DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち   作:大岡 ひじき

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前話、投稿後にラスト文章追加してます。
活動報告読んでない方は一応御確認ください。
まあ読まなくて困るほど大した情報はありませんが。


20・半魔の僧侶は闇堕ちする

 …目が覚めたら、父はもう居なかった。

 けど、頭を撫でてくれ、眠るまでこの身を包んでくれた腕の温もりは、まだ残ってる気がする。

 そして間違いなくこの身体に、父の記憶が、心が、宿っている。

 かつては、恐ろしい敵だった。

 憎んだこともあった。

 けど、その心の奥には、笑ってしまいそうなほど不器用な愛情があることを、今は知っている。

 

『…おまえの帰る場所を整えておくから、必ず……必ず、生きて戻ってこい。

 忘れるな、おまえはこの世界に、たった一人ではないのだ』

 今の父には、かつてあれほどに恐ろしいと感じた、(ドラゴン)の力も、魔族の魔力もない。

 共に戦うことは、もうできない。

 けど、共に居る。帰る場所に、居る。

 一人じゃないという言葉が、こんなにもしっくりくる事があったろうか。

 自分だけでなく、父の記憶をひっくり返しても、初めての感覚であるように思う。

 

 必ず、帰る。

 そして、人間だけでなく、この地上に生きる全ての民と共に生きる。

 その未来を、今日、勝ち取りに行く。

 

 勇者は、己の剣を手に取った。

 昨日の夜の父の温もりと同じ優しさを、その重みに感じて……

 

「……一緒に、戦おう。

 おれたちの世界を、守るために」

 そう声に出して背負った剣に、埋め込まれた宝玉がキラリと輝いたのが、見えていなくても何故か、わかった。

 

 ☆☆☆

 

 …時間は、一日半ほど遡る。

 

「……まだ生きとるか、ヒュンケルよ…」

 無駄に広い牢獄の中、磔のように鎖に繋がれた状態で、隣で同じように繋がれているクロコダインの、心配するような声がかけられた。

 その声に思ったより張りがある事に安心する。

 

「……ああ…」

 答えたオレの声も、自分で思ったほど弱ってはいない事に気がついたが、それが状況を良くするものではない事は勿論判っていた。

 

「…こんな無様な目に遭うのであれば、もっとヤワな身体に生まれていれば良かったわい。

 奴らはどうせオレたちを、囮か人質にでも使うつもりで、生かしているのだろう」

 そう、普通に考えていればあの状況で、オレたちは死んでいてもおかしくなかった。

 むしろ死ななかった事で、虜囚の辱めを受けている有様だ。

 この状態では眠ることも出来ぬゆえ、体力の回復もままならない。

 生かさず殺さず…こうして置く目的は明らかだ。

 

「ダイたちに迷惑をかけるぐらいなら、とっとと死んでしまった方がマシだったというものだ…!!」

「…冗談でも、そんな事は言うな」

 だが、クロコダインが嘆くように言った言葉を、オレは咄嗟に否定した。

 隣で息を呑む気配がするのに、言葉を続ける。

 

「…死に逃げる事を、グエンは絶対許してくれんぞ。

 オレとポップは、それで一発ぶん殴られた」

「グエンか…」

 正直、あの平手そのものに大したダメージは受けなかったものの、精神的にはかなりの衝撃を受けた。

 それまで軽視していた概念を、そこから叩き込まれたかのように。

 生命をかけて戦うことで、罪が赦されると無意識に信じていた、その浅はかさを弾き飛ばすように。

 

『あなたには、後悔することすら許されていない。

 罪を背負いながら、それでも生き足掻くしか。

 …だから、もう二度としないで。

 最後の最後まで、生きる事を諦めないで。

 死ぬ理由なんか…死に場所なんか、探さないで』

 涙を堪えながら胸ぐらを掴み、オレを睨みつけた彼女の、ある意味残酷な言葉が脳裡に蘇る。

 それは、あの女性(ひと)なりの心配の仕方だ。

 オレもクロコダインも、深い親愛の情を彼女から抱かれている自信はある。

 死ねば、彼女はきっと泣いてくれるだろうが、その前に怒る。絶対に。

 

