DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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ポップ視点は結構書きやすい事がわかった。


24・武器屋の娘は生命(いのち)の始まりを見る

「…ほおぉ、なるほど。

 馬鹿弟子の行方はともかく、同じ材質の、伝説といえば聞こえはいいが要は古臭い、骨董品の、ナマクラ刀に、負けてノコノコ戻ってきたって事か」

「どういう事!?

 どうしてグエンさんを置いてくるのよ!?

 男ならば女性を守らなければならないのでしょう!!?」

「その…ロン・ベルク殿にエイミ殿。

 2人は疲れていてだな…もうその辺で…」

「貴方もよ!」

「う、うむ……面目無い……」

 パプニカ城。

 若干カオスな様相を呈しているのは、おれたちが奴らを追って飛び立った後にやってきたというロン・ベルクが、今は臨時の救護室となっているミーティングルームの何故か一番いい椅子に足組んで腰を下ろし、そこからダイを睨みつけているのと、怪我人も寝かせているそこで何故かエイミさんがメッチャ怒って声を荒げてるのが、主な要因だと思う。

 最初はチウの奴がおれに殴りかからんばかりに詰め寄って来かけたのに、それより早くおれに詰め寄ってきたエイミさんの気迫と、ロン・ベルクの重苦しい不機嫌オーラに気圧されて、何も口を挟めずマァムの脚にしがみついて震えてる始末だし。

 ロン・ベルクはダイの剣の初戦の結果が大いに不満だろうし、グエンのやつは割と三賢者と仲良かったしな。

 今回ばっかりはなんと言われても返す言葉もない。

 そもそもおれの行動の結果こうなったわけだからな。

 

「すまねえ…」

「ごめんなさい…ハドラーの攻撃を受け止めて剣が刃こぼれしたのは、おれの闘気(オーラ)が充分じゃなかったからだし、グエンが魔法力切れで海に落ちることになったのも、おれを庇ったせいなんだ。

 おれの……責任だよ」

 ふと気づけば、さっき散々泣いたのにまた泣きそうな表情になってるダイが目に入り、あんまり考えることなくアタマ撫でてやる。

 …ほぼ反射的におれを見上げたダイが、一瞬明らかに『これじゃない』みたいな目をしたのをおれは見なかった。絶対に見てない。

 …しばらく別行動だったから忘れかけてたけど、みんな一緒の時には高い確率で、ここに乗ってるのがグエンの手だったからな。

 

「…それくらいで勘弁してやってくれ。

 グエンの件は、彼女を行かせたのはオレだ。

 彼女の事は、共にいる時間の長いオレが一番判っている筈なのに、あの女性(ひと)の性格を考えれば、少なくとも1人でポップを追わせるべきではなかった…!」

 ひと通り聞き終えたところで、ヒュンケルがどこか悔しげに言葉を紡ぐ。

 その声に全員がヒュンケルの方を振り返り、それまで声を荒げていたエイミさんが、ものすごく微妙な表情になった。

 ん?ひょっとしてエイミさん…!?

 …いや、それは今考えることじゃねえ。

 

「グエンの捜索はクロコダインに任せるしかないな」

「おう!!心得た!!」

「リリィに関しては、戦力を整えてから改めて奪還しにいく。それでいいな?」

 ヒュンケルが言うそれはまさに、リリィ本人が提案したものだった。

 ある程度冷静な判断ができる人間がたどり着く最善の案であるという事だ。

 つまりあの時点でのリリィは、間違いなく…グエンも加えた3人の中で、誰よりも冷静だった事になる。

 昔から、なんかあってもパニック起こして泣きわめくような事、一切ない子供だったからなあいつ。

 おれがキルバーンに殺られかかった時、おれの名前呼ぶ声に悲鳴が混じってたくらいで。

 そもそもおれだって冷静に考えていたら、あれが罠だって事くらい判った筈なのに、妹を連れ去られて、完全に頭に血がのぼってた。

 それでリリィを取り戻せなかったばかりか、グエンまで危険にさらして…。

 結局、おれが一番悪いんだっての。

 

「多分グエンが落ちたのは、オーザムの北西のあたりの海だわ。

 無数の氷山や流氷が浮かぶ極北の海よ。

 水温はもちろん氷点下…急がないと!」

「グエンというのは、鎧の魔槍の女だったな?

