DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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ここから新章になりますが、まあ主人公と副主人公の立ち位置は変わりません。
タイトルの付け方の傾向が変化するだけでしょうか(爆


広がりゆく波紋
1・小石たちは密談する


 …目が覚めたら、酒呑みのオッサン臭のするベッドの上にいた。

 昨夜はどうやらロン先生のうちに泊まってしまったらしい。

 ここにはベッドがこれひとつしかないので、あたしが泊まり込みになる時は大抵先生と背中合わせで、互いに一枚ずつの毛布にくるまって寝ているのだけど(あたしが年頃になる前に、この状況は改善しなければと思ってはいる)、あたしがど真ん中にしかも毛布をかけられた状態で寝ていたところを見ると、先生は昨夜はベッドを使わなかったようだ。

 なんか、ロン先生と初めて会った日の事を思い出すな、などとぼんやり思いながら、もそもそと毛布から這い出る。

 顔を洗うため、置いてある自分のタオルを手に取り、なにげに覗いた先生のひげ剃りの時に使う鏡の中に、顔パンパンに腫らしたすっげえブサイクな女の子がいた。

 あーうん、泣いたまんま寝たからって事だよねくっそ腹立つ自慢の可愛い顔が台無しだわすいません調子こきました。

 一応、ミスランカークス村とか祭り企画で開催されたら2位は確実に取れるけど。

 だって村で若い未婚女性ってあたしとジンジャーの2人だけであとは既婚者と幼女だけだからな!

 …止そう。虚しくなってきた。

 とりあえずこの顔をなんとかする為、冷たい水で顔を洗うべく井戸へ向かう。

 

『タラララッタッタッターン!

【みやぶる】が若干レベルアップしましたー!!

 これによりご自分の情報も見られますから、早速やってみましょう!

 

 名前【リリィ】

 種族:にんげん

 職業:ぶきやのむすめ

 LV:19

 最大HP:90

 最大MP:0

 

 装備

 ぬののふく

 魔弾銃

 

 特技

 みる

 たからのにおい

 あなほり

 たかのめ

 みやぶる

 錬金

 時空扉

 異界扉(但し、グエンとの共闘時のみ)

 どうぐぶくろ

 即死及び行動不能系攻撃完全耐性

 状態維持

 状態改善

 

 ……ってところです。

 どうやら以前、ハドラーの黒の核晶(コア)を、接触によりある程度安定させたのは、【状態改善】の能力だったみたいですねぇ〜』

 ….なに勝手にひとの能力晒してるんだ。

 いやいやそれよりもその前の、【即死及び行動不能系攻撃完全耐性】ってのは何?

 

『そのまんまだと思いますよぉ〜。

 リリィさんは、ザキ系呪文とかマヒ攻撃とかが、普通に効かない体質みたいです。

 試してみないとなんとも言えませんけど、恐らくメガンテとか受けても平気でしょうね』

 マジか!いや試してみたくないけど!

 てゆーかそれ、『体質』で片付けていい問題なの!?

 

『他の能力と違って下の3つは、常に作用してるいわば『パッシブスキル』みたいですから。

 それって既に体質なんじゃないかと』

 はあそうですか。

 てゆーか行動不能系攻撃って、なんかひとつ引っかかるものが…ああそうだよ!

 大魔王バーン様の能力に、『瞳』ってやつがあったよな確か!!

 戦うに値しない実力のやつは宝玉に変えられて、まさに行動不能になるやつ。

 その理屈だとあたし、あの場に足を踏み入れた場合、絶対に『瞳』にはされず、最後まで立っていられるってわけだな!なんてチート!!

 

 

 ………………

 ………………………………

 ……………………………………………………。

 

 

 

 ところで現実を見てくれ。こいつをどう思う?

『すごく………厳しいです』

 

 そうだよね!!

 そもそも『リリィ』のスペックでは、その展開に突入する可能性すら万に一つもない上、たとえなんかの間違いでその状況に立たされて最後まで残っていられたところで、ただの村娘になにができるっつーんだ!

 てゆーか、あの戦いで戦闘不能以外での戦線離脱って死ぬ以外なくない?

 あれ、殺さないという弱者へのめっちゃ嫌味な慈悲って事だと思うけど、この場合無駄なチート能力が、そのまんま死への一本道じゃねえか!

 何という宝の持ち腐れ!!