「…まあ、死んでから殴りはせぬだろうが、オレ達の亡骸の前で悪態をつくくらいの事はするだろうな。

 殴られる前に、ひどく幼稚な罵倒を受けたが、あれもある意味衝撃的だった。

 死んでから、あの女性(ひと)の口からあれを言われると思うと、どうにも死にきれん気がする」

「どんな罵倒だったんだ、それは…」

 呆れたようなクロコダインの問いに、だが、答える事は出来なかった。

 瞬間、ただでさえ淀んだ牢獄の空気に、明らかに異質な、瘴気の匂いが混じったからだ。

 …それは、オレにとっては馴染んだ感覚だった。

 

「……ミストバーン!!!」

 だから、音もなく目の前に現れたその長い衣に、クロコダインは驚いたようだったが、オレはそれを冷静に見つめていられた。

 

「…おまえたちの処刑は、明後日の正午と決まった…!!

 ……だが…おまえたちほどの戦士は、やはり惜しいと、私は思う…。

 特にヒュンケル……おまえは、な…」

 …こいつはオレを殺したがっていた筈だ。

 自分が手をかけて育てたオレが魔王軍を裏切った事もさることながら、ヤツの持つ何らかの肉体の秘密がまだ何であるかは知らないが、それに一番近付いたのがオレである自覚だけはある。

 だから、今更命を助けたいと言い出した、こいつの言動に、オレが疑問を抱いたのは当然のことだ。

 ミストバーンはそんなオレの前に、一個のグラスを差し出す。

 地上では透明度の高いものが好まれて使われるが、魔界では装飾が無駄に細かく不透明なものが一般的で、これは間違いなく魔界仕様のものだろう。

 だが問題は、グラスではなくその中身。

 その小さな容量を無視して溢れ出すのは、液体ではなく煙のように見える、紛うことなき、ヤツの暗黒闘気だった。

 

「今からでも遅くはない。

 再びその身に暗黒闘気を受け入れ、私の配下に入れ…!

 このグラスを、呑み干すだけでいいのだ…」

 …以前、グエンが言っていた。

 オレの身の裡には、普通の人間ならば正気を保っていられないほどの、濃い魔気が(こご)っていると。

 オレが空裂斬をなかなか修得できなかったのは、オレの心が一時でも悪に染まったからではなく、その影響を抑えるのに少なくない割合で、光の闘気が常に消費されているからだろうとも。

 

『今は光の闘気が優位だからそれでもいいけれど、もし何かのきっかけでこのバランスが崩れ、暗黒闘気が優位になれば、あなたは人ではいられなくなるわ。

 人としての心も感情も消えた、闇の力だけの魔人と化す。

 それだけ危険なものを抱えている事は、よく覚えておいて』

 美しい眉を顰めながらそう言った彼女が懸念した事態に、今ここで直面しているということだろう。

 

「ふざけるなッ!!

 ヒュンケルがそんな誘いに……」

「……あの女僧侶は、既に堕ちたぞ」

 オレの代わりに言い返したクロコダインの言葉が、ヤツの衝撃的な一言で止まる。

 …ヤツは、今、なんと言った?

 

「…なっ……なにィッ!!?

 きっ、貴様ッ、グエンに何をしたァッ!!?」

 クロコダインの腕を拘束する枷の、鎖がガシャンと音を立てると同時に、小さな電撃のような光が弾ける。

 それは手首からある程度の衝撃を伝えると同時に、拘束している者から力を吸い取り、抵抗する力を奪うものだ。

 本来、この程度の鎖など容易く引き千切れる筈のクロコダインが、この拘束から抜け出せないでいるのはそれが原因だった。

 その様子を見て、ミストバーンが衣の下から、嘲笑うように言葉を返す。

 