 あれを身につけているのなら、ある程度の状態変化には耐えられる筈だ。

 勿論、いつまでも、とはいかんだろうが…」

 おれたちの前ではいつも凛としてる姫さんが、心配気な表情で呟く。

 確かに周囲の海には氷山が浮かんでた。

 改めて、あんな場所で女一人で戦わせちまってた、自分の不甲斐なさに歯噛みする。

 と、ミーティングルームを出て行こうとしていたクロコダインのおっさんが、ふと思いついたように振り返り、チウに声をかけた。

 

「おい、ネズミ。

 おまえくらいの大きさの奴なら、一緒に乗せてってやれるが…来るか?」

「モチ!!さすがにお目が高いっ!!」

 さっきまで震えていたのが一瞬で嬉しそうに目をキラキラさせて、チウがおっさんに続く。

 それをただ見送る事ができずに、おれはその背中に呼びかけ…

 

「待てっ!おれも行くっ!!」

「おれも連れてってよクロコダイン!!」

 …た声が、ダイと被った。

 どうやら同じこと考えていたらしい。

 そのおれたちの頭の上をヒラヒラ飛ぶゴメが、自分もと言うようにピィピィ鳴いてるが、お前はそもそも論外だ。

 

「怪我人や子供の出る幕じゃないっ!!!

 ぼくに任せて待っていたまえ!」

 だが、一瞬顔を見合わせたダイとおれにそう言い放って、チウがおっさんの後を再び追っていく。

 つかこの部屋の雰囲気から逃げたろおまえ。

 だが、チウのくせに正論すぎて言い返せねえ。

 今のおれやダイが、足手まといの怪我人なのは事実だ。ちくしょう。

 

「…気持ちはわかるが、空を飛べなければ捜索は無理だ。

 今のおまえたちには、それだけの魔法力も体力もあるまい。

 少しでも回復につとめた方がいい」

 悔しさにその場に立ち尽くしたおれたちの後ろから、ヒュンケルのやつが妙に優しい口調で言葉をかけてくる。

 やめろ、ブン殴られるより気分悪ィ。

 怒鳴りつけられた方がまだましだ。

 

「でもっ…グエンはおれを守る為に海に落ちたんだ!

 みんなに任せっきりで、休んでなんかいられないよ!!」

「そっ…そうだぜ!

 元はと言えば、おれの妹を助けようとして、あんなことになったんだ!!

 なあ、姫さん頼む!!なんとかしてくれ!!

 なんか一発で魔法力が回復する呪文とか、そんなのねえのか!?」

 藁にも縋る思いで、とりあえずそこにいたレオナ姫さんに両手を合わせるが、賢者の国の最高権力者は、そんな呪文聞いた事がない、とおれの頼みをバッサリ切り捨てた。

 やっぱり無理か…と諦めたその時、

 

 ドサッ…!

 

 何か、拳大の皮袋のようなものが、おれとダイの足元に投げられた。

 それが来た方向に目をやると、さっきまで不機嫌オーラを放ってただ座っていた魔界の名工が、椅子から立ち上がってこちらを睨んでいる。

 …いや、ただ見てるだけなのかもしれない。

 単に、地の魔族顔と相まって目付きが悪いだけで。

 

「ロン・ベルクさん……!?」

「そいつを使え。

 リリィが材料集めで手に入れてきたが、本来欲しいモンと一緒に副次的に採れるだけの、オレには使い道がないモンだ」

 言われて、ダイが皮袋を拾う。

 開けてみると中から、青白く濁った色の石の塊が数個出てきた。

 ん…なんかこの石、見覚えがあるような…?

 

「そいつは白魔晶という、魔法力を貯めておける石だ。

 オレが持ち歩いてたから毎日少しずつ補充されてて、もう許容量いっぱいの筈だ。

 握って念じれば、魔法力の回復ができる。

 魔法力が抜ける際に粉々に砕けちまうが、それだけの量があれば、おまえら2人でもそこそこの回復はできるだろう」

 …思い出した!

