DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
グエンのは、実際に視界内に入っているものしか感知できませんが、リリィはその視界から自在に操れるので。
彼の父にして
彼の意識がこの世に芽生えた同じ場所で、今そこに残っているのは、
他の駒は生まれてすぐ、何か仕事を与えられてでもいるのだろうか。この場所には居ない。
その
「…ハドラー様。
ザボエラが、氷海のグエンを探しに出陣したようです」
「グエンだと?
探したところで、あの状況で氷の海に落ちた女が、生きているとも思えんが……?」
「いえ、あのち…リリィが、どうやら存在を感知しているようです。
…オレ達には隠したつもりでいるようですが」
『ちんちくりん』呼ばわりはさすがに自重したものの、そこから先の本音を隠すことのできない彼に、
「なるほどな…ザボエラの奴め。
大方、人質にしてダイたちをおびき寄せる餌にでも使おうというつもりだろうが、先走った真似をしおって…。
バーン様のお許しを得て、この死の大地の守護を任されたからには、奴らはオレの獲物。
オレ以外の何者も、ダイたちに手出しはさせん!」
だが、すぐにその
「ヒム、ザボエラを連れ戻せ。力ずくでもな!!」
「…はっ!」
初めての直々の命令を受け、やっと戦える喜びに、一番最初に生まれた駒、
☆☆☆
なんでこうなったのかといえば…正直あたしにもわからない。
とりあえず、あたしに見えたものがどういう状況を示すか、ヒムが自身で判断して、それをハドラーに報告した事は確かだ。
それはザボエラの独断行動。
確かに物語では、ここは功を焦ったザボエラが、瀕死の勇者ダイを抹殺に動く場面だ。
実際にはここで氷に閉じ込められているのはダイではなくグエンさんだし、この場合、死んでいてもおかしくない彼女を、わざわざ探し出してトドメを刺したところで、ザボエラの現時点での立場をひっくり返すほどの功績になるとは思えない。
言っちゃ悪いが勇者本人と、勇者パーティーの女僧侶…獲物として見た場合の格の違いは明らかだ。
ザボエラが配下に探させているのが彼女だと仮定して、だとすれば目的は人質として使う為か。
どちらにしろ、自分の手でアバンの使徒を倒したいハドラーにしてみれば、このザボエラの行動は確実に邪魔になるから、当然排除に動く事になるわけで、それに駆り出されたのがヒムってところは原作通りで間違いない。けど。
「…それで?
なんでアンタが、あたしを抱えてるわけ?」
例の豪奢な椅子の部屋から、文字通りヒムに担ぎ出されて、あたしは十何時間かぶりの外に居る。
あたしを連れて行くことに関して、当然のようにフェンブレンがめっちゃゴネたが、ヒムは『効率の問題だ』と譲らなかった。
「…いいからさっさと案内しやがれ。
おまえに『見』えた、モンスターの群れは何処にいる?」
「…無理、寒い。集中できない」
「だーもう!人間って奴は不便だな!!
オラッ、これでいいか!!?」
「これだと熱い。
サウナのベンチかってくらい熱い。
あたしをじっくりふっくら蒸し焼きにするつもりがないなら、もう少し温度下げて。
ハドラーさんの体温はほんとに快適だったから、出来ればあのくらいで」
「だから、ハドラー様を馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえ!!
さっさと『見』ねえと、温度どころかこのまま海に叩き込むぞ!!!」
オリハルコンの我儘ボウズにそう怒鳴られて、あたしは『タカの目』を展開させる。
脅しに屈したわけでは決してないが、ガキとまともに口喧嘩する気はない。
あと、やはり極北の地で防寒具も与えられず、吹きっさらしの中に連れてこられて、単純に暖が欲しい。
ちなみにこの温度調節は、コイツの能力である
何だかんだ文句は言っても少しは考えてくれているらしく、ようやく心地いい温度になった。
なんだただのツンデレか。
全然可愛くないがそれはさておき。
「…ここから東に860メートル行った海上を、無数のバルログとサタンパピーが、何かを探して飛んでる。
この場所は、勇者ダイと魔軍司令ハドラーが交戦した地点を含む、その周辺」
別の地点から開けた視界と、それに伴う情報を、最低限整理して口にする。
「…ふうん。まあ、予想通りだ。それで?