「フフッ…最初はシャドーを取り憑かせて操るだけのつもりだったが、魂が思った以上に抵抗したのでな。

 その慈悲深い心とやらを利用して、抵抗により消されたシャドーの持つ負の念を、心に蓄積させてやったのだ。

 心が光に寄れば寄るほど、闇へと傾きやすくなるもの。

 お陰で何十体ものシャドーが犠牲となったが……暗黒の力に限界は無い!!」

「なっ……なんということだ……!!」

 …ハッタリである可能性は勿論ある。

 だが、嘘であるとも言い切れない。

 逆に、こういう時のミストバーンは、そのように口先だけの嘘で言いくるめるような真似はしないという、なんとも嫌な確信があった。

 

「……時間が欲しい。

 考えさせてくれ、ミストバーン」

 オレはそう言ってその場を収める。

 悔しいが、今のオレにできるのは時間稼ぎだけだ。

 

「フッ…良かろう。だが時間は明後日までだ。

 処刑される前までに決めなければ生命(いのち)はないぞ…」

 当たり前の事を言って、ミストバーンは現れた時と同じように、唐突に消えた。

 …オレのミストバーンへの返答が意外だったのだろう、クロコダインがこちらを睨む。

 

「ヒュンケル…貴様ッ……!!」

「…クロコダイン。

 もしもオレを…オレたちを友と思うなら、何が起こってもオレとグエンを信じてくれ…!!」

 言い訳は敢えてせず、オレはそれだけを告げ、クロコダインを黙らせた。

 

『あなたが闇に堕ちようとどんだけ頑張ったところで、わたしや他のみんなはそれを許さない。

 意地でもこっち側に引っ張り上げてやるから』

 そう言って、わざと悪そうな顔を作って笑った、あの日の彼女が心に浮かぶ。

 …オレたちとて同じだ。

 あなたが闇に堕ちようとしているならば、全力でこちらに引き戻してやる。

 たとえ、どんな手を使ってでも……!!

 

 ・・・

 

 それから、恐らくは一日半は経ったであろう頃。

 オレたちは縛されたまま、夜のうちに処刑の場へと引き出され、磔の状態で一晩、外に晒された。

 …やがて陽が昇り、太陽が真上に達するまで、あと数分。

 

 ☆☆☆

 

「では、御武運を…」

「…別に、戦いに行くわけではない」

「いいえ。

 ここから先は、あなたにとっての戦いです。

 もっとも、負けは想定しておりませんが」

 そう言って、空間に浮かぶ扉の向こうから手を振る少女は、こちらに向けてにんまりと笑ってみせる。

 …その微笑みに、気がつけば口から自然と言葉が出ていた。

 

「ここまで私を導いてくれた事に感謝する………母よ」

 その言葉に、彼女が目を瞠る。

 …確かに、言った自分でも驚いたが、同時にどこかで納得もしていた。

 

「………何ですって?」

「…私が、人間としては生まれたばかりだと言ったのは君だろう。

 その私を拾ってくれたのも、人としてあるべき道を教えてくれたのも、君だ。

 そう考えれば、私が君を母と慕うのは、不自然なことではないだろう?諦めるのだな。

 では、行ってくる……私の、小さな母上」

 言って、間近に見える貧相な城に向かって歩き出しながら、振り返らずに後ろに向けて手を振る。

 その背中の方から、

 

「産んだ覚えのない息子増えた!!」

 という叫び声が聞こえ、なんだかしてやった気分になって、思わず笑いがこみ上げた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 ……筈、だったのだが。

 

「…本来ならば貴殿は、竜の神を奉じる我が国が、全力でお守りし、また助力せねばならなかったお方。

 それが叶わず、貴殿を孤独な戦いへと向かわせたのは、このテランの国力が衰退した事も原因のひとつの筈。

 その後の、貴殿の身に起きた事も、さすればそれはワシの責任であろう。

 今からでも間に合うのであれば、是非とも我が国に、貴殿を守らせてほしい。

 幸い、ワシには家族はおらん。バラン殿。

 貴殿さえ良ければ、ワシは今すぐにでも、貴殿を我が子として迎え入れたいと思う。

 ……このテラン王国の、王子として。」

 カール女王の書状を携えて謁見の叶ったテラン王は、自分が謝罪に来たのだという事をうっかり忘れそうになるほど丁重に迎え入れてくれたばかりか、そのような過分な申し入れまでしてきた。

