私たちの旅の目的。古代衣装を縁のある土地に返す、だ。
まぁそれがどこかわからないから、古代についての知識ある人を探す。
そのためにもまずは行先は、古代文明を研究している場所か、人が多いところだ。
田舎者には古代文明研究所ってどこかさっぱりなんだ。研究所? 解読所? というかそもそもそういうものあるの? あるよね?
とりあえず大きめな街を目指す。そんなわけで今、ガーグァの引く荷車に同乗させてもらっている。
「本当にありがとうございます。街までの道のりもわからずどうしたものかと思っていて」
「いや、いいってことよ。その分の代金もらっちゃったしな」
「ナナリ、気にすることはない。むしろ代金まで渡したのだ。上の立場の者として振る舞わなくては」
「黙ってろ」
最初は無料で乗せてくれると言ってくれたのだが、申し訳ないので代金を渡したのだ。100z。
乗せてもらう代金ではあるが、このバカがかけるであろう迷惑料も入れてるつもりだ。安すぎる? 節約だ。
「ははっ、面白い兄ちゃんじゃないか。身分の高いお方なのかい」
「あはは……、ちょっと思い込みが激しい奴なんです。ただの田舎者です」
「……、まぁそういうことにしておこう」
そういうことにしておこう、じゃないよ。そういうことなんだよ。事実田舎者なんだよ私ら。
「姉ちゃんもいろいろと大変そうだねぇ」
「早くこの服の手がかりがわかれば楽になるんですけどねぇ……」
「真面目だねぇ。古代の服ならこっそり売ればいい金額になると思うよ」
「さすがにそれはできませんよ。里長にバレたら帰れなくなりそうですし」
いくらふわっとした任とはいえ、任されたからにはやり遂げたい。それにおそらくだが、服を収めた土地を聞いてくる気がする。その時もし売り払っていたらごまかしようがない。そのためにもやり遂げるのだ。
「まぁ大きな街なら人も多いし、なんかしら手掛かりはあるさきっと」
「ありがとうございます」
「とりあえずハンターズギルドに行ってみたらいいと思うよ」
「ハンターずぎるど、ですか」
「うん? うん、ハンターズギルド。情報がいろいろ集まってそうだしね。それにもし人里離れた場所にいく場合や、危険な道を行く場合の護衛を探すのにもいいしね」
なるほど。すごい助かる情報だ。とりあえず大きな街へ、とまでしか考えてなかったから助かる。テオルにもこの方針でいくよう伝えよう。
「テオル、街についたらハンターずぎるどに行こうね」
「聞こえてたわ。隣にいるのだから聞こえてたわ。ハンターズギルドだな」
静かだったから聞いてないかと思ってたよ。普段からそれくらい静かにいてくれればいいんだけど。
「そこで色々情報を集めるのと、あとは……、そこで考えよっか」
「集まる情報次第だな」
ひとまずの方針を固めたところで景色を眺める。
人用に舗装された道は里付近の道とは違って新鮮だ。ますます田舎者感が出てしまう。あの道はもはや獣道だわここと比べたら。
「見晴らしのいい道ですね」
「ん? そうだねぇ。隠れる場所がないからねぇ」
「いざってときに危険なんじゃないです?」
「そのいざってときが早々ないからねぇ」
危機感の差かこれは。田舎者と都会者の差か。
「隠れる場所がないから小型のやつらが来ないのだろう。小型がいないならそれを餌にする竜どもも来ない」
「そうそう。大型が通るとしてもよっぽど腹を空かせてないと襲ってはこないよ。こんな場所じゃ縄張りにしようとも思わないみたいだしね」
テオルのほうが外に詳しいとか結構衝撃だ。田舎と都会の差に驚いてるのは私だけとは。
「へ、へぇ……、で、でも万が一とかあるんじゃないです?」
このまま引きさがれるものか。謎の張り合いで危険性を言ってみる。
「そりゃあ絶対はないからねぇ。危なそうな場合はギルドからハンターが派遣されるか、護衛を雇うよう推奨されるから街でも村でも何かしら言われるよ。だから今回は大丈夫だよきっと」
「な、なるほど」
ぎるどからハンター。ぎるどってなんだと思ったらハンターの集団みたいな感じか。ハンターって誰でもなれると思ってたけどそういう集落に住まないとなれないのかな。テオルの夢がまたひとつ閉ざされたか。
本でそういう知識を知って、夢が叶わないことに絶望して今の性格になったのだろうか。