 あのバランの部下たちと戦った後、魔法力が残り少ないおれにグエンが貸してくれた、確か祈りの指輪とかいうアイテムに、使われてたのと同じ石じゃねえか!

 あの時の石も、グエンに言われた通りに使ったら、崩れるみたいにボロボロに壊れたから、多分間違いねえ。

 なるほど。あれは指輪に使うくらいの小さい石だったから、申し訳程度の魔法力しか回復できなかったが、これだけの大きさなら確かに、相当な回復量が見込めそうだ。

 ダイと2人して、言われた通りにその石を握りしめる。

 スゥッと染み渡るように、手から身体全体へと、魔法力が浸透していく感覚が気持ちいい。

 

「あと、こいつで体力も回復しとけ」

 そう言って渡されたのは竹でできた水筒で、蓋を取ると若干青臭い、けどおれにはものすごく嗅ぎ慣れた匂いが立ち上った。

 

「これ、うちの薬草スープじゃねえか!?」

「昨日の残りだが、これだけで上薬草並の回復効果がある。

 ちなみに、これはおまえの母親の作ったものだが、リリィが作る同じものは特薬草並だ」

「嘘だろ!?」

 確かにリリィが作った方が美味いのは知ってたけど!

 言ってる間に、ダイが素直に水筒からこくんとそれを含んで飲み込むと、次の瞬間、パアァッという効果音が出そうな笑顔になった。

 

「ホントだ!

 昨日食べた時と今朝は気付かなかったけど、竜闘気(ドラゴニックオーラ)が尽きてた今は、それが回復するのがスッゴク判った!!

 ありがとうロン・ベルクさん!!」

 …こいつは暗示にかかりやすいだけじゃねえかと思うんだけどな。

 その言葉を受けたロン・ベルクは、相変わらず睨むような目をしたまま頷く。

 

「…今度は、闘気が足りないなんて言い訳は聞かんぞ。

 とっとと行って、終わったら修理しにまたオレのところに戻ってこい。

 その時は魔槍の女と…魔剣の男、おまえさんもだ。

 …オレの武器の本当の使い方を、実戦形式で教えてやる」

 その瞬間、ゾクリとするほどの気迫をロン・ベルクから感じたのは、おれだけでなくその場の全員が、だったろう。

 マァムがほぼ無意識になんだろうが、ヒュンケルの腕に縋るように触れている。

 

「…判った。是非、頼む」

 だが、その気迫をほぼ真正面から受け止めたにもかかわらず、ヒュンケルのやつは特に表情も変えずに、その目を見返して頷いてみせた。

 …悔しいがやっぱ、こういう場面じゃおれはコイツには敵わねえ。

 

「はい!行ってきます!!

 必ず、グエンを連れて帰ってくるよ!!」

 そしてどうやらただ一人、そのオーラに気付かなかったらしいダイが、元気に手を振って駆け出した。

 鈍感なのか大物なのか…いや、感心してる場合じゃねえな。

 

「待てよ、ダイ!おれも一緒に…」

「おまえは少し待て。

 …リリィのことで、兄のおまえの耳には入れておきたい事がある」

 回復が済んでダイを追いかけようとしたおれの腕を、なぜかロン・ベルクが掴んで引き止めた。

 そのまま部屋から連れ出され、他の奴らの耳に会話が届かないところまで歩くと、それでも声を潜めて話し始める。

 

 …その話の内容は、驚くべきものだった。

 おれや両親が、恐らく商人の技能だと思ってたリリィの『物品鑑定』と『発掘』が、実は『神託の目』と『錬金術』だって!?

 ほかにロン・ベルクがリリィと出会った時のこと、弟子入りに関する事情と、いきなり告げられて頭の中で情報の整理が追いつかない。

 

「すぐに理解しなくてもいい。

 だがあいつの能力が、使い方によっては天地魔界のバランスをも崩しかねん危険を孕んでるとだけは、覚えておけ」

「いや…少しだけならわからなくもない。

 現にあいつ、鬼岩城の弱点とか言い当ててたし、見たこともねえ武器の特性とか、破損状態なんかまで…」

「…そういうことだ。

 そして、その危険度をあいつ自身がいまひとつ自覚してないのが、一番の問題でな。

 それに、あいつは隠してるつもりのようだが、その能力の範疇外でも、何かしら見えてるモノがあるらしい。

 …できることなら敵が、あいつの真の価値に気付く前に…単なる人質としてしか見てないうちに取り戻せ。

 どうしても難しいようなら、オレも手を貸す」

 …思いの外真剣な目に射抜かれたが、おれはもうそこに、威圧感を感じることはなかった。

 なんだ、ひと皮むけば普通に、弟子を心配する師匠の顔じゃねえか。

 

