DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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なんか気がついたらグエンが、
「知っているのか、雷電?」「うむ」
みたいなポジションにいる。
もうそのキャラでいいやと思うことにした。


7・半魔の僧侶は探索(サーチ)する

 結局、王都まではたどり着けなかった。

 というより、途中から方向転換を余儀なくされた。

 

 王都を滅ぼした軍団長、巨大ワニ、そして魔族。

 この取り合わせで街道を堂々と移動するのも憚られ、わたし達はできる限り旅人と出会わないルートを選択して、パプニカ領の山や森の中を進んでいたのだが、その森を歩いていた時に、木にぶら下がっていた『悪魔の目玉』というモンスターが、突然叫んだのだ。

 否、正確には、叫んだのは悪魔の目玉ではないらしい。

 あのモンスターはああして大人しくぶら下がって、人などを襲う事はほぼないが、その場所で目にしたものを映像として、魔王軍に送っているのだという。

 また同じ悪魔の目玉を通しての通信も可能であり、今はその映像が送られているのだと、クロコダインが教えてくれた。

 その目がわたし達を捉えることのない角度から、なんとか映像を見ようと試みる。

 

『アバンの使徒のガキどもーッ!!

 いつまでコソコソ逃げ回ってやがんだよぉ、ええッ!?

 てめえらまさか、お姫様が凍らされたまま、いつまでも無事だと思ってるんじゃねえだろうな?

 残念だが、あの氷の中でどんどん、姫様の生命力は失われてんだぜ!

 保って明日の日没までだっ!!』

 映像の中で叫んでいるのは、炎と氷がくっついたような身体を持ったモンスターだった。

 更にその後方に、氷漬けにされた少女の姿が映る。

 

『早く来いよ、早くなぁッ!!』

 そこで映像は終わり、悪魔の目玉は一旦瞼を閉じる。

 

「今のはフレイザードだったな。

 …つまり、どういう事だ?」

「凍らされていたのは、間違いなくパプニカの王女だ。

 今はヤツの手中にあるという事だろう。

 そして、ヤツが『アバンの使徒』に呼びかけていた事を考えるに、ダイ達が一度フレイザードと交戦し、敗走した可能性が高い」

「そして、囚われた王女の生命力が尽きるまでのタイムリミットが明日の日没…という事ね。

 それにしても…」

 今の、クロコダインがフレイザードと呼んだ奴。

 恐らくはエレメント系モンスターなのだろうが、炎と氷は通常、同一エレメントのプラスとマイナスにそれぞれ位置するもの。

 和合すればそれはゼロ、つまり消滅を意味する。

 故にそんなものが存在できる筈がない…普通なら。

 つまりあのモンスターは、自然発生した存在ではなく、なんらかの呪法により故意に生み出された存在であるという事だ。

 だが無から生命を生み出す呪法は、モラルや人道的な観点から、禁忌とされている。

 そんなような事を二人に話すと、ヒュンケルが頷いて言った。

 

「よく知っているな。

 いかにもあのフレイザードは、ハドラーが禁呪法で生み出した、エネルギー岩石生命体だ」

「禁呪法……」

 魔法の専門家達の間では外法とされているそれにも幾つか種類がある。

 今言った生命を生み出すものの他、自身以外を無力化する結界呪法や、生命力を削るほどに過剰な魔力を消費する攻撃呪法など。

 だが魔王軍に於いてはそれは禁忌ではなく、術者は限られるだろうがそんなものが当たり前に存在するということか。そして…

 

「それから生み出された存在が、それを使うことを躊躇う筈もない…か。」

「…ん?どういう意味だ?」

「王女の身体を覆っているのは、氷の形を取ってはいるけれど、あれ自体が禁呪法とされる無力化の結界なのだと思うわ。

 実際に凍らされているというなら、その時点で王女は生きちゃいない。

 そして恐らく、それを維持するのに使用されているのが、王女自身の魔力或いは生命力。

 タイムリミットの理由はそれね」

 と、自分でそこまで言ったところでふと気づく。

 

「……ん?

 ひょっとして、勇者達が敗走した理由もそれなんじゃない?

