DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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30・武器屋の娘は観察される

 ドウゥン!!

 

 突然、先生の小屋の方からものすごい音がして、全員がそちらに目を向けた。

 

「…ルーラの着地音だわ!」

 一瞬にして表情がシリアスになり、誰よりも早く反応したグエンさんがそちらへ向かったので、慌ててあたしも後に続く。

 他のメンバーも後から続くようだ。

 先生に何かあってはと、息を切らして小屋へと帰り着けば、小屋の前で服の砂埃を払っているポップの姿があった。

 そうしてから、立ち止まって呆気にとられているグエンさんに気付いて、軽く手を挙げる。

 

「よぉっ!……って、マァムもこっちに来てたのかよ!?」

 あたしより後から動いたのに、その時点であたしを追い抜いていたマァムに気がついて、ポップが目を瞠る。

 そういや仲間はずれ状態だったね。

 そしてそれを見て、何故かグエンさんが自慢げに胸を張った。少し分けて欲しい。

 

「マァムはわたし達と修業をするのよ!

 で、ポップ、あなたはどうしてここに?」

「てゆーか、また着地失敗したんだね……」

 …そこは気付いても黙っててやってくれませんか勇者様。

 なんて事を思っていたら、

 

「うるせえよ!…と。居た居た。

 やっぱ、家じゃなくこっちだったな」

 ポップは言って、まっすぐあたしの方に寄ってくる。

 そして見る間に距離を詰めてきたと思えば、いきなり手首を掴んで引っぱられた。

 

「え、何?」

 戸惑うあたしに構わず、その状態から先生んちのドアを開け、中に向かって声をかける。

 

「ロン・ベルク!

 おれの師匠が会いたいって言ってるから、ちょっとうちの妹連れてくぜ!!」

「はい!?」

 さほど広くもない小屋の中に声が届かぬはずもなく、先生は一旦手を止めて振り向くと、特に驚いた様子もなく言葉を返した。

 

「夕食までには帰れよ」

「オカンか!」

 一言だけ言って再び作業に戻る師匠の台詞に思わずつっこむ。

 

「それより前には帰す。

 じゃな、おまえらもしっかり修業しろよ!

 ルーラ!!」

「ぎゃあああぁぁぁぁあ!!!!」

 あたしの意志とかは全く無視で、ポップが発動したルーラにより、強制ジェットコースター状態となったあたしは、乙女にあるまじき悲鳴をあげた。

 多分、残された勇者様たちの耳には、ドップラー効果で響いていたに違いない。

 

 ☆☆☆

 

 兄に連れられて、ベッドに横になった大魔道士マトリフ様に引き合わされたあたしは今、その無遠慮な視線に晒されている。

 

「…あの三流魔王、趣味が変わりやがったか?

 ヤツに攫われて嫁にさせられたって話だから、どんだけ美人なのかと思ったら、まだほんのガキじゃねえか」

「……嫁にはされてません」

 間違った情報が伝わっているようなので、ちゃんと訂正する。

 まあ、魔王時代に当時13だか14だかのカールの王女様を攫っていこうとした過去もあるから断言はできないが、多分ハドラーに少女属性はない筈だ。

 大体その頃の王女様(現女王)、今のレオナ姫と比べても相当発育が良かったぽいし。

 当時の彼女と今のあたし、年齢的にそれほど変わらない筈なのに、この違いは一体どういう事だ。

 血統か!王の血とはそれほどに特別なのか!!

 

「なんだ、なら禁呪法で孕まされてオリハルコン戦士産んできたって話も嘘か?」

「あたしが産んだわけじゃない!

 情報が混乱して錯綜しとるわ!

 どっから出てきたそんな話!!」

 思わず敬語も忘れて声をあげてしまったと同時に、こそこそ出て行こうとする背中が視界の端に映り、あたしはその目前に時空扉を、開いた状態で出現させて、その出口を自分の真ん前に繋げた。

 離れたつもりのあたしが次の瞬間目の前にいた事に驚いているポップの脛に、すかさずローキックを入れ、呻いて崩折れ手が届く位置に降りてきた頭を抱えてヘッドロックをかける。

 逃げられると思うか。

 

「ギブ!ギブ!!

 おまえ、前はもっとおれに優しかったのに、しばらく離れてる間に容赦なくなったな!!」

「ホーッホホホ、容赦できることとできないことがありますのよ、お兄様!

