「はじめは里を出た時不安いっぱいだったけど、今は出てよかったと心から思えるわ~」
ハンターずぎるどに服を預けて1週間ほどたった。その間、私はゴードンの街を堪能していた。
人がいっぱいで目が回りそうだったが、お店もいっぱいで目移りがとんでもないのだ。もう目が回るのだ。
特に食べ物のお店は素晴らしいの一言に尽きる。
山の幸から海の幸までいろんなものがそろっているのだ。ゴードンと交易が盛んな地にタンジアという場所があるそうで、そこから流通してくるのだとかなんとか。
まぁ個人的な好みだけど、私はお魚よりお肉や野菜がいいです。
「ナナリ、あまり羽目を外し過ぎるな」
「それにしてもさっき食べたサンドイッチ、すごい美味しかったよ。具が卵だけだったけど、あの卵は普通とは違うね! きっと元の姿も芸術的な卵よ!」
「そうだな。落ち着こうな」
「もー、テオル小うるさい。ずっと里しか知らなかったんだし色々堪能したっていいじゃない」
「俺とてあまり小言は言いたくない。しかし散財するのはいただけん」
「大丈夫だって。ちょっとくらいなら平気よ。10万zも渡されてるんだから」
確かに結構使っちゃった気がするけど、まだまだ余裕はある。ハンターを雇うための金額がどれほどのものかわからないけど2万zもあれば大丈夫でしょう。もしかしたら雇う必要もないかもだし平気平気。
「あ、この卵とか里のお土産によくない!? 大きいし綺麗だし!」
「どういう感性だ」
「卵の良さがわからないなんて、テオルは残念ね」
ガーグァの卵か。食べるものとか違うと味も変わってくるんだろうか。まぁ美味しいならなんでもいいけどね。
美味しいものや綺麗なものが満ち溢れてる。都会って素敵。もう里帰りたくないなぁこれ。
昼間は街を堪能して、日が暮れだすと宿に戻る。こんな生活を1週間ほどしてました。
宿に戻ると、宿屋さんに呼び止められた。なんでも古代衣装の調査が終わったという連絡が来たんだとか。
ということは街とはしばらくお別れになるのか。名残惜しいけど充分堪能したししょうがないか。
所持残金を確認する。6万と7152z。充分残ってる。
テオルに明日はハンターずぎるどへ行くということを伝えて自分の部屋へ戻った。
翌日、この街にきて3度目のハンターずぎるどである。2度目は宿の場所を伝えるために来たのだ。もはやこの街にもすっかり慣れたものだ。
「ナナリ」
「ん? 何?」
「本当はもっと早めに言うべきだったんだがな」
「何をよ」
なんだろう。忘れものでもしたのか。
「こういった施設ではお邪魔します、なんて言わないぞ普通」
ふむ? でもお店じゃないでしょここ。
「念のため言っておくぞ。ここ、家じゃないからな? 施設であって家じゃないからな?」
正直疑わしい。自分が挨拶するの恥ずかしい、とか考えて先に言い訳を並べてるんじゃないだろうか。
「……、挨拶するのが嫌とかじゃないぞ。嫌だが言い訳とかではないぞ」
「……、本当に?」
「普通の挨拶はする……、だからナナリも、お邪魔します、なんていうなよ……」
折衷案ときたか。まぁそれなら仕方あるまい。
「はいはい、それじゃ入るよ」
「本当に頼むぞ? 恥を無駄にかきたくはないからな?」
恥をかきたくないならもっと普通に喋れ。お店巡りの時だって「ふん、悪くはない」とかいちいち偉そうな態度で感想述べやがって。
「……、こん、にちは……」
「こんにちは!」
なんて消え入りそうな声なのだこいつは。普段の痛々しい喋り方の時の声量はどうした。無駄に大きい独り言はどこいった。手本を見せるような気持で私も大きく続いた。
「こんにちは。お待ちしておりました。テオルさんにナナリさんですね」
「はい、結果はどうなりました」
以前の女の人が迎えてくれた。どうやらこの人はやっぱりすごい人らしい。風の噂で聞いたのだがここ最近であだ名ついたらしく、そのあだ名が解体者、とか殺戮者、とか物騒なものが多いのだ。とんでもない大物である。怒らせてはダメだ、絶対。
「では報告を読み上げますね」
そういってこのお方は手元の紙を読み上げていった。
読み上げていった内容をおおまかに言うと、フォンロンという土地にある、古い塔に似たような文様があるとか。
ということは目的地はそこでいい、のかな。その塔に人は住んでいないらしい。誰もいない場所に古着をぽーいってしちゃっていいものか。まぁいっか。このまま彷徨うのも嫌だしね。
「じゃあその塔に向かいますね。結構道中って危険ですかね……」
「そりゃもう危険ですよ。古塔が発見されてからもそれほど時間は立ってませんし、樹海の奥深くですから……。この辺りとは比較にならないほど危険ですよ」
「あの、ここで護衛のハンターを雇うことができるとも聞いたのですが」
「はい、大丈夫ですよ」
順調である。目的地もわかったし、危険もハンターに任せたらいい。順調である。
「じゃあハンターを雇って、そこまでの護衛をお願いしたいです」
「はい、では、フォンロンの古塔までの護衛と、復路も、ですね。海を渡ることになりますので、タンジアのハンターから派遣させていただきます」
「はぁ」
「それで契約金のほうですが……」
6万zあるのだから余裕余裕。
「8万zになります」
「はい?」
ふむ……、ふむ?
