自分を古龍と思い込んでる田舎者   作:横電池

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美食との遭遇

 密航大作戦。

 

 もちろん、本来はやってはいけないことだ。

 だがしかし、今の私たちの状況はいずれ野垂れ死ぬ可能性があるのだ。危険を避けるためにはやむを得ないのだ。もちろんリスクはある。だが待っててもいいことはないって誰かが言ってた気がする。

 なぁに、バレなければ問題はない。

 バレないためにも、そして状況が悪化しないためにもちゃんと計画を立てるべきだ。

 

 注意する点は3つ。

 

 1つ。目的地を決めること。

 テキトーに行先を選んではいけない。帰りたいけど古代衣装を置いていかないといけないのだ。塔以外の場所でいい感じに置いていける場所を考えなくてはいけない。

 まぁこれはぎるどの人の善意に頼って、古代文明関係の土地を教えてもらう、だ。さらに言えば、安全なところが望ましい。

 

 2つ。目的地への船を出してもらうこと。

 そこに誰も行かなかったらダメである。誰も行かないなら船がでない。そのために船を出してもらう必要がある。これに関しては、なんかそれっぽい依頼を出す形式でいける気がする。私たちがついていかないって条件なら安そうだしね。

 

 3つ。迎えの船が必要であること。

 目的地にもよるが、ハンターに依頼を出して、そのハンターの乗る船に密航して目的地へは行けても、帰りもそのハンターと一緒になれるかはわからない。ここは安全を期すためにも、迎えの船を依頼として出す必要があるはずだ。そしてその船に侵入、密航だ。これも2つ目と同じで何かの依頼で船を出してもらえばいい。

 幸いにも私たちは二人で旅をしているのだ。行きの依頼を私が、迎えの依頼をテオルが、と別々行動すればいける気がする。

 

 さらに言えば、里へ帰るための依頼もあとで必要なので、全部で3回依頼を出す必要がある。

 まぁ最悪全部で3回だけども。行き先の同じ船があれば依頼を出す必要がないしね。あとはバレない行動だ。

 

 あ、でもそういえば、この船じゃしばらく依頼はダメなんだっけ。ドンドルマ? にこの船は行くってそういやほうき頭さん言ってたっけ。

 ほうき頭さんが言うには、そこにもハンターずぎるどがあるみたいだし、そこで作戦を開始しよう。

 

 まぁそれまでにも、この船で目的地を決めるくらいはできるし、今は目的地決めだ。

 

 この作戦は目の前にいる自称古龍様にも聞かせなくてはならない。

 

「テオル」

「なんだ、依頼の取り下げは断固拒否する」

 

 取り下げと言う手もあったか。だが今はいい。取り下げてもこの作戦は実行するつもりなのだから。正規ルートじゃお金足りないもん。

 

「この服を塔以外の古代文明の場所に置くから。その場所をぎるどの人に聞くよ」

「塔以外なのか」

「塔以外よ」

 

 塔はダメだ。危険だし、さっきのテオルの依頼ですら2万を超える金額だ。依頼主同行でもないのにだ。

 所持金4万zじゃそんな選択肢はない。

 

「さらに言えば、何かの依頼をハンターに出すとき、安く済むような場所がいいね」

「なんだその条件は」

「ちょっと耳貸して」

「あ、ああ……」

 

 この作戦は人に聞かれるわけにはいかないのだ。慎重に期すに限る。作戦の説明のために耳打ちである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで安くすむ場所がいいの」

「……、不安しかないんだが」

 

 作戦を打ち明けたところでこの反応である。でも私だって不安だよ。

 この作戦は私とテオルが別々行動なのだ。テオルが目を離してる間に何をやらかすか不安で仕方ないよ。けどここは腹をくくるしかないんだ。

 

「そりゃ不安なのはわかるけど、このままこのバルバレ? にいても、いつになったら戻れるかわからないじゃない」

「まずバレずに済む気がしない。それにナナリと別行動など不安以外思い浮かばない」

 

 甘えん坊か。私がいないと不安とか、案外可愛げがあるやつじゃないか。

 まったく、同い年なのに妙なところで弟のような雰囲気を醸し出して。

 

