DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 神が投げた小石たち 作:大岡 ひじき
謎解明編ですよー。
前回ラーハルトとリリィが、主語抜きで喋ってた事に、気がついた方はいらっしゃったでしょうか?
それが全てです。
眼下の処刑用に設えられた舞台の上で対峙する男女の姿に、弾かれたように飛び出そうとした者がいた。
「だっ…だめだよ、キミッ!!!今飛び出しちゃっ!!!」
それを、たまたま近くにいたチウが、その腰にしがみつくようにして止める。
「でっ、でもっ…!!!グエンさんがっ!!!」
普段は年齢より大人びて、落ち着いて見える彼女…賢者エイミは、気の強そうなその
だがその瞳は不安に揺れており、涙をこぼすまいとしているのが誰の目にも明らかだ。
その視線に戸惑いながらも、ロモスから来たレスラーが、説得を試みる。
「わ、わかってるけどよ!!
ダイたちが3人を救出してから、オレたちがなだれ込む作戦じゃねえかっ!!
オレたちだけで先に飛び込んでも…」
今あの場に駆けつけて、巻き添えを喰って万が一のことがあれば、本来彼らを救いに向かっている勇者たちの足を引っ張ることになりかねない。
「ダイくんたちだって、あれじゃ3人を救えないわ!!!」
だが、その勇者たちにもどうしようもない状況だとしたら。
エイミの言葉に、男たちは黙り込んだ。
「どっ……どうしたらいいんだっ!!」
北の勇者が悔しげに洞窟の壁に拳を叩きつけた、その時。
「……もう少し待て。
どうやらオレの弟子が、突破口を見つけたらしい。
自分たちでどうにかならないようなら、すぐにこっちに帰ってくる筈だ」
口を開いたのは伝説の魔界の名工と呼ばれる、魔族の男だった。
☆☆☆
グエンがサッと手を振ると、先ほどまで少し離れた地面に突き刺したままだった暗黒闘気の槍が、再び彼女の手の中に現れた。
「…あなたに、オレを倒すことはできん。
あなたにアバン流を教えたのはオレだ」
「そうみたいねぇ」
歌うようにそう答える声がまるで他人事のようで、小さな違和感を覚える。
だが、どちらにしろやるべき事はひとつ。
ミストバーンから手渡された剣を構えて、オレはグエンと対峙する。
背後でクロコダインが息を呑むのがわかった。
「…なるほどねぇ。
暗黒闘気を光の闘気で覆って、封じ込めているのね。
つまり、いまのわたしとちょうど逆というわけ。
ふふ、面白いわぁ」
くすくすと笑いながらオレを見つめ、舌舐めずりをする彼女のその言葉に、オレの違和感が強まった。
グエンは、オレの状態をよく知っている筈だ。
なのに、それに今気付いたかのような事を。
それに、逆ということは光の闘気を、暗黒闘気で覆っているということか?
それは、彼女の中の光が、未だ消えていないことを意味するが…。
「……引きずり出してあげる。
そして、わたしの糧になりなさいな」
そう言って、赤い唇の口角を上げたグエンの表情は、確実にオレの見たことのないものだった。
「…それはこちらのセリフだ。
その暗黒闘気を引き剥がして、必ずこちらに引き戻してやる…!」
ふわりと、グエンのドレスの裾が翻り、長い脚が地面を蹴ったのが判った。
更にその姿が、瞬時に5人に分裂する。
「…
いつの間に放ってきたものか、全く気がつかなかった。
竜騎衆との戦いの際にも、彼女が使っているのを見たが、自身が相対してみると、受ける印象はまったく違う。
オレはダイたちと戦った時に、それを撃ってきたマァムとも戦ったが、グエンの
また、本人に
マァムの時は目を閉じて心眼で気配を探って実像を見分けたが、あれはマァムが一撃でこちらを倒そうとするタイミングを狙っていてくれたからで、いわば虚像の物理的な攻撃力を心配しなくていい状況だから出来たことだ。
今そんな呑気なことをしていたら、その間に大きなダメージを受けてしまう。
そういった、決定的な隙を見逃す相手ではないのだ、グエンという女は。
だから、ギリギリで見切って攻撃を躱しながら、気配を探る。
共に修業をした時の、彼女の動きの癖なども考慮に入れて、全ての像を視界に捉えながら、徐々に特定範囲を狭めていき……
───見えた!!
