DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
この世界の常識的には成人女性の筈のマァムの、脳筋不器用過ぎるアプローチには頭痛を覚えつつも、まあ相手を考えれば案外アリかと思い直した。
…あたしにも妹として、ポップの恐らくは初恋を、応援したい気持ちはある。
うまくいってマァムがあたしのお義姉さんになってくれても、それはそれでアリじゃないかとも思う。
けど、原作ではマァムを大切に思いながらもその想いを封じて突き放すことになってたヒュンケルさんは、今の感じを見る限り、自分のその気持ちを、ある程度自身へ許容している気がするし、この状況から考えて、マァムの気持ちは確実にヒュンケルさんの方に向いている。
一見恋のライバルキャラ!?と見えたグエンさんの存在も、ある意味この状況を後押ししたっぽいし。
そもそもグエンさんとヒュンケルさんの間に、そんな色っぽい感情が存在するように見えない。
これ、もうポップに勝ち目はないんじゃなかろうか。
しかしマァムに振られてもポップにはメルルがいる!
そもそもあたしはメルル派だったし、最終的にポップが悲しい思いさえしないのならば、この際己が欲望の赴くままにあたしは女の子たちの味方をしようではないか!!
とりあえず近いうちに、今度はメルルも一緒にガールズトークをするのだ!
あたしだけ相手いないけど、他人の恋愛って最高のお茶請けだしな!!
そうと決まれば身体の距離は心の距離、たとえ500マイル離れてもなんて言ってられない。
すぐ迎えに行かねば、そう思い申し出てみる。
「じゃあ、あたしが時空扉で連れて来」
「それは当分禁止だと言ったろう。
もう忘れたか、この鳥頭」
そのあたしの言葉が全て終わらないうちに、ロン先生がこちらに顔すら向けずに一蹴する。
チッ。武器オタクはおとなしく仕事に集中しやがっててくださいよ。
つかなにげに酷い。
「あの時空扉って、一回使ったら5分は帰れないんでしょ?
その5分を待っていて、キルバーンに攫われることになったわけだし、ここはグエンに任せた方がいいと思うけど…」
そして追い討ちをかけるかの如く、ダイが心配げな声でそう言ったけど、ああなったそもそもの原因アナタですよね!?
「あの時はあたしが一緒に扉をくぐっちゃったから消えただけですー。
そうでなければあたしの手で閉じなければ消えないから、こっち側から扉を開けて、おいでおいでしてマァムの方から来てもらえば、1回の使用で済むのに」
「まあまあ。
ダイを送ってくれた時も、自分では扉をくぐるつもりがなかったんでしょう?
何があるかわからないから、ダイの言う通りわたしがリリルーラで迎えに行くわ」
ぶんむくれたあたしをくすくす笑って宥めながら、華奢だが女性としては割と大きめなグエンさんの手が、あたしの頭を撫でる。
勇者様がちょっと羨ましそうな顔をしているのはこの際全力で無視しようと思う。
アナタさっきからずっと撫でられてましたよね?