 

「おはよう」

 あたしが脳内でこれを与えてくれたであろう神様に向けて激しく絶賛ツッコミを入れていると、背中にセクシーかつ渋い声がかかった。

 振り返ると予想通り、背の高い黒髪の男性。

 

「…おはようございます、バラン様」

 …朝一番に挨拶を交わす相手が友達のお父さんとか、考えるとあんまりない状況だよね。

 そんなしょうもない事を考えつつ、あたしがかなり見上げながら挨拶をすると、バランは一瞬凄く微妙な表情をして、それから大きな手を、何故かあたしの目を覆うようにして触れた。

 何か、ぽわんと温かい感覚が生じる。

 あれ……なんかデジャヴ。

 

「回復呪文……?」

「そうだ。もう少しじっとしていなさい」

 …あたしが過去にそれを受けたのは、前世を思い出したあの日、アバン様が顔の傷を治療してくれたあの時だけだ。

 今のはそれと同じ効果のものだろう。

 受けた感触は微妙に違う気がするが、魔力の質の個人差の範囲じゃないかと思う。

 例の5日間の修業期間中に、クロコダインが魔弾銃(まだんガン)のベホマをグエンさんの呪文だと言い当てた事を彼女に伝えた時、『何だかんだであのひとが一番、わたしの回復呪文を受けているからかしらね』と笑って空いた弾丸にまたベホマをつめてくれながら、そんな話をしてくれていた。

 ちなみにレオナ姫のベホマは受けた時、回復と同時にシャッキリ背筋が伸びる感じらしいが、マァムのベホイミは逆に力が程よく抜けてホッとするそうだ。

 グエンさんのは?と聞いたら、こういうのは自分では判らないらしく首を捻っていたので、今度クロコダインに聞いてみようと思う。

 あたしが受けた感じでは、アバン様のホイミはマァムタイプで、バランのはレオナ姫タイプに近いかもしれない。

 今は顔の腫れぼったさが抜けたと同時に、スキッと目が覚める感じがする。

 

「これでいい。

 こんな事に使うものではないが、泣き腫らしたままでは可愛らしい顔が勿体無いからな。

 よく眠れたか?」

「は、はい」

 ふ、ふふん、この正直者め。

 一瞬ドキッとなんかしてないからな。

 考え事をしている時にそれは反則だろう。

 てゆーかあのブッサイクな顔見られたんだと今更気付いて、覚えず顔が上気する。

 それはそれとして、あたしが起きた時、小屋の中に誰もいなかったんだけど……、

 

「…あの、うちの先生は?」

「ここだ、リリィ。

『ヘパイストスの火種』が足りなくなって採りに出かけていた。

 ……悪いが、少し寝かせてもらうぞ。

 この男がうるさい事を言うせいで、ゆうべは満足に睡眠が取れていないからな」

「ひとのせいにするな。

 若いお嬢さんが眠っている横に、無神経にも入っていこうとするから止めただけだろう」

「ここはオレの家だ。

 オレが自分のベッドで寝るのに、なんで文句を言われなければならん。

 オレもこいつも寝相は悪くないから、毛布さえ別に与えておけば互いに邪魔にもならんというのに」

「そういう問題ではない!」

 ……うん。よくは判らないが、この二人、なんか仲良くなったみたいだな!

 男同士の和気藹々とした交流に水を差す事はすまいと、あたしは小屋の中に戻って、適当に朝ごはんの支度をする。

 二人分のトレーを揃え、片方に乾かないように覆いをかけたところで、外からドアが開けられて、大人二人が入ってきた。

 

「ロン先生。あたし一旦家に帰ります」

「そうするといい。

 ジャンクのやつには昨夜のうちに、ここにいると伝えておいたから、心配はしていないと思うが」

「ありがとうございます。後でまた」

 先生がベッドに横になって毛布にくるまった後、バランに食事をとるよう勧め、ついでにもう片方のトレーの分を、先生が起きたら食べてもらってと言い残して、あたしは時空扉を出した。

 バランが居てくれたら、万が一死神がまた、先生を狙ってきたとしても、なんとか対処してくれるだろう。

 もっともこれはあくまでも勘だが、ロン先生を狙ったのもキルバーン的に、あたしへの嫌がらせの一環である気がする。

 恐らくはあたしの居ない隙に、先生をどうこうしようとはしないのではないか。

 

