「今回はまことに申し訳ありませんでした」
テオルたち3人が戻ってきたのは夜になってからだった。炎王龍を追いやることは成功したらしい。
簡単に手当てをしてもらい、少しは歩いたりできるようになった私は、出迎えて早々土下座をした。
「ヌハハハハ! 我輩は謝られる覚えはな……、いや、ある! 札束ビンタで危うく開けてはいけない扉を開けかけたのだ!」
「村の連中に連れてかれたんだろ? あんまり気に病むこたぁねーぜ」
「……」
3人の反応が見事にばらけた。
札束ビンタは仇討ちだから、今回の謝罪とは関係ないです。
村の連中に連れていかれはしましたが、最初は私も乗り気だったので、私にも原因があったりします。なので気に病みます。
無言怖い。
「火の国には行くなと言われていたのに勝手に行き、村にいるようにと言われたのに勝手に火山へ行き、そして死にかけていて本当に申し訳ありませんはい」
改めて今回の自分の失態を思い起こせばひどいものである。知らなかったとはいえ、ひどいありさまである。
「…………」
さっきからテオルが無言である。
こんなテオルは初めてだ。どうすればいいのだろう。
「まー、無事だったからよかったじゃねーか。な?」
「ウム! 我輩も久々の火山の狩猟ではしゃげたので良し!」
この2人にも今度改めて他の件で謝らないと。
ほうき頭さんには私の勝手な思惑でトラウマと対峙させたことを。
貧乏ハンターさんには……、この人に謝る要素あんまりなくない? 今回の件も依頼の報酬目当てらしいし。でも感謝はしてます本当です。
「…………」
そして無言で腕を組んでいるテオルである。
まだご立腹のようだ。もしかして他にも私は何かやらかしていたのだろうか。
心当たりはないけどきっと何かがあるのだろう。
思いだそうと頭を必死に働かせるけど、全然出てこない。無言の空気が重い。どうしたらいいのだ。
「少し二人で話をしたい。外してもらえるか」
ようやく言葉を発したら退席願いだった。その言葉を聞いて、ハンターの2人が出ていく。ちなみに卵信者女性はすでに外にいる。
「あいよ。しっかり怒られるんだぜ」
「では我輩は外で何か次のビッグビジネスでも考えることにしよう」
「ハンター業がんばれよおっさん……」
あの貧乏ハンターは堅実にやればちゃんと生活できる気がする。けどあの性格がダメなんだろうな。
まあ今はそんなことより、目の前のことだ。
私はいったい何を言われるのであろうか。
「……、ナナリは馬鹿だ。それにいつも間が悪い」
間が悪いって何。でも今回は何も反論できない。
いくらでも文句を受け付けよう。
「ひとりでこんな場所まで来て、何か騙されて生贄に選ばれるんじゃないかと心配していたら本当に生贄にされかかっているとは」
「返す言葉もありません……」
「おまけに金のほとんどを持っていってくれたおかげで、すぐに追いかけることができなかった」
「すみません……」
追いかけられないようにするため、少しだけ残してほとんどの金額を持っていったのだ。
「少し目を離すと何をやらかしているのか……、昔からそうだった」
私も常々あなたに同じことを思っています。
しかし同じことを思っていたとは。
「昔も、何かやらかしてましたでしょうか……」
「ああ、里の外に大型の竜が我が物顔で居座っていた時期、ナナリは勝手にひとりで外に出たりしていた」
「そんなことあったっけ」
「あったのだ……。自分は存在感薄いから気づかれない、と意味の分からないことを述べながら何度も何度も……、何故か卵を毎回持ち帰ってきていた」
正直そんな時期は覚えていないけど、実際にその発言は言ってしまってそうだ。今回の件も、もし小型が残っていても、同じようなことを言って火山に行こうとしていたと思う。
あと卵って単語聞くと思わずあの組織が頭によぎるからやめてほしい。
「運がよかったのか、襲われたことはなかったのだろう。怪我をして帰ってきたこともあったがガーグァに啄まれた程度の怪我だった」
まぁガーグァの卵取りには自信があるからね。ガーグァの攻撃なんてかすり傷だよ。目をちゃんと守るのがコツだよ。
「……、危険なのに何度も外へ出るナナリが心配だった。何度止めても気づけばいなくなっていた。そんなナナリを、危険から守れるようになりたかった」
「そんなに心配をかけていたとは……、申し訳ないです……」
昔の私はどこまで能天気だったのか。心配されまくっていたのに行動を改めないとは。
今回の私も同じことをしている自覚はあるけど、ついそう考えてしまった。
しかし、守れるようになりたいって言われると、心配からってわかるけども、なんだか気恥ずかしい。そんな柄じゃないのだ私は。
「強くなろうと決めて、まずは知識をつけようと本を読み漁った」
知識からなのか。
そこですぐさま体を鍛える、とかじゃないんだ。ちょっと突っ込みたかったけど我慢する。