疑いと生暖かい目線を向けると、なんでか呆れた表情でこちらを見ていた。
「何さ」
「いや……、なんでもない」
私の田舎者丸出しの姿が滑稽に見えたのかこいつ。
軽く睨んでみたが微妙な表情のままだった。
数時間後、ゴードンと呼ばれる街に到着した。
ゴードンの広場で、ここまで乗せてくれたおじさんにお礼を改めて述べる。
「ありがとうございました」
「いいってことよ。旅がんばってな」
「ほら、テオルもちゃんとお礼する」
「……、感謝しよう」
素直にお礼も言えんのかこいつ。
同い年のはずなのになんでこの幼馴染の世話をしないといけないんだ。
「はは、仲良いな二人とも。それじゃあ元気でなー」
「仲がいいんでしょうかねぇ……。あらためてありがとうございましたー!」
さてさて、何したらいいんだっけ。
人がいっぱいでまず何をしたものか。
「どうしたんだナナリ」
「いや……、何したらいいんだっけ」
「ハンターズギルドへまずは情報集めに行くのだろう?」
「ああ! そうだったそうだった!」
いろんな人がいて目移りしてただけだよ。ちょっとだけ忘れてただけだよ。
すごいゴテゴテした服の人もいればスラッとした人もいて新鮮なんだよ。
でもこれが街、かあ。都会かぁ。
「ナナリ、行くんじゃないのか」
「あ、うん。行く行く。ハンターずぎるどだね」
「……」
しかしハンターずぎるどはどこにあるんだろう。情報が集まる場所らしいし大きな建物だよね。しかしこの街……、広い……!
どれも大きいじゃないか。やばい。これ以上テオルの前で田舎者感を出すわけにはいかない。だから失敗は許されない。なんだか悔しいから。
「……、ハンターズギルドの場所を尋ねてくる」
「え? あ、待って待って。私が聞いてくる!」
「ナナリは下界の知識があまりないだろう……?」
まだ下界とか言ってんのかこいつ。
それよりそうだね。わからないなら聞けばいいよね。ちょっと頭硬くなりすぎたよ。そしてテオルには任せられないよ。一緒にいるのがすごく恥ずかしくなる口調で、誰かに話しかけるだろうから絶対任せられないよ。
「テオルはそもそも常識が怪しいから任せられないの」
「……、ナナリもたいがいだが」
都会の知識がないだけだし……。
「まぁ任せなさいって。だから喋っちゃダメだからね?」
「……、まぁ仕方ない」
早速通りすがりの誰かに声をかけ……、いや忙しいかもだし、座ってる人に……、いや誰かを待ってるかも、もしくは集中していて邪魔しちゃ悪いかも……。
誰に話しかけたらいいんだろう。
いや! 行動あるのみだ私! このまま迷ってたらテオルが訳のわからない暴走をするかもしれない! そこの座ってる人に聞くのだ! まずは、お時間とらせてしまいますが申し訳ありません。聞きたいことがあるのですが、だ!!
「すみません!!!」
「ひぁっ!? は、はい!」
気合いの入り過ぎたのか大声になってしまった。
本当にしまった。相手の人が驚いてしまっている。あと周囲の人もこちらに注目してる。恥ずかしいが引き下がるわけにはいかない。ここで引き下がったら完璧変な田舎者だ。
「少し尋ねたいことがあるのですが!」
「は、はい! なんでしょう!」
勢いのまま尋ねる。今更小声になるのもなんだか恥ずかしいのだ。うん、暴走してるね私。
「ハンターずぎるどっていう場所はどこですか!」
「ハンターずぎるど? ……、ああ、ハンターズギルドですね! えと、この広場を北に抜けて、大通りをまっすぐいった先の大きな建物ですよ」
「ありがとうございます!」
案外あっさり情報を手に入れた。なぜだか周囲の人がクスクス笑ってる。なんだろう、道を尋ねる人が珍しかったのだろうか。大きな街なんだし観光客くらいいるでしょ。道を尋ねるなんて普通によくあることじゃないの。
「テオル、ハンターずぎるどの方角わかったよ」
「……、ハンターズギルドな」
「うん、ハンターずぎるどだよ?」
「……、早く行くか」
そう言ってやや早歩き気味にテオルは歩き出した。下界にいる時間は短いほうがいいとか考えてるんだろうか。この幼馴染はやっぱり恥ずかしいやつだ。
足早に移動するテオルに慌ててついていく。早いとこ、その恥ずかしい厨二病が完治してくれないだろうか。初めての土地をゆっくり堪能したいのに。
なお、広場を抜けてちょっとしてから歩く速さは落ちた。疲れたんだろうか。
