「あいつが、ふっと突然目の前から消えたと思ったら、俺はやられていた……。何が起こったのか、把握すらできなかった……だが、今なら分かる。あいつは、姿を消す力を持っているんだってなッ!」
あいつって誰だよ。
「だがギルドの連中はおれの証言を信用してねぇみてえだ……」
「はぁ、ところであいつってどなたです?」
「おれの古塔調査の邪魔をした、胸糞わりぃモンスターだぜ……」
古塔にモンスター。それも厄介そうな。しかもぎるどが把握していない。
すごい。求めている条件が揃ってる。姿を消すっていうのが本当にあるのかわからないけど、何かの錯覚だろうけど。証言が得られたのは大きい。
「どうやって姿を消してるのかわからねェ……、超スピードとかそんなチャチなものじゃねぇ。もっとよくわからねぇ何かを味わったぜ……」
「それで敗北してきたというわけか」
「ああ~~? 戦略的撤退ってやつだッ! ドクサレがッ!」
確実にテオルとこのほうき頭さんの相性悪い。
「とにかく、古塔には今はいけねぇと思うぜ。おれの証言をギルドの連中は信じてねぇが、何かがいるってことで古塔への警戒度が上がってるだろ~しな」
「えぇ……、あまり滞在期間を延ばしたくないのでなんとかならないでしょうか……」
「おれに言われてもよォ~……、つーかなんでそんなに急いでんだ?」
焦りたくもなる。滞在期間が延びたらその分お金が減っていくし、なによりテオルの嘘依頼がデタラメと発覚してしまう。だから発覚する前に古塔へ行きたいのだ。
しかしその理由を正直に話すわけにもいかない。
「里長からの任命で古塔へ早く行かないとなんです」
嘘をつくときは事実の中に混ぜ込むといいらしい。まぁ嘘でもなんでもないけどこれ。ちょっと私情いれてるだけだしね。
「ふ~ん、まぁなんであれ、あいつがいる限り厳しいと思うぜ」
「そのモンスターをハンターに倒してもらえばいいんじゃないです?」
「そ~なんだけどよォ~。おれの証言だけじゃ錯乱しただけとか勝手ぬかしやがって、依頼を通してもらえねぇんだ」
あ、そういえばこの人もハンターだった。
ハンターと知り合えたのだし、この人に古塔への護衛を頼んだらいいんじゃないだろうか。
冴えわたる発想だ。なんとかして頼み込もう。
カレーを食べ始めたほうき頭さん。っていうかまだ食べてる途中だったんですね。食べてる途中でごめんなさい。
「私たち、どうしても早く古塔へ行かないといけないんです」
「ん? ああ、らしいな」
明海竜の狩猟に出た人たちが戻る前に行かないとなんです。戻ってきたらって想像すると怖いんです。
改めて現状をほうき頭さんに説明する。
「ハンターを連れてないと古塔へ行けないんです」
「まぁそうだろーよ」
「なので私たちと古塔へ行ってほしいんです」
「……、おれに?」
「はい!」
ここのほうき頭さん以外ハンターはいないでしょうに。
「ナナリ、そいつに頼むのはやめておいたほうがいい」
「え、なんでよ」
テオルが反対してきた。まぁテオルとは相性が悪いから嫌なのはわかるけども。でもこの人に頼めば依頼金の優先度上げのための、追加金なしで優先的にやってもらえるかもしれないじゃないか。この人に進んで私たちの依頼を受けてもらえばいいのだ。自発的に!
「そいつはそもそも古塔から逃げかえってきたやつだ」
「ああ~? さっきも言っただろうがよォ~? 戦略的撤退ってやつだッ!」
まぁそうなんだけど、護衛の依頼だし狩猟の依頼じゃない。だから別に大丈夫、だと思いたい。別にこの人に、負けた相手と戦ってくれってわけじゃないんだから大丈夫大丈夫、きっと。
「大丈夫だよ大丈夫。むしろこの人以外に頼めないよ」
「何が大丈夫だというのだ」
古塔にいったことある人なのだ。内部を少しは知ってるだろうし、何かに襲われても逃げることができるほどの腕前って考えたら最高にほしい人材じゃないか。戦う必要はない、生き延びる力が必要なのだ。
「……、随分とおれを買ってくれてるみてぇじゃねぇか。おれ以外にあてがないからかい?」
「それもまぁありますけど、でも他にハンターの知り合いがいても、あなたに頼ろうとしてたと思います」
そういやヌハハハうるさい貧乏人もハンターだっけ。貧乏ハンターとほうき頭ハンターって、イロモノばっかりだわ。
貧乏ハンターとこの人だったらやっぱりこの人だわ。やっぱり古塔経験有、ってのが大きいからね。
「ごっそうさん」
カレーを食べ終わったようだ。冷めてなかった最後の方?