そいつらの探している『何か』ってのは、どこにある?」
…マジで可愛くない。
この野郎、絶対判って言ってやがんな。
あたしが、敢えて言わなかったことを。
しかも今、駒を見せられて無難な発言をしたあたしを睨んだ時のハドラーとおんなじ顔してるし。
こういうところ、こいつもつくづくハドラーの子なんだなと思うけど、それにほっこりする余裕があたしにあるわけもなく。
見抜かれた悔しさと忌々しさを込めて、腕の中からヒムを睨みつける。
そんな事をしたところで、こいつは鼻で笑うだけだろうけど。
…と、思ったのは僅かな間だけで、実際に返ってきた反応は、思ってたのと違った。
「…おまえの考えているような事じゃない。
『それ』の場所を確認したのは、これからオレが回収するヤツが、どっちに向かうかを判断する為だけだ。
オレは誇り高きハドラー様の配下。
いかなる相手でも真っ向から受けて立つ。
敵とはいえ、弱り切ってる奴を不意打ちのように倒したところで、面白くもなんともない」
ああそうだったね!
確か似たような事、原作の登場時に言ってたの思い出したよ!
けど、仮にも生き死にに関わる戦いを、楽しい楽しくないで論じないでくれないかなあぁぁ!!
ダイの剣と覇者の剣の精神会話といい、ひょっとしてオリハルコンって金属自体がバトルジャンキー気質なわけ!?
と、あくまでも心の中で叫んではみるわけだけど。
ヒムは後に、ハドラーの魂を受け継ぐかのように、ハドラーの死後、本来ならあり得ない新たな生命を得る存在である。
そう考えると、もしかしたら少年期や青年期のハドラーは、割とこれに近い性格だったのかもしれない。
大人になるにつれどこか歪んでしまったものの、純粋にひたすら強さを求める心。
彼らの兄とも言えるフレイザードが『自己顕示欲』として受け継いだハドラーのプライドを、ヒムは『誇り高さ』として受け継いでおり、いわば開き直ったハドラーの人格を、最も顕著に映し出していた。
ちなみにシグマと呼ばれる、後にポップの天敵となる
原作のフェンブレンは、ハドラーの忌子というか、完全に脱却できたと思っていたハドラーの負の性格を、受け継いでしまったという描かれ方をされていた。
けど彼も先述したフレイザードとは違い、『残酷』ではあるが『卑怯』ではなかったと思う。
(この時空においてはあたしが居たせいで、駒の時点でその面は矯正されたが、あたしが見る限りどうも、ハドラーの負の面を受け継いだという点では同じな気がしてならない。
先述した面が無くなった代わりに、本来は執念深さという形で現れる筈の部分が、『執着』と『依存』という形で表に出てる気がする。
以前のハドラーは権力に『執着』し、また『依存』していたわけだが、フェンブレンにとってのその対象があたしというだけだ)
強く、気高く、それでいて自分だけには従順な美人とかwwそれなんてエロゲwww
…若干脱線したが、何が言いたいかっていうと、とにかくこいつらはハドラーの為にならない事はしないという事だ。
ハドラーがザボエラの行動を止める為にヒムを出してきたというなら、こいつ自身がザボエラと同じところに落ちるような真似はすまい。
「…判った。信じるよ。
けど、万が一があればその時は全力で埋める」
「どのみち不可能だからどうでもいいが、殺すとか潰すとかじゃなく、『埋める』って…。
言ってる意味がまったくわからねえ」
「アンタが、少なくとも今はあのひとに、危害を加えずにいてくれるんなら、別に判らなくていいよ。
…グエンさんの居場所は、海岸付近に流れ着いた流氷の中。
とりあえず身につけてる防具の特殊効果で、身体の周辺に空間が出来てて、溺死も凍死も窒息死もせずに済んでる。
ちなみに、ソレ作ったのあたしの師匠ね。
魔界において伝説の名工と呼ばれ…」
「そこまでの情報は要らん」
さりげなく混ぜた師匠自慢が、一言のもとにぶった斬られる。
ちっ。ほんと可愛くない。
「…奴らは海の中と氷山を重点的に調べてるから、そっちは捜索範囲から微妙にズレてるけど、発見されるのは時間の問題」
「了解。
ならそっちで待つより、攻めて誘き寄せた方が早いな。
…しっかり掴まってな!」
「え……んぎゃあああっ!!!!」
ヒムはあたしを抱えたまま、上空へ飛び上がった。
つか予告もなしにいきなり高速飛行はやめろ!
寒いし息ができない!