改めて見て感じるこの懐きっぷりに、この場にはいないレオナ姫がこの状況をどう思っているのか心配になった。
…それはそれとして、うん。
実物は未見だが漫画で見たアルビナスの造形を考えると、絶対ハドラーの好みは、こういう大人の女性の筈なんだよな。
……って何を考えているのだあたしは。
ハドラーの好みなんざどうだっていいわ。
「…ならばオレも行く。
何があるかわからないのはあなたも同じだ。
むしろリリィより落ち着きがない分、よほど危なっかしい」
「あなた本当にわたしの扱い酷くない!?」
…どうやら大人なのは見た目だけだったようだ。
方向性は違うもののある意味マァムと一緒かもしれない。
そして今、一瞬こっちに顔を向けたロン先生とヒュンケルさんが一瞬見交わした視線に、『
「…というか、家主の了解くらいは取らなくてはね。
ひとり分賑やかになってしまうけれど構わないかしら、ロン・ベルク?」
それに気づいたのか気づいていないのか、視線が向いたロン先生に、グエンさんが声をかける。
我が師、それに答えて曰く。
「ああ、構わん。
うるさいのはこいつで慣れてる」
「アンタも相当あたしの扱い酷いっスよね先生!!?」
思わず大声で文句を言うも先生はそれに一切構わず、珍しく作業の手を一旦止めて、改めて彼らへ向き直る。
この扱いの差はなんなんだ。解せぬ。
「見たところヒュンケルは剣の腕にはまったく問題がないし、魔剣の方はそれほど細かいギミックをつけていないから、新たに付け加える幾つかの説明が済んだら、そっちに集中しても構わんぞ。
必要なのは、ダイは勿論だが魔槍の…グエンといったな、おまえの方だ。
ギミックの説明もあるが…おまえは、槍は素人だな?」
ロン先生の指摘に、グエンさんは一瞬驚いたように目を瞠る。
「…やはりわかってしまうかしら。
以前は棍を使っていたから、対応はできていると思っていたのだけれど?」
まあ一応、剣の作成時にあたしがダイから色々話聞いてて、先生も作業しながらその場にいたわけだから、その時点で話聞いててもおかしくはないんだけど。
でもロン先生は集中してて聞いていなかったか、或いはあくまでその
「槍は本来は刺突型の武器だ。
おまえの使い方も間違いではないが、払う、叩くといった動きの方がより多く、刃のついた部分をあまり活用していないように見える。
本来の攻撃力を発揮できているとは言い難いな。
…なんならこいつは一度オレに預けて、少し時間はかかるが、こいつと攻撃力の変わらん棍を作ってやろうか?
ひとつふたつなら、欲しい機能を持たせてやれるし、鎧化が必要ならそれもつけてやる」
あ、ひょっとしたらその方がいいかもしれない。
今は鎧の魔槍は彼女のものだけど、最終決戦時には本来の持ち主が戻ってくるから、彼女がバーンパレスの突入メンバーに入っているならば、それ返しちゃうと彼女が丸腰になってしまうわけだし。
それ、勿論あたしの口から説明はできないけど。
そして。
「…有り難いけど遠慮しておくわ。
この槍は…形見よ。大切な人の。
あの子の残してくれたこの槍に誓って、あの子と共に戦い抜く。そう決めたの」
実にあっさり、彼女はその最善案を却下した。
そのグエンさんの答えに、自分の申し出を断られたにもかかわらず、ロン先生は少し嬉しそうな表情を浮かべる。
「…いい答えだ。
…ダイ、これが武器に命を預けるという事だ。
おまえの魂がその境地に至った時、剣は必ずそれに応じるだろう」
「……はい!」
…えー、と。
あたしの記憶に間違いがなければ、これ確かヒュンケルさんのエピソードだった筈!
ここにメッチャ無自覚にイベント泥棒したひとが居まーす!!
あーでも、ヒュンケルさんではなく『魔槍の持ち主』ってことであれば、この世界線上だとこれが正しい流れなのか?うーむ。
☆☆☆
「…マァム、凄いや…!!」
「うむ……グエンの例があったから、ひょっとしたらと思ってはいたが、まさかこれほどとは……!!」
結局。
グエンさんが、なんか拉致したような感じでマァムを連れてきて(一旦消えたと思ったらすぐにマァムの肩を抱いて戻ってきて、連れてこられたマァムが戸惑っていたから、まず間違いなくなんの説明もなく連れてこられたんだと思う)、そのマァムが水辺で自主鍛錬をしている最中だったらしくほぼ下着姿だった事で、ダイを除いた大人男性ふたりが激しく動揺し、少々の悶着(基本的にはヒュンケルさんの説教ターンだった。このひと、前向きになっただけかと思ってたけど、なんか若干のオカン化現象起こしてるかもしれない)があった後、結局先生の許可を得てあたしの時空扉でマァムの服を取りに戻ってようやくこぎつけた修業タイムにて。