「そんな風に言われたらよ……、断るに断れねぇなァ……」
「じゃあお願いできますか!」
「あぁ、いいぜ。おれもやられっぱなしじゃ気がすまねぇ……。第三者からの依頼となりゃあ錯乱していたとか難癖つけてくることはねーだろうしな」
私も錯乱してたんじゃ……、って思ってますごめんなさい。心の中で謝っておきます。そんなにぎるどの人たちに錯乱扱い受けたのが癪だったのね。
「急いでるんだろ? 普通に狩猟依頼を出さずによ、あいつを早いこと倒さなくちゃならねぇって理由つけて依頼出すんだぜ。その際おれを指名してな。じゃねぇと中々通してもらえねぇハズだぜ」
「そうなんです?」
「あぁ、古塔の危険度がたけぇからな。何かしらの理由がねぇとだめだ」
護衛依頼で出すより狩猟依頼で出さないと依頼が通らないのか。なんでかよくわからないけど、ハンターのいうことならきっとそうなのだろう。
でも別に狩猟してもらわなくてもいいんだけど……、それに狩猟依頼だとこの人に報酬いかないんじゃないだろうか。護衛が本当の目的だから狩猟は達成する必要ないし……、損してでも人助けする性格の人なのだろうか。
いや、それはないか。そんなお人よしそうには見えない。
そういやナンパされたんだこの人に。これは下心からの申し出だきっと。
下心からとはいえ、正直この手を逃すわけにはいかない。できるかぎりテオルから離れないようにして、この人と私が二人きりにならないようにしてればきっと大丈夫だ。
「それじゃあ依頼を出してきますね」
「ああ、ちゃんとおれを指名するんだぜ」
さてさて、本日3度目のハンターずぎるどである。
と言ってもシー・タンジニャとあまり距離は離れてないから改まった気持ちになるわけではないけど。カウンターには4人ほど並んでいる。カウンターの女性に依頼を言うためにとりあえず並ぶ。待ってる間に今からやることを頭に浮かべる。
古塔での狩猟依頼、それも普通に頼むのではなく、なにかしらの理由をつけて。
……、理由どうすればいいの?
「テオル」
「なんだ」
「普通に頼んじゃダメって、どう頼めばいいと思う?」
「考えてなかったのか……」
唐突にひらめいた作戦なんだししょうがないじゃない。そこに補足でつけられた条件なんだもの。対応できるわけがない。
困った。近いしタンジニャで待機してるほうき頭の場所に戻って相談するべきだろうか。
「やはり、古代文明関係者を装うしかないだろう」
「それだけじゃ無理そうじゃない?」
「急ぎ倒さないといけない理由、となるとな」
古塔へ早くいかなきゃならないような理由……。里の命令で、じゃぎるどの人も納得してくれるか怪しい。共感を得られるような理由じゃないと……。
古塔に引っ越したいんです? 意味がわからない。あの泥棒猫じゃないか。
古塔にいるモンスターを早く倒さないと人間は滅亡する! 完全に電波だ。あの泥棒猫の言ってた電波少女のようではないか。
どんどんと列は進んでいく。残り2人の要件が終わったら私たちの番である。まだ何も思いついてない。
「テオル、何か思いつかないの」
「そんな急に思いつくか……、それに俺はまだあの男に依頼を出すのは反対なんだ」
反抗的な。やはり最後に頼れるのは自分だけである。
残り2人だ。落ち着いて考えればきっと名案が出るはずだ。
「お次の方どうぞっ」
残り1人だ。落ち着け。まだ慌てるような流れじゃない。
古塔に住みたいとかいう意味のわからない猫のことは忘れるのだ。住んでどうするつもりだったのだろう。生活絶対大変だよ。家を離れたら空き巣どころかモンスターに乗っ取られそうだよ。鍵閉め忘れたらおしまいだ。鍵かけてても壊されそうだけど。
「お次の方どうぞっ」
「やべ、財布忘れた」
そう言って前の人がどっかへ行ってしまった。え、ちょっと待って。前の人がいなくなったら次私じゃん。
「こんにちはっ、えっと、どういったご用件でしょうかっ」
「う、うむ、用件はじゃな」
咄嗟にまたも年寄りめいた口調になってしまった。やばい、どうしよ、もうこういう雰囲気でいこう。偉い人の雰囲気を醸し出そう。旅は恥のかき捨てって言うから……、言うから……!!
