DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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15・武器屋の娘は叩き起こす

「…言葉を交わせば、わかりあえる…か。

 かつては青臭い小娘の戯言としか思えず、夢物語と切り捨てたものだが…」

「え?」

 何か、遠くを見るような目をしながら呟いたバランに、思わず問い返す。

 

「……グエナヴィアだ。

 初めて出会った時の彼女は、今の君と同じくらいの年齢だった」

 グエナヴィアというのは、グエンさんの事だろう。

 そういえば、バランはグエンさんの『一応は』命の恩人なのだと、5日間の修業期間に話してくれていた。

 その時はあたしがまだバランと直接面識がなかったから、そうなのかーとしか思わなかったが。

 

「共に暮らしていた少年とともに、人間たちに害されそうになっていたのを、偶然私が通りかかって、助けることができた。

 だが、魔族の血ゆえにそれまでもずっと迫害を受けていたにもかかわらず、それでも尚、人間を信じるという彼女を、私は理解できなかった。

 …正直なことを言えば、気持ちの悪い生き物のようにすら見えていた。

 一緒にいた少年が、同じ経緯で人間を憎んでいたから、余計にな。

 …あの時は、考えが違うゆえ仕方ないと思っていたが、結果として私は、2人を引き裂いてしまった。

 あの子はグエナヴィアを慕っていたのに、その相手と最後には殺し合いをさせてしまった」

「…鎧の魔槍の、もとの持ち主の方ですよね?」

 実際には、ラーハルトと戦ったのはヒュンケルの筈だけど。

 けど、その件については、ハドラーの黒の核晶(コア)の事を話した時、グエンさん自身も言っていたか。

 その場に、敵対する立場で立っていたなら、自分が手を下したのと同等の責任があると。

 

『……わたし達は、ハドラーを倒す。

 その事について、あなたに否やを問う気はないわ。

 けど…それをここで見ていて、本当に大丈夫…?

 ここで見届けるという事は、間接的に彼の死に関わる事になるの。

 たとえ、あなたがそれを望まなくても』

 グエンさんは、()()()()()()()()、あたしが抱える事を心配してくれていた。

 彼女は、ずっと抱えてきたのだと思う。

 かの人の形見である鎧の魔槍を手に戦うたびに、その死の責任を、己の心に刻みつけて。

 

『後悔すると同時に、思うのよ。

 あの野郎、わたしに絶対に自分を忘れさせない、ある種の呪いを置いていきやがったって。

 …そんな事しなくても、忘れてなんかやらないのに』

 恐らくは、失ってから気づいたというよりは、失った事でその存在が大きくなったのだろう。

 どちらにしろ今のグエンさんの心にいるのは、間違いなくラーハルトだ。

 ……グエンさん自身が気付いているかどうかはさておき。

 

「彼女から聞いていたか?その通りだ。

 魔槍(あれ)は大魔王バーンの誘いを受けた際に、近付きの印の贈り物と言って下賜されたものだったが、私には必要なかったのであの子に…ラーハルトに与えた。

 …今となっては、はらわたが煮えくりかえる思いだ。

 それもこれも、奴の掌の上で踊らされた結果だと思うとな」

「………は?」

「バーンが言っていたのだ。

 アルキードの家臣に私が人間ではないという情報を与えたのは、その者に乗り移った魔王軍のシャドーだと。

 シャドーとは、負の思念の塊のモンスター。

 恐らくは情報とともに疑いや妬み、憎しみの念も同時に、その者の中に置いていったのだろう。

 それが周囲に少しずつ伝播し、増幅されて、本人たちすら気付かぬうちに、彼らは私を恐れ、憎むよう誘導された…。

 どちらにしろアルキードを、ひいてはその民たちを、怒りに任せて滅ぼしたのがこの私だというのは、変えようもない事実だがな…」

 そして、ここに来てようやくバランに、人間に対して『申し訳なかった』という感情が見て取れて、あたしは密かにホッとした。

 他人の痛みを知れ、などと言うつもりはないが、せめて自分が手をあげた相手の痛みを知ること。

 それこそが彼が『人間』として生きていくのに必要な事だから。

 これまでの彼にとって、『人間』とは憎む対象である以前に、自分よりも下位の生物であるという意識が根底にあったはずだ。

 人間が、生活に害を与える獣やモンスターを駆除する事に抵抗を覚えないように、彼が滅ぼしてきた国の人々の命など、駆除対象の害獣に対する感覚でしかなかった。

 それが…少しずつ、変わってきている。

 こうして、『人間』と言葉を交わす事で。

 それはバランにとっては、決して嬉しいことではないのだろうけれど。

 

