自分を古龍と思い込んでる田舎者   作:横電池

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独自設定のタグを追加しました。

地形を調べながら書いているのですが、自信がない部分や不明な部分あまりに多いのでタグを追加した次第です。




驚天轟地

 知らない天井だ。

 

 ベッドに横になりながら、頭を働かせ始める。

 

 はて、ここはどこなのだろうか。

 私は誰、とか続けたくなる。意味のないことを考えて自然とニヤけてしまった。

 

 記憶喪失ごっこは置いといて、実際ここはどこだろう。

 木造っぽい建物だから塔ではないようだ。

 

 

 塔といえば、あれ、どうなったんだっけ。

 

 確か、赤いでかい竜からテオルと一緒に逃げて、そのあと蛇みたいな竜から逃げて、それで

 

 ほうき頭のハンターの声がして、えっと、えっと……

 

 そうだ、テオルは無事なのだろうか。

 

 体を起こし周りを見る。

 

 掛け布が飾られている部屋だ。いろんな小物や本が所せましとある。なんというか、ちょっとごちゃごちゃしている部屋だ。

 そばには丸椅子と机があった。机の上には水差しがある。使ってもいいよねこれ。

 

 部屋の中を一通り見渡したけど、テオルの姿は見当たらない。

 

 まぁ、ほうき頭のハンターの声がしたとこまでは覚えている。つまり護衛ハンターと合流できて、私はなんでか気を失って、安全な場所まで連れてきてもらったんだろう。

 テオルもこのあたりのどこかにいるだろうし、焦ることはないか。

 

 ベッドの足元には私の鞄があった。とりあえず動けるし、この部屋から出ることにした。

 服装も破れてたり汚れてたりしていない。普段通りの古代服だ。

 

 あ。

 

 古代服を古塔に置いてくるはずだったのに、着たままだ。

 

 なんてことだ。これでは何をしに行ったのかという話になってしまう。

 ……、もうこっそり捨てたいこれ。

 

 今はこのことについて考えるのはよそう。

 とにかく今は外に出て、あれからどうなったのか、そしてここはどこなのか確認しなくては。

 

 部屋から抜けると、通路に出た。声がどこからか聞こえてくる。とりあえず声のする方向へ歩みを進める。

 

「お、気づいたか。無事で何よりだぜ」

 

 そこにはほうき頭のハンターがいた。

 

「あ、どうも。あの、テオル見ませんでした? あとここってどこですか」

「あの変なやつならこの先にいるはずだぜ。ここについては、なんつったらいいんだろ~な」

 

 私が寝てる間にまたテオルと揉めたのだろうか。テオルの呼称が変なやつになっている。まぁ変なやつというのには完全に同意だけど。

 

「ここは地図に乗らねー市場、だな」

「地図に乗らない、ですか」

 

 このハンターはなんだろう、こう、変な言い回しが好きなのだろうか。地図に乗らない市場ってなんだ、闇の市場か。テオルが好きそうな響きである。

 

「バルバレっつー移動する市場なんだわ。その一部の船がここでな。ちょうど近くで開いてたから乗せてもらったんだわ。そんで今はまた移動中」

「はぁ……、大きい行商船? みたいな感じですか」

「ま、そうだな」

 

 それを聞いてまず思ったことはお金のことだった。船賃とか、いいのかな。気づいたら乗せられてただけだし、いきなり船賃要求とかされないかな。もし要求されたら私を乗せた人に要求するよう頼みこもう。一番怪しいのはこのハンターだ。

 

「あの、私たちはなんでこの船に乗ってるんでしょうか……」

「なんでって言われてもな、これに乗るのが色々都合がよさそうだったから、だな」

「都合がいい?」

 

 ふと気づいたけどこの人と二人きりってやばいんじゃないだろうか。なにせ下心ハンターなのだ。都合がいいとはそういうことか。私の貞操の危機なのか。私の身に、命には関与しない危険が迫っているのか。

 何か怪しげな行動をしたら叫ぼう。全力で叫ぼう。奥にもきっと人はいるはずだ。

 