 戦闘に突入した際に、周囲に無力化系の結界が敷かれて、仕方なく逃亡を計ったとか。

 それならば人質もいる事だし、フレイザード的には、自身が有利になる場所に、勇者達を再び呼び寄せたいでしょうね。

 今の中継の理由って、きっとそれだわ」

 フレイザードがいる場所は、その結界の内側と考えて間違いはない筈。

 という事は負の魔力が凝集する地点を探してそこに行けば、勇者達と合流できるかも。

 この場合タイムリミットがある事が、王女には悪いがわたし達にとっては都合がいい。

 

「勿論、結界の中に入ってしまったら最後、わたし達も無力化されてしまうから、その対策は考えなければならないけれど」

「その『負の魔力』はどのようにして探す?」

 ヒュンケルに訊ねられて、わたしは頭を捻る。

 確かにそこが問題なんだよなぁ。どうすべきか。

 

「ある程度近くなれば、特定する方法はあるんだけれど…或いは、上空から探せれば」

「上空から?」

「ええ。

 目に見える範囲内なら有効な筈だから、上空からいちどきに見る事ができれば、それが一番効率的だと思うわ」

「それなら簡単だ」

 言うやクロコダインが、鎧のベルトに挟んでいた筒状のものを取り出して、目線より上に掲げる。

 

「デルパッ!!」

 クロコダインの声とともにボン!!という音がして、例のガルーダが唐突に姿を現した。

 

「え?ちょ、何それ!?

 この子、いつの間にかいなくなったと思ってたら、あなたが持ち歩いてたの!?

 アイテム扱い!?なんで!?」

「…こいつは魔法の筒といって、生き物を一体だけ封じ込めておけるアイテムだ」

「魔法の筒!?魔王が使ってたっていう!?

 本では読んだことがあるけど、実物を見るのは初めてだわ!

 後でじっくり見せて!」

「お、おぉ…。

 そ、それはともかく、こいつに乗れば探せるな?」

 …そうだった。

 あまりの衝撃に、本題を忘れるところだった。

 

「やってみるわ。よろしくね、ガルちゃん」

「クワァァ──ッ!!」

 わたしはガルーダの背に乗せてもらい、また空を飛んだ。

 

 ☆☆☆

 

「…あの女性(ひと)は一体何者なんだ、クロコダイン?」

「言わなかったか?

 グエンはオレを助けてくれた旅の尼僧だ。

 魔族の血を引いてはいるが半分は人間だそうで、それによって辛酸を舐めてきたらしいが、見ての通り明るい、強い女だ」

「おまえは、それを信じたのか?

 …オレも、疑っているわけではないが」

「ザボエラあたりが送り込んだ刺客ではないかと?

 確かに可能性がなくはないが、オレは違うと思う」

「…何故だ?」

「オレにしか従わない筈のあのガルーダが、あいつには懐いてる。

 オレはそれを信じただけだ」

 

 ☆☆☆

 

 身を低くして風の抵抗を少なくし、身体の安定を確保してから、両手の指で三角窓を作る。

 

「インパス」

 呪文を唱え、上空からその三角窓を覗いて下を見ると、この森から海を隔てた、沖にある小島が、三角窓の中では赤く光って見えた。

 この呪文は本来なら迷宮の中などで見かける、宝箱とそれに擬態したトラップを見分ける呪文だが、わたしのそれは色々研究を重ねた結果、魔力や生命力のサーチ呪文としても応用できる。

 これによって隠れた敵を見つけて回避したり、仕掛けられた罠を事前に発見したりできるので、本来のものよりもずっと使い勝手はいいと思ってる。

 

「あれだ…間違いない。

 ガルちゃん、あの島に、もう少しだけ近づいて貰える?」

 わたしの言葉に従って、ガルーダがやや高度を下げる。

 近寄って見てみると島には三本の塔が立っているが、よく見ればそのうち人の手によって建てられたと見られるものは真ん中の一本のみで、両端の二本は塔というよりは、炎と氷の柱というべきものだった。

 また、その二本の周囲に小さな赤い点がいくつも動き回っていて、中央の塔の中にそれよりもっと大きな赤い光と、少し小さな青い光が見える。

 恐らくは青い光が王女、大きな赤いのがフレイザード、細かい赤は配下のモンスター達だろう。

 

「まずい…これ以上近寄ったら危険だわ。

 一旦戻りましょう」

「クワァ」

 あの小さい赤の数を考えると、もし見つかって襲われたら対処できない。

 

 ・・・

 