「…更に魔王軍として、カールとリンガイアの二国もだ。

 本当に、私は生きていていいのか。

 本来ならこの命をもって、償わねばならないのではないか…?」

「残念ながら今のあなたの命ひとつに、死んで罪が贖えるほどの価値なんかありゃしませんから」

「うっ……!」

 ただ、自戒し過ぎてそっち方面に思考が行っちゃうから、そこはいちいち修正していかなければいけないけど。

 厳しいことを言うようだが、今のバランには殺す価値すらないのだ。

 

「……もっとも、裁きを下す権利があるのはあたしじゃないですけどね」

 テラン王もそうだが、バランには会って話をせねばならない人がたくさんいる。

 けど時間は有限なので、優先順位をはっきりさせておかなければならないだろう。

 

 ・・・

 

 バランを連れて先生のうちに行くと(宿に食事代だけでも払おうと思ったら、宿の奥さんに不要と言われた。なんでも行き倒れの旅人を助ける場合に備えて、ベンガーナの宿屋協会から支援金が出ているのだそうで、日数制限はあるがこういう場合は宿も食事も無料で提供するのが決まりなんだそうだ。でもあたしの分は?と聞いたら『お手伝いしてくれた息子のお友達にご飯を食べさせるのは私生活の範囲内でしょ?』だってさ)、父も来ていて作業を手伝っており、夜中遅くに大魔王からの呪法によるメッセージが主要各国の指導者の近くの鏡に配信された、という情報が入ってきていたと教えてくれた。

『勇者一味(パーティー)全滅及び地上世界の終わりを祝して、裏切り者の軍団長2名、並びに勇者一味(パーティー)の女僧侶の処刑を行う』と。

 日時は明後日の正午、場所はカール王国北の山脈地帯。

 

「…グエナヴィアはやはり、捕らえられていたか。

 あの状況では、私にダイを託して逃す以上の事が、彼女にできたとも思えないからな。

 生きていてくれたことだけは何よりだが…この処刑宣告は私やダイを誘き寄せる為の罠だろう。

 私が人間になってしまったことをバーンは知らぬだろうし、瀕死ながらもダイがあの場を逃れていることも、大魔王の懸念材料であろうからな」

 だが、たとえ救出に向かったところで、今の彼には何もできない。

 せめて自分が満足に戦えれば、とバランがあたしの隣で歯噛みした。

 

「言ったろう。あの女はこいつと同様、自分のことが二の次になる傾向があると。

 もっとも勇者(ダイ)を生かすことは、勇者パーティーの最重要事項だから、その原則に従ったまでなのだろうがな」

 バランに答えるロン先生が舌打ちしながら、何故かあたしの頭をポンポン叩いた。

 それを父がなんとも言えない目で見ながら、『だから、うちの娘に気安く触んなといつも…』とぶつぶつ言ってるのは聞かなかったことにする。

 あと隣でバランが『…娘というのは、息子とはまた違う意味で心配なものなのだろうな』と呟いたのも、敢えて。

 

「…オレは武器を全部仕上げたら、奴らのところへ届けに行く。

 半数以上持ち主不在じゃいささかやる気が削がれるがな」

 その父の視線に気づいているのかいないのか、ロン先生は溜め息をつきつつそう言う。

 やる気が削がれると言ってる割には、結構意気込んでる気がするけど。

 

「あ、ならあたし送って行きますよ?

 ちょうど用事もある事ですし、兄にも会いたいので。

 ちょっとその前に別の用事を済ませてきますが、それまでには戻ってきます。

 あ、父さんはしっかりロン先生の助手を務めるように。

 じゃ行きますよ、バラン様」

 あたしの言葉に『どこ行くんだ』となんか焦ったように言う父にひらひら手を振って、バランの手を引いて先生の小屋を出たら、

 

「うちの娘が冷たい!!!!」

 という叫び声が聞こえた。うん多分気のせいだ。

 

 ☆☆☆

 

「ここは…奇跡の泉!?