「…判った。

 なんつっても、おれの可愛い妹だかんな。

 絶対、近いうちに連れて帰る。

 …その後は、ちゃんと監視を頼むぜ、『ロン先生』!」

 そう言ったおれの言葉にロン・ベルクは、ちょっとだけ嫌な顔をした…いやなんでだよ。

 そこは互いに拳でも合わせて、笑って送り出すトコだろうが。

 

 ☆☆☆

 

『…【覇者の(つるぎ)】。

 ロモス王国の国宝として【覇者の冠】と共に、永きにわたりその宝物庫に安置されていたものですが、元々はロモス王国建国前、あの大陸がモンスターの跳梁跋扈する地であった時代に、そこを支配していた百獣王と呼ばれるモンスターが倒された際、その腹の中から出てきたオリハルコンを、加工して作られた一対の武具です。

 今ではその話も変化して伝えられているようで、ロモスを救った勇者がどこへともなく去っていき、その勇者がかの地に置いていったという物語の方が一般的ですね。

 まあ、百獣王を倒した勇者が去り、その後に残されたという事は間違いないので、広い意味ではその通りなんですが。

 そう考えると百獣王は神の眷属だったか、或いは神からの贈り物だったそれをどのようにしてか呑み込んで、力を得たと考えるのが妥当でしょうね』

 ふーん。

 お腹から出てきたってのも、なんか神話的だよねぇ。

 ヤマタノオロチとスサノオの話みたいだ。

 あれは、尻尾から剣が出てきたんだっけ。

 そんな話、こっちの世界の人は知らないだろうけど。

 …てゆーかその勇者って、もしかしなくてもその時代の(ドラゴン)の騎士だよね?

 そう考えると、そのオリハルコンが【ダイの剣】になったことにもまた、運命的なものを感じる。

 

『あ、ちなみに【覇者の剣】と【ダイの剣】が相対した時、お互い同士に短い会話というか、意思の疎通があったようですよ?』

 あー、一対の武具のままであれば、通常は敵対する事のない組み合わせだもんね…。

 引き離しちゃって申し訳なかったかな。

 けど、それはあたしや、ましてやロン先生のせいじゃない。

 そもそも、ロモス王がダイに【覇者の冠】を与えてしまった時点で、既に両者の運命は分かたれている。今更なのだ。

 

『彼らの念話を無理矢理人間の言葉に変換すると、

 

 “貴様と戦うことになろうとはな”

 “こちらもよもや貴様が、我と同じ剣として新たな生を受けていたとは思わなかったぞ”

 “フッ、オリハルコンは最強の金属。

 それを打ち砕くのもまた、オリハルコンしかあるまい”

 “望むところよ!”

 

 みたいな感じらしいです。

 なんか、それも宿命の対決的なやつですよね〜』

 …申し訳ないとか思う必要全然なかった。

 それどころか、メッチャ状況楽しんでそうなんだけど。

 長年の朋友と敵対する哀しみとかなんかないのか。

 まあ、永久不滅の金属故に、互いに死に別れの概念がないってだけかもしれないが。

 勝負が決した後も、いつかまた相まみえる時までしばしの別れみたいな。

 これが単に擬人化された普通の金属の武器同士なら、

 

 “いい勝負だったぜ。

 貴様こそ、我が最大の宿敵であり、友だった…!!”

 “貴様の命、永遠に我とともにある”

 

 みたいなノリになるんだろうけど。

 いや、ならないか。

 

「…なるほど。

 これまでの言動と考え合せるに、物からそれにまつわる情報を引き出す力の持ち主というわけか。

 鬼岩城の弱点を言い当てたのも、それで説明がつく。

 確かにこれは、あの死神が警戒するわけだ」

 …ん?

