らした威力が地面へと流れて、結局ダメージを食らう結果になったが…今回わたしの張ったスクルトの防御壁は、ハドラーの攻撃に対して垂直ではなくやや斜め、わたし達に向けて倒れているような、緩い角度をつけていた。
だから、防御壁が貫かれ、地面へと流れたダメージは、わたし達ではなくハドラーの、足元の地面を砕いていた。
「ムウッ!!?」
爆発したように砕かれた岩盤が、ハドラーの身体に襲いかかると同時に、その足元を埋めて動きを止める。
「氷結乱撃っ!!!」
トドメに全身を凍結させてやると、ハドラーは完全にその場から動けなくなった。
その間に、ダイは身体につけていた鞘のベルトを外して、左手で剣を抜く。
同時に跳躍し、中空でアバンストラッシュの構えを取る。
利き手でない分コントロールが難しいだろうが、ハドラーの動きはわたしが止めているから、それで充分補えるはず。
見ろ、わたしだって学習しているのだ!
…と、そんな風に考えていた時期がわたしにもありました。
「
拘束できていると思っていたハドラーの左腕が上がり、そこから放たれた火球が、ダイを襲って爆発を起こす。
「うわあっ!!!」
その衝撃を受け止めたダイの身体が、中空から落下し、地面に落ちた。
「じゅ…呪文…!!?
超魔生物は、呪文を使えないハズじゃ…!!」
剣を支えに立ち上がりながら、ダイがそう呟く。
そうしてる間にハドラーは、凍結による束縛などなかったかのように、砕けた地面から足を引き抜くと、そのまま真っ直ぐダイに向かっていった。
「くっ…待ちなさいっ!!」
「待つのはキミだ。
これは一対一の勝負なんだからね」
そのハドラーに一歩踏み出したわたしの背中に、死神の声がかかる。
振り返るといつの間にか、使い魔を伴ったキルバーンだけではなく、ミストバーンまでもがわたしの背後におり、わたしは慌てて応戦の構えを取った。
「おっと、今は一時休戦中だよ。
ハドラー司令の顔を立てて、ボクらもキミに攻撃はしないから、大人しく見ていたまえ」
その、興奮した馬でも落ち着かせるような手の動きに軽く苛ついて、わたしはキルバーンを睨みつける。
「…さっきも言った筈よ。
あなた方の決めたルールに従う義理はないと」
わたしの言葉に、キルバーンは軽く肩をすくめた。
「…あると思うけどね。
彼はもう、魔族の姿には戻れない。
呪文を使えない超魔生物の弱点を克服するために、魔族としての余生を捨てちゃったんだから…」
「……どういう意味?」
「呪文を使えるようにするために、魔族の身体に戻る能力をとっちゃったんだよね〜!
だからハドラーはもう一生怪物のままなんだ!!」
耳障りな甲高い声で、ひとつ目ピエロが笑う。
ハッとしてダイの方を振り返ると、このやり取りが耳に入っていただろうダイが、案の定呆然とした表情で、ハドラーを見つめている。
「…魔族の身体に未練などない!
むしろ自ら捨て去ることによって、かつては世界を席巻した魔王だったなどという、つまらぬ見栄も捨てられたのだ!!
己の立場を可愛がっている男に、真の勝利などないっ!!!
…これはおまえたちの師が、オレにも残してくれた教訓だッ!!!!」
闘気を纏った拳と爪が、まだふらついているダイに襲いかかる。
まるで先ほどの再現のように、その闘気に巻き込まれた周囲の岩山が、爆発するように砕け散って、ダイの小さな身体がまた、爆風のようなそれに、吹き飛ばされた。
…さっきひとを卑怯者呼ばわりしたくせに、あなた方のほうがよっぽど卑怯よ。
こんな話を聞かされたら、わたしはともかくダイの性格では、1人でハドラーと対峙する事を決断するに決まってるじゃない!
戻るつもりで、戻れなかった主人公視点。
もう少しの間、副主人公の残念な活躍をお楽しみください(泣