 ……あたしも今は、先生やバランから離れて、考えたいこともあったし。

 

 ……………………

 

「おかえりなさい、リリィ。待っていたわ」

 …だから、帰宅したうちの店の前で、マントのフードを被ったグエンさんにいきなり声をかけられて、驚きのあまり変な声が出たのは、乙女としてはあるまじき姿だが、状況的には当然のことだと思ってほしい。

 

「あなたと二人きりで話がしたいのだけれど。

 ちゃんと送り届けるから、付き合ってもらえないかしら?」

 

 ☆☆☆

 

 ルーラで連れてこられたのは、大きな湖の中央にある小島、そこに建てられた祠だった。

 

「ここは、テラン……ですか?」

「そう。(ドラゴン)の騎士の伝説が色濃く残る神秘の国ね。

 まあ、ここに来た事に特に意味はないわ。

 二人きりで話ができて、恐らくは知り合いが来ないであろう場所というチョイス以外にはね」

「それで……話とは?」

「…本題に入る前に、昨日はちゃんと守れなくて、ごめんなさい」

 は?………いやいやいや!

 死の大地の話なら、あたしが迂闊にも巻き込まれに行っちゃっただけですし!

 死神の件に至っては、クロコダインとグエンさんはあたしを探しに来てくれて巻き込まれたんですから、逆に被害者じゃないですか!

 的な事を、気にしなくていいという意図を込めて言ったら、

 

「けど、最初にあなたを戦場に連れ出したのはわたしよ。

 あなたが眠ってしまった後、改めてロンに叱られたわ。

『あいつの突発的な行動含めて、責任が持てないなら二度と連れ出すな』ですって。

 正直、今こうしてあなたをここに連れてきている事も、彼が知ったら激怒するでしょうね」

 …先生、そんな事言ってたのか。

 好きな女性に厳しいこと言わなきゃならない状況作ってほんとごめんなさい。

 あと、シュンとしてるグエンさんとかちょっと新鮮だけど、女性にこんな顔をさせてはいけないと思う。

 

「…ここのところ色々あったもんで、過保護なだけだと思うんですが、うちの師匠がホントすいません。

 後でフォローはしておきますんで、気にしないでください」

「……ありがとう。あなたは優しいわね」

 なんて言われて、綺麗な顔で微笑まれた。

 ごちそうさまです。

 

「…フェンブレンは幸せだったと思うわよ。

 自分の死に、あなたが泣いてくれて。

 …けど、正直卑怯だと思うわ」

「えっ……?」

 そしてグエンさんは、その綺麗な微笑みを浮かべたまま、唐突に言った。

 その言葉に思わず目を瞠る。

 

「だってそうでしょう?

 自分を守る為に命を落としたと思ったら、あなたがその死に責任を感じるのも当たり前だし…アイツのあれは明らかに、それ狙った上での行動だもの。

 ………冗談じゃないわ。

 それで心が縛れると思ったら大間違いよ。

 死んで守るくらいなら生きて守れっての。

 ……だから、あなたが必要以上に気に病むこともないの。

 忘れたほうが楽なら、忘れてしまっていいのよ」

「……それはあなた自身が、同じ感情に縛られていると、感じているからですか?」

 勝手に展開された『みやぶる』で表示されたプロフィールを参照するまでもなく…というか個人の感情的なものはプロフィールには出てこないけど、これまでに聞かされてきたラーハルトとの関係や鎧の魔槍を使うことになった経緯を考えると、彼女の抱えてるものもある程度推測できる。

 …てゆーか、表示された情報の中にひとつ、本人も知らないだろう結構ショッキングな事実があったんだが、ぶっちゃけかなりどうでもいい情報ではあるし、むしろ知ってしまったら自身の存在に絶望する可能性すらあるので、その事実はあたしの中に、永遠に秘匿することにする。

 

「………やっぱり、お見通しなのね。

 ラーハルトは、残された最後の力を、わたしを助ける為に使って、そして死んだわ。

 あの時、わたしがもっと強ければ…いいえ、彼と会った頃の13歳のわたしに、彼を守れる力があれば、彼を死なせる事はなかった。

 …そうやって後悔すると同時に、思うのよ。

 あの野郎、わたしに絶対に自分を忘れさせない、ある種の呪いを置いていきやがったって。

 …そんな事しなくても、忘れてなんかやらないのに」

 そう言ったグエンさんは、とても切ない表情をしていた。

 …多分だけど、このひとはこの件については、思い出しても二度と泣く事はないと思う。

 その時に、これ以上泣けないくらい泣いただろうことが、わかってしまったから。

 けど、そんな哀しい顔をしていても…いや、だからこそグエンさんは、たとえようもなく……綺麗だった。

 