 テラン王に会いに行くのではなかったのか?」

 先生の小屋の外で時空扉を出し、移動した先の場所を見渡して、バランが戸惑ったような声をあげた。

 その顔を見上げて、首を横に振る。

 

「それは後でもいいでしょう。

 大体、なんの伝手もない武器屋の娘とレベル1の勇者が、ただ王宮に出向いて王様に会わせて欲しいと言ったところで、門前払い食らうだけでしょうから。

 それよりも、あなたが戦えないのですから、かわりに戦える人を呼んでこようと思いまして。

 うちの先生としても、実際に武器を使う人が1人でも目の前にいれば、イメージもやる気も湧くでしょうし」

「…戦える、人?」

「多分、そろそろ目を覚ますと思いますが。

 安置した場所は、あなたが知っていますよね?」

「……まさか、それは」

「てゆーか、起きてなければ叩き起こすまでです」

「いや物騒だな!」

 

 ・・・

 

 死の大地から採取してきた魔力の土と、爆弾石、ガマのあぶらで錬金した粘土状の爆薬に、赤魔晶を研磨した後にできた【赤魔晶の砂】を混ぜたものを、破壊力はなく音だけが派手になるよう調整して棺の周辺に配置する。

 

「…その、ここまでしなくてもいいのではないか?」

「演出です!

 寝起きドッキリはこれくらいじゃないと」

「意味がわからん!!」

 それは、早朝バズーカならぬ爆弾である。

 うまくいけばあたしが設定した合言葉(キーワード)により起爆する筈だが…

 

「おっはようございま〜す!!!!」

 

 ドゥン!

 ドウゥン!!

 ドッカァァン!!!

 

 …合言葉(キーワード)が正常に作動し、周囲の何も壊すことなく、爆発が無事終了した。

 物陰に潜んで様子を伺ってた弱いモンスター達が、一斉に逃げていったけど。

 うん、起爆実験も兼ねていたから、この方式で充分いける。

 だが、これは今作ったものだから問題ないけど持ち歩くものに関しては、合言葉(キーワード)は別に設定した方がいいかもしれない。

 何せ、練りこんでいる赤魔晶の砂はダイの剣を作った時に出た研磨した後のかけらで、本来なら捨てるしかないものであり、粒子が小さすぎて合言葉(キーワード)くらいしかインストールできない。

 結構容量を食うマスター登録がそれ故に不可能で、使用者の限定ができない以上、この世界にある言葉では、ちょっとした会話で誤爆する可能性がある。

 …だが、まあその事は今はいい。

 

「……………え?誰、だ?…人間の、娘…?」

 棺の蓋を押し上げて起き上がってきた魔族の青年は、側に立ったあたしの姿を目に留めて、起き抜けの目を瞬かせた。

 あたしの好みではないが結構なイケメンのその青年が、陸戦騎ラーハルトであることは間違いないだろう。

 ちなみに、彼の入っていたものの他に2つ棺が側にあったが、そのどちらも内側から蓋が開くことはなかった。

 やはり原作通り、(ドラゴン)の血により蘇る事ができたのは彼だけのようだ。

 

「はじめまして、ラーハルト様。

 あたしはランカークス村の武器屋の娘で、リリィと申します」

「…リリィ、だと?」

 声をかけて挨拶をすると、ラーハルトは何故かあたしの名前に食いついてきた。

 

「…あたしの名前が何か?」

「……オレの母と同じ名だ。

 正確にはヴァレリィで、リリィは愛称だったが」

「それはそれとして、目覚めた御気分はいかがですか?ラーハルト様」

 聞いてみれば割とどうでもいい話が出てきたので無視する事にする。

 

「自分から聞いといてオレの答えはスルーか!」

「申し訳ありませんが、あなたのお母さんの話とかあんま興味ないんで」

「いやだから自分から聞いたよな!?

 しかも結構言いにくい事はっきり言ったな!!