手にした剣を逆手に握り直して、オレは握った剣に、光の闘気を集中させた。
実体と見極めたグエンの姿に向けて放つ、その技は。
「アバン流刀殺法・空裂斬!!!」
…オレの放ったその技は、基本は闇の力を滅するものだ。
しかし闘気技であると同時に剣技である以上、相応の物理的破壊力が当然ある。
グエンを無傷のまま暗黒闘気を引き剥がす事は不可能だろう。
だが敢えてオレは、それを全力で放った。
グエンもまた、アバン流の使い手のひとり。
そのように、オレが導いた。
そして彼女自身が、オレたちの光の力を、信じてくれている。
『わたしはあなたを、友達だと思っていてよ?』
その友情に応えるべく、今のオレにできることを。
「……ッ!!」
恐らくは反射的にだろう、彼女は手にした暗黒闘気の槍を
だが、それはあくまで一瞬のこと。
闇は光に駆逐され、彼女の胸元まで届いた威力で、グエンの身体が弾き飛ばされ、祭壇の四方に立てられた柱の一本に激突する。
「くはッ!!」
そこから、重力に従って落ちる細い身体を、僅かながら光の闘気が覆っているのを、オレは確かに感じ取った。
決まった……そう思った。なのに。
次の瞬間、暴力的なまでに濃い暗黒闘気が、彼女の身体を再び覆う。
胸を押さえてゆっくりと立ち上がるグエンが、微笑みながらも鋭い視線で、オレを見つめていた。
「なっ………!!」
「……危なかったわぁ。
けど、おあいにく様。やり方は今ので覚えたわ。
あなたのその技で、
ダメージは回復呪文で即時回復させたのだろう、こちらに歩いてくる足取りに危なげがない。
そして、オレは先ほどから感じていた違和感の、その理由に気がついていた。
「……!貴様…何者だ!?」
「フフッ…今頃気がついても遅いわ。
………わたしの勝ちね」
やけに近い距離でそう囁かれ、彼女が転移呪文を使ったことを知る。
だが、それに気がついた時にはもう、彼女の赤い唇に、オレのそれが塞がれていた。
「……ッ!?」
瞬間、内臓が無理矢理引きちぎられるような感覚を覚え、グエンの唇が離れると同時に、オレはその場に倒れ伏す。
激しい虚無感と喪失感、更にはその
☆☆☆
「……あああっ!!
ヒュンケルさんの生命エネルギーがっ…消えてしまったっ…!!!」
「こ…これでもう私たちは、五人のアバンの使徒をそろえることができない…」
メルルとフローラの絶望の声を耳にして、戦士たちが項垂れる。
「ちっ、ちくしょう!!何やってるんだ、ダイたちはっ!!!」
いつまで待ってもその場に現れない勇者たちに痺れを切らし、苛立ったように立ち上がったのは北の勇者・ノヴァだった。
だが、もう我慢できない、と剣に手をかけ飛び出そうとするのを、大きな青い手が彼の手首を掴んで制した。
…正直、最初にリリィと共に現れた時から、ノヴァは彼を気に入らないと思っていた。
ダイからロン・ベルクと呼ばれたその男は、伝説の名工とか大層な肩書を引っさげ、その名に違わぬひと目見て素晴らしいものとわかる武器を、全てその手で作ったという。
リリィが言った、自身が結婚を考えるだろう男の条件に、全てではないがかなりの割合で当てはまる上、師弟であるという理由だけで、彼女に気安く触れられる男。
16歳という、成人して間もない微妙な年齢の自分と、既に完成した大人の男である彼とを比べて、ノヴァの中に劣等感と嫉妬心が湧き上がるのは、ある意味当然の流れだったろう。
「な、なにをするんだ!!?放せ!!!」
その男に掴まれた右腕が、どのようにしても振り払えない事に、ノヴァは苛立って声を荒げた。
「落ち着け坊や。言ったろ。うちの馬鹿弟子が焦って戻ってこないうちは、想定内って事だ。」
「何を言って……」
「あいつがオレを信頼するように、オレもあいつを信じてるって事さ」
まったく動じないどころか『坊や』呼ばわりされ、あまつさえ想う少女との絆の深さを自慢された形になって、ノヴァはますます苛立ちを深め、頭ひとつ以上高い位置にあるその目を睨みつける。
「ダイたちが出てこないのも、ヒュンケルやグエンを知り抜いているからだ…!!