「ここはただの市場じゃねー。移動する市場であり、移動するハンターズギルドだからな。海を移動することもあるみてーだし、タンジアにも戻れるんじゃねぇかなってよ。実際もう大陸移動して今はドンドルマに向けて移動中だそうだ」

「あ、あの、私とテオルは、お金にあまり余裕がないので、船賃とかは……」

「自分たちは古龍だなんだって言っといて金欠って世知辛い話だな……。船賃はとられねぇよ。まぁ飯代とかもねぇってんならちょーっとばかし厳しいけどよ」

 

 船賃がとられないのであれば、ご飯代なら大丈夫だきっと。つまりこの船に乗っていればそのうちタンジアにも行けるのか。

 確かにこれは都合がいい。だがそんな美味しい話があるはずがない。楽観的な考えはもう私にはないのだ。このことについては後ほど考えるとして、それよりも、今古龍とか言ってなかった?

 

「あ、あの……」

「まだなんか気になんのかァ?」

「テオルが自分は古龍だとかイタいこと言いだしてたんですか……」

「ああ。大変だな、オメーもよ……」

「なんであいつはあんなに古龍妄想しちゃってるんでしょうかね……」

 

 そしてなんでその妄想を人に言うんですかね。

 

「ま、強いもんに憧れるってのはおれもわかる気がするな」

「憧れ、なんですかねぇ……。思い込みみたいな感じがするんですけど」

「なんつーかな。自己投影ってやつか? なんて言やいいんだ? まあ、憧れの姿になりたい。そんな感じの気持ちっつーのかな」

「それで古龍に憧れですか……」

「普通は英雄とかに憧れるもんだけどな。なんか変な本でも読んだんじゃねーの?」

 

 変な本。すごいその線が濃厚だ。里ではテオルは本の虫だったし、本を読み漁る前までは普通だったし。

 

「古龍は生態が全くわかってないままだからな。どっかの学者は古龍は人間に化けれるっつーヨタ話を発表したとかも聞いたことあるくらいだしよ」

「そのヨタ話を信じちゃった可能性がすごい高いですあいつ……」

「ま、憧れであろうと自分や周りを危険にさせちゃあ駄目だけどな。ガブラスに挑もうとしてたみてーじゃねぇか。だからよォ。さっき、オメーは古龍でもなんでもないから無茶するんじゃねぇって言ってやったんだけどな……」

「わけのわからない反論された感じですか……」

 

 その様子が目に浮かぶ。そんなはずがないだの、人間ごときには理解できまいだの。痛々しい言葉で事実を否定するのだあいつは。

 

「俺は古龍になるんだ、ってよ」

「ふむ?」

 

 古龍になる? なんか思ってたのと違う反論だ。自分は古龍だ、じゃなくて、自分は古龍になる、とな。ああ、真の力が目覚めたら古龍になるのだ、っていう流れか。幼馴染としての経験からか理解できてしまったよ。ちょっと謎な言葉かな、って思ったけどそういう意味だきっと。

 

「まあ意味はわかんなかったけどよ、相当憧れてるってのは伝わったぜ」

「そのうち黒歴史になると思うんで、忘れてあげてやってください……」

 

 旅の恥はかき捨てというけど、この旅は至る所で恥を製造している気がする。近い将来悶える日が訪れるに違いない。

 そういやこの人はいつまで一緒にいるんだろう。

 

「そういえば、あなたもこの船でタンジアに戻るんですか?」

「ん? いや、おれは戻らねぇよ。ドンドルマあたりでハンター登録してみるかなって思ってよ」

「はぁ」

「……、タンジアではすっかり怯えた姿を晒しちまった。本当ならきっとあのままタンジアで、塔のあいつを思いだしては怯えてたかもしれねぇ……。だからよ、オメーらには感謝してるんだぜ」

 

