DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
最初から絶対に鬱展開にはしないつもりではいたけど、こんな酷い話にするつもりもなかった。
そして長くなったのでこの酷い展開が次にも続く。
なんかほんとすまん。
………………
『ねえ、どうして頷いてくれないの?
わたしのこと、可哀想だと思ってるんでしょう?』
それは、駄目。
『知ってるわ。
あなたはこの世界に、希望を抱くと同時に、絶望している』
そんなこと、ない。
『だったら、どうして戦っているの?
戦っていないと、誰かの為に身体を張らないと、それに耐えられないからなんでしょう?』
違う、ちがう……チガ、ウ………
『もう、いいでしょう。そこをどいて。
この身体はもう、わたしのものよ』
ヤメ…………テ…………
☆☆☆
「……グエンさんですって?
彼女が、ミストバーンの側近として、あそこに居るというの!?」
「……何故かはわかりませんが、間違いありません」
エイミさんが問うのに対し、少し青ざめた顔でメルルは頷いた。
…あたしとメルルは、常人には見えない部分まで見通す力がある(のと、ポップの事が大好きである)という共通点があるが、それでいて恐らくは、見えているものはまるで違う。
あたしが目の前にあるものの詳細情報や、今起きている周辺の状況などを正確に見てとれるのに対し、メルルがその能力で受け取れる情報は、気配とか感知とかいう、どちらかというと漠然としたものだ。
だが、彼女はそこに加え、それが持つ未来の可能性をすら見てとれる。
そこだけは、あたしの『神の目』にも見えない領域だ。
あたし同様、物語に登場しないグエンさんという存在が、この場にどのような影響を及ぼすか…それがある程度見えるとすれば、この場では彼女だけである。
「けど、何か禍々しい気配がします…!
恐ろしい事態が起きてしまいそうな……!!」
胸の前で指を組んだ彼女の肩が震えていた。
☆☆☆
その場に音もなく降り立ったミストバーンは、磔のオレ達の前まで歩み寄ると、衣の内側に手を入れながら、オレに向かって問いかけた。
「…ヒュンケル。よもや忘れてはいまい。
このグラスの暗黒闘気を飲み干し、我が配下になるか否か…処刑までに決めろと言った事を…」
言いながら衣の中から取り出したのは、昨日も見せてきたグラスと、そこから立ち上る禍々しい気。
「…決めたのか?どうするのだ?」
問いながらも、オレがその選択をする事を、欠片も疑ってはいない。
…そして、オレの答えは……だがその答えを口にする前に、別の声がオレの言葉を遮った。
「その前にミストバーン様。羽虫がいるようですわ。
始末しに行ってもよろしいかしら?」
「………っ!!」
不審には思っていたのだ。
ここに現れたミストバーンの傍にもうひとりが、やけに近い距離に付き従っていた事。
そして、それが
「…ま………まさか」
クロコダインの目が、驚愕に
「……好きにするがいい」
オレの返答を遮られた事が少し気に障ったのだろう。
やや不機嫌そうなミストバーンの声が、それでもその言葉に是を与えた。
「ふふ。失礼いたします」
そんな不機嫌を気にも留めていないように、『彼女』は
同時に、被っていたフード付きのケープが脱ぎ捨てられて、それがやはりふわりと舞って地面に落ち、見慣れたプラチナブロンドの癖毛と、大きく尖った耳が現れる。
どうやら
裾は長いのに、上半身の露出がやけに大きいデザインのそれは、布を使う部分を確実に間違えているように思う。
そのむき出しの肩から伸びる白い手に、対照的な黒い気が集まり、それが長い、槍のような形を取った。
『彼女』は、舞台の一段下に降りると、その槍を何故か地面に突き刺す。
それから周囲の崖をぐるりと見渡して、歌うように声を発した。
「出ていらっしゃい、羽虫ちゃん達。
……わたしが相手をしてあげるわ」
それは恐らく、既にこの場に来ているであろう、仲間たちに向けて放たれた言葉なのだろう。
それは本来、彼女にとっても同様である筈の。だが。
「…さあ魔界より出でよ!地獄の
「やめろ……グエンッ!!!」
クロコダインの叫びが悲痛に響いたが、その呼びかけに彼女が答えることはなかった。
地面から無数の黒い稲妻が立ち昇り、それが蛇のように彼女の持つ槍に絡みつく。
それが全て槍の先端に集まって、火花を散らせる。
そして。
「ジゴスパーク!!!!」
槍の先から解き放たれた黒い稲妻は
…ミストバーンの配下の鎧兵士達の頭上に落ちて、数体のその鎧を、粉ごなにした。