「そうか。

 その島はバルジ島といって、島を取りまくバルジの大渦に守られた、神事の際にしか使用されぬ塔のある島だ」

 わたしの報告に、ヒュンケルが説明してくれる。

 そういえば確かに島のそばで、海が大きく渦を巻いているのが見えた。

 あれがあるお陰で、島へ行くにはそれを避け、大回りして行かねばならないし、またその必要もそうそうない為、滅多に人が立ち入ることもないのだそうだ。

 そして島の両端に立っていた柱、恐らくあれが負の魔力の源だろう。

 

「あの柱によって無力化系の結界が、あの島全体に敷かれているというなら、あれを取り除かないと戦いにはならない。

 勇者たちが王女を助けに行くなら、まず柱の破壊を考える筈。

 …だとすると、少し厄介ね」

「何がだ?」

「一時的にとはいえ、勇者パーティーの戦力が分断されるのよ。

 勇者達が、柱を破壊しに来ると判っていて、しかもタイムリミットがあるから来る時間も、ある程度特定できる。

 この状況を、魔王軍が黙って見過ごすかしら?

 わたしなら間違いなく各個撃破を狙う。

 だってまたとない好機だもの」

 わたしが言うと、クロコダインとヒュンケルが顔を見合わせた。

 

「待ち伏せがあるかもしれない…という事か」

「かもしれないというより、ほぼ決定だと思うわ。

 勿論、これはわたしの視点からの意見だから、元魔王軍の一員だったあなた方からみれば、また別な見方もあるかもしれないけれど」

「いや…グエン。

 おまえの見る通りで間違いないだろう。

 フレイザード本人は、ダイ達を自分ひとりの手で始末したいだろうが、確かにハドラーがこの好機を見逃すはずがない」

 けど、あくまで最終目的はフレイザードの撃破と王女の救出であり、柱の破壊はその手段に過ぎないわけで。

 この時点で勇者パーティーの戦力を削ぐわけにはいかない。

 

「現時点での、二分された状況での勇者パーティーの戦闘力と、あなた達ひとりなら、どっちが強い?」

 わたしが訊ねると、クロコダインが少し考えてから答えた。

 

「組み合わせにもよるだろうが、戦いにおけるダイ達の最大の力は、仲間同士の絆だ。

 分断された状況でなら、今はオレ達ひとりひとりの方が遥かに強いだろう」

「決まりね。

 こちらの戦力も分断されてしまうけれど、柱の破壊と待ち伏せ組はあなた方が担当して、勇者パーティーにはフレイザードの撃破に向かってもらうべきだわ」

 わたしの提案に、二人が頷いた。

 

 ・・・

 

「あとは、わたしがどうやってあの島に行くかよね…」

 島の周囲の海の大渦。

 あれを船で越えるのは無理だ。

 そもそもその船自体が調達できない。

 

「クロコダインとヒュンケルはガルちゃんが連れて飛んでいけば、簡単に行けると思うけど…わたしは無理、かな」

 わたしはモシャスが使えるが、生まれつきである為か、これだけは他の呪文と違い、鍛錬を重ねても性能がまったく上がらなかった。

 平たく言えば持続時間が短く安定しない上、連続使用ができない。

 ガルーダに化けて飛んで行ければそれが一番簡単なのだが、飛行中に効果が切れて海に真っ逆さまとかになったらシャレにならない。

 ガルーダの体力的に、ヒュンケルを助けた時は、彼を抱えたクロコダインを下げて普通に飛んでいたから、彼だけなら連れて行けるだろうが、どうしたってわたしは余る。

 そういえば棍や杖は、それを極めた真の達人ともなれば、回転させて空を飛ぶ事もできると以前カールで読んだ武術書に書かれていた。

 のだが、少なくともパルナ村の先生やゲッコーさんはさすがにそこまでの域には達していなかった筈だし、ぶっちゃけあの本に書かれていた内容自体なかなかにぶっ飛んでいたので、正直眉唾だと思っているが。

 この世にはトベルーラという飛行呪文があるらしいが、それはルーラの発展形呪文であるらしく、ルーラも使えないわたしにできるわけもない。

 というかメッセンジャーの仕事を始めたばかりの頃に、ルーラを使えれば絶対便利、一度でも行ったことのある街ならば1日2、3往復とかできて収入大幅アップでウハウハと思って契約だけは済ませたのだが、その僧侶にあるまじき不純な動機のせいなのか未だに使える気配がない。