☆☆☆
……そこから先は、一方的な蹂躙だった。
ヒムはあたしを抱えたまま、まずバルログの群れに突っ込むと、それを瞬く間に殲滅したのだ。
決して弱い魔物ではないだろう悪魔系モンスターが、ただの一撃で倒され、次々に氷の海へ落ちていく。
しつこいようだが、ヒムはあたしを腕に抱えてる状態だから、これらの暴虐は全て、空いてる方の腕一本とたまに繰り出す蹴りだけで行われているわけである。
こいつの脳筋思考なら『このくらいのハンデはやってもいい』くらい考えていそうだが、ヒムの格闘センスはハドラー譲りである上、その拳も脚も結局はオリハルコンの塊。
拳に至ってはそれにメラゾーマを纏った魔法拳ときては、ハンデがハンデになってないってのも困った話である。
あたしはといえば、振り落とされないようにヒムの首にがっちりしがみついた状態で、事態が過ぎ去るのを待つしかない。
なんかアタマの中でオッサンがさっきから、レベルアップのファンファーレを歌い続けているんだが、これひょっとしてパーティー戦と同様の扱いになってるんだろうか。
パーティーにさえ入っていれば、ターンが回ってこず戦わずに戦闘終了したキャラにも経験値入る的なやつ。
そういえば村でのモンスター殲滅作戦の後、飛躍的にレベル上がったし。
けどあの時はオッサンが歌うなんて現象は起きてなかった筈だからこれは単に、一回やってみたらアタマから離れなくなっただけなのかもしれないけど。
『わかってるなら止めてくださいよ!
こういう単純なメロディーほど、一旦アタマについたらしばらく離れなくなるんですよ!』
知るかあぁぁ!!
一気にレベルアップしたのかとちょっと期待したのになんなんだよ!!
何かはわからないけどとりあえず減った何かを返せ!!
『す、すいませんレベルは上がってます、ちょっとですけど。
あ、あと、リリィさんの能力に『道具袋』が追加されました。
これからはそのポーチに、際限なくモノを入れる事ができます…けど、この状況で言ってもなんの助けにもなりませんよね。
すいません出直してきます」
ええい、こんな時だけ空気を読むな!!
あたしが消えたオッサンに脳内で叫んだ時、ヒムは向かってくるサタンパピーの群れを迎撃する構えを取っていた。
その空間の匂いが唐突に変化する。
これは…『時空扉』を使う時にわずかに感じる異質とよく似た感覚。
グエンさんが転移してくる直前にも感じたそれは、異なる空間が一瞬繋がる時に生じる、恐らくは摩擦に近いものなのだろう。
その感覚が一番濃い場所、向かってくるサタンパピーの後方に目を向けると、次の瞬間、そこに小柄な魔族の老人が浮かんでいた。
妖魔司教ザボエラ。
あたしは初対面だが、一応うちのランカークス村はベンガーナ領であり、その王都を襲撃していたのが、彼の率いる妖魔士団だから、まったく関係ないわけじゃない。
あと、あたしを以前襲った悪魔の目玉は、コイツの管轄のモンスターの筈だし。
「……貴様、何者じゃ!?
このワシの邪魔をして、ただで済むとは思うておらんじゃろうな………ん?」
この状況で、『ワシの部下をよくも』的な台詞にならないのはさすがである。
ザボエラにとっては、ヒムに蠅みたいに叩き落とされたバルログ達なんて、便利に使える道具に過ぎない。
いま彼が抱えている怒りのポイントは、あくまでそれが壊された事で自身の行動の障害になっている点でしかないというあたり、軸がブレてなくて何よりだ。
…それはそれとしてそのザボエラと、今メッチャ目が合ってるのは気のせいなんだろうか。
「その小娘…魔法使いのガキの妹じゃな!?
ふむ、別に人質ならそやつでもいいわい。
小僧、それをこっちによこすというなら、先の無礼は許してやっても……げほおっ!!!」
いやブレッブレじゃねえか!!
というあたしの脳内ツッコミすら間に合わず、ザボエラがその台詞を最後まで言い切れなかったのは、高速で近づいたヒムが一瞬にしてその硬い拳を、小さい枯れ木のような老人の腹に、容赦なく叩き込んだからだ。
更にそこから間髪入れず、その細い首を鷲掴み、そのまま急降下して地上に降り立つ。
そうしてからパッと手を離して、受け身も取れずに地面に顔面を叩きつけられたザボエラの背を、重たく硬いオリハルコンの脚で踏みつけた。
「ぎょわっ!!