信頼、絆…
「えっ……?」
だが嫉妬心や劣等感に苛まれても、ノヴァは芯の部分では素直な青年だった。
そう言われて反射的に、ロン・ベルクの視線の先を見やる。
そこには皆が注目する中央の舞台から見えない位置を探して、懸命に移動している小柄な少女と、軽装鎧の魔族の青年の姿があった。
☆☆☆
「……死んだか。馬鹿な奴よ。
行き場をなくし溢れ出した光の闘気の奔流に、身体が耐えきれずくたばりおった。
既に血肉と化した体内の暗黒闘気を無理矢理引き剥がされれば、こうなる事はわかっていたのだ。
…本当に残念だが…仕方あるまい」
ミストバーンが呆れたように言いながら、先程ヒュンケルが手にしていた剣を拾い上げる。
「……グエンよ。
かつての仲間を殺した事で、今や一欠片の良心も残ってはいまい?
さあ、もうひとりも、その手で始末するが良い。
今の貴様ならば、まるで花を摘むようにたやすく行えよう」
拾ったそれをグエンの前に差し出すと、白く華奢な手が、それを取った。
それを握って目の前に立った彼女に、クロコダインは、その目を見つめて訴えかける。
「グエン……オレはおまえを信じているッ!!!」
その薄い肩が、一瞬揺れた気がして、クロコダインは更に言葉を続けた。
「たとえこの身を裂かれ、最後の肉片一片になろうともおまえを信じぬくッ!!!
だから戦え!!!暗黒闘気の誘惑と戦い、真のおまえ自身を取り戻すのだっ!!!」
「殺せ、グエン!!戯事に耳を貸すなっ!!!」
クロコダインの言葉が終わらぬうちに、彼女の後ろでミストバーンも叫ぶ。
しばし剣を握り締めたまま動きを止めた彼女が、ようやく答えたのは、ミストバーンの言葉に対してだった。
「…わたしの手を振り払ったくせに、命令しないで」
「……なんだと?」
訝しく問い返すミストバーンの足元へ、グエンの手から剣が落ちる。
「わたしだって、信じていたわ…信じたかった。
憎しみは、いつかは消える…言葉さえ交わせばわかり合えると。
だけど、いつだって、伸ばした手は振り払われる。
そう……さっきのあなたのように。
わたしが…わたし達が、世界になにをしたというの?
憎みたくなんかないのに。信じたいのに。
どうしてわたしを……わたし達を拒絶するの?」
「…なんのことだ?何を言っている!?」
「この子には、信じてくれるひとがいる。
助けてくれようと、戦ってくれるひとがいる。
わたしとは……違う」
気付けば彼女を包んでいるのは、暗黒闘気とも光の闘気とも違う、ただ深い悲しみの感情だった。
その瞳からこぼれ落ちるのは、全ての思いを吐き出した、涙だった。
「…つまり、そういうことだ。
この
どのようにしてか、グエンの肉体と能力を操っているが、別の誰かだ」
と、別方向から声がかかり、その場の視線がその声のもとに集中する。
そこには……たった今死んだと思っていた男が、小柄な少女に支えられて立っていた。
☆☆☆
「ありがとう、リリィ。もう大丈夫だ」
「…間に合って良かったです。
けど、本当に大丈夫ですか?
あたしの『状態維持及び改善』の能力が、他人に影響できるのは触れてる間だけです」
「ああ。今ので正常な闘気の流れは覚えたから、あとはオレ自身で調整できる筈だ」
言って頭を撫でるイケメンが、自信ありげに笑うのを見て、あたしはゆっくりと彼を支える手を離す。
その身の裡で、溢れる光の闘気が暴れだす様子はなく、あたしはほっと息をついた。
「…お陰で、いい気分で目覚められたよ。
今ならヤツの首も、まるで花を摘むように、簡単に落とせそうな気がする…!!」
ヒュンケルさんはそう言ってミストバーンに、メッチャ悪そうに微笑みかける。
「なっ……ヒュンケル!!?」
「バカなっ!!!あの光の闘気の暴発で、こやつの肉体は神経の一本に至るまで灼き切れたはずっ…!!」
「オレがこれまで2つの闘気を、常に肉体の裡で操っていたことを忘れていたようだな!」
己の見ているものが信じられないといったように、あたしの目から見ても棒立ちになっているミストバーンに、ヒュンケルさんが突進する。
全身に眩いほどの光を纏わせ(うっすら紫がかってる)、ミストバーンに拳で殴りかかると、その身体が呆気なく弾き飛ばされて、たまたまその辺に残っていた鎧兵士たちに受け止められる。