 タンジアを離れるきっかけを与えたことに感謝ということだろうか。でもその結果、塔で怯える原因となった相手と対峙させちゃったから素直に感謝を受け取りづらい。あんな至近距離に出てくるとは思わなかったのだ。それに、こっちはかなり個人的な理由での頼みだったのだからなおさらだ。それも金銭面の負担を減らしたいという、俗物的な理由だからなおさらだ。

 

「私たちは何もしてませんし、感謝される謂れはないですよ。むしろ護ってくれたことにこちらが感謝ですし」

「……、オメーらは変なやつらだなァ」

 

 テオルは変ですが私は変じゃないです。あとあなたの髪型のほうが変です。言ったら怒られそうだから言わないけど。

 

「ま、オメーらがなんて言おうとおれが感謝してることには変わりはねーぜ。なんか困ったことがあったらよ、おれが助けてやるよ」

 

 お金がなくて困ってます。って言ったらダメだよね。空気が読める私はそんなこと言わないよ。この雰囲気はとりあえず笑顔で誤魔化すのが最善だきっと。何を言っても謎の感謝がくるのだから。罪悪感にこれ以上蝕まれないためにも笑顔でなあなあで済ますのだ。

 

「それじゃ私はテオルを探しに行ってきますね」

「おー、あんまり変なことやらかさねーようにしっかり見張っとくんだぜ」

 

 見張ってても変なことをやらかすんだよこれが。

 このままほうき頭さんと一緒にいても気まずいので、テオルをさがしに通路の奥へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通路を抜けると広間に出た。

 テオルはどこだろうか、と見渡したらカウンターの黄色い服の女性と話しているようだ。なんでだろう。もう一気に嫌な予感がする。

 この船は移動するハンターずぎるどって聞いたのだ。何かテキトーなこと言ってまた依頼でも出してるのか、それとも騙されてるのか、なんにしろすごい嫌な予感がする。

 どうか、ただの買い物でありますように……

 

「だから何故依頼が受理されないのだ!」

 

 だから何故依頼を勝手に出そうとしてるのだ。

 でも受理はされない? よかった。変な出費にはならないようだ。

 

「ですからこのバルバレハンターズギルドでは現在依頼を受け付けれないんですよ……。ギルド間の問題ですので詳しくお話はできないんです……。特殊な依頼であれば可能ですけど……。ですので、ここは『(穏やかに微笑みながら)困らせて悪かったな、お嬢さん』と言って諦めてくださると嬉しいです!」

「古塔に関する依頼なのだぞ。古塔の依頼は充分特殊だろう」

 

 なんだあの女の人。また変な人と遭遇である。強烈な個性がないと都会では埋もれてしまうのだろうか。そんな考えがよぎるほど強烈な人ばっかりじゃないか。

 そしてテオルは古塔にまた行く気なのだろうか。まぁ服を置いてくるのを忘れてしまったし、その方がいいのか……。

 

「それは先ほどもお聞きしましたけど……、依頼内容を尋ねたら『(遠い目をしながら)新星が瞬いていた。かの竜を制する者が現れた兆しだろう。この竜の出現と、かの者の出現は決して無縁ではないはずだ。結末も、すでに定められしこと。(真っ直ぐな瞳を輝かせながら)狩人ならできるはず。そう、真の狩人なら……。』ってナチュラルにポエミーなことを言われてさすがの私も戸惑ってるんですよ……」

 

 今すぐ古代服を脱ぎたい。急に詩的な表現を使って依頼を出しちゃう人物と、同じようなこの服装をやめたい。

 い、いや、これはきっとあれだよね。あの個性強烈な女性が変に強烈な言い方をしてるだけだよね。

 

「さっきから訳のわからん注釈を入れるな!」

「私のアイデンティティーですから! でもあなたの言ってた内容は一言一句このままですよ……。おかげでちょっと取り扱いが……、表情に関しても盛ってませんし……」

 

 ばかな。詩的表現を入れだす厨二に進化していたとは。やっぱりこの古代服今すぐ着替えたい。

 

 しかしこのまま放置しておくのもよくない。古塔のモンスターを実際に見たから、何か理由をつけて再度行く作戦なのだろうけど、その理由付けがあんな詩的な意味不明な内容だもの。変に暴走してさらに訳の分からない事態になる前に、ここは強引にでも止めなければ。