お、おのれ、よくもこのワシを…!!」
…おまえ、年寄りを労ろうとかいう気持ち皆無だよな。
いやまあ、殺しても死なないジジイだってのは知ってるけど、こうも間近だとさすがに見るに耐えないものがある。
「なっ…なんだ、仲間割れか…!?」
「……リリィ!!?」
と、聞こえてきた上空からの声に、あたしは反射的にその方向を見上げた。
全員の…それこそザボエラを助けようと動かんとしていたサタンパピーさえも、視線がそちらへ集中する。
そこにいたのは勿論、獣王クロコダイン(ガルーダフォーム)と、チウを背負った勇者ダイ、そして我が兄ポップ。
…つかダイ優しいな。
あたしの扱いは割とぞんざいだった気がするんだが、そこは忘れた方がいいんだろうか。
あたしがちょっとやさぐれた気持ちになった事など当然ながらまったく意に介することもなく、ザボエラを踏みつけながら右手にあたしを抱えたヒムが、高らかに声を張り上げた。
「オレはハドラー様の忠実なる
ハドラー様の命により、勝手に軍を動かしたザボエラを連れ戻しにきた!!」
うわ、コイツここに一通りの面子が揃ってると見て、明らかにドヤ顔で自己紹介しやがったー!
☆☆☆
…恐らく、リリルーラ3回分以上の魔法力は回復できたであろう頃合で、わたしは閉じていた瞼を開いた。
なんで3回分かって?
もちろん、最初の1回は脱出用。
多分、あの状況から一度撤退した後、わたしの捜索に出られそうなのがクロコダインだけかなと思うので、最初は彼のところに転移。
次は状況を見て、リリィのところへ転移する。
ただし、これは彼女がわたし達を仲間と認識していなければ無効になってしまうけど、まったく希望がないとは思わない。
最初にロン・ベルクの家に転移してしまった時は、魔法力を無駄遣いしてしまったと思ったけど、ヒュンケルの容赦のないツッコミを別にすれば、今となっては戦いに入る前に、彼女と顔合わせをすることができて良かった。
それでうまく彼女と合流できれば、最後の1回は帰還用ね。
というわけで、こんな狭苦しいところからはさっさと
「リリルーラ」
……こんな呑気な事を考えていた一瞬前が懐かしく思えるほど、事態が緊迫していたなんて知らなかったから。
・・・
「…グエン!?」
「心配かけてごめんなさい、クロコダイ……!!?」
何時間ぶりかはわからないが、ともかく無事に合流できた友に挨拶の声をかけ、それが途中から喉の奥に引っ込んだ。
合流した地点が空中で危うく落ちそうになったのを、その友の腕に抱き止められる。
「…ありがとう、助かったわ」
「無事で何よりだ、グエン。
まったく、いつも無茶をしおって…今回ばかりは、さすがのオレも肝が冷えたぞ?」
それは、ハドラーの猛攻からダイを弾いて、彼に託した事を言っているんだろう。
「あら、無茶ができるのも、頼りになる味方が、後ろを守っていてくれての事よ?」
パーティーの僧侶の立ち位置としては間違ってるのだろうが、そこら辺は諦めてもらう。
トベルーラで身体を安定させ、改めて周囲を見渡すと、嬉しそうにこっちに飛んで来ようとするダイに、背負われたネズミが『わわっ、ぼくが背中にいる事を忘れないでくれたまえよ!』とか言ってるのが目に入る。
それから、ほど近い場所にポップがおり…彼は、眼下の地上に気を取られていた。
その視線の先を、わたしもつられて目をやる、と…
「ちょ!ちゃんと防御しなよ!危ないじゃん!!」
「オレに指図すんなチビ!
あんな呪文のひとつやふたつで、オリハルコンでできたオレの身体を傷つけられるものか!!」
「あんな呪文って!
あれ火炎系の最大呪文だから!!
アンタは平気でもあたしは当たったら普通に死ぬ!!」
「だから、てめえに当たりそうなのは避けてやってんだろうが!!
絶対直撃させねえから安心して掴まってろ!」
「直撃は避けてもギリギリ熱風が掠める状態で安心できるかあぁぁ!!!!」
……わたしは、一体何を見ているのだろうか。
見覚えのない金属人間が、リリィを右手に抱きかかえ、左手で矮躯の魔族の老人の首根っこを掴んだ状態で、確かサタンパピーとかいうモンスターの群れを、蹴りだけで次々なぎ倒している光景とか、その金属人間とリリィが、ものすごく対等な感じで怒鳴りあってるとか。
もう、どこから突っ込んでいいかさえわからないのだけど。