「…おまえはかつて、悪の闘気を捨てて弱くなったとオレに言った。
だがそれは、2つの力を併用できなくなったからではなかった。
片方が強まれば、それに消されまいともう片方も強くなる。
悪にあって、正義にあって、どちらの時も、その対する力に負けまいとして、オレの闘気はそれぞれの力を、爆発的に高めていった。
闘気の操作はオレにとって、手足を動かすのと同じくらい、自然に身についたものだ。
その爆発的に強まっていた暗黒闘気を奪われ、一時は確かに、バランスを失った光の闘気が暴走したが、なんとか抑え込んだところで、リリィの能力が更に後押しをしてくれたのだ!」
自信たっぷりにそう言って、ヒュンケルさんは今度はグエンさんに向き直る。
「…最初からずっと違和感があった。
グエンは酔うと笑うより絡む方だからな。
あなたはオレ達の事も、グエンの記憶を覗いた程度にしか知らんのだろう?」
その言葉にグエンさん…の肉体を操っているそのひとは、少し妬ましげな目をヒュンケルさんに向けた。
ヒュンケルさんが続ける。
「グエンは、呑み込まれながらも、抗っていた。
その身を操られていながら、同時にオレを信じてくれていた。
オレの中の暗黒闘気を引き剥がし、光の闘気が全て解放されれば、その光の闘気をもって、この状況を打破できると。
また、それを使って己自身の光の力もまた、高める事ができると。
グエンがその気であれば、その肉体の支配権を、とうの昔に取り戻しているだろう。
今のグエンには、あなたを消さずに包み込んで、守る力があるのだから。
だが……そうなると、あなたは一体誰だ?
グエンの光の力に消されずその能力を操れ、グエン自身があなたを守ろうとさえしたところを見ると、まったく縁もゆかりもない者ではないのだろう?」
……とりあえず、この場の全員の目がそっちに向いている隙に、あたしはクロコダインの方に向かう。
次に登場する役者はあたしじゃない。
そして主役はもう、舞台に上がってきていた。
「その疑問には、オレが答えよう」
「おまえは……陸戦騎ラーハルト!!」
・・・
「リリィ?」
磔の十字架の足元までこっそり駆け寄って、拘束されているクロコダインの足に、あたしは両掌を当てる。
「ご無事で何よりです、クロコダイン。
あたしが触れてる今なら、あなたの力でその枷、壊せる筈です。試してみてください!」
「!?………ぬんっ!!」
バキン!
あたしの言葉に、クロコダインは一瞬だけ訝しげな目をしたものの、次には筋肉のひとつすらほぼ動かさずに、手首の枷を弾き飛ばしてみせた。
「……どういうことだ、リリィ?
先ほどまでは、動くことすらできなかったものを…」
「この拘束架は、力を封じる呪具でもありました。
あたしの『状態維持』と『状態改善』の能力で、クロコダインの身体にあたしが触れてる間は、その力に干渉されず、本来の力が
そうでなければただの鋼鉄の塊、こんなものにあなたを拘束できるわけがありません。
改めまして、お迎えにあがりました、獣王さま。
遊撃隊・隊員12号、獣撃参謀あにまる子ちゃんです。
どうぞお見知り置きを」
「…………………は?」
☆☆☆
「まさか、生きていたとはな…おまえが」
「……その説明は後だ」
上がった舞台の上で、オレはその女のそばへと歩み寄った。
その表情が、今までとは明らかに変わる。
「……ラーハルト。生きていて、くれたのね…。
この子の記憶では死んだ事になっていたのに。
またあなたに会えるなんて、夢のよう…!」
目の前の女は、酷く懐かしい…それでいて見たこともない表情で、オレに歩み寄ってきた。
「ああ……オレも、同じだ」
オレがそう言うと、彼女の目に一瞬だけ悲しげな色が浮かんだが、すぐにそれは消え、妖艶な笑みがその唇に浮かぶ。
「嬉しいわ。これからはずっと一緒よ。
もう二度と、あなたを1人にはしない。
二度と、誰にも渡さないわ…!!」
彼女の手が、そう言ってオレの胸元に触れた。
魔族の血がこれだけ顕著に出ているにもかかわらず、成長するのが純血の人間並に遅かったオレが、当時は見上げていた頭が、そこに寄り添う。