 頭の上から降ってくる声に、あたしは閉じていた瞼を開ける。

 同時に頭の中から、オッサンが焦ったように消えた。

 …どうやら、寝ぼけながら『みる』を使っていたらしい。

 見えてないのに『みる』とはこれいかに。

 まあどうでもいいか。

 そして、無意識に握りしめていたのは、今の今まで鑑定していただろう、【覇者の剣】が埋め込まれている、そのひとの右腕。

 

「……おはようございます」

 状況はよくわからないながらも、いずれ商人として立つ身であるからには挨拶は大事だ。

 なのにその瞬間、あたしを抱えている超魔生物が、なにか未知の生物でも見るような目をしたのは気付かなかったことにする。

 いや、おまえ……ううん、何でもない。

 おまえの方が余程未知の生物だとか、そんな事考えた時点で負けな気がする。

 そうして、なんとか冷静に自分の置かれている状況を確認すると、なんかだだっ広いだけの部屋の中で、玉座みたいな椅子に腰かけたハドラーの膝の上に、あたしは抱えられたまま乗せられていた。

 その真正面に…いつか見た目玉のモンスターが、高い天井から触手でぶら下がっている。

 

「ひっ…!」

 思わず変な声が出てしまい、縋り付いて顔を伏せたマントの下の胸筋が、くつくつ笑う声とともに振動した。

 

「…なんだ?悪魔の目玉が恐いのか?」

「…以前このモンスターに、首を絞められた事があります」

 若干ムカついて顔を上げ、面白そうにこちらを見るその顔を睨みつける。

 あたし程度の睨みなど当然気に留める事もなく、ハドラーはくつくつ笑いを止めぬまま、あたしの体を抱え直した。

 大きな手が、あたしの背中を支える。

 

「そうだったな。その映像もさっき見た。

 …どうやら、あれも死神の悪戯らしいぞ。

 悪魔の目玉は基本、上位者の指示がなければ他の、自分より大きな生き物を攻撃することはない」

 …映像?

 その言葉に、例のモンスターを恐る恐る振り返る。

 ハドラーはあたしを抱えていない方の手を前方に突き出して、指先で何事かの指示を出した。

 恐らくは魔力による操作なのだろうが、前世の知識があるあたしの目には、テレビのリモコンを操作する動きのように映る。

 次にはモンスターの目玉部分の色が変化し、そこにマドハンドの大群を迎え撃つ、我が村の精鋭たちが映し出された。

 やがてカメラがズームインするようにその中の一人、先頭で一心不乱にマドハンドを土に埋めている少女の姿を映し出…あたしじゃん!

 この世界には当然、テレビもスマホもビデオカメラもないから、鏡じゃない動いてる自分の姿を見るのなんて今この瞬間が初めてだよ!

 しかもメッチャ画像も音声もクリアだよ!!

 そういえば悪魔の目玉が集めた映像って、データとして残してあるって、後から出てくる(キング)の駒が言ってたよね!!

 ちなみにその映像は、首を絞められたあたしが、伸ばした手の先で立てた親指を下に向け、その手も拘束された瞬間にプツリと切れた。

 この瞬間にはもう、これを撮っていた悪魔の目玉は、ロン先生の剣の錆となっていたらしい。

 …てゆーか、あれ死神の仕業とか言った!?

 マジかくっそあの野郎。

 それが本当なら、後日のアレでお互い様なんじゃん!

 次会ったら、今度はげんこつでぶん殴る。

 あいつが泣くまで殴るのをやめない。

 と、そんな事を考えていたら、唐突に『みる』が自動展開した。

 

『く…【黒の核晶(コア)】です!!

 このひとの身体の中に魔界の超爆弾、【黒の核晶(コア)】が埋め込まれてます!』

 へっ…?爆、弾……って!!ああっ!!

 

『しかも、あの【死神人形(アサシンドール)】の頭部に内蔵されていたものと違い、現時点で既に起爆可能です!!

 起爆スイッチはどうやら、大魔王バーンの魔力。

 大魔王バーンはどこにいても、遠隔で魔力を飛ばせますし、また厄介なことにこの爆弾、この肉体の超魔改造によるパワーアップの影響により、このひと自身の魔力を限界いっぱいまで吸い込んでて、ぶっちゃけ何かの拍子に火がついて、いつでも爆発する可能性があります!』

 そうだった忘れてたよ!