 確かに、この方の庇護を受け、ある程度の身分を保証してもらえと彼女は言ったが、それがまさか王の子になる事とまでは、いくらなんでも予想できなかった。

 だが、今の自分はただの人間であり、この国が崇める(ドラゴン)の騎士では、既にない。

 その自分に、これは過ぎた処遇ではないのだろうか。

 だがそれに対してテランの王は、穏やかな中にも強い意志を込めて言う。

 

「…これは、貴殿の御子息が無事に帰ってきた後、その行く末を考えても、必要な事なのだ。

 貴殿の悲劇を繰り返さぬ為、更に、過剰な戦闘力を持つ勇者の身柄を世界が取り合い、新たな争いを生まぬ為…果ては、これからの地上に生きる全ての民が、種族の枠を越え、共に平和への道を歩んでいく為の、最初の一歩として。

 精神主義、平和主義を掲げてきた我が国が、率先して取り組まねばならぬ案件であろう?」

 …そう言われてしまっては、固辞することも出来ない。

 

 …そうして、かつて人類の敵にまわった筈の『堕ちた勇者』は、その場でテランの法に則った養子縁組の手続きが為され、王族として迎え入れられる事となった。

 これは、地上の存亡を賭けた戦いが終わって、勇者が帰ってきてからでは、他国の横槍が入る可能性も、完全には否定できないからだった。

 

 ……………………リリィ。

 君の目には、いったいどこまで見えていた。

 こうなる事が、判っていたのか?

 

 バランは半ば呆然と事態が過ぎていくのを、どこか他人事のように感じながら、先ほど別れたばかりの少女(リリィ)に心で問いかけた。

 勿論、答えは返ってこなかったが、『息子』である自分は決して『母』には敵わないのだろうなと、漠然と感じてもいた。

 

 ☆☆☆

 

 …って、何を言い出すんだあのオッサンは。

 時空扉を閉じるのを一瞬忘れるくらい呆然として、背中を向けて手を振るその長身を見送りながら、あたしはその場に立ち尽くした。

 そこそこ懐かれてはいると思ってたけど、まさか親のように思われていたとは。

 いやまあ、冗談だとは思う…思いたい。

 多分、フェンブレンがあたしを母と呼んでいたのとも、また違う感覚(ニュアンス)である気がするし。

 思わず口から出てしまった叫びを誤魔化すように、慌てて時空扉を閉じたと同時に、背中に聞き慣れた声がかけられた。

 

「リリィ」

 振り返ると、ロン先生がなんか眉間にしわを寄せてそこに立っており、呼ばれるままに駆け寄ったら、目の前に大きな掌を出された。

 

「……出せ」

「何をです?」

「魔剣と、魔装棍(アーマードロッド)。オレが奴らに渡す。

 おまえはここに残るか、村に帰……」

「やです」

 ロン先生が言い終わるのを待たずに被せ気味に即答する。

 これだけは絶対に譲れない。

 

「……………理由を聞いていいか」

「この戦いに負ければ、どのみち地上は滅ぶのです。

 ならば、どこにいても変わりはありません」

 自分で聞いたくせにあたしの答えを聞いて、ロン先生は眉間のしわをますます深くした。

 

「村での戦闘とは、違うんだぞ」

「知ってます」

「……オレは、恐らく守ってやれない。

 おまえが危険な目に遭ったとしても」

 その声に、どこか悲痛な響きが混じったのは、あたしの気のせいだったろうか。

 ロン先生があたしを弟子としてというより、そろそろ娘のようにすら思ってくれているのは、なんとなく判っている。

 けど、だからこそ。

 …互いに目を合わせたまま、距離を詰める。

 出されたままの大きな掌を、両手で掴む。

 先生の目が、ハッとしたように瞠かれた。

 

「…ここまで来て、置いていかないでください。

 先生をこの戦いに、最初に引き込んだのはあたしですし、先生が負えない分の重みはあたしが背負うとも、その時言った筈です」

 この戦いには、先生にとって最大の危機が潜んでいる。

 それが判っていて、結果だけ待ってるなんてできない。

 そもそも、全てが終わった時、あたしにはその場にいて、やらなければならない事もある。

 …先生は手を掴まれたまま、あたしを睨み返していたが、やがてため息とともに、その眉間から力が抜けた。

 