一度死んで納められていた棺から起き上がった時に、いつのまにか握っていた束と同じ色の髪の、かつては見えなかったつむじを見下ろして、オレは言葉を落とした。
「……グエナヴィアは何も悪くない」
「ラーハルト?」
「…オレが一度死んだのは、オレ自身の弱さのせいだ。
グエナヴィアが罪の意識を感じる事など、何ひとつなかった……だから」
驚いたようにオレを見つめる、その女の目を見つめて、オレは懇願した。
「だから……グエナヴィアを解放してやってくれ、
☆☆☆
そう。二度目に『みやぶる』でグエンさんを見た時に、あたしの頭のなかのオッサンが、確かにそう言ったのだ。
『あ…すいませんでした。
さっき見た時に判らなかった事が、今判ったので訂正します。
今、あの場にいるのは確かにグエンさんですが、彼女自身の意思は、精神の一番奥にしまいこまれています。
今、あの身体を動かしているのは、暗黒闘気に染められた、別人の無念の魂です。
生前の名は【ヴァレリィ】。
愛称は‥‥凄い偶然ですが【リリィ】ですよ』
☆☆☆
…一瞬、目を
それはあの山小屋の生活の中で、オレが村の奴らを罵っていた時に、オレが作ったベッドの上で見せていたのと、同じ表情だった。
「……どうして、気がついたの?」
「オレは息子だぞ。気付かぬ筈があるまい。
…そしてこれは、オレが惚れた女の肉体だ」
オレがそう言うと、グエナヴィアの器を借りた母の顔に、どこか悔しげな
「けど、この子はあなたを見捨てたわ。
わたしの代わりにあなたを守ってほしいという、最後の願いにも頷いてはくれなかった!」
「出来ない約束をしなかっただけだ。
グエナヴィアがオレを手離しバラン様に託したのは、自分ではオレを守りきれないと判断しての事だった。
けど、それだって、オレが強ければ済んだ話なんだ」
「あなたはまだ子供だったわ!」
「彼女も同じだ。
10歳の孤児を抱えて、当時13の少女に何が出来たというんだ」
「え……13?当時?? 」
…その瞬間、怒りに呼応して再び身から溢れていた暗黒闘気が、掻き消えた。
「………ええぇ!?嘘でしょ?
あんなおっぱい大きくて、あの時まだ13歳だったの!?」
「……それはオレも思っていたが事実だ。
グエナヴィアはオレの3歳上だ」
…知らなかったのか、母さん。
まあ、確かに13歳の頃のグエナヴィアは、今思えば大人びていた。
…あの当時の彼女と今のリリィが同い年だと思うと、余計に。
『本当に魔族だな。しかも2人いるぞ』
『構う事ぁねえ。
とっ捕まえろって言われたのはガキの方だ』
『そうだな。
女はこっちが貰っといて、あとで売っ払やいい』
…あの日オレたちを襲撃し、グエナヴィアに手を出そうとした賊たちも、彼女を子供だとは思っていなかった。
奴らにとって、オレが『ガキ』で、彼女は『女』だったのだから。
女のほうが成長を始めるのは早いというが、グエナヴィアは恐らく、青年期までの成長が人間より早いという、魔族に近い成長の仕方をしたのだろう。
「本当に世の中は不公平だわ!
わたしなんかあなたに授乳してる時ですら、あの半分も無かったのに!!」
「オレが覚えてる限りでは半分どころか1/4も無かったが、それは今は問題ではない。
…グエナヴィアに抱く母さんの怒りは筋違いだ。
頼む……離してやってくれ。
オレに……グエナヴィアを、オレに返してくれ」
どうやら暗黒闘気の影響よりも、素の母が出ている今が、心を届ける最後のチャンスだ。
オレが懇願すると、『母』はまた苦い笑みを浮かべ、大きくひとつ、息を
「ラーハルト………そうね。
あなたが心配でこの世に留まっているうちに、負の想念に捕まって同化させられてしまっていたけれど、その間にあなたはこんなにも大きくなっていたのだもの。
わたしが心配しなくても、立派に生きていってくれるわね。
……うん、ちょっとの間だけでも、巨乳になれて嬉しかったし!」
…母さん、実はそこ密かにコンプレックスだったんだな。
正直、あまり知りたくなかった…わ、忘れることにしよう。うん、そうしよう。
そうしているうちに、腕に抱いた女の身体から、黒い闘気が一瞬だけ吹き出たかと思うと、すぐにそれは眩いばかりの光に変わり、吹き出た黒いものを駆逐した。
「…幸せにおなりなさい、ラーハルト」