「ガーグァの卵取りで培った存在感の薄さをうまく発揮できれば、きっといけるから大丈夫大丈夫」

「ガーグァと人間を同じ感覚で語るな……」

 

 人より野生の生き物のほうがきっと感覚は鋭いはずだよ。だから平気平気。

 

「まぁ塔以外の古代の目的地なんだけど、本に乗ってたりしてない? 安いところで」

「安い古代文明とはなんなのだ……。だいたい遺跡などがある地域となると密航には殊更警戒すると思うが」

「その、みっ……こ、うとかの単語は伏せてほしいんだけど」

「ああ、すまない。とにかく、遺跡が荒らされたりされないように船は警戒すると思う」

 

 ぐぬ、たしかにそんな気がする……。

 

「……、古代文明ではないが、炎王龍と炎妃龍の化身である俺たちにゆかりがありそうな土地は思いつく」

「ちょくちょく痛い発言しないと苦しむ病気とか持ってるの?」

 

 化身どうこうは置いといて、たしか古龍だよね。生態がいまいちわかってない謎のモンスター。古龍も古くからいる的な響きがするし、もういっそそこでもいいかもしれない。

 

「で、その土地は安くいけるの?」

「知らん。だが遺跡などがあるという話を聞いたことがない。遺跡がある土地に行くよりはバレにくいだろう」

 

 値段は不明か。でも安全性は高い、のかな。

 

 

「その土地はなんてとこ?」

 

 

「火の国だ」

 

 

 

 

 

 

 火の国。

 

 ふむ、火の国か。

 

「どこかわかってないだろう」

「な、名前だけは聞いたことあるから……」

 

 仕方ないじゃないか。よその地域の情報なんて使うことがないと思ってたんだもの。

 でもなんとなく予想できるよ。熱いんでしょ、すごく熱いんでしょ。

 

「テオルはどういうとこか知ってるの?」

「火山が近くにある国だ」

「うん」

「…………」

「……、それだけ?」

「…………、か、火山と言う過酷な環境ゆえに、そこに住まう竜どもは強力なものが多い」

「それ、依頼高くならない?」

「…………」

 

 もう妥協に妥協を重ねて、古代文明関係なくその辺に捨ておくのもありだよね。旅の最初のころのような真面目な気持ちはもうないんだもの。しょうがないよね。

 

「もうその辺捨てよ……?」

「それはダメだ。捨てるくらいなら持って帰るべきだ」

 

 くっ、自称古龍には古代衣装は手放しがたいものだもんね。かといってそれじゃあ里長にバレ確定だ。その辺に捨てるのはダメ、持って帰るのもダメ。やはり古代文明か火の国か。

 いや、焦ってはダメだ。調べたら他にも候補が出てくるかもしれない。

 

 とりあえずカウンターの人達に聞けばいいだろうか。

 でもなあ、怪しまれたりしたら危険だ。

 

 なんだか思考が悪い人みたいになってきている気がする。やむを得ないから仕方ないのだと自分に言い聞かせてはみたが、実行する際を想像すると後ろめたさか、バレたらと思う恐怖からか、ドキドキしてくる。

 

 ドンドルマにどれくらいで着くのかくらいは聞いても大丈夫だよね。不自然じゃないよね。きっとそうだ。

 

「とりあえずドンドルマで作戦決行だから。どれくらいで着くか聞いてくる」

「やはり考え直さないか……?」

 

 ここまで不安がるテオルというのもなんだか珍しいものだ。だけどもここは心を鬼にするのだ。いつだって私がテオルのフォローをできるわけではないのだ。時には独りでいさせるのもテオルの成長にきっとつながる。同い年なんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、この船って今ドンドルマに向かってるんですか?」

 

 カウンターの黄色い服の女性に話しかける。この人の強烈個性はちょっとアレだけども。左右に赤い服の女性と青い服の女性がいたけど、さっき話した相手のほうが話しやすいからね。

 

「はい。ドンドルマに向けて航行中ですよ。予定では2日後には到着予定です!」

 