「そして古龍に、炎王龍になりたい、なろう。そう、思った」
「ちょっと待って」
これ何の話だっけ。
知識からつけるって言うのは別にいいよ。賢く強く、理想だものね。
そして何故そこから古龍になるって考えに至ったのだ。全然理解できない。
っていうか私が怒られる話だよね。なんでテオルの過去の決意が話されてるの。その決意もよくわからない方向に転がっていったけど。
「えっと、なんで急に古龍が出たの?」
「知っているだろう。古龍は1体でもそこらの竜が逃げ惑うほどの強さをもつ存在だ」
「えーっと、つまり、古龍は強い。そんな古龍みたいになるーって感じ?」
「古龍の炎王龍に、だ」
こだわりはあるんですね。
何故守るために強くなる。から妄想へ逃げてしまったのか。なんというか、恰好がつかない。さっきの気恥ずかしさはなんだったのか。
「今回のナナリの暴走で、炎王龍たらしめるための、難解な物言いをしようとしてしまう俺にも落ち度があると思えた」
「今回のは、私が完全に悪いよ……」
「……、いや、俺も原因だ。長い付き合いがあるというのに……」
日ごろ意味不明な物言いだとは思っていた。けど今回は行くなとしっかり言ってくれていた。理由も聞かずに、勝手に行ってしまった私が完全に悪い。
「ナナリが馬鹿だとわかっていたのに……、ナナリの行動を読めなかった俺の責任だ……」
腹立つこいつ。
遠回しにネチネチ責めるのが趣味なのではないだろうか。いや、責められるのは仕方ないけども。
「だがもう、俺は古龍を目指そうと思わない」
「?」
難解な物言いだと馬鹿な私が変な暴走をするからやめる、ということだろうか。こんな形で真人間に戻ろうと決意するとは、気持ちは複雑なんですが。
いや、ちゃんと理由を聞いておこう。こうやって思い込んで決めつけてしまったのが今回の始まりでもあるのだ。少しずつでも直していかないと。
「えっと、なんでまた」
「……」
聞くと、答えづらいのか目線をそらした。やっぱり私の理解力不足が理由なのだろうか。
「……、古龍は強い。1体で生きていけるほど」
やや間を置いて、話しだしてくれた。
「古龍が人目についたとき、いつも単独だそうだ。古龍同士で縄張りがあるのか、ただ群れる必要がないほどの力を持っているからなのか、とにかくいつも1体なのだ」
「はぁ……」
突然古龍に関する授業が始まっても、生返事しか返せない。
「だが、炎王龍は………………、雌の個体に、炎妃龍がいる。つまり、なんらかの場では2体でいるのでは、互いに助け合っているのでは、と考えたのだ」
「ほへぁ」
「だから、炎王龍になろうと思った……」
「ははぁ……」
炎王龍にこだわってるのは番いがいるからですか。こだわった理由が意外にも青臭い感じがする。青春ですな。若いっていいものだ。同い年だけど。
正直とんでもないことを言われてる気がするけど、気づかないふりをすることにした。
「だが今回、炎王龍とハンターたちの戦いを見て、そんな考えは所詮妄想だと気づかされた」
「……」
「ドンドルマでも、今回の戦いでも、炎王龍を助けようとする存在はいなかった。炎妃龍はどこにもいなかった。現れなかった」
番いの火竜は、片方に危険が迫ると助けに向かうとテオルに聞かされたことがある。モンスターにもそういう助け合う関係がある。しかし古龍はそうじゃなかったのか。
「雌雄が明確に存在する古龍でも、結局は1体だけで生きているということに気づかされた」
「……」
「だから、炎王龍になるのが怖くなってしまった……。俺は、ナナリと共に歩くことができる、俺で居たい」
……いや、そもそも炎王龍にはどうあがいてもなれないと思うけどね。
またまたとんでもないことを言われてる気がするけど、気づかないふりをしようと務めた。少し顔が熱い。火山のある国はやっぱり暑いのだ。
「え、えと、その……」
「あ、ああ……」
テオルも今更自分の発言のとんでもないことに気づいたのか、ぎこちない。
ギクシャクする。
この空気で気づかないフリなんて、もうできそうにない。
でもどうしよう。
今までそんな話、私には無関係だと思っていたのだ。まだまだ先のことだと思っていたのだ。
なのに突然目の前に現れるとあれだ。
困る。
ましてやその相手がずっと一緒にいた相手なのだ。どうしようどうしよう。
まともに顔を見るのが難しい。
「…………あー、ナナリ」
「は、はい!」
「ふ、普通は、こんなこと聞くのはおかしいと思うが、相手がナナリだからな。念のため聞いておきたい……。正直聞くのがかなり俺も辛い」
「な、なんでしょうか……!」
滅茶苦茶ギクシャクする。いつもの空気が全くない。
「い、今の言葉の意味、伝わっているだろうか」
そういうの聞くのってどうなの。なんかこう、こう……ロマンチックが一気になくなるんだけどそういうの。いや、もともとロマンチックさなんてなかったけども。話題が古龍だしね!