「この建物がハンターずぎるどだね」
「ハンターズギルドだな……、わざとだよな?」
ひときわ大きな建物の前で見上げながらつぶやいた。テオルもそれに続いた。
「何が? ここであってるでしょ」
「……、いやいい」
よくわからないやつだ。まぁいいや。中に入っていろいろ情報集めをしなくてはなのだ。テオルにかまってる暇なんてあるだろうか。いや、きっとない。
いざ、中へ突撃だ。
「お邪魔しますー!」
テオルは無言である。よその家に入るのに無言とは何様かこいつ。古龍さま気取りだったか。だけど一緒にいる私が恥ずかしいのだ。距離をとっても同じような古代衣装のせいで関係者にしか見えないのだ。
なのでテオルの行動には注意をしておく。
「テオル、ちゃんと挨拶くらいしてよ」
「いや、ナナリ。あのな……」
「人の家に入るんだからちゃんとそれくらいしてよ。いい歳なんだから」
「ナナリ、恥ずかしいからちょっと」
「恥ずかしいのはこっちだから。ほら、挨拶」
弟とかいたらこんな感じだろうか。もう年下のようについつい扱ってしまう。
「ナナリ……」
「あ、あの~。何か御用でしょうか」
「あ、はい。すみませんこいつ礼儀知らずで」
入口で固まってたら女の人が来てくれた。ハンターずぎるどはハンターたちを派遣するような場所。つまりこの女の人もハンターなのだろう。
とても戦えるようには見えない。が、実際はモンスターと戦う力を持つ人なのだ。なおさら無礼なことはできない。
「テオル、ちゃんと挨拶しなさいほんと!」
「ナナリ! だからあのな!」
「あ、あの……」
なんでこうまで頑ななんだテオルは! この女の人が怒ったら私たちやばいんだよ!? 頼るあてもなくなるし、最悪この場で攻撃なんてされては……、ひぃぃ。
「こ、こんにちは……」
「はい……、こんにちは」
「本当にすみません、テオルにはよく言い聞かせておきますんで……」
「そ、それでどういったご用件でしょうか!」
ああ、しまった。テオルへの教育指導に意識がいってしまってたけど、そうだ。情報集めだ。
「あ、少しお聞きしたいことがあるんです」
「はい」
なんて言えばいいんだ。古代文明について? 古代衣装に詳しい人知りませんか? 里長に言いつけられて古代衣装の出自を探してます? なんだ、どれだ。
「この服どう思いますか」
「え……、こ、個性的でいいと思いますよ?」
何聞いてるんだろう私。すっごい恥ずかしい。
「あ、いやそうじゃなくて、この服が」
「古代文明について詳しい者を知らないか尋ねたい」
「古代文明、ですか」
「ああ、もしくは古代文明にゆかりのある土地について、でもいい」
なんてことだろう。
テオルと女の人が私を抜きに会話している。結構すんなりと会話している。
言葉遣いがなんだか偉そうだが横から入るのも……、ぬう……。
「えっと、人探し、でしょうか?」
「ああ、依頼ではない。この辺りではここが一番情報が集まりやすそうだったからな」
「少々お待ちください」
女の人がどこかへ行ってしまった。探してくれるのだろうか。
それはそうと今のうちにテオルだ。
「ちょっと」
「なんだ」
「もうちょっとこう、態度とかどうにかならないの? あと依頼ではないってどういうこと?」
「充分おとなしいだろう。依頼ではない、はそのままの意味だ」
「そのままって?」
「この施設は本来ハンターどもが関係することが基本だ。竜どもの狩猟やその調査などな。それらとは全く異なる今回の要件なのだ。だから依頼ではない」
なるほど。人探しはここでは本来やってませんってことだろうか。
ダメじゃん。
「ダメじゃん」
思ってることそのまま出ちゃった。
「だからここの人間の善意、とやらに期待するしかないな。古代文明もこことは完全に無関係、というわけでもないだろうから可能性は高いがな」
「へぇ~」
やっぱり里の外のことについてはテオルのほうが詳しそうだ。本の虫だったのは伊達ではない。けど常識がなぁ……。
敬語とかが使えたら文句ないんだけど。まぁ、さっきの会話は普段と比べたら、だいぶマシと言えばマシだったし、ちょっとずつでもいいから真人間にさせよう。きっとそのために私がここにいるのだ。そういうことにしよう。
「お待たせしました。いくつか伺ってもよろしいでしょうか」