 呪文というのは契約したらすぐに使えるものではなく、必要レベルに達していて初めて使用可能になるものだし、このルーラに至ってはある程度の魔法技術も必要だという事らしいのだが、その技法の詳しい内容の書かれている本は、あちこちの街の図書館を探したが、まだ見つけられずにいる。

 

「考えてみれば、わたしが行ったところで戦力にはならないし、ここで待ってるから後で迎えに来てよ」

 わたしが仕方なく諦めてそう提案すると、

 

「なにを言ってるんだ。

 ダイに会いたいと言ったのはおまえだろう。

 おまえの回復呪文は必要になるだろうし、必ず連れて行ってやるから、オレから離れるな」

 と、クロコダインが請け負ってくれた。

 うん、惚れそうなほどナイスガイ。

 色々検討した結果、先にガルーダがヒュンケルを運び(マグマから救出された時と違い、フル装備だからそれだけ重いんだそうだ)、その後で戻ってきて、わたしを抱えたクロコダインを運んでくれるという結論で話し合いが終了した頃、気がつけば夜も更けていた。

 

 ☆☆☆

 

 わたしとクロコダインが結界の外側に降り立った時、両方の柱の下で、とうに戦いが始まっているようだった。

 

「少し遅れを取ったか…急ぐぞ、グエン!」

 ここからはガルーダで移動すると撃墜される恐れがある為徒歩移動となり、クロコダインがわたしを肩に担いで走り出す。結構速い。

 今わたし達が向かっているのは炎の柱、反対側に氷の柱が見える。

 あっちにはヒュンケルが向かっているだろう。

 その方向に爆発が起きて、クロコダインの肩の上で驚く。

 早くもヒュンケルが柱を破壊したのかと思ったが、氷の柱には何の変化もなく、極大呪文クラスの爆発はその横で起こっているようだ。

 あれだけの熱量を隣で受けてびくともしていないのだから、やはりあれはただの氷ではない。

 破壊するには物理的な力でなければいけないのだろう。

 そして物理的な破壊力なら、わたしの見る限りこの二人なら、それぞれに爆弾10個程度になら軽く勝ると思う。

 進んだ方向の先、結界の恐らくはギリギリ外側の窪地に、大勢の人影が見えた。

 魔道士と、鎧を着た戦士の群れが、小柄な少年と老人の二人を取り囲んでいる。

 

「やはり魔王軍の待ち伏せか…。

 奴らは、妖魔士団と、魔影軍団の連中だ」

 クロコダインが舌打ちのように呟く。

 妖魔士団は魔道士の、魔影軍団は魔気系モンスターの軍団だったか。

 だとすればあの鎧は魔気で動く、さまよう鎧とかいうモンスターか。

 あと空中にも一体いるが、鎧ではなく衣だけが浮かんでいるように見える。

 

「インパス」

 また指の三角窓を覗き、魔力サーチを行う。

 沢山の赤い光の中に、青い光が二つ…いや、もう一つ小さいのが、周囲を飛び回っているのが見える。

 飛び回っている小さな青は今のところ無事だが、それより大きい青い光の周囲に、糸のような赤い光がまとわりついて、それが宙に浮かぶ大きな赤と繋がっている。

 三角窓から目を離してもう一度同じ方向を見れば、少年が苦しげに腕を持ち上げようとしており、また宙に浮かんだ衣がやはり腕を、なにか引っ張るように動かすのがわかった。

 どうやら魔気による拘束技らしい。

 また、その下では明らかに魔族とわかる小柄な異相の老人が、軽装の鎧に身を包んだ人間の老人に向かって、やはり何か禍々しい魔力を放出していた。

 

「ニフラムッ!!」

 わたしはクロコダインの肩から飛び降りざま、手に収束した魔法力を正義の光に変換して、上から窪地に向かって放つ。

 鎧のいくつかがバラバラになって地面に落ちたが、思ったよりその数が少なくて内心ちょっとがっかりした。

 だがわたしの放った浄化の光は、少年にかけられていた拘束を解くのには成功したようだ。

 少年がすかさず動き出し、一番近くにいた魔道士を、まだ短い脚をいっぱいに伸ばして蹴り飛ばす。

 魔道士の身体は老人の魔族の方に真っ直ぐ飛んでいき、魔族は魔道士の下敷きになった。

 途端に禍々しい魔力が霧散し、老人が地面に膝をつく。

 …あまりにもささやかな助力だったせいか、誰もわたしがした事に気付いていないようだ。

 衣のモンスター?が宙から地面に降り、魔族の老人もよろけつつ立ち上がって、少年と老人が再び取り囲まれた。と、

 