 

「はい、ちょっとすみませんこのバカ借りますね!」

「あ、はいどうぞ!」

「ナナリ、気づいたか」

「それじゃあ失礼しますねー!」

 

 気づいたとも。勝手に依頼を出そうとしてることに気づいたとも。今の残金いくらだと思ってるのだ。7万zほどだよ。今度は塔への依頼は陸路だろうから5万もしないだろうけど、タンジアへ飛行船とかで戻る金額を考えると7万zじゃ足りないんだよ。この船に乗っての移動なら移動費はかからないらしいけど、この船がいつタンジアつくかわからないんだよ。勝手にお金を使わせてたまるか。

 

「待て、まだ依頼を出せてない」

「いいから移動する!」

 

 とりあえずお金の大切さをこいつに叩き込まないと。現在の残金と、今後の方針も相談しないと。あと厨二病発言を注意しないと。やだ、言いたいこと相変わらず多すぎる。

 文句を言うテオルを引っ張り、カウンターから離れさせる。少し離れた机でちゃんと話し合わなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故依頼を出すのを妨害したのだ」

「何故妨害されないと思ったのじゃ」

 

 しまった。あまりにも尊大な態度だったから、反射的にこちらも尊大な態度で返してしまった。

 

「俺たちはこの、古き時代より遺る衣を塔に置いてくる使命があるのだぞ。そのためにもあの竜は討伐してもらわねばならん」

 

 確かに塔に置いてくるつもりだったけど。今は少し、こう……、怖いじゃん塔。それにお金の問題もある。帰りのお金とかね。とりあえずそんな複数の理由から塔はダメだ。ダメなのだ。それを納得させなくては。

 

「えっと、ほら……、古代文明にゆかりのある土地に置いてこいって話だったじゃない。だからほら、塔以外でもよくない? ほら、各地に古代文明の痕が残ってるってゴードンで聞いたからさ」

「だがこの衣は塔に関連すると調べてもらったではないか」

「そうだけどさ……、お金の問題もあるからほら……、塔には行けても帰りのお金がなくなっちゃうよ」

 

 そういうわけで、塔ではない別の古代文明で妥協してほしい。どこであろうと古代のものならいいじゃないか。大事なのは今なのだ。古代のどこが何の発祥の地とか細かいことはどうでもいいのだ。

 今、お財布が危険なのが重要なのだ。古代服のせいで今が危険になるなどダメだ。今、このときのためにも、この服はいっそその辺で捨ておいてもいいと思う。命、お金、大事。

 

「……、ナナリの言いたいことはわかっているつもりだ」

「それじゃあその辺に服を置く方向で決定だね!」

「今の言葉は訂正する」

 

 あっさり手のひら返しとは、この幼馴染は誇りとかないのか。

 

「なんであれ、塔のあの竜は狩猟してもらうつもりだ」

 

 なんでそんなにあの竜を目の敵にしているのか。確かにあれのせいで命の危険が凄まじかったし、服を置いてくるということも忘れるほどの状況になった。だがもういいではないか。怖いし。

 

「なんでそんなに、あの竜を倒してもらいたいの……?」

 

 しかしここまで執着するとなると、何か本当に特別ななにかがあるのかもしれない。

 

「……、理由がある」

 

 真剣な表情だ。その表情を見て私は不安に思えた。

 

 だって、このテオルの表情は……

 

 

 

 

「炎王龍テオ・テスカトルとあの竜が、キャラ被りをしているからだ……」

 

 

 

 

 真面目に聞くだけ無駄なことを考えているときの表情なのだから。

 

 

 

 

「それじゃ塔に行くのはなしね。依頼ももちろんなしね」

「何を言っている! 竜の分際で古龍とキャラ被りなど許されるはずがないだろう!? やつは討伐しなければならない!」

「お前が何を言ってるんだ」

 