「なんだ」
女の人が戻ってきた。その態度マジでやめて。運よくその人が優しいから助かってるんだから。
「なぜ古代文明の情報を求めてるのでしょうか」
「なぜそれを言わなくてはなら「私たちの里の長にこの古代衣装をゆかりある土地に戻してくれと言われましてそのため探してるんです!!」……、だそうだ」
テオルに任せようと考えた私がバカだった。そうだよこいつバカだよ。だからこそ私がしっかりしないと。
「本当にすみませんこの礼儀知らずを許してやってくださいお願いします!」
「い、いえ、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」
「ナナリ、大げさすぎる……」
「バカ! こっちは頼む立場なの! なのにあの態度は何!? 怒られても文句言えないよ!?」
「お、落ち着けナナリ」
こいつはまだわかってないのだろうか。今の状況がどれほど危機的だったのか。それともまだ自分の本当の力があれば、とか思い込んでいるんだろうか。
「私たちはモンスターに勝てないほど弱いんだよ!? この人はモンスターにも勝てちゃう人なんだよ!? そんな人を怒らせたら私たちなんてあっという間にバラバラにされちゃうよ!」
「え」
「え」
テオルと女の人が固まった。テオルはようやく相手の人の危険性に気づいたのだろうか。でも女の人は何で固まって……、あ、しまった。焦りから言い過ぎた。
「ああああああ! すみません言い過ぎましたすみません!」
慌てて女の人に謝る。そうだよ。今の発言じゃ「あなたのことがすごい怖いので礼儀正しくあります」って言ってるようなものじゃないか。こんなの失礼すぎる。私もテオルのことを悪く言えないじゃないかこれじゃあ。
「い、いえ、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます! 本当にごめんなさい!」
「大丈夫ですよ……。あと私はハンターでは」
「テオルも謝りなさい!」
「……、本当にすみません」
「い、いえ……」
テオルが案外素直に謝った。どうせなんだかんだ言ってごねると思ってたから予想外である。子の成長を見守る親の気持ちってこんなのだろうか。同い年だけども。
「え、ええっと、事情はわかりました。ただ、古代文明と言っても各地にそれらしきものが散らばっており、その服と本当にゆかりある土地なのかはいろいろと調べてみないとわかりません。なのでしばらくその衣装、預からせてもらっても大丈夫でしょうか」
え、古代文明っていっぱいあるの?
「預けて何かわかるのか」
「その材質や、刺繍の印された意味、紋様などを専門家に見てもらって、何かわかるか調べることになります」
「この衣装、いずれ手放すものだが俺にとって大事なものだ」
「調べた後はもちろんお返しします」
「あ、じゃあ大丈夫ですよ。お願いします」
「ナナリ、勝手に決めるな」
調べてもらわないと何もわからないんじゃ仕方ないじゃない。どうせ衣装を手放したくない理由は、古代の衣装を身にまとう自分ってマジ古龍、とかいう思いになりたいだけでしょ。
「いいじゃない。手がかりもないんだし」
「だがこの服は俺にとって」
「1着で大丈夫ですよ。たぶん……、ですが」
「じゃあ私のでお願いします」
「ナナリのでもあまりいい気はせんがな……。どれくらいかかりそうなんだ」
「私からは何とも……。泊まる場所を教えて頂ければ、調査が済み次第そちらに連絡させていただく形でもよろしいでしょうか」
「じゃあそれでお願いします。まだ宿は取ってないので、とってからまた来ますね」
「はい、わかりました」
テオルはまだ不満気だ。古龍ごっこに私まで巻き込もうとしないでほしい。
更衣室に案内され、女の人に服を預ける。次は宿をとらなきゃ。滞在期間はどれくらいかわからないけどお金はまだまだある。ちょっとくらい遊んでも大丈夫なくらいはある。街を観光できるチャンスだ。
ゴテゴテした格好の人をじろじろ見てるテオルを引っ張りハンターずぎるどを出る。
もちろん出るときも挨拶は忘れずにだ。
「お邪魔しましたー!」
肩の荷が少し降りた気分がして足取りが軽い。この調子で宿を探そう。
なぜだかテオルはため息をついていた。ため息をつきたいのは私だよ。