「……………あら?」
……そう、恐らくグエンは、忘れていたのだ。
彼女の周囲、つまりはこの処刑場をぐるりと、鎧兵士が取り囲んでいた事を。
鎧というのは大体、金属でできており、電撃というのはおおよそ、近い場所の金属に引き寄せられるものだ。
ちなみにグエンが使う、今のような僅かな魔力を
彼女が言うには、旅の途中に立ち寄った各地の図書館のどこにでも、最低1冊は魔界文字で書かれた書物が置かれており、大抵は単なる魔界の伝承や物語の本だが、ごく稀にこういった技や、地上では目にすることのない呪文やその契約魔法陣の書き方などが記されたものもあったのだという。
「……もう、邪魔ね。まあいいわ。
グエンは砕けた鎧兵士の残骸に手をかざすと、恐らくはそこに宿っていたものであろう、黒い瘴気を、その手で受け止めて
どこか恍惚とした表情でそれを行なった彼女だったが、次の瞬間には大きく息を
「……足りないわ。もっと……もっと欲しい…」
ぞくりとするほど艶かしい仕草で、唇を舐める彼女の目が、2人で修業の為に滞在した村の宿屋で、サービスで提供された飲み物がアルコール入りであった事を知らずに飲んだ時の、記憶にあるとろんとした目と、重なった。
幾つかの壊れた鎧兵士から暗黒闘気を吸い終わると、一番近くにいたまだ無事だった鎧兵士の頭を掴む。
鎧兵士は僅かに抵抗したがすぐに動きを止め、それはバラバラの鎧のパーツとなった。
状況を察して襲いかかってくる鎧兵士を槍でいなし、次々に同じことを繰り返して、あっという間に地面に十数体分の鎧のパーツだけが転がる事態となる。
「アハハ、アーッハハハハハハッ!!」
……彼女は笑い上戸だっただろうかと、何故かこの場にそぐわないことを考えていたオレは、多分現実逃避気味だったに違いない。
ふと我に返って、辛うじて動かせる頭を動かして隣のクロコダインを見ると、ヤツはほとんど死んだ目になっていた。
気持ちはわかるが意識を保て。
☆☆☆
「……ある意味、恐ろしい事態だな」
眼下で展開される蹂躙劇と、誰とは言わないがその見るに耐えない醜態を見下ろしながら、ロン先生がぽつりと呟いた。
いやもう本当に。
とりあえず、むこうでちょっと困ったような顔してるメルルの方に移動して、傍で手でも握っててやろうと思ったら、何故か進行方向を、ラーハルトの槍の柄に阻まれて止められた。
「ちょ、これ邪魔……」
「…気になる事がある。
ロン・ベルク。こいつを借りるぞ」
「え?」
……そういえばこの状況、コイツのグエンさんへの執着思慕を考えたら、この場で一番取り乱していてもおかしくないだろうに、むしろ気味悪いくらい落ち着いてる。どういうこと?
「…ヤバイことになる前に逃げてこいよ」
「そんなヘマはせん。リリィ。来い」
ロン先生の許可を取って、ラーハルトはあたしを荷物のように肩に抱えて、ずかずか歩き出す。
「ちょ、あたしの意志に対する配慮は!?」
「そんなものはない」
「言い切ったコイツ!!」
そうして、ラーハルトはあたしを抱えたまま槍の長さを、処刑場の舞台のある地面まで伸ばして、その先端を打ちつけた。
さっきまでなら敵に見つかる恐れのある行動だが、今はグエンさんが暴れてるお陰で気付かれている様子はない。
もっとも、ここがあたし達を集める為に用意された舞台である事を考えれば、気付かれていようがいまいが同じことだが。
グエンさんは普通に気付いていたようだし。
それはともかくラーハルトが、あたしを片手に抱えて槍を握り、その長さを縮めて下に降りる。
彼だけなら飛び降りても怪我はしなかったのだろうが、さっきはああ言ったがどうやらあたしに、一応は配慮してくれたっぽい。
これが例えばヒムだったら普通に飛び降りてただろう。
「ここからなら、上から見るよりもずっと近い。
……リリィ。
もう一度しっかりと、グエナヴィアを見てみろ。
ここからおまえの目に見えるものは、上から見えたものと同じか?」
確かに遠くから見るよりは、より距離が近い方が、見える情報は詳細になるだろう。
けど、それだけだ。あたしの能力は単なる情報。
現状を打破する決め手になるものじゃない。
それでもラーハルトに言われるままグエンさんに焦点を合わせ、再び『みやぶる』を発動した。
…………え?
アタマの中で改めて詳細を説明し直してくれるオッサンの情報を聞き終えて、あたしはラーハルトの腕の中から、高い位置にある青い目を見上げる。
「…どうやら、オレの勘違いではなさそうだな」
「…アンタ、どうして気付いたの?