 …おのれは嫁入り前の妹になんつー不名誉な噂を広めとるんじゃ〜っ!!」

「おれもそこまでは言ってねえ!

 けど、なんか血の繋がった子供とかハドラーが父親だとか、悪い冗談にしても色々不穏な情報を耳にしたし、おまえが実の兄のおれにすら言えねえような事をハドラーにされたんじゃねえかと、心配になるのは当たり前だろ!?

 それを師匠に相談しただけだよ!」

「まだ言うか!!なにもされとらんと何度言えば!」

「あだだだだっっ!!!!」

 実の兄のこめかみをぎりぎり締め上げてるあたしを、なんとも形容しがたい目で見つめていた大魔道士様が、半身を起こして深いため息をひとつ吐く。

 

「…さて、さっきの冗談はさておき」

「冗談だったんかい!」

「まあまあ、ひとまずはソレ離せ。

 …ちゃんと聞いてやるから詳しく話してみな。

 誤解が生じたまんまじゃ、その不名誉も雪げねえだろ?」

 …なんとなく丸め込まれた感がなくはないが、その通りだと思い直して言う通りにする。

 とりあえず老害じゃない年寄りの言葉は聞くべきだ。

 つか、年齢だけならウチの先生の方がずっと年上なんだけどな!

 それはさておき、キルバーンに拉致されハドラーに保護されて、そのそばで起きた事を、話せる範囲ですべて、あたしはマトリフ様の前で話した。

 この情報は一応パプニカでも一通り話はしたのだが、あの場にはレオナ姫をはじめとする各国の他の王や指導者たちがおり、主にあたしの能力については伏せた方がいいと、先生からストップがかかっていた。

 だから各国の指導者たちには、あくまであたしが攫われたのはポップに対する人質としてであり、ハドラーがあたしにオリハルコンの親衛隊の作製現場を見せたのは、単に彼の気まぐれという話にしてある。

 自身の能力含めてちゃんと説明したのはこれが初めてだ。

 先生がポップには能力のことを話したと言っていたから、その師であるこの人にも話は通すべきだと判断して。

 

「…賢明なこった。

 ダイやこいつにしてみれば姫さんは仲間の1人って認識だろうが、それでも今や一国を率いる王だ。

 公の立場となればてめえの力の有用さを、知れば計算に入れねえわけにゃいかなくなるだろうさ。

 指導者として有能であればあるだけ、全面的には信用はできねえってことだ」

「それ、うちの師匠にも言われました。

 最終的には命の危険すら出てくるからと」

「だな。その、命の危険すら抱えてる能力を、よりにもよってあの三流魔王に知られちまったってわけだ」

 うっ。

 

「てめえが今ここに居られんのは、単に運が良かっただけなんだと、しっかり肝に銘じとけ。

 …判ったら、ちゃんと兄貴にも感謝しときな」

「……はい。ごめんね、ポップ。

 助けに来てくれて、ありがとう」

 ポップは、必ず戻ってくるという約束を守ってくれた。

 そのお礼は確かにまだ言っていなかったし。

 

「…あたりめーだろ。

 おまえは、おれの妹なんだから。

 知らねえみたいだから教えてやるけど、兄貴は、妹を守るもんなんだよ」

 長いこと逆だったけどな、と小さく呟いて、ポップは少し目をそらした。

 

「なんもされてねえって話は、信じた。

 …ただ、おまえ自身気付いてるかどうか知らねえけど、ハドラーの話題の時だけ、兄のおれですら今まで見たことねえ顔してるかんな?」

「え?」

「なんつーか…うまく言えねえけど、いかにも『女の子』って感じの顔な」

 どういう意味だ。

 あたしたち兄妹のそのやりとりに、マトリフ様はちょっとだけ口角を笑みの形に吊り上げたが、すぐに真顔になり、今度はポップに目を向ける。

 

「…さて。その問題は置いといてだ。

 聞いてたか、ポップ?

 戦略的価値無限大のこいつを、あっさり返したことを考えても、ハドラーの野郎はどうやら、武人として一皮むけちまったらしいぞ。

 そうなるとオリハルコンの親衛隊って奴ら、相当やばいぜ。

 強さだけじゃなく、その精神性がよ」

「精神!?」

「ああ。無生物に生命(いのち)を与える禁呪法ってのは、作ったやつの精神的影響がモロに出る。

 権威にこりかたまってた頃のハドラーが生み出したフレイザードは、凶暴で栄光だけに執着するクズ野郎だったろ?