ロン先生が武器の修理に取りかかっている間、最初は僅かな座学の時間を取り、闘気や力の集中をする為のイメージトレーニングから始めようという事になって、面白そうなのであたしも聞かせてもらっていた。
武器を選ばないアバン流殺法は、様々な武器に応用できるという。
アバンの書を暗記するほど完読したというヒュンケルさんによると、拳の技は『牙殺法』というらしい。
この場合の『牙』は、鉄の爪に代表される、拳に装着するタイプの武器をいう。
力をもって敵を砕く地の拳、
スピードをもって炎や水など、形のないものを切り裂く海の拳、
光の闘気をもって悪の生命を滅する空の拳、
そこまでの説明が済んだところでマァムが、『何となくだけど、イメージできた気がする』と言い出して、あっさり地の技を成功させてみせた。
更に、その一段階上の海の技も難なく。
呆気にとられるダイとヒュンケルを尻目にここでグエンさんがノリノリとなり、
「マァムも元僧侶なわけだし、わたしのケースと同様、闘気の操作技術さえ掴めば、空の技なんてすぐ出来るはずよ!」
と言い出した。
ヒュンケルさんによれば、そのグエンさんは一番初歩の地の技が未だに使えないとの事で、『あなたのケースは特殊過ぎて参考にならない』とあっさりぶった斬られたのだが、その後どうやら僧侶同士でのみ共通する感覚を例に用いて(説明がメッチャ擬音だらけで、聞いててもさっぱりわからなかった)、グエンさんがイメージの仕方をマァムに説明したら、マァムは最後の空の技までもを、本当に習得してしまったのだ。
本人は『ダイの戦いを近くで見てきたし、空裂斬の修業の相手になった事もあるし、ここに来る直前までスピードアップの特訓をしていたから』と少し恥ずかしそうに言っていたが、絶対そういう事じゃない。
まあ考えてみればマァムは前魔王戦を戦った戦士と僧侶の間の子、いわば正義のサラブレッドじゃないか。
先天的に特別な才能の持ち主だったとしても、全然おかしくない。
…アバン様は、この才能を見抜けなかったんだろうか。
それとも見抜きながらも、本来は心優しく、他者を傷つける力を怖がる彼女に、最低限の譲歩をした結果が『僧侶戦士』というスキルだったんだろうか。
確かに、厳しく指導するのが苦手みたいな事、マトリフ様が言ってた筈だしな。
「…ところで、刀殺法や槍殺法では『最後の技』は『全てを斬る』ものだけれど、牙殺法に関しては『全てを砕く』と表現するべきかしらね?」
そんな事を思っていたら、グエンさんが妙な事を言い出した。
それを聞いてダイが、あっと思い出したような声を上げる。
「そうか!
地海空、全てを斬るのがアバンストラッシュ…!!
3つとも使えるなら、マァムもアバンストラッシュが撃てるって事だよね!?」
「ええっ!!?」
ダイがそう言うのに、マァムが明らかに狼狽する。
そして何やら助けを求めるような視線をヒュンケルさんに向けるも、ヒュンケルさんは盛り上がっている2人に頷いてみせた。
「…理論上は可能だ。
アバンストラッシュには、武器にためた闘気を離れた敵に向けて飛ばす
どちらにも一長一短があり、
対する
戦闘時にはこの二種類を、状況に応じて使い分ける事が、目下重要になってくる。
使う段階で狼狽えない為に、ある程度慣れておいた方がいいだろう」
言われて、マァムがちょっとだけ涙目になった。
・・・
…結果として、マァムによる牙殺法でのアバンストラッシュは、一度も成功しなかった。
発動のイメージはできているらしいのだが、いざ発動という瞬間に、地海空、どれか一つの要素が何故か抜けるのだという。
「…どうも本能的に、技の破壊力を理解していて、それを怖がってしまっているようですね」
あたしが『みやぶる』を使って導き出した結果は、いかにも性格の優しいマァムらしい理由だった。
「ごめんなさい…期待に添えなくて」
「…心配するな、マァム。
慣れれば必ずできるようになる。
おまえはオレと違い、最初から正義の為に戦ってきた。
その技を受け継ぐに足る資格は、充分にあるのだから」
シュンとしてしまったマァムに、ヒュンケルさんがそう言い、ほんの少し躊躇いながらその肩を抱く。
…やっぱりグエンさんに対する時とは全然違うな。
なんていうか、付き合い始めたばかりの中学校のクラスメイト同士をじりじり見守っているようなむず痒さがある。
って!一応成人男女のカップルなのに反応が中学生レベルってことか!