 意外と普通に会話できるんですね。すっごい失礼な感想が頭に浮かんでしまった。

 

「先ほどの依頼以外にも、お急ぎなどで依頼を出されるのであれば、ドンドルマで出すことをお勧めしますよ!」

「はぁ……」

 

 このままテオルのもとに戻ってもいいけど、もうちょっと話をしておこう。こう、ちょっとでも普通の一般人という印象を与えておくのだ。ドンドルマでの行動はこの人には関係ないかもだけど、一応念のためだ。

 

「なんでここでは今依頼を出すことができないんです?」

「ギルド間でいろいろとあるんですよ。詳しくはお話できませんが、とにかく今の航路はドンドルマ管轄内なので、バルバレは集会所ではなく移動市場の面で動いています! 『(渋い声で台詞)しばらくは、市場でこの平和を堪能できるってわけだな』というハンターの声が聞こえてきそうです! 渋ぅござんす!」

 

 あ、やっぱり普通に会話は難しそうだ。

 

「あ、ただ……、ドンドルマでも今は依頼を出せるかは少しわかりません」

「はぁ……。え、なんでですか」

 

 急に妄想から戻って重要情報出さないでほしいんですけど。流しそうになっちゃったよ。

 

「実は……、ドンドルマについ最近、古龍の急襲を受けたんです。そのため街は現在半壊でして、復旧作業中なんです。ドンドルマのハンターズギルドの判断次第では依頼が断られる可能性があります。その場合はこちらで受理できると思いますんで安心してください!」

「え、それ大丈夫なんですか。古龍の急襲って」

「ドンドルマはどういうわけかモンスターの襲撃によくあうんです。ですが完全に壊滅させられたことはない、たくましい街なんですよ! 古龍の急襲も現場のハンターたちの協力により、追い返すことができたみたいですよ」

 

 よく襲撃にあうってそれ、危険すぎない?

 

「情報では半壊ですが、どの程度までなのか結構まちまちなんですよね。復旧にも慣れっこみたいで、こちらとドンドルマでの感覚に差があるのか……。今回の襲撃はテオ・テスカトルによるものだったそうですし」

 

 テオ・テスカトルって、テオルがよく言ってる炎王龍じゃなかったっけ。

 

 やはり危険な生物なようだ。街を襲撃するとは。この情報はすごい大事だ。

 ドンドルマでは絶対に、テオルが自分は炎王龍の化身だなんだとか言わせたらダメだろう。襲撃を受けた街にとっては冗談でも笑えないだろうから。

 さすがにそれくらいの分別はつくとは思うけど、念のためだ。慎重さは大事だ。

 

「いろいろありがとうございます」

「いえいえ! お役に立てたなら幸いです!」

 

 ドンドルマには2日後、テオルに炎王龍の話題禁止。この2つを知れたのは本当に収穫だ。

 テオルのもとに戻ろう。

 

 カウンターに背を向けて、テオルのいる場所に目を向けると近くの席に知ってる人がいた。

 どこか高そうな服を着た、ふくよかなおじさんがいた。

 

 

 自称美食家の悪食家さんじゃん。

 目があっちゃったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、こんにちは」

「なにやら見覚えがあると思えば、やっぱりあの時のお嬢ちゃんだったか!」

 

 どうしてここにいるんだろう。あれからやっぱり虫を食べたのだろうか。

 

「ナナリ、こいつは誰だ」

 

 テオル君はいつも通りの尊大な態度を貫きますねほんともう。

 

「ええっと……、シー・タンジニャで一緒にご飯食べた人、かな」

「うむ。加えて言うなら、お嬢ちゃんが虫を食べたという話を聞いて、新たな可能性を感じることができた美食家じゃ!」

「私は食べてません」

 

 私じゃなくて、私の里の長の世代だっての。

 

「なるほど、なんとなく理解した」

 

 今ので理解できるの? どう理解したのかすごい気になる。

 

「こいつは私の幼馴染のテオルです。それで、えと、どうしてこの船に? どこかの村で依頼を出しに行ったんじゃ……」

 

 虫を食べるために、とかいう意味の分からない理由で。

 