 その古龍とあの赤いのがどう似通ってるかなんてどうでもいいよ。私からすれば危険な生き物に変わりはないよ。

 

「強靭な体躯、赤き鱗を持ち、近づくものをすべて灰燼に帰す龍、それが古龍たる炎王龍なのだ! 塔にいたやつは巨体、赤い鱗、おまけにやつの起こす衝撃で爆発が起きていた……。竜が古龍の真似をしようなど、身の程知らずにもほどがあるというものだ!」

「すごいどうでもいいけど、あの赤いでかいのも古龍なんじゃないの?」

「いや、あれは違う。色が違うが轟竜に特徴が似ていた。おそらくは特殊な個体なのだろう。なんにしろ、あんなドタドタと品のない走り方をする古龍などいてたまるか!」

 

 モンスター相手に品とか言いだしましたよこの人。

 

「だからこそ、あの竜の狩猟依頼を出す」

「無理無理。お金ないし、それにあんな意味のわからない詩的な表現での依頼って、なにあれ? ねぇ、本当になにあれ?」

「……、ナナリが来る前に変な男がいたのだ。赤い衣を纏った奇妙な男だ」

「テオルも十分変だよ」

「…………」

「あ、続けて?」

 

 つい素直な気持ちを吐き出してしまった。納得がいかないような顔でこっちを見ないでほしい。テオルが変なのは事実だろうに。

 

「その男からただならぬ気配を感じた……。その男が受付で依頼を出していたのだ。その時のやつの放った言葉、しっかりと記憶している」

 

 とりあえずテオルの話は聞き流すとして、どうしよう。塔はまずないとして、他の古代文明の土地だ。ハンターずぎるどの人の善意にまたまた期待して、尋ねてみるというのも手か。

 

「ハンター諸君、試練の時間だ。天蓋を衝く逸話の出現、蛇王龍。巨大な体躯を目前にして、人が抱くのは底知ぬ絶望か、それとも飽くなき闘志か。ハンター達よ、いずれかを選び、ここに示すがいい!」

「え、何急に。すごい痛々しいんだけどどうしたの今の台詞」

「だからその男の言葉だ。そして何故かそんな言葉で依頼が通されていた」

 

 人が考え事をしている最中に突然痛い台詞を言うとは何事かと思ったよ。それにしてもテオル以外にも変な人いるんだね。

 

「本当にそんな内容で通ったの? それに今は依頼を受け付けれないって言ってた気がするけど……」

「ああ、確認したら通っていた。なんでもその男はハンターどもの間では一種の名物のようなやつらしい。だから俺の依頼も通ってもおかしくないはずだ」

 

 そんな名物男の真似をして謎発言で依頼を通そうとしたのかこいつは。まぁ名物になれそうな痛々しさはテオルにも確かにある。だからって痛々しさを主張するのはやめてほしい。

 

「それであの意味不明な依頼内容っすか……」

「あの赤い衣の男の出現は天啓に感じた。あの男を参考にすれば受理されると踏んだのだが……、ふん、ここの人間どもには難解すぎて伝わらなかったのだ。程度が知れる」

 

 こいつは真人間に戻れるのだろうか。いや、戻さなくては、と旅の最初のころは思ったりもしたけど最近は慣れてきた。もうきっと不治の病なのだ。厨二病の中でも特殊な症状なのだきっと。

 

「とにかく、塔のことはもう忘れよう? ぎるどの人に聞いて他に古代服と関わってそうな場所を聞いて考えようよ」

「だがあの竜は……」

「あ、あのー」

「はい? なんです?」

 

 さっきの黄色い服の女性がそばに来ていた。

 

「先ほどの塔に関する依頼ですが、お急ぎでなければ受理可能ということをお伝えしにきました。さっき先輩に『(顎をくいっと持ち上げられながら)断るだけでなく、代案まで提供しなくちゃ一人前にはなれないわよ。イケナイ子ね』と言われまして……、まぁ顎くいは妄想ですけど……、うっとり」

 

 ふむ、厨二というより妄想癖激しい人なのね。まともな人はやっぱりいないのね。

 