「…それで、ここからが本題なのだけど」

「今の話、普通に本題だと思ってましたけどね!?」

 …うん、やっぱりこのひとは残念だ。

 

 まあでも、ラーハルトはこの先生き返ってくるから、そうしたらもう二度と、こんな哀しい顔はしなくて済むだろう。

 そうなると、うちの先生やクロコダインとの水面下での三つ巴で、若干気苦労を抱える事にはなりそうだけど。

 …………いや、ならないか?

 なんかこのひと、自分に対する敵意以外の関心に無頓着ぽいし。

 

 ・・・

 

 ほんとにそれはさておき。

 グエンさんの話は、バランについての事だった。

 

「相手の思惑に乗るのは不本意だけど、これ以上の被害を出さない為にも、死の大地へは、やはりわたし達勇者パーティーで乗り込む事になるわ。

 わたしとしては、同じ目的を持つというのであれば、バランとは共闘すべきだと思うのだけど…あなたの意見はどう?」

「………なんであたし?」

「一番客観的な意見が聞ける気がしたから?」

「客観的になるかは判らないですよ?

 あたしも一応、勇者パーティーに血縁者がいるわけですし?

 …言わせていただければ、最終的に共闘という形をとるのは賛成です。

 けど状況的に、今回は不可能だと思います」

「それは……何故?」

「バラン様の剣が、メンテ中で使えませんから。

 うちの先生は、一度引き受けた仕事を、戦いの為に途中で中断して剣を返すとか、絶対しないと思いますし。

 まさかハドラーや親衛騎団相手に、彼を丸腰で戦わせる気ではないでしょう?」

「あー……言われてみればそうだったわ。

 つまりあなたの意見としては『時期を待て』という事ね。わかった」

 …何故あたしの意見が必要なのかは、納得する答えは得られなかったが、グエンさんの中では割と重要なんだという事だけはわかった。

 

「…ちなみに、バラン様の事はあちらにはどのように?」

「ああ、それね。

 クロコダインとも相談して、バランと会った事はダイやみんなにはまだ伝えていないの。

 あそこで死神に襲撃された事は話したけど、あれだって追い払ってくれたのはフェンブレンだし、嘘は言わなくて済む分、隠すのも楽だったわ。

 そこもあなたの意見を聞いた上で、どうするか考えたかったのよ」

「……何となくだけど、そんな気がしていました」

 もしもバランの存在をヒュンケルさんが知れば、原作通りの展開になる可能性が高い。

 もっとも場所が死の大地でない以上、一騎打ちにアルビナスが乱入する事は無いだろうから、あれほど酷い事態にはならないと思うけど。

 この人がそれを知るはずもないにせよ、言わずにおいてくれて助かった。

 

「けどそれ、よくクロコダインが承知しましたね?

 あのひと隠し事とか、メッチャ苦手そうな気がするんですけど」

「大丈夫、約束は守る男だから。

 わたしがいいと言うまでにもし誰かに言ったら、二度と口きかないって脅してきたし」

 地味にヒドイ。

 クロコダインの気持ちを考えたらいたたまれない。

 

「あと、リリィの言うことならバランは聞くんじゃないかって言ったら、あっさり納得してくれたわ」

 なんでだよ!

 

 ・・・

 

「さてと。そろそろ戻らなくちゃね。

 こっちも、みんなが起きてきたら作戦会議と言っていたから、それまでに情報を整理しておかないと。

 黙って出てきたから、いなかった事に気付かれたら、またヒュンケルにお説教されちゃうわ。

 …送るのはお家の前でいい?」

「……グエンさん、お願いがあるんですが」

 あたしの力だけじゃどうにもならない事でも、もしかしたら、このひとが居れば。




リリィが見た、グエン自身が知らない『ショッキングな事実』については、グエン編8話、リリィ編25話にヒントがありますのでそこから推測してください。
今後この事実については、これ以上の事を言及する事はありません。
リリィが言うように『どうでもいい情報』なので。
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