あたしの目ですら、二度見しなきゃ判らなかったのに…」
「一度だけ、旅の途中で立ち寄った旅人がオレの存在に驚いて落としてったワインを飲ませた事がある。
その時にああいう感じになったので、それ以来二度と飲ませなかったが」
「メッチャ酒癖悪いな!
てゆーか何?暗黒闘気、アルコール扱いなの!?」
「そっちはグエナヴィアの体質だろう。よく判らんが」
「体質で片付けていい問題!?」
自分のチートを棚に上げ、あたしは割と特大ブーメランなツッコミを入れた。
…けど、そうであるならば『あのひと』は絶対に、ラーハルト『だけは』傷つけることはない。
☆☆☆
「貴様、何をしている!」
ようやく状況を理解したらしいミストバーンが叱責の声を上げると、グエンはこちらに目を向け…何故か、とても嬉しそうに微笑んだ。
一瞬、彼女の姿が消え、次の瞬間にはミストバーンの真ん前に現れて、ヤツの衣に縋り付く。
そしてうっとりとした表情で、ヤツの持つグラスに手を伸ばしながら、懇願するように言った。
「ああん、ミストバーン様ぁ。それが欲しいのぉ。
お願いします。わたしに飲ませてくださいませ。
その黒ぐろとして、濃くて、力強い、暗黒闘気の塊で、わたしの一番奥まで汚してぇ……!」
…今なんだか、聞いてはいけない台詞を聞いたような気がするのはオレの気のせいか。
隣を見ればクロコダインが、ショックのあまりか白目を剥いている。
そしてミストバーンは…多分だがドン引きしている。
「……クッ!なんなんだこの女は!
暗黒闘気で酔っ払ったのか!!?
誰だ、こいつを闇に堕とすなどと言ったのは!
…私か!!ええい離せッ!
その薄汚れた手でこの身体に触れるなァッ!!」
…グエンに纏わりつかれて、これまで見た事がないくらい動揺しているところを見ると、どうやらこれはミストバーンにとっても予想外の事態だったらしい。
手にした暗黒闘気のグラス…オレに飲ませる予定だったそれに彼女が引き付けられており、それを渡せばひとまずは逃れられるだろうということも、今のヤツには思いつかないようだ。
まあ、あの
……そろそろ、オレも悟り始めてきた気がする。
「…グエンを止めて欲しいなら、オレを自由にしろ」
「これが止められるのか、貴様に!!」
「………恐らくは」
これは恐らく、オレにとっての最後のチャンスだ。
闇を打ち払い、より強く光輝く為の。
ガシャン!
ミストバーンが手首から先を一振りすると、何をどうやったものかは判らないが、オレを拘束していた枷が砕け、重力に従ってオレの身体が地面に投げ出された。
「あらぁ?」
ほぼ反射的になのだろう、グエンが動きを止めて、オレに視線を移す。
「……貴方、とてもいいモノを持っているわね」
…やはり食いついてきた。グエンは以前言っていた。
オレの体内に、普通の人間ならば正気を保っていられないほどの、濃い魔気が
それを光の闘気で抑え、封じ込めているのがオレの今の状態であり、その強さに負けまいと反発し続けた結果、オレの光の闘気は溢れんばかりに強まっているのだと。
その理屈で言えば、消されまいとする暗黒闘気もまた、それだけ強まっており、発散する事もままならない以上、それは抑え込まれた分、濃く凝縮されているだろう。
今、何故か暗黒闘気を欲している彼女が、引き付けられない筈がないのだ。
「いただくわ、その純粋な暗黒闘気…!」
「…オレが欲しいならば、力ずくで来るのだな」
「とても素敵。魅力的だわ」
にぃ、と赤い唇の口角が上がる。
その表情は、オレが初めて見るものである気がした。
ミストバーンはグラスを投げ捨て、同じ手を再び衣の中に差し入れると、そこから剣を一振り引き出してみせる。
「…こいつを使うがいい、ヒュンケル」
敵の手から与えられる武器を使うのは癪だが、今のオレは丸腰だ。
躊躇いなく受け取り、構えを取る。
「止せ、ヒュンケル!!グエンと戦うなど…」
そこに、ようやく正気を取り戻したらしいクロコダインが、オレに向かって叫び…オレはヤツを振り返って、その目をしっかりと見つめて、言った。
「クロコダイン…オレとグエンを信じてくれ…!!」
グエンさんの残念クオリティは、関わる相手を全て、残念にするのです。
多分だけどこの辺の展開がプロットから大きくねじ曲がった原因は、『ジゴスパーク』を入力しようとして、変換候補に『事後スパーク』って出てきた事が全てだったと思う。