「やつの狩猟依頼が出せるならそれで構わん」

「モンスターの情報が不明瞭なので、塔への狩猟依頼、というより調査兼狩猟依頼として扱います。金額は2万5500zですが大丈夫ですか」

「いや待って、それで構わんじゃないよ。構うから」

 

 何流れるように依頼を出そうとしてるのさ。さっきも言ったじゃないか。お金が辛い状況だって。

 まぁでも財布は私の鞄に入れたままのはずだし、そんな金額は出せないけど。

 

「え、えっと……、この場合私はどうすれば! 先輩にヘルプを求めて『まだまだ私に甘えたいの?』って、かぁ~! 咲き誇りそうです百合の花が!」

 

 強烈な方だ。そういえば類は友を呼ぶという言葉がある。テオルの周りには変人が集まるのは、テオルが変人すぎるためだろうか。

 

「これでいいだろう。取り消しはさせんぞ」

「あ、はい! 確かに、2万と5500zですね。ではでは先ほどの内容で登録しておきます! ドンドルマの管轄地域から離れ次第、クエストボードに乗せられますので!」

「え」

 

 あれ? なんでテオルが財布持ってるの? 実はへそくり持ってたとか?

 すぐさま自分の鞄を調べる。悪い予感しか今はしない。なんか私の財布にそっくりだけど、テオルの個人用財布だよねきっと。私の財布は私の鞄にあるよね。

 

 

「え、ちょっとまってちょっとまって」

「ナナリ、悪いがこればかりは引かんぞ。やつはキャラ被りもだが竜の分際で、旧き時代より在りし塔を、無作法にも破壊しながら走り回っていた。罰を下すべきだ」

「え、いやそれはどうでもいいんだけど。いや、依頼出したことはどうでもよくないけど。え、その財布って、誰の?」

「旅の資金を入れた財布だろうに。ナナリが意識を失ってる間鞄に入れっぱなしも不用心だからな。俺が預かっておいた」

 

 つまり、私の財布、だよね?

 

「え、なんで勝手に使ってるの」

「依頼を出すには使うしかないだろう」

「いやいや、依頼出さなきゃいいでしょ? え、ちょっと、え?」

「大丈夫だ。まだ残金に余裕はある。4万zはあるぞ」

「何も大丈夫じゃないから……」

 

 どうしてくれるんだこいつは。4万zしかないのだ。しか、なのだ。

 

「……、財布返して」

「あ、ああ……」

 

 追い詰められたとき、人は力を発揮する。って誰かが言ってた気がする。今こそ私もその力を発揮するべきだ。この金銭的危機から脱出するための力を。

 

 4万z。これだけあれば普通なら充分な金額だ。だが、移動費で大幅にとられる。移動費節約のためにこの船に乗り続ける、は目的地までいつ着くか。どうやら飛行船じゃないようだし、海を渡るのも大変なはずだ。

 このままこの船に乗り続けるのはジワジワと追い詰められることになる気がする。

 

 どうすればいいのだ。どうすれば……。

 

 

 

 ……そうだ、あの手があった。

 

 脳裏に浮かんだのはにっくき白猫。 

 あんな間抜けそうな毛むくじゃらでもできたのだ。私でもきっとできるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 密航しよう。

 




謎の赤衣の男
MHシリーズに何度も出てくる意味深な依頼主
このお話に出てきた依頼内容はイベントクエスト「邪王の怒りは天蓋を衝きて」
ダラ・アマデュラの討伐


古代の衣装を着た青年
MH4ではイベントクエスト「驚天轟地」の依頼主
実際の依頼内容
新星が瞬いている。かの竜を制する者が現れた兆しだろうか。この竜の出現と、かの者の出現は決して無縁ではないはずだ。結末も、すでに定められしこと。君ならできるはず。そう、君なら…。

口調が驚天轟地だとやや爽やか厨二キャラ。そのため今回はなんだか変則になりました。


下位クエスト受付嬢
時折妄想が炸裂するNPC。依頼主ではない。

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