なんて事をつい思ってしまっていたら、
「…また悪い癖が出てるわよ、ヒュンケル」
ちょっと不機嫌そうなグエンさんの声が、その場に漂いかけた甘い空気を一瞬にして消し去った。
つかつかと無遠慮に2人に向かって歩み寄ると、何故かヒュンケルさんの額にデコピンをする。
された方のヒュンケルさんは、大したダメージではなかったようだがそれでも驚いて目を瞠り、間に挟まれたマァムがやはり驚いて2人を交互に見ていた。
ま、まさかこれは修羅場の始まり!?
思わずワクテk……もといハラハラして、その光景を見守る。
勿論、状況が掴めずにグエンさんを止めようとするダイの肩を掴んで止めることだけは忘れずに。
「オレと違って、とか言わない。
自分を卑下するなって、何度言わせるのよ。
あなたも地上の平和と正義の為に戦う、誰にも恥じないアバンの使徒でしょう。
アバン様の必殺技を受け継ぐ資格ならば、あなたにだって当然あるわ。
というか条件的には、あなたにも可能な筈よね?」
…あ、なんか期待した思ってたのと違う展開だった。
ちょっとがっかりするあたしのそばで、ダイが言葉を発する。
「そうだよね。
大地を斬り、海を斬り、空を斬る…空の技を使える今のヒュンケルなら、間違いなく、すべてが斬れる……!!」
あたしの手が触れたダイの肩が、微かに震えて熱を帯びているのがわかった。
どうやら興奮しているらしい。
だが、それに答えたヒュンケルさんは、小さく首を振る。
「…知っての通り、オレは一度アバンに刃を向けた愚かな弟子だ。
師や人間を憎み、魔王軍に与しもした。
確かに今のオレならば、完全なアバンストラッシュを撃つ事は可能だが…」
「そんな自分には、勇者の技は相応しくない?
じゃあ、もと魔王軍の軍団長だったあなたに聞くわ。
あなたの目から見て大魔王バーンは、本来の実力を出し惜しみして勝てる相手なのかしら?」
射抜くように見据えながらそう言うグエンさんの言葉に、ヒュンケルさんがハッと息を呑んだ。
更にグエンさんの言葉は続く。
「全力を出し切らなければ明日をも知れない戦いに赴くって時に、自分への戒めとか資格とか言ってられる状況だとでも思ってるの?
そんな格好付けてる余裕なんかないでしょう、わたし達?
なりふり構わず、できる事は全部やる。
そのくらいの気持ちでいないと、勝てるものも勝てないんじゃないかしら?
わたしの言うこと、どこか間違っていて?」
…多分間違ってないと思う。
というか、グエンさんがこんな真面目なことを言えるキャラだったことにちょっと驚いたけど、この流れからすると恐らくグエンさんは、ヒュンケルさんと一緒に行動している間、自分を卑下するなとずっと言い続けてきたんだと判った。
このヒュンケルさんに、全速前進で後ろ向きな原作のヒュンケルとの違いが見られるのはそういうわけか。
まだ完璧にその傾向が払拭されてはいないものの、異分子である彼女の介入による化学変化は、明らかに起きている。
「…クロコダインと初めて会った時ね、彼、満身創痍で瀕死の状態だったの。
その傷の中にダイ、あなたに負わされたっていう、左目の傷があったわ。
そのまま自然治癒させたら、瞼と眼球が癒着して目が開けられなくなるところだった。
…彼自身はそのつもりだったみたい。
あなたとの戦いにおいて、卑怯な手に走った自身への戒めとして、本当は残しておくつもりだったそうよ」
と、それまでは斬りつけるように鋭かったグエンさんの口調が急に優しくなった。
僅かに微笑んだ自分の左目を指で示して、その指をスッと下へと滑らせる。
…あ、よく見るとこのひと、目のまわりを囲うように黒い縁取りがある。
多分だけどこれ、魔族の特徴のひとつにある目の模様だ。
うちの先生の眉頭に出てるのも割と控えめだけど、このひとのはもっと自然に見える。
と、それはそれとして、突然水を向けられたダイの大きな目が見開かれた。
「そうだった。
ヒュンケルと戦って助けられた時は、あの傷はまだ残ってたのに、グエンと一緒に炎魔塔の下で会った時には、もう無かったよね?