「は、はい……。その、番い、的な、アレ、ですよね」
「あ、ああ」
おかしい。テオルと私の間に流れるこの空気。こんな空気、私は知らない。いつもはもっと気軽なものだ。
「テ、テオル……、えっとですね……」
「なんだ……」
うやむやにしてはダメだろう。正直な気持ちを言わねばなるまい。
でも正直な気持ちなんてあれだ。困惑しているという気持ちが大きい。
嫌いではない。そういう関係に見れない、と断言できるわけでもない。
そういう恋とか愛とか、番いとか、突然すぎて困惑なのだ。
っていうか番いって、私たちは動物か獣なのか。
番いと言いだしたのは私のほうだ。けど普段なら、テオルが言いだしそうな単語だ。
そう思うと、なんだか力が抜けた。そうだ、相手はテオルだ。変に肩ひじ張らずにいこう。
「番いになるのはお断りです」
「……っ」
お断りだ。傷ついたような表情が一瞬見えた気がした。少し心が痛む。だけど返事に変わりはない。
「番いって、人間同士で使うものじゃないでしょ。古龍に、もうなる気はないんでしょ? もともとなれるものじゃないけどさ」
人間同士ならこう、別の言い方でしょうに。こう、アベックとか。
「それでは……」
「あ、番いは絶対お断りだけど、アベックになるかどうかは、まだ返事は待ってほしい、かも」
「アベックときたか……。理由を聞いていいか」
うやむやにしてはダメだと思ったけど、心に浮かんだ通りの答えを返すのだ。それがうやむやな答えでも、私の考えた答えなのだ。
「正直突然すぎてわからなすぎるから。今はテオルをそういうふうには見れそうにないから」
「……そうか」
やや気落ちしたような気がする。断られたと思ったのだろうか。断ったつもりはないのだけど。
「だから、そうだね……。里に戻るまで返事は待ってほしいかな」
「里に戻るまで?」
「うん、里に戻るまで。だってさ、結局今回も古代服、捨てれてないんだよね……。だからまだ旅が続くから、それまでじっくり考えるよ」
「……、古代の衣を、捨てると言うな。……、長い旅になりそうだな」
「まぁそうかもね。でも、今度はちゃんと二人で話し合いながら、行先を決めて行こっか」
「……ああ、そうだな。そうしようか」
言ってしまえば答えの先延ばしであるけど、急いで出す答えでもない。と思う。
旅の最初のうちはさっさと任を終えたら、こいつとはすぐに距離を取ろうと考えていたけど、今はそういう考えはない。ちょっとずつ考え方が変わっていくのだろう。急いで出した答えが変わってしまっては大変だ。だからしっかりと、考えて考えて、それから答えを出そう。
「とりあえず行先を決める前に色々やることがありそうだね」
「何かあったか。……いや、違うな。何かあったっけ」
ひょっとして口調を普通にしようとしているのだろうか。突然普通になられると笑いそうになる。すごいぎこちないし。
「普段通りの痛々しい話し方でいいよ。そっちのほうがテオルらしいしね」
「そ、そうか……。待て、痛々しいとはなんだ痛々しいとは」
「やることはあれだよあれ! 今回いろんな人に助けられたから、お世話になった人へのお礼参り!」
「……、握りこぶしを見せながらお礼参りと言われると別の意味に聞こえるんだが」
お礼参りに別の意味なんてあるのか。
とにかくお礼をちゃんとしないと。今回助けてくれた人たちはみんな、この旅で関わった人たちだ。旅の恥はかき捨て、という言葉があるけど、恥知らずにはなりたくない。
火山で絶望してた時は、なんて無駄な旅路だったのだろうと思ってしまった。けど全然無駄じゃなかった。何が無駄か、無駄じゃないか、なんてわからない。とりあえず、関わることにはちゃんとしていこう。そのためにも、ちゃんとお礼をするのだ。