 …いや、そんな事より、何故オレの名を?」

「つっこめる元気があるなら大丈夫ですね!」

 ここまでの僅かな会話を交わしただけで、割とめんどくさそうな性格だと理解できたので、強引に大丈夫ということにした。

 念の為ひそかに『みやぶる』で、身体の状態に異常はない事は確認済みだ。

 

「…とりあえず詳細は、あなたのお腹の上の手紙にも書いてあるんだと思いますけど、それ書いた本人が居るからじかに説明させましょう。

 どうせ、『おまえがこれを読んでいる頃は、私はこの世にいないだろう』(低音イケボ)みたいな、厨二臭い台詞とかつらつら書いてあるんでしょうし」

 あたしの言葉で自分の腹に目をやり、反射的にそれを手に取ったラーハルトの指先から素早くそれを奪い取って、背後に控えていたバランに手渡す。

 

「本人的には黒歴史でしょうから、武士の情けで回収させていただきます。

 ……はい、後で御自分で抹消してくださいね」

「言っている意味は判らんが、褒められていない事だけは間違いなさそうだな。

 …というか何故判った」

 そりゃ原作知識がありますから。

 とは勿論言えないが、今は苦虫を噛み潰した表情を敢えて作っているバランが、それを渡した瞬間、明らかにホッとした顔をしたのをあたしは見逃してはいない。

 遺書のつもりの手紙なんて、そこそこ変なテンションで書いたに決まってるんだから、あとで内容を思い返したら、悶絶するに決まっているのだ。

 

「…バラン様!!」

 と、あたしの背後から現れたその男を、数秒じっと見つめていたラーハルトが、ようやく正体に気がついてその名を呼ぶ。

 うん、服装とかメッチャごく普通の村人だし、あたしにはよくわからないが多分戦士としての他者を圧倒する覇気なんかもなくなっているだろうから、目覚めてすぐのラーハルトがわからなくてもおかしくない…だろう多分。

 

「ラーハルト…私は、おまえに謝らねばならない。

 私の憎しみにおまえを巻き込んでしまった事、いつのまにか復讐の道具としておまえを扱ってしまっていた事、それにより愛する者と殺し合いをさせてしまった事を。

 …だが、おまえをもう一人の息子のように思っていたのも、本当の事だ。

 許してくれとは言えぬが…すまなかった!」

 そしてバランは、ラーハルトと顔を合わせて、その瞬間五体投地かってくらいに地面に頭をこすりつけた。

 

「え……………………………!?」

 その状況に急に理解がついてくるはずもなく、ラーハルトは数秒ほど、ぽかんと間抜けな表情をしたまま、足元に跪くバランを見下ろしていた。

 だがやがてはっと我に返ると、自分も膝をついてバランの肩に手をかけ、立ち上がらせようとする。

 

「いやその、顔をお上げくださいバラン様!

 お、おい人間の娘!この状況をどうにかしろ!」

「…あたしの名ならさっき名乗りましたけどね。

 覚えてませんか?魔族の男。

 ……さっき、アンタのお母さんとおんなじ名前だとか言ってたような気がするんだけど」

 あたしは途中から、ラーハルトに敬語を使うのをやめた。

 

「わ、わかった…リリィ。いやリリィさん。

 申し訳ないがなんとかしろ、くださいお願いします」

 うん、どうやら生き返ったばかりでしかも大好きなバラン様に土下座されて錯乱しているようだねラーハルト君♪

 

 ラーハルトが困っているのは別にいいとして、父親と同世代の男が土下座してる光景はやはり見るに耐えないので、バランには状況説明をさせるという名目で立ち上がってもらった。

 バランが人間になってしまったと聞かされ、最初はショックを受けていたラーハルトだったが、

 

「元々、魔王軍に対して忠誠の心などございません。

 オレはバラン様の部下であり、竜騎衆がひとりです。

 バラン様の後継の(ドラゴン)の騎士が、一子ディーノ様であれば、このラーハルト、一命をかけてお仕え致します。

 ディーノ様の理想実現の為ならば、神々にでも立ち向かいましょう」

 とかなんとか言って、戦えないバランの代わりにダイの味方として一緒に戦うことを承知してくれた。

 …うん、割とめんどくさそうな性格の男だと言ったことは訂正しよう。

 ラーハルトは、相当めんどくさい性格の男だ。

 

 ・・・

 

 ラーハルトを連れて時空扉で先生の小屋へ戻ったら、ちょうど鎧の魔槍の強化修復が終わったところだった。

 先生(とついでに父さん)にラーハルトを、それの本当の持ち主だと紹介したところ、先生はラーハルトをじっと見つめてから、不意に口を開いた。

 

「グエンの奴に頼まれて、仕込み剣をソードブレイカーにしたのだが、おまえ要るか?」

「要らん」

 即答だった。

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