 物語的に今すぐ爆発する事はないけどこのひと、文字通り爆弾抱えてるんだった!!

 思わず両手をその胸に当てて、目一杯身を離す。

 その手から離れようと身をよじると、今度は脇下を持たれて抱き上げられた。

 ハドラーはあたしの顔を覗き込みながら、あたしは実際には見ていないが前世の知識にはある、かつてのような酷薄な笑みを浮かべる。

 

「…ようやく気がついたのか?

 悪魔の目玉などより、余程恐ろしい魔物に捕らえられているのだという事実に?」

 ……そう言われて初めて気がつく。

 爆弾は確かに怖いけど、あたしはこのひと自身には、全く恐怖心を抱いていないことに。

 

 …恐らくその時のあたしは、相当間抜けな、キョトン面を晒していたんだと思う。

 暫しの間、結果として見つめ合い、先に目をそらしたのはハドラーの方だった。

 …そこそこ堪えていた笑いが、遂に決壊したという形で。

 

「くくくっ…まったく、見ていて飽きぬ娘よ。

 鈍感なのか、大物なのか…」

 …少なくとも褒められたわけではないと思う。

 ちょっと不機嫌になり、あたしはハドラーを睨んでみた。

 

「それはともかく、下ろしてください」

「駄目だ」

 即答か!

 

「何故」

「ここは大魔王バーン様の居城内。

 我ら魔王軍以外の者が足を踏み入れれば、即その存在が、城全体に伝わるのだ。

 …正確には、敷地に足を置いたその瞬間に。

 おまえがここに居るのは、オレが抱いて連れてきたからで、ひとたびこの床におまえを下ろせば、バーン様やミストバーン、はては死神に、おまえがここに居る事を知らせる事になる。

 せっかく、面白い玩具を手に入れたものを、取り上げられたくはないのでな。

 しばらくは、オレの腕の中に居てもらうぞ」

 そう言って、ハドラーはもう一度、今度は片腕にあたしを抱え直した。

 いや玩具扱いって!

 てゆーか、だから今までずっと抱っこ状態だったのか。

 けど、離してもらわなければ帰れない。

 少なくとも、時空扉をこのひとの前で出すのは避けたい。

 …と思ったところでふと気づく。

 ハドラーは、ここが大魔王バーンの居城…バーンパレスの中だと言った。

 確かバーンパレスは空間自体が魔力で閉鎖されて、魔王軍の者だけが自由に出入りできる仕組みだった筈だ。

 だとすれば、以前破邪の洞窟に時空扉を開こうとして、扉自体が出てこなかった時のことを考えると、ここも同様である可能性がある。

 …まあいい。殺されさえしなければ、いつか必ず逃げるチャンスは来る。だろう多分。

 

「リリィ」

 不意に名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。

 考えてみれば、目が覚めた時からずっと顔の距離が近い。

 相変わらず無駄に色気を放出しているなこの超魔生物は。

 いくらあたしが子供だといっても、それなりに心臓に悪いのでやめてください。

 

「特別に、人の子の身には過ぎるものを見せてやろう。

 ある意味、新たな世界の誕生の瞬間…貴様ら人間にとっては世界の終わりの、始まりかもしれぬがな。クククッ……!」

 何が面白いのかあたしにはまったくわからないまま、ハドラーは喉の奥で笑い続けていた。

 

 ・・・

 

 そうして連れてこられたのは薄暗い、何やら妙な器具やらが置かれた、やはりだだっ広い部屋だった。

 真ん中に囲いのようなものが、直径1メートルくらいの円を描いており、そこだけ何かの光で照らされている。

 その囲いの中に、その光を受けてキラキラ光る、5つのものが見えた。

 

「…貴様は、これをどう見る?」

「……キラキラして綺麗ですね」

「そういう表面上の話はいい。

 …貴様の『目』に見えたものはなんだ?」

 冷たい目がぎろりとあたしを睨む。

 

「鬼岩城の弱点。死神の武器の特殊効果。

 そして、先ほど寝言で呟いていた、覇者の剣の伝説の真実。

 それと同じように『見』るがいい。

 そして何が見えたか、オレに言ってみろ」

 …どうやら、あたしの『神の目』、このひとには気付かれているらしい。

 てゆーか寝言言ってたのかあたし!迂闊すぎ!!