「えっと、1万……?」
「8万zです」
所持金は6万と7000ちょっとである。
「ちょ、ちょっと高すぎません?」
「タンジアから塔までの飛行船、およびそこからの護衛ハンターへの報奨金とで……、一応通常の旅費と比べたら安いんですよこれ」
「う、内訳教えてくださいもっと詳しく!」
「タンジアからの飛行船、往復で5万6000となります。ハンターへの報奨金は残りの2万4000ですね」
「通常の旅費ってそんなすごいんです!?」
「参考までに、ちょっと場所は違いますが」
そう言って渡されたのは『ロックラックの観光ガイド』と書かれたものだった。そこには『飛行船で行くセレブな旅なら85000z~』とある。
「たっか!?」
「ハンターを送り出す飛行船を今回は使いますのでそこまでの値段にはなりませんが、それでも今言った金額にはなってしまいます」
「は、ハンターを雇わず移動だけお願いするというのは……」
「駄目です。ギルド側としても命を捨てるような行為を見過ごすわけにはいきません」
命捨てるような行為って、そんなに危険なの古塔……。
「お金がないのですが……、どうすれば……」
「それは……、またの機会に、ということで」
冷たい……、都会って冷たい……。
「こ、今回はこれで、失礼します……」
「はい、またのお越しをお待ちしております」
最後まで冷たい……。殺戮者なんてあだ名がつく人に暖かい心を求めても無駄なんだ……。
「で、どうするのだ?」
「どうしよっか……」
広場で途方に暮れていた。どうしたらいいんだろう。
「あれほど散財するからだ……」
「言ってもほとんど宿代でしょ……。食べ物は大した値段になってないし……」
目的地が決まったところでお金が足りないとか。っていうか高すぎだよやっぱり。私は悪くないよ。宿が1泊4000zなのが悪いんだ。私は悪くないんだ。
「里に一度戻るしかないかなぁ……」
「金がないと目的地にも行けぬとはな。窮屈な世界だ」
どうしようもないしなぁ。里に戻ったら怒られるかなぁ。でもそもそも渡してくれたお金が少ないのが問題だったんじゃないかな。うん、そうだ。それに目的地が判ったのだ。それが判っただけでも十分な成果のはずだ。そうだ、里に戻ろう。
里に戻る前にいっそ色々買い食いしようかなと考え始めてたころだった。
「なぁ、アンタら。金に困ってるのかい?」
なんか知らない男の人に声かけられた。
これは……、貞操の危機!?
「だからなんだというのだ」
どうしたらいいか固まってたらテオルが声を出した。こういう時はその無駄にでかい態度も頼りになる。普段はため息もんだけど今は頼りになる。
「ちょっと耳寄りな話があるんだ。まぁ、なんだ。ここじゃ人目がつき過ぎる。ついてきな」
そう言って男は歩き出した。
すっげぇ怪しい。ものすっげぇ怪しい。
「んじゃ里に帰ろっか。ちょうどよく近くの村まで行く行商人とかいないかな」
「どうだろうな。いたとしても乗せてもらえるかはわからんぞ」
「おいおい、ひょっとして俺を疑ってるのか?」
うわ、またこっち来た。
「まぁほぼほぼ初対面だししょうがねぇか。それにその慎重さ、大事だしな!」
「あの、なんなんですか……」
つい話してしまった。無視を決め込むつもりだったのに。
それはそうとして、官憲の方は近くにおられませんか。
「まぁそう構えるな構えるな。俺はアンタらの味方だよ」
「はぁ?」
「金に困ってるんだろ? いい取引があるんだ」
いい取引。すっごい怪しい。犯罪系だろうか。確かにお金に困ってるとはいえ、里に戻れば解決しそうな話である。
「いいえ、結構です。お断りします」
「その警戒心、ますます気に入った!」
なんだこいつ。ここまでくると気味が悪い。
「さっきから訳の分からんことを……。さっさと失せろ」
「しょうがねぇ。ここで話すか。自然体でいろよ」
何を言うつもりだろうか。いざという時は叫ぶぞ……! ここは人通りも多いんだから変な真似はしないと思うけど。
「俺はな。とある偉大な組織の一員なんだ。おっとさすがに組織のことはまだ話せねぇぜ。アンタらともっと信頼関係を築けない間はな」
「あっそう。興味ないです」
唐突な自分語り。さっきまでちょっと緊張してた私があほらしく感じる。
「組織、か。組織と言うからには、大きな信念、目標があるのだろうな」
テオルが興味を持ってしまった。この手の人に質問を投げるのはよしてほしい。喜んで食いつきかねないんだから。
「もちろんだ! だがそれを語るわけにはいかねぇ。たとえ脅されたってな……。これは誇り高い組織に属する者としてのプライドだ!」
「ふん、なかなか面白いやつだ」
「知り合いだと思われたくないから離れてくれない?」
うん、お前ら本当に面白いやつらだよ。距離を置きたいくらいだよ。
「おっと、ついつい熱くなっちまうとこだった。まぁなんだ。組織からの俺への指令が少し荷が重くてな。人手がほしくてな」
「それで私たちに目をつけたと? 他を当たってください胡散臭い」
「全くだ。誇り高い組織の一員が見ず知らずの他人に頼るか。プライドは見せかけだけだったか」
「確かに頼るのはどうかと思う。だがな、個人のプライドを優先して、組織に泥を塗るわけにはいかねぇんだ……」
えぇー……、まだ食い下がるの?