「とにかく今の方針はこれでいい?」
「ああ、いいだろう」
もう完全に普段の痛々しい話し方だ。この空気、やっぱり私とテオルは、今はまだ、この雰囲気がちょうどいい。
「そのあとは、どこ目指そうか。やっぱり塔?」
「そうだな……、ゆっくり考えようではないか。金も余裕がないからまずは稼がなくてはならん」
「そうだった……」
短期の働き口でも探すことから考えないとだろうか。そして溜まったお金でどこかに旅立つ。思った以上に長い旅になりそうだ。
「まぁ、その……、えっと、一緒に歩いてくれるんだよね。これからも、よろしくね」
テオルの言葉を一部借りて使う。詩的な感じだけど、恥ずかしさをぼかすのにちょうどいいかもと思ったからだ。けどこれ滅茶苦茶恥ずかしいわ。
「ふっ、よろしく頼む」
その動作、滅茶苦茶腹立つわ。
まぁこれがテオルなのだ。調子が戻ってきたと言ってもいい。変な空気より断然いい。
お礼参りのあとの目的地は不明だけど、どこであろうと一緒に頑張っていこう。
「どんな甘酸っぱい会話が起きるかとワクワクしていたが、少し腹が立ってきたぞ我輩。我輩は未だに独り身だというのに……、生意気である! 許さーーん!」
「落ち着けよおっさん見っともねぇ……」
「確かに独り身には正直辛いやり取りねあれは……」
外からハンターたちの声が聞こえてきた。
聞かれていたようだ。
あれだ。
お礼参りやっぱりやめたくなってきた。
「まずは外の連中に礼をしないとな」
「なんか素直にしたくないんだけど……」
「いいや、ちゃんとするぞ。旅の目的地はゆっくり決めていいが、済ませれることは早く済ませるぞ。返事が遅くなりすぎるのも嫌だからな」
「……くっそ恥ずかしいんだけど」
「ふん、いいから礼を言いに行くぞ」
「はーい」
なんだかんだで旅は急かされるかもしれない。返事を早く聞くために。
それに対して、気恥ずかしさと嬉しさを感じてしまうあたり、私はこれからもこの幼馴染と一緒にいるだろう。
「ありがとう」
「外の連中に面と向かって言うのではないのか」
「もちろんちゃんと言うとも」
ただその前に、痛々しい幼馴染に言いたくなっただけだ。
なんでこんなのと一緒にいなきゃいけないんだろう。旅の最初はそう思っていたのになぁ。
これからも一緒にいよう。この新しい旅の始まりではそう思ってしまっている。
そんなことを考えている間に、テオルが立ち上がった。もう外に出ようということなのだろう。私も新しい旅の始まりのために、ちゃんとお礼を言うために、外に出よう。
ゆえに、立ち上がろうとした。しかし 足が痺れて 動けない
「ナナリ、立たないのか」
「テ、テオル……」
心機一転の行動がまさかの足の痺れで阻害されるとは。幸先が悪すぎる。
「足、やばい」
「まだ痛むのか!? すぐに薬を探してくる!」
「あ、ちが……」
テオルが外に出て、私の足がひどい状態だと説明しだした。3人もあわただしく動き始めた。
ふむ。……、ただの足の痺れって言いだしにくい。
お礼だけでなく、謝ることもまた増えたなぁ。
足の痺れが収まったら、私もお礼参りで忙しくなりそうだ。
「テオルー! 戻ってきてー! 大丈夫だからー!」
その忙しさが今から楽しみである
これで完結です。
最後に改めて謝罪します。
古代の衣装を着た少女、古代の衣装を着た青年をこんな人物にして本当にごめんなさい。
ゲーム中はもっとミステリアスですきっと、たぶん、おそらく。
でも青年のほうはゲーム中の台詞どう見ても厨二病ですけど、とにかくごめんなさい!