「ご、しゅ、古塔での狩猟の依頼をだしたいのじゃ」
テオル君、黙ってないで助け舟ちょうだい? どうしたらいいの。
「早いこと退治してくれんと困るのじゃ。さもなくば……、わしが、あれなのじゃ」
「はい?」
「帰れないのじゃ」
「は?」
里に帰れないんです。
あ、なんか今のだと古塔に帰れないって意味になってない? そりゃ何言ってんだこいつって感じになるよね。テオルも変な目で見ないで。結構傷つくから見ないで。
「えっと……、古塔に、住んでるんですか?」
これは、この流れは、乗るしかないかもしれない。古代衣装着てるしね、この衣装の紋様が塔に関係あるかもってゴードンで言われたしね。無理やり関連付けるしかないこれは。
「詳しく話してやる必要はないだろう」
テオルが横から入ってきた。ひょっとして助け舟? 普段から厨二思考してるから思わせぶりな台詞言いたくなっただけ? なんにしろ助かる。
「わしの住まいなどどうでもよいことよ」
「そ、そうですね、それで狩猟依頼の内容はどういったものですか? あ、あと普段通りの普通の話し方で大丈夫ですよ」
どういったものとな。
どういったものなんでしょうか。
古塔に住んでるってことになったっぽい私が頼む狩猟依頼の内容ってなんだ。ほうき頭のハンターが倒せなかった奴を狩猟してほしい? なんでほうき頭の事情が出てくるのってなりそうな気がする。とりあえず迷惑な存在をやっつけてって頼むしかないかな。
そもそも古塔に住んでるっておかしくない? 誰も住んでないってゴードンで聞いたじゃないか。古塔に住んでることはさりげなく訂正しつつ、繋がりを見せないと。
あとさりげなく私の話し方普通じゃないって言われてなかった? いや確かに普通じゃないけどさ。恥ずかしさがこみ上げるからやめてほしいんですけど。
「……、わ、わしはある方にお仕えし、ある場所の管理を任されておるのじゃが、あれなんじゃ。ぶしつけな下郎めに居座られて、ほとほと困り果てた。噂に名高いハンターならば、と思っての、こうして力を借りに、山飛び谷越えやってきたわけじゃ」
「はぁ」
私わかったよ。今の返事の仕方はあれだよね。何言ってるのこの人、って感じの返事だよね。
本当に何言ってるんだろうね私。
「そのある場所というのが、古塔なのじゃが」
「は、はい」
「とにかく、俺たちは古塔に勝手に住まうものをどうにかしたい。そのついでにハンターの力を見てみたいというのもあるがな」
テオルったら厨二心が刺激されたのね。けどその堂々とした厨二っぷりは今だけは感謝するよ。
私を見る女性の目はなんというか、可哀想なものを見る目と言わんばかりだったけど。
テオルを見る目は、得体の知れないものを見る目、だと思う。
まぁテオルは今のところハンターずぎるどでは古文書にしか書かれてない明海竜の情報提供者だしね。古代関係者って私よりは思われやすそうだしね。
「それとこの依頼、あそこのやつに任せたくての」
「あそこの? えっと、あのすごい頭のハンターさんですか?」
この人もやっぱりすごい頭って思ってるんだね。都会の人気髪型とかじゃないんだね。そりゃそうか。
「あの者は古塔へ以前訪れたのじゃからな」
「そうですけど……、でもあの人は古塔へはもう行きたくないって言っていたので……」
「いいや、あの者は塔へ赴く」
下心が理由でだけど。
「あの者が断るようであれば、また出直す」
「わ、わかりました」
「では、お願いするのじゃ」
そう言い残して、その場を離れる。
これ以上この話し方を続けると悶え死にそうだからだ。
シー・タンジニャでほうき頭さんとぎるどの人が話をしている様子を離れて見る。
「フッ、やはりナナリも俺と同じだな」
「やめて、やめて本当にやめて」
「まさに旧き時代を生きた龍だったぞ」
「黙って」