「…とんでもない奴を弟子に取ったんだって事は、最初に判ってた事だったな。

 だったらひとつだけ、師匠としての命令だ。

 ………絶対に、死ぬな」

 ロン先生は唇に、呆れたような笑みを浮かべると、掴まれていた手を外して、逆に握り返してくれた。

 人間の感覚からすると冷たそうに見える青い色の大きな手は、兄や両親のそれと同じくらい、温かかった。

 

「何してる。もう出発するぞ」

 まるで計ったようなタイミングでラーハルトの声がかけられて、先生はあたしをひょいと抱き上げて、その声の方へと歩き出す。

 少し離れたところに居たノヴァとふと目が合い、微妙な顔をされたのには気付かないフリをした。

 

「…あの坊やと、何かあったのか?

 ゆうべ、参戦を申し出た時、やたらとオレに突っかかってきたが…」

 …と思ったら先生がいきなりぶっ込んできて、あたしは思わず咳き込んだ。

 

 ……なんか、多分だけどうちの先生、わかっててわざとやってる気がする。

 

 ☆☆☆

 

 ロロイの谷と呼ばれるそこは、カール王国北の山脈地帯にある、唯一の平野部分である。

 迷路のような山道をひたすら登った先に、ぽっかりと開いた窪地があり、そこにはこの為だけに設えたとは思えないくらいしっかりとした舞台に、そこに人間の男と巨躯のリザードマンが十字架に磔にされて、中央に据えられている。

 

 更にその周囲を鎧兵士達が取り囲んでおり、まあ要するに彼らを助けにくる者を待ち受けているであろう事が、一目で判る布陣である…のだが、確かこの2人だけではなく、グエンさんも捕らえられていた筈なのだが、彼女はここには据えられていないようだ。

 と、上空から降り注ぐ太陽の光を遮る、大きな影が周囲に落ちて、同時に機械の駆動音のようなのがどんどん近づいてきた。

 

「現れたわ…大魔宮(バーンパレス)!!!」

 フローラ女王が囁く間にもそれは降下してきて、巨大な鳥のような姿が、目視で確認できるあたりまで近づいたところで静止する。

 同時に、うるさいほど響いていていた駆動音が止まった。

 太陽は真上に昇っている。正午だ。

 ……どうやら大魔王バーンは、待ち合わせピッタリに来るタイプらしい。

 

「……正午だっ!!!」

 やけに張り切った声が舞台上に響き、上空に奪われていた視線を下へと戻すと、先ほどまでそこに居なかった筈の、長衣(ローブ)を身につけた2人の人物が、磔の2人の前に立っていた。

 ……え、2人?

 片方はミストバーンだけど、もう1人は…?

 

「…メルル。

 敵の軍勢は、あそこにいるだけ…?」

 フローラ女王が訊ねるのに、メルルが暫し黙った後、閉じていた目を開いて頷く。

 

「…はい。

 大魔宮(バーンパレス)の中には、恐ろしいほどの気配を感じますが、地上にいるのは鎧兵士が30…36体。

 そして魔影軍団の軍団長と恐らくはその側近…え?」

 そこまで言ったところで、メルルが言葉を止め、それから、己の能力で見えたものが信じられないといったように、ブルブルと身を震わせた。

 

「……そんな、まさか……!!」

 

 …あたしだって信じたくはない。だが事実だ。

 勝手に自動展開した『みやぶる』は、ミストバーンの隣にいる、それより僅かに小さめの長衣(ローブ)姿の人物の正体を、嘘偽りなく告げていた。

 

 

 名前:【グエナヴィア】

 

 レベル51

 最大HP:195

 最大MP:272

 

 職業:闇のシスター

 

 

 

 ……って、グエンさん!

 アンタいつの間にそんな厨二ちっくな転職してんの!!




確かドラクエⅥだと思うんだけど、『心清く優しいシスターに悪魔の魂を植えつけて妻にしようと企む』中ボスの話がありましたよね…。

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