「グエン、伏せてろ!」

 後ろでクロコダインの声がして、言われた通りにその場に伏せた。

 見るとクロコダインはどこからか持ってきた大岩を抱えており、わたしの見ている前でそれを、窪地に向かってぶん投げるところだった。

 

 ドオオォン!!

 

 大音響とともに大岩が、数十体の敵を押し潰す。

 

「だっ…誰じゃっ!!?

 こ…こんなとんでもないマネをするやつはあっ…!?」

 魔族の老人が唾を飛ばしながら叫ぶ。

 同情する気は一切ないけど気持ちはよく判ります。

 

「オレだッ!!!」

 雄々しく高らかに叫ぶ声に、今度こそ全員がこちらを振り返った。

 登り始める朝日を背にし、クロコダインが窪地に飛び降りる。

 

「貴様らごとき雑兵に、この獣王が倒せるかあっ!!!!」

 その脚が再び地面を踏むより先に、振り回した戦斧の一閃だけで、大半の敵が吹っ飛んだ。

 

「クロコダイン!生きて…生きてたんだね!」

「フフフッ、見ての通りよ。

 …グエン、降りてこい。こいつがダイだ!」

 なるほど、この少年が勇者ダイか。

 そんな気はしていたけど、思っていた以上に幼い。

 一緒に生活していた頃のラーハルトより背も低いし。

 その勇者、クロコダインに呼びかけられたわたしが駆け寄ると、ちょっとキョトンとした顔をした。

 それからすぐに、その顔が引き締まる。

 

「そうだ、ポップとマァムが危ないんだ!!

 ハドラーが…!!」

 ハドラー!?かつての魔王が直々にここに!?

 大丈夫かな、ヒュンケル。

 

「…大丈夫。

 あっちにも、強力な味方が向かってるわ」

 …けど、とりあえずわたしは、その子に向かって笑いかけた。

 クロコダインも頷く。

 

「その男は…オレより強い!!」

 クロコダインの言葉に、ダイがまた驚いた顔をした。

 

「えっ!?ま…まさか…!?」

 その瞬間。

 反対側の塔が崩れ、地響きが足元に伝わってきた。

 

「やったな…ヒュンケル…!」

 あとはここの塔を破壊すれば、結界は消える。

 

「勇者ダイ!

 ここの塔の破壊はクロコダインに任せて!」

 当初のこちらの計画通り、勇者パーティーには一刻も早くベストメンバーで集結してもらうべく先を急がせる。

 

「そうだ、おまえは先に中央塔へ急ぐんだ!!

 それと、こいつを連れて行け!」

「うんっ!!!!」

 こだわりなく返事をした小さな手が、わたしの手を掴んだ。

 

「え?」

 そのまま、クロコダインの手がダイの身体を、ポーンと放り投げるように振られた。

 

「フレイザードをぶちのめしてやれ!!!!」

 勇者が飛び出していく。

 …わたしの手を、しっかり掴んだまま。

 

 

「で、お姉さんは誰?」

 まだ結界が残っていて少し負荷がかかる足をそれでも走らせながら、勇者ダイがわたしを見上げて問う。

 

「わ、わたしはグエン。旅の尼僧よ。

 クロコダインとは…えと、と、友達?」

 手を掴まれているので自分も走るしかなく、息を切らせながらわたしは答える。

 自分でも相当に適当言ったなと思うような言葉で。

 なのに。

 

「そうなんだ!おれはダイ!よろしくねグエン!!」

 …ええええっ!!ちょっと待ってそれでいいの!?

 クロコダインから聞いた話以上に、こだわりのない対応をされて驚きながら、わたしは勇者に手を取られたまま走り続けた。




ようやく原作に関われたと思ったらいきなりフレイザード戦からという無理ゲー。
とりあえず「炎魔塔」「氷魔塔」の名称を、助っ人達が知ってる理由を思いつけなかったので、ちょっとその辺の台詞だけ変えてあります。

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