ハンターずぎるどから少し離れた場所で待つことにしたのだが、シー・タンジニャにはほうき頭さんがいるので、そこへ行くとぎるどの人とほうき頭さんの会話の邪魔になるかと思いやめたのだ。
それにしても年寄り口調以外の話し方を私はなぜ思いつかなかったのだろう。
私の厨二のころの話し方もそういや年寄りめいた口調だった。ここで黒歴史を更新してしまうとは……
そしてテオルの喜びがうざい。私は真人間なのだ。厨二田舎者はお前だけだから。
「そういや依頼金の話しなかったけど大丈夫かな」
「そこはわからんな。やつらの善意に頼るとしよう」
前も善意に頼ってた気がする。
「まぁなるようになれ、かなあ」
「……、今でもやはり反対だ」
「そんなにあの人嫌なの?」
「敗北した者が次は勝てるなど、そう都合のいいことはない」
そりゃそうだろう。別に勝ってもらわなくていい。護衛なんだし。
「そうだろうけどさ。狩猟って形の依頼だけど、実際は護衛依頼なんだし、戦ってもらう必要ないじゃない。危険から遠ざけてくれたらそれでいいんだし」
「……、ん?」
「ん?」
「狩猟依頼だろう?」
「狩猟依頼だけど護衛依頼だよ?」
「いや、しかし」
「ああ、ぎるどの人には狩猟依頼って言ったけど。テオル、あのハンターの人との話聞いてた? 狩猟依頼でいかないと回してもらえないって言ってたじゃない」
「言ってた、か? いや、だがあの流れは……」
「もう、しっかりしてよね本当に」
ちゃんと聞いてなかったのかこいつは。
「いや、あれは普通の狩猟依頼じゃダメだという意味で」
「だから早めにって理由つけたじゃない」
「いや、そうじゃなくてだな……」
「もう後でちゃんと説明してあげるから。実は護衛依頼ってぎるどの人に聞かれたくないんだし」
聞いてなかったのに自分が納得できないとごねるとは。わがままにも困ったものだ。
事細かに説明してもいいけど、ここではあまり話したくないので無理やり切り上げた。
「タンジアの滞在期間はそんなに長くなかったけど、なんだかようやくって感じがするわぁ」
「まだ1泊しかしていないぞ」
「そうだけどちょっと色々ありすぎて……」
「まぁ、そうだな……」
「悪食家に暑苦しい貧乏人ハンター、そのあと泥棒猫。そして次の日にはお金を消し飛ばす自称古龍さまだからね」
「……」
だんまりである。原因のうちのひとつはだんまりである。
「二日の密度じゃないよこの濃い出来事。どう思う? 4万4400z無くした方はどう思います?」
「しつこいぞナナリ!」
「あ、あの、お話中すみません。先ほどの依頼の件ですけど」
「え、あ、はい! うむ!」
「正式に受理されました。それで、依頼金なのですが、えっとお二人も塔までの同行ということでよろしいんでしょうか」
「うむ」
「でしたら塔までの飛行船の代金も含まれまして、4万8000zになります。大丈夫ですか?」
「うむ、大丈夫じゃ」
やったよ。やすいよ。ここまで来るのに随分と長かった。感慨深いものがある。
財布からお金を取り出し支払う。もう誰にも私たちを止められない。
「はい、確かに4万と8000zですね」
「すぐに出発できるかの」
「はいっ。……、あの、差し出がましいかもしれませんが、普通に話したほうがいいと思いますよ。そのうち恥ずかしくなって眠れない日が来ちゃうかもですし……」
「……」
「俺たちにとってはこの話し方が普通だ。お前の物差しで勝手に測ってくれるな」
「ちょ、テオル」
「余計なことを言ってごめんなさいっ。……、そういう時期は誰にでもありますもんねっ」
「い、いや、私は違うくて……」
「ふんっ、さっさと行け」
「で、では失礼しますー!」
私、もうタンジア来れない。
本当になんで、あんな話し方を選んでしまったのだろう。
タンジアの空は、やっぱり憎たらしいほど青かった。
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