「ふむ……。だが見ず知らずの他人に頼むのはおかしくはないか」
「テオル、面倒だしもうほっとこうよ」
「もちろん適当に選んだわけじゃねぇぜ! アンタらは他のやつらとは違う!」
「うわーめんどくさそー」
他とは違うとかそういう言葉にテオル君弱いの。やめてくれる?
不安に思いながらテオルの表情を伺うと
「聞かせてみろ」
あー、もう興味津々だよ。
「昨日の昼間のアンタらをたまたま見かけた時にな。その時の会話を聞いたとき、俺はピンと来たね。この二人は組織に向いた素晴らしい人材だってよ」
昨日の昼間? 普通に街でごはん食べてたけど、特に変な会話をした記憶はない。
「とにかくアンタら以外に頼る気はない。まぁ危険があるから断られても仕方がねぇとは思ってる……。だが頼む! 手に入れたものの質次第じゃ10万zは出す! 質の悪いものでも2万は約束する!」
「ほう……」
「危険って……、私たち戦う力はないんで」
「戦う必要はないんだ。ただちょっと森の方で取ってきてほしいんだ。例のアレを」
「アレ、か……」
「ああ、アレだ……。やっぱりわかるよな、アンタらには」
わからないんですが。
テオルがわかってる素振りしてるけど絶対そいつもわかってないよ。
「それで、どれくらい必要なのだ」
「2つだ」
「ナナリ、この話を受けないか」
「はぁ?」
雰囲気とかに流されちゃって何言ってるのこいつ。
「アレって言われても私にはわかりませんー。なので無理ですはい終了」
「報酬がいいぞ」
「危険な目にはあいたくないんで」
「頼むよ、嬢ちゃん……! アンタならわかってくれるはずだ……!」
「だから何をよ」
そりゃ確かに報酬はすごいけど、明らかに怪しいもん。美味しい話には裏があるってお約束だし。
「お願いだ……! アレを……、卵をとってきてくれ……!!」
「だからアレって言われても……、卵?」
「は? 卵?」
え、卵?
「ああ……、わかるだろ!? あんなにあの卵の良さに気づいてたアンタなら! これがどれほど大事な任務なのかって! そりゃ危険だ! ガーグァといえども嘴でつつかれたら痛い! だけど、だけど! 俺たちはそんな痛みを乗り越えてでもほしくなる……、あの卵の魅力に憑りつかれた俺たちは!」
「おい、卵って」
ガーグァの卵? 割と頻繁に産卵するあいつらの? ちょっと脅かしたら卵落としちゃうガーグァの?
「なぁ! 頼むよ!」
「悪いがこの話はなか「その話受けます!!」……、ナナリ」
「是非私たちにやらせてください!」
「おお! 本当か!?」
「ナナリ、おい、ナナリ」
「その代わり報酬はしっかり準備しといてくださいよ!」
「もちろんだ!」
「ナナリ、里に戻るんじゃなかったのか」
「何言ってるのテオル。困難を乗り越えて任務を達成する。そうしないと里長に合わせる顔がないわ」
「ありがとよ! アンタらがいれば百人力だ! た・ま・GO! た・ま・GO!」
「ふふ、任せてください! た・ま・ごー! た・ま・ごー!」
「……」
「っととしまった嬉しすぎてついつい歌っちまった。人目につくとまずい。落ち着こうぜ」
「そうなんですか? そうなんですね!」
このおじさんは変な人なんだろう。けどもそのままでいい。お金が手に入るのだ。ガーグァの卵で。ふふ、ふふふ。
「組織の調査では、この地図に記されてる黄色い印辺りのガーグァがねらい目だ。美しい卵を産み落とす確率が高いらしい」
「つまりそこから卵を2つ、とってきたらいいんですね」
「ああ、頼んだぜ。地図にある赤い印の場所に箱が置いてある。そこに卵を2つ入れておいてくれ。頃合いを見て組織の別のやつが回収する流れだ」
「了解!」
「報酬は昨日の昼にアンタが訪れた店、その中で渡す」
「あの綺麗な卵のあった場所ね」
「ああ」
「何言ってるんだこいつら……」
テオルがなぜだか拗ねていた。会話に入れなくて拗ねるとは子供だろうか。
た・ま・GO! た・ま・GO!
私はあの人たち好きですよ。