 ハドラーが真の武人になっちまったって事は、それに作られたそいつらも同じって事だ。

 それが全部で五体…恐らくは正々堂々、チームワークを使って戦ってくるんだ。

 今までバラバラに襲ってきた、魔王軍の軍団長たちとの戦いとはわけが違うぞ…!」

 まあ、1人ちょっと心配な子が居ますけど。

 駒の時点で矯正は受けたけど、その影響がどう出るか予測できない点においても。

 けど少なくとも他の駒に関しては、おおよそ原作通りだと思うので、マトリフ様の言葉にあたしも頷く。

 

「あたしが居た時点では、まだ二体しか完成してなかったけどね。

 あたしを連れてきた兵士(ポーン)は、一番最初に生まれた駒。

 確かに『いかなる相手でも真っ向から受けて立つ』とか自慢げに言ってたよ。

 あと全身オリハルコンだから、生半可な呪文とか絶対効かない。

 たとえポップのメラゾーマ10発一度に食らったところで、アイツぴんぴんしてると思う」

 この時空ではお披露目されなかったが、原作ではザボエラがサタンパピーの呪文10数発を、自身に集中させて放った技も、なんということなくかき消してた。

 一応大魔王バーンの呪文ではダメージ食らってた筈だけど、それは現時点では神様のタブーに抵触する未来の知識だ。

 言おうとしても言葉は出てこないだろう。

 

「単純計算で、たとえ命を惜しまなくても、フィンガー・フレア・ボムズじゃ駄目って事か…!

 そもそもあれは一発で息が上がっちまって後が続かねえ。

 …師匠、頼む!

 何かいい手があったら教えてくれ!!」

 あれ…この場面ってもしかして。

 てゆーか、マァムを連れてきたあたりで既に終わってるイベントだと思ってたのに、今ここでなんだ。

 

「表…出な」

 少しの間思案していたマトリフ様が、かけていた毛布を退けて、ベッドから足を出す。

 ほぼ反射的に、転がっていた靴をその足元に揃えると、「ありがとよ」と頭を撫でられた。

 

「し、師匠、動いて大丈夫なのかよ?

 身体の具合は…」

「いらねえ心配すんな…」

 ふらつきながらマトリフ様が、寝間着姿のまま、部屋の扉に手をかける。

 …ここ、一応洞窟の中の筈なんだけど、少なくとも先生の小屋程度の環境は整っているあたり、凄いなと思う。

 と、しょうもないことに感心している場合じゃない。

 ひとまず、ベッドの脇の椅子にかけられていたマントを引っ張ってきて、小さな老人の背中に被せる。

 それにちょっと驚いたように、マトリフ様があたしを振り返った。

 その表情が、なにやら意地悪そうな笑みに変わる。

 

「…そうだな。

 ついでだからそっちから、服と帽子も頼む」

「それがいいです。

 身体は冷やさないようにしないと。

 …どうやら食材もありそうですし、栄養のあるスープを作っておきますから、後で温めて召し上がってください」

 田舎村で暮らしてると、近所の老人が腰を痛めたなんて話はしょっちゅうで、そのお世話にかりだされる事態はよく起こる。

 なんとなくその感覚で手を出してしまったのだが、マトリフ様はマントの下で肌を見せないよう器用に服を着替えながら、そう言うあたしを再び無遠慮にまじまじと見つめた。

 

「…普通に暮らしてれば、いい嫁さんになれんだろうになぁ…なんならオレがもらってやろうか?」

「有難い申し出ですがあたし、婿取らないといけない身なんで」

「変な男に引っかかんなよ?

 見る『目』はあるだろうが、惚れたハレたはそれを曇らせるもんだからな。

 ……よし、じゃ行くぞポップ。ついてきな」

 最後に、大きな帽子をかぶりながら振り返り、その場に立ち尽くしていたポップに声をかける。

 恐らくはこの後、あの呪文の特訓に入るのだろう。

 大魔道士マトリフが、一生で数えるほどしか使用したことのないという最強のオリジナル呪文…極大消滅呪文(メドローア)の。

 

 ・・・

 

 …ところでこの場所って確か、例のフレイザードとの決戦の舞台となった、バルジ島の近くの海岸だよね?

 このスープを作り終えたら、行ってみようかな?

 ……多分、あたしの欲しいものがそこで入手できると思う。多分だけど。

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