「うむ。ブナハブラを煮込んだものを温泉に入りながら頂こうとしたんじゃがな……、他の客人に迷惑だからやめろと言われての……」

「そりゃそうですよ」

「金を払うから、と頼みこんだのだが、いくら金を払ってもダメだと言われ、最終的に出禁となっての……」

「うわぁ……」

「ナナリ、こいつ本当に美食家なのか?」

 

 テオルの疑問はもっともだと思う。もう美食家じゃないよこの人は。悪食家だよ。しかしお金持ちなのねやっぱり。金欠な私たちには羨ましい話だ。

 

「というわけで新たな食の可能性の探求のために、ドンドルマを目指しているんじゃ。徹甲虫や重甲虫、鬼蛙を今度は食してみたいと思っての……」

 

 それらを食べるために、また依頼を出しに来ているというわけか。その遊ぶお金をわけてほしいよ羨ましい。

 

「羨ましい話ですね……」

「何を言ってるんだナナリ……」

 

 あ、いや。羨ましいのはお金に余裕があることだよ。悪食さは羨ましくないよ。

 

「おお! やはりお嬢ちゃんはわかってくれるか!」

「あ、いや、違いま」

「未知の食材への探求心、それだけで動いてきたがユクモ村の件で心が弱ってたんじゃ……。だが理解者がいるとわかると、自信がわいてくるもんじゃ!」

 

 これ否定したら傷つく感じですよね。

 ……、まぁ、話だけ合わせよう。もうそうしよう。

 

「そっすね……」

「ナナリ……」

 

 テオル、得体の知れないものを見る目で見ないで。あとで弁明するから。今はその視線が辛いからやめて。

 

「ありがとう! お嬢ちゃんには本当に助けられてばかりじゃ」

「ははは……」

「そういえばお嬢ちゃんたちはどうしてこの船にいるのかの?」

 

 どうして、と言われるとどう答えようか。

 なりゆきで、としか答えれない気がする。塔にいって往復依頼じゃなかったからここに転がり込んだ、みたいな感じだし。そしてドンドルマで密航予定です。とか正直に言えないし。

 

「ちょっと色々ありまして……」

「ふむ。何か事情があるようだの。わしで良ければ力を貸すが」

「あー……、いえ、大丈夫です」

 

 一瞬その言葉に頼ろうかと考えたが、お金に困ってるんですって言いづらい。それに解決方法をさっき見出したし、そんな甘言に惑わされないよ。

 

「ナナリ、いいのか」

「いいよ」

 

 それに、虫信者とこれ以上の交流はちょっと……。そのうち虫料理を奢るとか言われそうじゃないか。距離取りたいのです。

 

「ふむ……。もし気が変わったらいつでも力を貸すからの。遠慮なく言うのだよ」

「ありがとうございます」

 

 あなたが悪食家じゃなくなったら頼ろうと思います。

 

 予想外の遭遇があったが、テオルに忘れないうちにドンドルマのことを伝えなくては。

 ここで話すわけにはいかないため、悪食家と別れ、私が最初に寝ていた部屋までテオルと移動することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に寝ていた部屋は客人用の部屋らしい。ドンドルマに着くまではこの部屋を使ってくれて構わないとのことだ。ありがたい話である。

 

「ドンドルマで炎王龍、か」

「うん。だから街の人たちの前で古龍だなんだって言うの禁止ね」

「ふん、俺とてわきまえている」

「わきまえてたら日ごろの妄言は出ないと思うんだけど」

 

 炎王龍の話を聞いてワクワクテオル君状態になると思ったが案外普通だった。この分なら大丈夫かな。

 

「だがギルドの者にその時の様子を聞くくらいは問題ないだろう」

「まぁ、そう、かなぁ?」

「少し楽しみだな。俺と同種である炎王龍と、対峙した感想や様子はどんなものか……」

「そういう妄言禁止だからね本当に」

 

 大丈夫なのかな本当に。

 

 到着までの2日間、なんども言い聞かせないといけないなこれは。

 どうせ2日間やることもなさそうだし、まあいいか。

 

 

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