更に光と見えたものが、母さんをその下に弔った、あの木に咲く花の、花弁に変わる。
幼い日にいつも見ていたのと同じ、優しくて少し悲しげな微笑みが、舞い散る花弁の中に浮かんで、そして消えた。
ああ、と思った。思い違いをしていたのだ。
母さんは、グエナヴィアを恨んで、彼女の身体を乗っ取ったのではない。
彼女の心が暗黒闘気に染まらぬよう、意識の奥に彼女を隠して、自分が成り代わる事で身代わりとなって、暗黒闘気の影響に自分の魂を晒したのだ。
その結果、母さんの死の間際の無念が増幅されただけであり、母さんは本心からグエナヴィアを恨んではいなかった。
それどころか、守ってくれていたのだ。
「ありがとう……母さん」
徐々に光に溶けていく花弁と母の面影を見つめながら、オレは小さく呟いた。
ややあって、ずっと想い続けていた女が、オレの腕のなかで
☆☆☆
…目を開けた瞬間、その目が、わたしの顔を覗き込んでいた青い瞳と合った。
「………ラーハルト?」
己の見ているものが信じられず、その名を呼びかけると、それに応えるように、目の前の男の口角が上がった。
こんなに大きくなっても尚、幼い日と同じ微笑みに、懐かしさに胸が締め付けられる。
同時に、今の己の状況を、わたしは悟った。
「……迎えに来て、くれたのね。
戦いの終わりを待たずに死ぬのは無念だけれど、あなたにまた会えて、嬉しいわ」
「まず落ち着け。おまえは死んでない」
だがラーハルトの亡霊は、私がそう言うと呆れたような顔をして、わたしの言葉に冷静につっこんできた。
失礼な。わたしは充分落ち着いている。
けど、死んでないという事は、わたしは生きているのだろうか。という事は……
「ああ、そうか。わたしは夢を見ているのね」
「寝惚けているのは間違いないな。
いいからさっさと目を覚ませ」
「いやよ!………せっかく会えたのに。
これが夢ならわたし、二度と目なんか覚まさないわ」
不可能な事だとわかってはいても、縋らずにはいられなかった。
あの時…この子の遺体を抱きしめながら、バランが言うのを聞いていた、万に一つの可能性……。
ポップに起きたのと同じ奇跡が、ラーハルトにも
何度も、ラーハルトが生きて戻ってくる夢を見て、目がさめるたびに落胆した。
けど今回は、目覚める前に夢だとわかったのだ。
幸せな夢ならば、目覚めなければいい。
何で今まで、こんな簡単なことに気がつかなかったんだろう。
…わたしは、目の前でちょっと驚いたような顔になったラーハルトの身体に両腕を回して、首筋に顔を埋めるように、しがみついた。
「…ずうっと、あなたと一緒にいるわ。
もう、絶対に離れない」
「…………グエナヴィア」
わたしの名を呟く声と、吐息が耳をくすぐる。
抱きしめた身体は、懐かしい匂いがした。
………………………………………………………。
……お か し い。
肌の匂いとか、耳に触れる吐息の熱さとか、頬に触れた首筋から伝わる鼓動とか、抱きしめ返してくる腕の力強さとか、なんか色々リアル過ぎる。
「…言質は取ったぞ。二度とオレから離れるな」
「え?」
「愛している、グエナヴィア。
この戦いが終わったら、またオレと暮らそう」
…なんか以前リリィから聞いた『しぼうふらぐ』みたいな台詞を吐いて、幻はわたしの身体を、更にきつく、抱きしめた。
え?あの…もしかしなくとも、本物……とか?
「はい。それ、夢でも幻でも幽霊でもない、本物のラーハルトです。
……おかえりなさい、グエンさん。
あと、心の声だだ漏れですよ」
傍らから聞こえたリリィの声に、反射的にそちらに目を向ける。
一拍遅れて、彼女が言った『おかえりなさい』という言葉が、何故か『ご愁傷様です』と同じ響きを持って耳に届いたのは、わたしの気のせいだったろうか。
ミ「本当に残念だが…仕方あるまい」
ヒ「いろんな意味でな」
…前回のお話でミストバーンさんがセルフつっこみを始めたことには、書いたやつ自身が一番驚きました。
副主人公が振りまく残念化の呪い、どこまで根深いのでしょう……ああ恐ろしい(爆
ところで、この話のなかで、ちゃんとヒロインムーヴしてるの誰だと思います?
-
グエン
-
リリィ
-
レオナ
-
マァム
-
バラン(何故