あれ、ひょっとしてグエンが治したの!?」
ダイに問われ、グエンさんが頷く。
この世界のクロコダインが隻眼じゃない理由も、やっぱりそうだったんだ。
「…見つけた時は彼に意識がなかったから知らずに治療しちゃった気まずさもあったけど、それ聞いた時、わたし言ってやったのよね。
万全の状態で仲間に加わってくれた方が、勇者様たちには有難いでしょうって。
クロコダインは、納得してくれたわよ?」
そう言ってグエンさんは、もう一度ヒュンケルさんに視線を戻した。
「大体、資格だのなんだの言ったら、わたしなんかアバン様の弟子どころか顔も見たことがないのよ?
そのわたしに、アバン流の技を教授してくれたのは、他でもないあなたじゃないの。
悪いけど、わたしは教わった以上は、遠慮せずにバンバン使うから。
…で、わたしの大師匠であるアバン様という方は、そんな事に拘るような器の小さい人だったのかしら?
あなた方のお話を聞いている限りは、とてもそのようには思えないのだけれど?」
グエンさんのぶった斬るような言葉の羅列に、ヒュンケルさんが黙り込む。
そこに、それまで黙って話を聞いていたマァムが、おずおずと口を開いた。
「…グエンの言う通りだと思う。
アバン先生は、今のヒュンケルの事も、そしてグエンの事も、きっと認めてくれると思う。
そうして、今できる最大限の事を頑張る為に、背中を押してくれると思う。
力があっても、使うべき時に使わなければ、それはないと同じなのよ。
力なき正義では何も守れない。
…私も、怖がってなんかいられない」
言って、決意に満ちた目をヒュンケルさんに向ける。
「必ず、牙殺法のアバンストラッシュを完成させてみせるわ。
だから、ヒュンケル。お願い。
あなたの力を、私に貸して。
あなたが導いてくれたなら、私の中にある恐怖もきっと、克服できる。
いいえ…絶対に、克服するわ」
「マァム……わかった」
見つめ合う2人。
瞬間、ヒュンケルさんとマァムの周囲に、なんか知らないが甘いオーラが立ち込めた、ように見えた。
その2人から少し距離をとったグエンさんは、何故かあたしに向けてサムズアップをしてきた。
なんかよくわからないままに同じサインを返しながらあたしは、ヒュンケルさん結構チョロいなと、割と失礼な事を考えていた。
☆☆☆
「ところでさ。さっき、ストラッシュが2種類あるって、ヒュンケル言ってたよね?」
「ああ。オレはアバンに師事していた時にそう教わったし、アバンの書にもそれは書かれていた」
「…おれ、それ知らなかった。
ちゃんとわかってれば、もう少し戦いが楽だったのになぁ」
「おまえはアバンの教えを、3日しか受けていないと聞いた。
その時点で空裂斬の知識すら朧げだったのだ。
ストラッシュのタイプの違いなど教えられている筈もない」
「でも、おれが字をちゃんと読めてたら、アバンの書をマトリフさんからもらった時に、それを知っていた筈なんだよなあ〜」
「…読み書きや計算は大事ですね。
将来なにかの契約ごとを行うことになった際、サインする書類に書かれている内容に、自分の不利になるものがあった場合、それを知らずに言われるまま署名してしまったら、事によっては人生終了のお知らせですから。
ダイはこの戦いを終えたら間違いなく世界の英雄ですから、うっかり変な女に付きまとわれて、騙されて婚姻証明書にサインさせられたりとか……ああ怖い怖い」
「…そうならない為にも、レオナ姫にしっかり捕まえていて貰わないとね」
「…2人とも、心配するところおかしくない?」