 もう、ここは誤魔化しても無駄だろう。

 心の片隅で怯えきって涙目になってるオッサンを呼び出す。つか、情報が泣くな。

 

「…【オリハルコンの駒】です。

 左から兵士(ポーン)騎士(ナイト)僧正(ビショップ)城兵(ルック)女王(クイーン)

 もとの持ち主は大魔王バーン。

 現在は魔軍司令ハドラーに下賜され、禁呪法による加工が施されているその途中経過で、魔力供給が途絶える事さえ無ければ、最短であと2時間ほどで、オリハルコンの金属生命体が完成します。

 現時点での完成度は9%です」

 半泣きのオッサンの言葉を、あたしはまるまる復唱する。

 …なるほど。

 これは例の、オリハルコンの親衛騎士団。

 ハドラーが大魔王と袂を分かった後も付き従い、その最後の悲願を叶えるべく、勇者一行の前に立ちふさがった、彼の最後の部下たち。

 ふと、僧正(ビショップ)の駒が震えたように見えた。

 そして次の瞬間、それが真っ直ぐ、あたしに向かって飛んでくる。

 

「!!?」

「痛っ……!!」

 思わず顔を庇って翳した左掌に飛んできた駒が当たり、そこにカミソリで切られたような、小さいが鋭い切り傷が走った。

 そこから膨れた血の玉が、床に転がった駒の上に滴り落ちて、それを汚す。

 どうやらハドラーにも意外な出来事であったようで、驚いた表情を隠しもせず、あたしの負った傷をじっと見つめた。

 やがてゆっくりと視線を逸らすと、半ば事務的な動きで床に落ちた駒を拾う。

 

「あ、あの…!」

「…なるほど。

 子は黙っていても、親に似るものよな…」

 何か意味のわからないことを呟いて、ハドラーが指先の駒を睨むと、僧正(ビショップ)の駒がまた、さっきと同じように震えた。

 

『ワカリマシタ、モウシマセン。

 …ゴメンナサイ、ママ』

 ん?

 今、なんか変な言葉聞こえたけど気のせいか?

 

 とりあえずハドラーの膝に再び乗せられたあたしが、ポーチの中の手持ちの傷薬とハンカチで手当てを終えた頃には、全部の駒がそのままの形で、なんかちょっと大きくなっていた。

 特に兵士(ポーン)はあたしの膝くらいまでの大きさに成長してるし。

 なんだこれ。

 

 ☆☆☆

 

『…あの、ちょっといいですか?

 さっき、このひとの身体の中の爆弾、いつ爆発してもおかしくない状態だと説明しましたけど…』

 ん?うん、したね。それが?

 

『本来持つ危険度は変わらないんですけど…今気がついたんですけど…あの、理由はわからないんですけど…』

 さっさと言えや。情報が言葉を濁すな。

 

『…さっき、リリィさんが彼の胸に手を触れたあたりから、【黒の核晶(コア)】の状態が安定してます。

 大魔王バーンが魔力を飛ばして起爆すれば話は別ですが、今の段階なら、攻撃呪文の刺激で誘爆するとか、そういった危険はなくなったと言ってよいかと思われます。

 そして体内の【黒の核晶(コア)】が、溢れた魔力を時折放出していた際に、肉体に一時的な負荷を与え、全身に激痛が走るという症状が出ていた筈なんですが、安定化に伴い、今は治まっているようです。

 …恐らくは、リリィさんが触れている間だけでしょうが』

 え、そうなの?でも、なんで?

 

『さっきも言った通り、理由はわかりません。

 リリィさんのレベルがもっと上がれば、わかるようになるとは思いますが、現時点で私が説明できるのはここまでです』

 …うっ。すいません。もっと修行積みます。

 まあ、まずはこのひとの、腕の中から出られればの話なんだけど。

 

 …ポップ、心配してるよね。ゴメン。




…くっそ。
1万字超えちまった。
けど、どこで切ってもキリ悪いからもうこのまんま行く。
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